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SIKASIKA・フクイカズトモの不定期旅行コラム|第2話:アメリカンアパレルとは一体何者だったのか。L.Aの本社へ行ってみました(てへぺろ)。

Text & Photo:フクイカズトモ(SIKASIKA)

 

当時、妹がトロントのアメアパで働いていて、
自分を含めて全員がアメアパ好きだったのでみんなで本社を見に行こうという話になった。
 
滞在先のダウンタウンから少し離れた問屋街まで足を運び、American Apparelの本社へ行ってみることにした。

車を借りたHertzで「少し治安が悪いエリアだから気をつけた方が良い」とアドバイスを受けたので、
コンパクトタイプの車の予約を取り消し、見た目が一番強そうな車(ジープ)に乗り替えた。(結論から言えば、何の意味も無い行動だったけれど。)
 
週末で人の往来も少ない映画のセットのようなダウンタウンの街を抜けると景色が変わった。
良く言えば趣きのある、悪く言えば傾きのある建物が立ち並ぶ問屋街を通り過ぎた先に、
壁面に大きく「American Apparel」 と書かれた淡いピンクの大きなビルが見えてきた。

 
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アメアパの本社敷地内にはオフィスや工場に加え、ショップが併設されていた。

まず、敷地内へ入るゲートを通過すると「ファクトリーストア」という正規品&限定品のショップがあり、その「ファクトリーストア」を通り過ぎると、工場内への入り口に辿り着く。
 

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そこでは警備員から緊張感のない簡単なセキュリティチェックを受け、工場内へ入ることが出来る。
壁に貼られた順路指示に従って薄暗い工場内を3分ほど進んで行くと、解放感に溢れる大きなフロアに辿り着いた。

その場所は「ファクトリーフリーマーケット」と呼ばれるエリアで、いわゆるアウトレットショップになっていた。
 
ここでは、過去の商品や、製造過程で傷がついてしまった商品などを破格で取り扱っている。
例えば、小さな穴が開いてしまったシャツや、プリントがズレたTシャツ、汚れが付いてしまったデニムなど。

欠陥状態にもよるが、90%オフのアイテムなども少なくはなく、だだっ広いフロアの隅々まで見応えがある。
 
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ストアやフリーマーケット、そして工場内では沢山の従業員に出会った。
ヒップな女の子から湿布を貼った爺さんまで、実にカラフルな人々が平等に楽しそうに働いていた。
メガネ姿にカメラをぶら下げて歩き回っていると向こうから声をかけてくれるスタッフも多く、
彼らの働いている姿の写真を撮らせて貰ったりもしたのだけれど、
全ての人がカメラを向ける前から笑っていたのがとても印象的で、改めて純粋な興味が湧いた。
 
アメアパって、一体どんな会社なんだろう? 
 
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「あー、ユニクロでも買えそうだけど、無駄に高いやつ?」
 
アメアパの話をすると、こんな具合のリアクションをされることも少なくはない。
 
「よく解らないけれど、派手で、トートバッグをみんな持っていて、値段は結構高い」
 
そんなイメージを持っている人も多いと思う。
 
 確かにアメアパの商品は決して安いとは言えない。
僕が気に入って年間360日は着ているアンダーシャツでも3000円くらいはする。
それこそ、ユニクロあたりに行けばワンコインでも買えそうな代物だ。
 
しかし、アメアパの値段設定にはハッキリとした理由があることは、日本ではあまり知られていない。
アメアパが“チョット高い”理由を一言で説明するならば、その値段こそが彼らの企業理念なのだ。
 
「スウェットショップ・フリー」

― 我々は、第3世界などの発展途上国や、移民などの労働者搾取環境を否定し、排除する ―
 
 アメアパは企業理念の中で、いわゆるスウェットショップの存在を完全に否定している。
 
スウェットショップとは、元々はアメリカの労働法規に2項目以上違反している工場をさした言葉だという。

現在ではこの言葉も世界的に広がりをみせていて、「賃金レベルが低い発展途上国に製造拠点を設け、名の通り現地労働者の汗を低賃金で搾取している企業」そんな企業やシステムを指摘する際にこの言葉が使われることが多い。
 
一方、アメアパは全ての商品の生産を全て国内(本社のあるロサンゼルスを中心とする)で行っており、
人件費の高騰というリスクを背負ってまで積極的に地場での雇用を創出し続けている。
そして、その雇用創出については従業員に対して正当な報酬を与えることが大前提。
 
具体的には、アメアパの工場で働く人々の賃金は平均時給は約12ドル(約1445円)で、
現在のロサンゼルスの最低賃金の9ドルを十分に上回っている。 (※ロサンゼルス市は、2017年までに最低賃金を13.25ドルまで引き上げる準備を進めている。 http://www.latimes.com/local/lanow/la-me-la-garcetti-calls-for-boosting-minimum-wage-to-1325-over-three-years-20140901-story.html )
 
