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FEATURE / 特集記事 Feb 27. 2016 UP
【SPECIAL INTERVIEW】間宮晨一千(間宮晨一千デザインスタジオ)
さまざまなコミュニティーに関わることで見出した、
空間デザインだけに留まらない、独特建築論。

まちのメディアピープル #03:建築家・間宮晨一千

 

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こちらが間宮さんの企画で名古屋大学の学生らによってデザインされた建築。中央には、共有スペースが設けられたつくりに。

 

―まず、この企画がどういうものだったのか?について教えて下さい。

さっきお話したデザインウィークではやりきれなかったことをやろうと思ったんです。若い力で何かしないとダメなのではないか?という考えですね。そこで、若い学生たちにチャンスを与える取り組みとして、東海圏限定で大学の研究室に参加を促し、「住宅デザインを通じて、新しい未来の風景をつくる」をテーマにアイデアの公募をしました。で、学生から出たアイデアで、実際コンペに勝ったのが名古屋大学のプロジェクト。ポイントとなっているのは、「ソトマ(外間)」っていう共有スペースなんです。

―「ソトマ」?

3軒ある家の中央の共有のコミュニティスペースとして、家の外に居間をつくるっていうイメージで「ソトマ(外間)」。そういう場をつくることで、ここに住む人たちはもちろん、ご近所さん含めた地域の皆さんにとっても生活の質を豊かにする場を設けるっていうアイデアだったんです。で、そういうアイデアを形にするうえで、実際にここに住んでくれるクライアントさんを探すっていうところが相当大変で。パンフレットを作って、クライアントさんたちに紹介をするんですよね。この暮らしのアイデアに興味を持った人に、順々に話をしていくっていう。なかなか大変でした。アイデアはおもしろいと思ってもらえても、家を建てるわけですから、コストも相当かかりますよね。大学のプロジェクト?え?ってなるのが当然かもしれません。そういった要素も含めて理解いただける住民が決まらなければ、そもそもこのプロジェクトはコンセプトだけのものに終わってしまうわけで。だから、必至で探しましたね。

―この3軒のお家の方は知り合いとかじゃなく?

もちろん、もともとは全然知り合いじゃない方々です。

―そういう企画自体に面白みを感じて住んでくれたんですね?

うん、あとは僕を信じてくれた、「最終責任は僕が取ります」って話をして。今回、一軒のお宅が取材協力してくれそうなので、中も見てもらいましょうか。

 

「こんにちわ〜。お邪魔しま〜す」ということで、三軒のうちの一軒・榊原さん宅へ訪問させていただくことに。

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―住んでみて率直な感想をいただきたいのですが、「ソトマ」では実際にお子さん同士で遊んだりしているんですか?

榊原さん:とても快適に住まわせていただいていますよ。そうですね、休みの日は「ソトマ」のスペースで、この3軒の子どもたちだけじゃなくて、近所の子どもたちも来て追いかけっこしたりしてますね。

間宮:追いかけっこが、すごいことになってますよね〜。

榊原さん:盛んです、追いかけっこ(笑)。

間宮:僕自身、結構下町の人たちの環境を幼い時に体感しているので、そういう下町感というか地域の人々が近しい距離感だったんですね。だから、そういういいバランス感覚で地域の中の共有スペースとして「ソトマ」が機能して欲しかった思いもありましたので、そういう風景が生まれたことは良い結果だと思っています。

―3軒の住民の方は、みなさんもともと知らない人同士だったというお話ですけど、実際、今は仲良くやれてるんですか?

榊原さん:そうですね、みなさん同意の上でこの土地を選んだので…でも始めはすごく戸惑いました。え、土地の境界線がないってどういうこと!?って感じですよね、最初は(笑)。普通ありえないので。でも、みなさんその辺は臨機応変な感覚なんです。

間宮:大らかさが、新たな大らかさを生んでくれるといいな、と思っていて。この環境で育った子どもたちはこの環境が普通だと思うので、次の世代もこういう環境がいいかもって思ってくれるだろうし、次の世代に繋げるものが風景の中にあった方がいいなと。それがこのプロジェクトの「未来の風景」っていうところに託したいって思いもあって。全部の住宅がこうなってほしいとは言わないですけど、でもこういう考え方の場がたくさんの選択肢の中にひとつあってもいいんじゃないか、っていう。それを世の中に少しでも伝えられたらいいな、と。

