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FEATURE / 特集記事 Jul 22. 2015 UP
【SPECIAL INTERVIEW】
愛知県美術館・副田一穂、愛知県芸術劇場・山本麦子、
2人のプロデューサーが語るアートと演劇。その楽しみ方。

愛知県美術館&愛知県芸術劇場(いずれも栄・愛知芸術文化センター内)

 

“観光の一部としての美術館”でいいんで、ちょっと寄ってみようかなって感覚で来てくれたらうれしいです。(副田)


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武部:では、続いて副田さん、よろしくお願いします。今回の企画展はさきほどの人間が植物になってしまう戯曲を描いた『茨姫』と同じくして<植物>がテーマになっているんですよね?

井戸:えっと、すいません。まず「企画展」ってどういうことですか?

副田:美術館=展覧会、みたいなイメージは皆さんお持ちかと思うんですが、美術館って色んな作品を自分のところで所蔵しているんです。で、愛知県美では自分たちの持っている作品を見せるのは「コレクション展」、そうではなく何かテーマをつくって余所から借りて集めてきた作品を見せるものを「企画展」と呼んでいます。

井戸:なるほど。大きく2つに内容によって名前が区分けされているんですね。

副田:そうです。で、今回は、日本全国津々浦々から、「植物」というテーマに合致する作品をお借りしてきたというわけです。でも、植物を描いた絵って山のようにあって、植物を描いたことのない画家なんていないんじゃないか?というくらい。僕らも小学校の頃、植物の絵をスケッチしたりしたと思いますが、動かないから描きやすいし、植物って世界中どこにでもあるものですよね。なので、植物っていうテーマだけではあまりにも広すぎるんで、もう一歩踏み込んだテーマはないかな〜と色々考えて。で、植物図鑑とアートの間にあるような作品や、現実の植物には無理な、絵じゃないと描けないような植物表現に絞って集めてきました。

井戸:へ〜。ちなみに、このフライヤーの裏に載ってる、この屏風みたいなのはおすすめ作品だから載ってるんですか?他にもおすすめ作品を教えて下さい。

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副田:その作品は金ぴかの屏風なんですが、春夏秋冬の植物が描かれているんですよ。3メートル半ほどの屏風が2枚組になっていて、全部で約7メートル。でも、四季折々の植物を一気に楽しめるのって、絵だからこそじゃないですか。温室や品種改良でずいぶんいろいろなことができるようになったとはいえ、現実にこんな光景をつくるのはとても難しい。昔話で浦島太郎が竜宮城へいって、こっちの扉をあけると春の景色、こっち扉をあけると夏の景色っていうあの四季の庭は、実は色んな昔話に出てくるんですよ。要するに、僕らは春夏秋冬で構成された「四季」を昔から愛していて、それを一気に見られる世界こそが、竜宮城だったり、夢の世界というわけなんですよ。この夢の世界が、絵だと簡単に実現できてしまうのがおもしろいなと。あとは、温室の中を描いている作品がおもしろいですね。今は温室って別に珍しくもないですけど、この作品が描かれたのは、ちょうど温室が一般に流行り始めた頃。東京・上野の松阪屋の屋上に「温室ができた!」って宣伝をしてみんながワ~!って見にくるような時代に描かれた温室の絵なんです。

 

小茂田薫房
小茂田青樹《薫房》1927年 紙本着色 福島県立美術館

 

副田:それから、もう一点フライヤー裏面に載っているコチラの作品は、一見して普通の焼きものなんですが、中に葉っぱを焼き付けてあって、葉脈がくっきりデザインとして残っているんです。13世紀の中国の作品なんですが、これ、未だに何の葉っぱをどう焼き付けたかがはっきりわかっていないんです。ぱっとみれば葉脈デザインのおしゃれな茶碗なんだけど、どうやって作られたのか?謎!って聞くとロマンがあるな〜と。ぜひ実物を見てみてください。とまあ、いろんな植物ネタが満載の作品を集めた展覧会なんです。植物画っていうと、理科の教科書みたいに植物の作りをきれいに描いて伝えようとする精巧なスケッチ的な絵を思い浮かべますが、それって一般的にはいわゆる美術作品としては扱われてこなかったんですね。「ボタニカルアート」と言ったりはしますが…。今回はそういうものも混ぜながら、美術かそうじゃないかというところは一旦脇に置いておいて、いろんな描き方の違いで、伝えられる情報や意味も違ってくるんだよってことを見せる展覧会になっていると思います。

 

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井戸:……。

武部:あれ、井戸君、思考停止しちゃってますね(笑)。

副田:お、おもしろくなかったかな…(笑)。

井戸:いえ、そんなことは……ボーっとしてしまいました。すみません!

