FEATURE : Assembridge NAGOYA 2016 |音楽とアートから見える港まち
これまで10年間に渡って、この港まちでいわゆる“まちづくり”を推進していた「港まちづくり協議会」は、住民の方々と密なコミュニケーションをとりながら、さまざまな試みを街のために行ってきた。昨年、元・書店であり文房具店であったビルを改装した、新たな街のシンボル的スポット「港まちポットラックビル」が誕生。ここを拠点に、主に現代アートを展開するプログラム「Minatomachi Art Table, Nagoya(MAT, Nagoya)」がスタートすることになり、港まちのあちこちにある現在は古びた空き家になっているスペースが改装され、国際的にも活躍する芸術家たちの展示やワークショップを複数行ってきた。それは美術館やギャラリーで行われる単なるアートイベントには留まらない。なぜなら、この港まちは「アート」と同時に「アーティスト」という新しい住人を一時的ではあるものの受け入れ、「アーティスト」たちはこの街を外側の視点から、もちろん作家的視点から、おもしろがり、楽しみながら滞在しているからだ。
L PACKは、まさにそれに該当するアーティスト。<「コーヒーのある風景」をきっかけに、まちの要素の一部となることを目指す>という、きっと一読しただけでは理解し難いコンセプトのプロジェクトをこれまでさまざまな街で展開してきた彼らは、一体、この港まちをどのような視点で見ているのだろう。
そして、今回の「アッセンブリッジ・ナゴヤ・プレイベント」では、さらに「音楽」というコンテンツが加えられ、新たに「ミュージシャン」という人間が街にやってきた。記事前半でお伝えしたとおり、この2日間、街のいたるところでクラシックのコンサートが行われた。この街にもともと住んでいる住民たちと彼らが日々暮らす「まち」と、新参者である「アート」と「音楽」は一体どんな関係性を描いたのだろうか。
それぞれのジャンルを代表する(!?)3者を編集部側で選抜し、シチュエーションもキャスティングもかなり不思議な座談会を開催した。
SPECIAL INTERVIEW:
L PACK × Shoko Yasuda × Keiichi Furuhashi
Interview & Edit : Takatoshi Takebe [ THISIS(NOT)MAGAZINE, LIVERARY]
Photo : Masahiro Ohta
―今回のイベントが「音楽」と「アート」と「まち」。この3つのキーワードからなるイベントということで、それぞれの代表といった感じでこの3者による対談を企画させてもらいました。もちろん、みなさんがこうやって会話するなんてことは初めてのことだと思いますので、「はじめまして〜」ということで、それぞれ自己紹介からお願いします。
L PACK(以下L):2人で、L PACKという名前で活動しています、小田桐と中嶋です。今回、「アッセンブリッジ・ナゴヤ・プレイベント」では、20年以上前に閉まってしまったお寿司屋さんである「旧・潮寿司」さんを会場として与えられました。僕らは、この場所で、秋の「アッセンブリッジ・ナゴヤ2016」本祭に向けて、飲食店としてオープンするまでの過程を見せるというプロジェクトを実践しているところです。
L PACK:中嶋さん(左)、小田桐さん(右)。なお、お二人の声は、アーティストの意向によりすべてL PACK一人称にまとめさせていただいています。
―ここは最終的に飲食店になるんですか?
L:そうなります。営業許可もとるので。9月のアッセンブリッジ中は飲食店です、と言っておきながら、その形態はまだわかりません(笑)。
―じゃあ、もしかしたら、珈琲屋さんとかじゃなくて、また結局、寿司屋さんに戻るっていう結果も?(笑)
L:ここを訪れたりした人たちみんなが「寿司屋が良いね」って言ったら、もしかしたら寿司屋になるかもしれません(笑)。今、実際に、ここへ来た人たちに「どんな場所になったらいいと思いますか?」って聞いたりしていて。僕らなりに考えて、それを反映させるかしないか、まだわからないですが、そういう場所をいろんな場所で作る試みをしてきました。そして、今、この港まちでまたそれをしようとしているってことです。
―なるほど。じゃあ、次は、港まちづくり協議会・古橋さんお願いします。
古橋(以下:古):はい。古橋敬一と言います。今、港まちづくり協議会の事務局で働いてます。出身は豊橋で、大学が瀬戸で。大学のある街に商店街があって、そこで学生時代に古いカメラ屋さんを改装してカフェをやったりしてました。学生がするまちづくりプロジェクトの走りみたいなことをしていたんです。僕は当時、大学院生だったんですけど、愛知万博でもNPOが母体のカフェプロジェクトをやっていました。結局、学生時代からずっと何かしらの非営利プロジェクトを動かすようなことに関わってきました。それがいつのまにか仕事になって、現在は、まちづくりの仕事をしています。
港まちづくり協議会・古橋さん。
―なるほど。では続きまして、安田さん。自己紹介をお願いします。
安田(以下:安):ヴァイオリンの安田祥子です。
―短っ(笑)。「ヴァイオリンの〜」って言うんですね。「ヴァイオリニストの〜」じゃなくて。
安:「ヴァイオリニスト」とは言ったことないですね。
一同:へ〜。
安:私は、名古屋でヴァイオリンを教えたりとかオーケストラとかに弾きに行ったりとか、今回のように演奏活動を日々しています。
ヴァイオリニスト・安田さん。
―ちなみに、何年くらいやってるんですか?