―なるほど。ここに住んでいない子どもたちまでもがその子たちの中では記憶に残るというか。榊原くん家の外には、謎の公園みたいなスペースがあって、そこで近所の友だちと走り回って遊んでたよね、みたいな…。

間宮:そうそう、その記憶がすごい大事だったりするんですよね。僕の小さい時もそういう風景が残っていたので、コミュニケーションも濃密だったし。生きていく中で人と人が交わって、コミュニケーションしていくっていうのはとっても大事なことなので。で、そういう場の中心になってくれたらいいなと。

―普通、こういうコンセプトって結局、蓋を開けてみたら、隣人トラブルとかになってしまって、住める環境ではなかった、なんて悪い結果に陥りそうですが、そうじゃなくて実際に、子どもたちが遊んでるってすごいことだなって思います。

間宮:「未来の風景」とか、「社会を豊かにしたい」なんてみんな口にするのは簡単ですが、実現させるのは難しいことです。もうね、住民の方には「何か問題があった時は、僕を呼び出してください!」って言っていて(笑)。

―(笑)。喧嘩の仲裁でもなんでもしますよ〜みたいな?

間宮:そうそう。それくらいの思いがなければ、暮らしを提案するなんてできないんです。

 

多角的な視点で考え、建築デザインに落としこんできた間宮さんが新たなプロジェクトを始動。>>次ページヘ

 

 

暮らしを紹介するための新感覚の不動産サイトを。

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―最近では「なごや百貨不動産」という不動産ウェブメディアも始められたんですよね。

そうですね。最初に建築を意識したきっかけが、小さい頃に見た商店街の風景とそれが消えていってしまった気づきに由来する、という話をしたと思うんですが、まちづくりに関わる際、建築というひとつひとつの空間設計だけでなく、不動産を扱わないとって思う部分は正直大きいですね。「なごや百貨不動産」は、“暮らしのコンシェルジュ”ってキーワードでやっていて、「くらす」「さがす」「まなぶ」って項目にメニューが分かれているんです。

 

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普通の不動産サイトだと、土地情報を探すところからですけど、まず「くらす」って項目で、暮らしのアイデアからご紹介して、このアイデアが楽しいなと思ったらご相談くださいって流れにしています。こういう家に住んでみたいっていうのを我々がコンシェルジュとなって賃貸にしても、土地情報にしても探しますよっていう。あと、メディアとして「まなぶ」って項目があってもいいんじゃないかって思って。例えば、ギャラリーのオーナーさんからアートについてのお話を聞いてみようとか、あいちトリエンナーレ総合芸術監督からこの街の魅力についての話を聞いてみよう、とか。あと、不動産メディアサイトだから街のイベントやニュースも紹介しています。「くらす」「さがす」「まなぶ」で、暮らしのアイデアや楽しいニュースが一番最初にあって、そこを切り口に、物件情報を紹介していく、っていう順番になっているんです。

 

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あと、僕たち、写真ってどうしても「空間」を撮ってしまうんですよ。自分たちがやっぱり建築デザイナーだから、建築的にかっこ良い見え方の写真を好んで選んでしまうと、写真が「空間」でしかないものになるんですよね。そこに、限界を知ってきて。いくらかっこいい写真であっても、人が居ない写真では、暮らしは見えないな、と。本当は楽しいアイデアとか、もっと「人」や「事」があって、それらを紹介して初めて「暮らし」を紹介できるんじゃないか?って。やっぱりそこを変えたいって真剣に思えるようになってきた。その思いから「なごや百貨不動産」という自分たちの視点を発信できるメディアをやろうって決めました。暮らしをちゃんと紹介したい、それがこのサイトにかけた思いですね。

―これは誰かに頼まれて受けた仕事ではなくて、自分たちでゼロからつくったサイトってことですかね?