武部:古い作品〜現代作品まで、描かれた時代もさまざまだし、植物ひとつとっても、かなり奥深いですね。僕も小さい頃に無理やり連れて行かれた美術館の影響で「美術館っておもしろくない」っていうイメージがついちゃってたんですが、大学生になって「福岡アジア美術館」っていうコンテンポラリーアートの美術館に行って、初めてアートや、美術館ってものがおもしろい!って思えた記憶があります。

副田:そうそう。現代アートっておもしろいし、入りやすいんですよね。今回の企画展の中にも現代アートがありますよ。人工芝がのびてる。わかりますか?そこにライトがあたってる。人工芝って、もともと芝に似せて作られてるはずなんですが、あまりにも日常に馴染みすぎて、いまさら僕たちは考えないじゃないですか、これ、芝だな、みたいなこと。でも、それをちょびっとだけ引っ張って伸ばすだけで、見た目の面白さはもちろんだけど、人工芝って「もともとは芝のニセモノだった」ってことをふっと思い出させるというか。そこが現代アートのおもしろいところかなと思います。

 

渡辺常緑_
渡辺英司《常緑》2004-2015年 プラスチック(人工芝) 作家蔵

 

副田:ここにはすごい技術はなくて、こんなの誰でもできるわけですよ、ペンチで引っ張るだけで。でも、見た人が「あっ!」って思える気づきがあるのが現代アートの面白いところなんです。で、こっちは江戸時代の植物の品種図鑑。マニアっていうのはやっぱり昔からいて、梅の花を品種改良して百種類くらい作って、それを絵にまとめて自慢するんですね。…などなど、今回は全部で130点くらいの作品が展示されます。

武部:今回、企画展のフライヤーに書いてある「ギャラリートーク」とか「記念講演会」とかは、今伺ったようなお話が聞けるんですか?

副田:そうですね。「ギャラリートーク」は、展示室で実際に展示してある作品を見ながら解説して一緒にぞろぞろとまわります。「講演会」は、この展覧会にいろいろとご協力いただいている小笠原左衛門尉亮軒先生に、江戸時代の園芸文化についての話をお願いしています。

井戸:そういうひとに会いにいったりするのも仕事の一環だったりするんですか?

副田:そうです。仕事のなかでも一番楽しいことのひとつですね。この展覧会では海外から作品を借りることはないので、国内だけですけど。海外作家の作品は、国内でお持ちのところからお貸りしています。

井戸:海外の場合も直接行ったりして交渉するんですか?

副田:場合によるけど、やっぱり何としても貸してほしい!というときは、実際に伺って、調査して、やっぱりすばらしい作品で、是非この展覧会に必要なので、貸して下さい!なんてお願いをするわけです。

井戸:美術館って、自分のところ(美術館)の所蔵品って他に貸したくないんですか?

副田:いや、そんなことはないですよ。ただ、輸送すればそれだけ壊れるリスクが高まるし、特に紙の作品って光に当たるとどんどん劣化していくんです。普通のポスターでも、部屋に貼ってしばらくすると焼けちゃうじゃないですか。こういう文化財って、100年後でもできる限り今と同じ状態に保っておくというのが基本的な考え方なので、極力光を当てたくないわけなんですよ。

武部:それって、でも展示せずに仕舞いこんでどうするんですか(笑)?

副田:そうそう!それがジレンマで、守るためには全く展示しないのが一番いいんだけど、それだと何のために守っているんだかわからない。だから、光に弱い作品でも、例えば年間何日までは展示してもOKとか、照明の明るさはこのくらいまでなら許容範囲とか、これまでの科学的なデータの積み上げで決めているんです。それを貸して下さいっていうことは、つまり「そちらのコレクション展では今年は展示できなくなりますが、それでもうちで展示させてください」ということなんですね。お願いにも熱がこもります。

 

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武部:では、山本さんから副田さんに質問とかってないでしょうか?

山本:副田さん個人的に、一押しのこれは見てほしいってのはありますか?

副田:うーん、明治時代末の絵で、造花を作っている女の子を描いたものがあるんですけど、内職ですかね、で、調べてみるとこの時期に造花の作り方本なんかが出てるんですよ。その造花の作り方本を見ると、花びらの形やおしべめしべの形が描いてあって、 それを切ってくっつけていくんだけど、それが植物図鑑の植物の描き方と一緒なんですよ。植物図鑑って、植物を解剖図みたいに分解して載せるじゃないですか。おお、完全に一致だ超面白い!と思ったんだけど、この面白さをどう伝えようか悩んでいて。とりあえず造花の絵と造花の作り方本を並べて展示するつもりです。

武部:アート作品って、キャプションがあって理解したうえでおもしろい!と思えるものと、単純に見た瞬間にワッ!となるというか視覚的に楽しめる作品っていう両方あると思うんです。

副田:確かに、説明がないとわからないものも多いですよね。今回の展示では、全部の作品に短い解説をつけようと思っています。今回みたいな企画だと、作家もバラバラ、時代もバラバラ。それだとかなりうまく説明しないと、お客さんは何を見ているのかわからなくなってくるんですよね。どうやって展示するかが腕の見せ所ですね。

武部:副田さん自身は演劇とか観にいきますか?逆に山本さんは美術館の展示とかよく行かれるんでしょうか?