安:もう23年経つかな?ちなみに、今年で27歳になります。
―じゃあ、4歳からやってるんですか?
安:そうですね。L PACKさんは何年くらいやってるんですか?
L:僕らは10年くらい。
―えー!10年もやってるんですか。それはそれでびっくりしました。
古:でも、4歳の時からヴァイオリンやれるなんて…。うちにはヴァイオリンはなかったので。そういう家庭環境だったんですか?
安:いや、うちにもなかったです。母親がピアノとヴァイオリンのレッスンを見学させてくれて、どっちがやりたい?って言われて。それがきっかけで始めました。幼い時のことなので、あまり覚えてないですけど。
―じゃあ、お母さんも音楽の先生とか?
安:いえ、母親は音楽やってなくて。うちは音楽一家ではないんですよ。
―え?じゃあ、なんとなくヴァイオリンとピアノの二択を迫られたってことですか?4歳の時に。
安:(笑)。母親もそんなに続けるとは思っていなかったらしいですけどね。
―今じゃ、プロのミュージシャンですもんね〜!
古:その…小さい時、練習とか、嫌じゃなかった?
安:あんまり思わなかった。でも、ときどき母とヴァイオリンのことで、喧嘩になったりはしましたけどね。その度に「じゃあもう辞めなさい!」って言われて、「嫌だ〜」って言って負けじと続けてきた感はあります。
―ちなみに、安田さんは、生まれがここ港区なんですよね?
安:はい、母の実家がこっちで。産まれたのが、港区の病院なんです。
古:おばあちゃんは今も住んでるの?
安:おばあちゃんは亡くなったんですが、今日はおじいちゃんもこの辺りに住んでいるおじさんもコンサートに来てくれていました。すごい喜んでいました。港区で演奏することなんて今までなかったことだったので。
古:お母さん、お父さんも来ていらっしゃいましたよね?
安:そうです。「港まちで演奏するよ〜!」って言ったら、大喜びで来てくれました。
―今日、実はL PACKさんも、先ほどの安田さんたちのコンサートは観ていたんですよ〜。
安:そうなんですね。お二人は普段、聴かれないですよね?ヴァイオリンとか。
L:ヴァイオリンは聴く機会ないですね。生で聴くと感動しますね。普段聴かない音なので。あと、単純に、形がかっこいいですね。なんであのフォルムなんだろうと思いながら見ていました。
安:女性の体をイメージして作られています。
一同:へ〜。
古:確かに女性の体みたい。
安:はい。持つところをネックって言うし、本体のところをボディって言うし。
L:あと、感想としては、楽譜がきれいだな〜って思いました。楽譜という記号の羅列の中に、時間が収められてるわけじゃないですか?そのつまり、音楽が紙の中に表現されているってすごいな〜って思って見ていました。
L:ちなみに、今、このプロジェクトのことを毎日、日記にして書いているんですが、港ってこともあって、(文字を全部ひらがなにして、それをモールス信号に変換して)モールス信号でも書いてるんですよ。
安:えー!なにこれ、怖い!
一同:(笑)。
安:モールス信号って何に使うんですか?
L:船の上とかで信号として、やり取りするんですけど、トン・ツー・ツーとかツー・トン・トンって。
古:「崖の上のポニョ」とかにも出ててきましたよ。
安:へー。
―やっぱりこういうの作ってたから、楽譜が気になっちゃったんですかね?
L:かも知れないです。楽譜って、物としても、絵としても綺麗だなとも思いましたね。
―そんなことを考えながら演奏を観ていたんですね〜。L PACKさんはその場にあった物とかも使ったりして場を構築していくイメージがあるんですが、物の形へのこだわりとかってあるんですか?