そうですね。本当はその街の暮らしを紹介した方が不動産物件としても魅力的だし、場所にまつわることは範囲が広いなって思っていたので、その場をもっとコントロールできて、発信できるサイトを構築するってイメージに近いですね。「なごや百貨不動産」はまだ走り始めたばかりなんですけど、このアイデアを持ってして、ちょっとでも社会に違うカタチの切り口でできることがあるんじゃないか?って思ったんです。自分たちの会社のポリシーが「デザインで人を幸せに、社会を豊かにする」なんですけど、社会に対してのアプローチっていうのが、デザインスタジオから空間をつくるのもいいだろうし、大学のゼミから観光的な魅力をつくっていくのもいいだろうし、この「なごや百貨不動産」を使って暮らしを紹介していくのもいいなと思っていて。例えばさっき話した住宅3軒のプロジェクトの価値もここから紹介していくことができないのかなって考えたり。この3つを連動させながら自分たちの情報を発信していくってことをこの街でやってみたいなと思っています。

 

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間宮さん自らインタビュワーとして、様々な人々をインタビューした記事も掲載。人と人をつなぐ役割も果たしている。

 

―間宮さんっておそらくかなりハードワークな毎日だと思うんですが、完全に丸一日休み!って日はあるんですか?

丸1日休みなんて、しばらく取ってない気がしますね……。

―そうなってくると普通の人と生活環境がだいぶ違うじゃないですか。でもさきほどお話されていた、不動産メディアサイト「なごや百貨不動産」って普通の人々の暮らしを紹介しているわけで。自分と違うスタイルの暮らしの視点ってどうやって見い出しているんですか?

それはそんなに難しいことじゃないです。自分の携わったご家庭やお店に行って、リアルにその人たちの想いとか、楽しんでいることを聞かせてもらったりしています。何年か経って暮らしている雰囲気を知れたりもするから、そこでなにか発見があったり。

―仕事スイッチじゃなく、普通に話すんですね。確かに、先ほどお伺いした榊原さんともすごく楽しそうにお話されてましたね。

仕事ばかりでずっとタスクに追われている感覚になってきちゃうから、ちょっと茶飲み話ができるのが自分の精神の回復にもなっているのかもしれないですね。自分が手掛けた何かを通じて、みんなが喜んでいる姿を見たり、そういう話を聞けば、それだけで僕は回復するのかも。自分はちゃんと暮らしをつくっているんだって感覚になれるから、それはすごく精神的にいいことですね。

―間宮さんの場合、いろんなところで作った関係性を縁というかチャンスに換えていくパワーも感じるんですけど…。

そういうことは多々有りますね。最初は無駄骨を折ったような経験でも。例えば、2009年のデザインウィークの後、2~3年くらいは何もなかったけど、たまたまデザインウィークで知り合った、現代アートを扱う万(よろず)画廊の伊藤さんという方が東京の銀座1丁目に出店するってことで声をかけてくれて。「デザインウィークの時、間宮くんの人柄を信頼できたからお願いすることにした」って言われたんです。それで銀座1丁目で1つ手掛けてから、その後も、2軒目、3軒目とご依頼いただいて、さらにその後も、六本木でアートサロンや川越の美容室をつくることにつながっていったりします。

―きっと直感的にこれはおもしろそうだ!って思ったら、つい首を突っ込んでしまうんでしょうね。それで思ったより大変だった〜って、四苦八苦するっていう(笑)。

そうそう(笑)。もうその繰り返しです。学習しないんでしょうね(笑)。でも、首を突っ込んだからには責任感を持って、むしろ頼まれた内容に、プラスオンしてしまう性格なんです。

―これからもきっと騙されてしまいそうですね(笑)。

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間宮晨一千

1975年8月愛知県生まれ。2000年芝浦工業大学工学部建築学科卒業。2003年東京都立大学大学院工学研究科建築学専攻修了。2006年より、株式会社間宮晨一千デザインスタジオを設立。常に掲げる建築デザインの理念は、「デザインで人を幸せに、社会を豊かにする」。建築デザイン分野においては、これまでに数多くの国際的な賞を受賞。また、現在は、愛知淑徳大学講師、なごや朝大学運営、ウェブサイト「なごや百貨不動産」の企画・運営にも携わる。http://www.m-s-ds.com/

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