ちなみに、これは専門的な知識・スキルを要する管理職や専門職に限った賃金ではない。
また、こういった賃金の他にも会社からの補助により1食3ドルで食べられる従業員用ランチや、
本社工場敷地内の医療施設でマッサージを無償で受けられる制度など、福利厚生面も充実しているという。
勿論、採用においても学歴・経歴・年齢・性別・人種などは一切関係ない。
 
ちなみに、国外に生産拠点を置き、その劣悪な労働環境から
先述のスウェットショップとして認識されているアパレル企業は多い。
(ユ●クロ、H&●、G●P、F●REVER21などが指摘されている)
 
そういった場合に、末端の労働者に対して支払われている平均賃金の一例を挙げると、
月給にしてバングラデシュで約68ドル、カンボジアで約95ドルだという。
つい最近ユニ●ロの労働環境問題で話題になった中国だと、少し賃金が上がるが、それでも約300ドルほど。
改めて言うが、これは日給ではない。
1ヶ月の労働対価として支払われるの月給の話だ。(※その後、H&Mなど一部の企業では労働搾取問題に真摯に向き合い、現在では徐々に改善される方向にある)
 
これが、僕らの大好きな「あのお店」とアメアパの大きな違い。
つまり、アメアパの製品の値段には従業員に対する正当な対価(人件費)が含まれている。
 
 
おいッ、アメアパこの野郎!!
 
ボッタクリやがってふざけんなよ♡

 
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アメリカンアパレル本社のビルには、いくつかのスローガンが大きく書かれていた。

その中でもひと際目立っていたものがある。

 
「American Apparel es una compania rebelde」
 
ヒスパニッシュや移民が多いロサンゼルスで、
英語ではなくわざわざスペイン語で掲げられていたこの言葉に自然と目が留まった。
(※創業者であるダブ・チャーニーも、スペイン語圏ではないカナダ人)
 
スペイン語に通じているわけではないので、辞書を片手に自分なりの言葉に変換すると、
「アメリカンアパレルは社会を覆す」といったメッセージとして受け取ることが出来た。
そして、この言葉の意味を考えたとき、僕の中で無意識のうちに思い出した言葉があった。
 
「Arbeit macht frei」=「労働は自由への道」
 
これは、第2次世界大戦中にナチスによって多くのユダヤ人が迫害された強制収容所の入口に掲げられていたもの。勿論、この言葉はとんでもない嘘だった。
 
収容された人々の多くは、息を絶つその瞬間まで無理矢理に働かされた。
そして、酷使され続けた結果、いよいよ労働力にならないと判断されると、
皆とは違う部屋に送り込まれ身体と命を搾り取るように奪われていった。
 
彼らにとっての労働とは、まさに死へ向かうカウントダウンだった。
 
自由とは死後の世界でした〜!(・・・なんて笑えるワケもない話。)
 
さすがに、ナチスと現代社会の企業を同じように並べ、何かを論じようとは思わないけれど、
何故か自然と頭の中で二つの言葉がゆっくりと交錯した。

労働とは、自由とは、幸せとは・・・。
 
アメリカンアパレルは労働力の本当の価値を知っていた。
そして、労働者の尊さを値札を通して社会に伝えている。
 
最近では、貧富格差に関する社会問題が日本に限らず世界中でクローズアップされている。
そして、当然のようにその中でも常に中心にあるのが雇用についての問題。
 
特別な環境や場合を除けば雇用やそれに伴う労働そのものは、
あくまでもそれぞれの自由を得るための手段であり、それ自体が目的ではない。
しかし、現実としては雇用そのものがゴールであると当たり前のごとく考えている企業が
決して少なくないように思うのは気のせいだろうか。
 
「貴賎などはない。どんな雇用も尊く、幸福への扉が開かれている」
もし、そんな声がどこからか聞こえてくるならば、その考えは大きく間違っている。
 
仕事を与えておけば幸せ?
売れたら何でもいい?
安けりゃハッピー?
消費需要は正義?
全ての労働は素晴らしい?
 
そんなワケがない。
 
もしかしたら、僕らが毎日何気なく手にして、
笑いながら無邪気に消費していく様々な製品の正体は、
どこかの見知らぬ誰かが流した汗や涙が主成分の悲しい結晶なのかも知れない。
 
「アメリカンアパレルってちょっと高いよね。」
 
自分を取り巻く環境や価値観が変わらない限りその事実はいつも目の前にあるけれど、
僕はアメリカンアパレルの服をこれからも大切なお気に入りとして選び続ける。
 
自分たち人間の本当の価値を忘れてしまわないために。

 

 

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Text & Photo : Kazutomo Fukui [ SIKASIKA ]
Edit : Takatoshi Takebe [ THISIS(NOT)MAGAZINE , LIVERARY ]

 


 

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SIKASIKA
長崎から愛知へ出てきた、フクイカズトモ(Vo / Key)を中心に、名古屋で結成された、4人組パンクバンド。その他のメンバー3人は女性で、村門ちあき(Gt)、meme(Dr)、Suzy(Ba)。現在、フクイは九州へ戻り、メンバーが九州、関西、愛知と散り散りになっているため、飛行機等を使ってスタジオに入ったりしている遠距離パンクバンドでもある。

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