 

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副田:実はほとんど行かないんですよね。映画とか長時間拘束されるものがどうも苦手で(笑)。

武部:(笑)。

山本:私は県美に限らず、他の美術館もよく一人でも行きますね。美術館は自由で、いつでも行けるし、それこそ時間の拘束もないし…。例えば、時間がないときには急いでみたり、好きな絵があればずっと立ち止まってじっくり眺めてられる、という自由なところが魅力ですね。

 

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武部:なるほど。では、最後にお二人からコメントをお願いします。

山本:今回は、LIVERARY読者の方にはぜひ両方を観ていただきたいですね。昔の人も今の人も植物の絵を描いていて地続きであることと同時に、演劇も実はそうで何百年も前から同じようなことを人間がずーっと演じてきたってことにハッと気づくかもしれませんね。

副田:両方見ても半日も時間は取らないですし、夏休みの中のほんの半日くらい、アートと向き合う日があってもいいんじゃないかなと思います。お盆や夏休みということで、ぜひこの機会に遠方の方も名古屋観光して、名物を食べて、井戸君の言ってたように“観光の一部としての美術館”でいいんで、ちょっと寄ってみようかなって感覚で来てくれたらうれしいです。

井戸:僕は行きます!

副田&山本:ぜひ!

武部:本日は大変貴重なお話、ありがとうございました!

 

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アートビギナー・井戸君が本当に興味を持ったのかどうか?も気になるところですが、カルチャー全般に興味があって割と感度が高めな人でも、「演劇」については未開拓だったりするもの。日々時間に追われ、本や映画にすらあまり時間を費やせず、今こうしてスマホからこの記事を読んでくれているそこのあなた。ぜひこの夏休み、涼しい美術館内でじっくりとアートと向き合い、演劇の世界に一歩足を踏み入れる、そんなショートトリップを体験してみてはいかがでしょうか。

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イベント情報

2015年8月7日(金)〜10月4日(日)
芸術植物園
会場:愛知県美術館 (愛知芸術文化センター10F)
開館時間:10:00〜18:00 金曜日は20:00まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:毎週月曜日 (ただし9月21日[月・祝]は開館)、9月24日(木)
チケット料金:一般 1,100(900)円/高校・大学生 800(600)円 /中学生以下無料
※期間中、一部作品の展示替えを行います
問:愛知県美術館 TEL:052-971-5511(代)

 

2015年8月13日(木)〜15日(土)
愛知県芸術劇場ミニセレ 第14回AAF戯曲賞受賞作『茨姫』
会場:愛知県芸術劇場 小ホール(名古屋市東区東桜1-13-2 愛知芸術文化センターB1F)
時間:全日19:30〜
※開場は開演の15分前、チケットの整理番号順の入場。
問:愛知県芸術劇場 TEL:052-971-5609(代)

 


<愛知県美術館『芸術植物園』展×愛知県芸術劇場『茨姫』コラボレーション企画について>

【特別予習セット】4000円
+『茨姫』チケット (一般・日時指定当日3,500円)
+『茨姫』戯曲(1冊・非売品)
+愛知県美術館『芸術植物園』展チケット(当日1,100円)
+美術館オリジナルバスソルト&アートカードセット(400円)
→5,000円相当の内容が、4,000円でお買い求め可能に!
 
【相互特典】『茨姫』チケット・半券を美術館窓口でご提示いただくと『芸術植物園』展当日券が100円割引に(当日券のみ、他割引併用不可)公演当日、『芸術植物園』展チケット半券または美術館友の会会員証提示で美術館オリジナルポストカードをプレゼント。
 
愛知芸術文化センター10階美術館ミュージアムショップにて販売(※7月26日まで)
お問合せ:TEL:052-971-5609 MAIL event@aaf.or.jp
※特別予習セットに関してお取り置き等のご要望は上記連絡先まで

 

山本麦子
1982年名古屋市生まれ。大学卒業後、広告代理店での営業経験を経て2014年より愛知県芸術劇場にて演劇担当プロデューサーとして働く。主な担当事業に「パブリック・イメージ・リミテッド」(2015年)、AAF戯曲賞など。愛称はムギムギ。

副田一穂
1982年福岡県生まれ、2008年より愛知県美術館学芸員として働く。主な企画に「マックス・エルンスト:フィギュア×スケープ」(2012年)など。趣味は多肉植物の栽培とこけし蒐集。

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