L:あります。形が面白い、良いのを常に探していて、この鍋は、コーヒー用として買ったんですが。この持ち手の部分がローズウッドっていう木が使われていて、もう採取できない木なので、今じゃ貴重なものなんです。たまたま、古道具屋で見つけて買ったものです。
安:ちなみに、私の楽器は1885年製のものです。
古:130年前!
安:ストラディバリウスのような名器は1700年前半に製作されていて、高く評価されていますね。
L:あと100年後になると、1800年代いいじゃんってなるかもね。ワインみたい。
―そのヴァイオリンをずっと使ってるんですか?
安:子どもの頃は分数楽器(小柄の方や子どもがヴァイオリンを習得・演奏するために作られた楽器)を使っていて、身体の大きさに合わせて楽器も変わるんです。中学生ぐらいで、ある程度身長が伸びたらフルサイズのものを使うっていう。私の今の楽器は高校生のときから使っています。
―その自分が使うヴァイオリンって、一期一会的なものなんでしょうか?結構探すんですか?
安:そうですね。
L:何で買うんですか?ヤフオク?
一同:(笑)
安:実際に試奏してみないと、音色の良し悪しがわかんないじゃないですか(笑)。でも生徒さんでいるんですよね。ヤフオクで買ってきました、みたいな。え!なんで?ってなります。ネットで買っちゃだめです(笑)。
―今使われてるヴァイオリンと同年代の物でも、違うヴァイオリンもあると思うんですが、それって弾き比べたら音は一つ一つ違うものなんですか?
安:違いますね。あと、顔と言うか、表面のデザインや色も違うし。私はふちどりが結構しっかりしてるんですけど。黒い線があって。それも楽器によって違うんです。すごい気に入っています。
L:名前とか付けてるんですか?
安:はい。名前を付けて呼んでる人いますよ。今日は、機嫌が悪いから鳴らないとか…。
L:ポチとか?タマとか?
安:ええ(笑)。
―ちなみに、ここの建物もまだ名前が無いらしいんですよね。
安:ここで、結局何を始めるかによってここの名前は変わってきますよね。ちなみに、気になっていたんですが、これって、アートとしては、どういう分野になるんですか?
L:あまりそこは答えないようにもしているんですが、ジャンルとしては、「リレーショナルアート」。関係性を作り出すアート、ですね。僕らはあえてそれをやってる訳じゃないけど、カテゴライズするなら…です。美術館でアートを当たり前のように展示することに対して、反発的に出てきたジャンルです。
安:へ〜。
L:例えば、この「アッセンブリッジ・ナゴヤ・プレイベント」もどれだけアートが日常的に存在しているか?というもので。そういうのって、今、けっこう増えています。身近なアートというか。そういうのがなかった時代に、こういったアートが出てきた時は、美術館でパッタィ(タイの焼きそば)を振る舞ったりした人が有名です。タイ人のリクリット・ティラバーニャていう人。美術館で食べ物を振る舞って、座ったりしてみんな食べる。誰でも、日常的にすることを、「美術館っていうスペースで敢えてやるっていうアート。で、食べてるうちに会話が生まれてきたりする、そういうものをリレーショナルなアートとしてやっていたんです。実は、隣の「ボタンギャラリー」にもその方の本が置いてあるんですよ。
―あ!安田さんの表情が段々曇っていってるんですが!(笑)
L:これ、合コンで言ったら、つまらない話したってことになるよね。
安:あ、いや。聞いていたんですけど、途中でちょっとわからなくなってきてしまって…。すみません(笑)。
―さっきのリレーショナルアートの話とか、そういう話とかをこの場所に来た人に説明してるんですか?
L:しないですよ。
―ここに来た人がどう思うかは自由ってことだからですか?
L:そう。だし、これが「リレーショナルアート」であるかどうかってみんな興味あるのかな?って思う。
―これがアートなのか?展示なのか?みんなわかんないと思うんですよね。それは聞かれないですか?
L:よく聞かれます。で、「ここが何になったらいいと思います?」って聞くと、その人はアートのことはよくわかんないとしても、ここの場のことを想像しようとするじゃないですか。それを聞いたり、いっしょに考えたりが重要なんです。
―質問に対して、質問で返すんですね(笑)。
L:そうですね。アートがどうこうとかって話は面倒なので(笑)。僕たちはここでこういうことをしてますって話はしますけどね。これは、僕たちの作品じゃなくて、プロジェクトと言っています。アートかどうか?って質問に応えるのは難しいですね。興味がある人はまた来てくれるし、帰ってから僕らについて調べてくれるし。例えば、ここ(鉄の筒を指差しながら)が目的地であっても、そこまでを敢えて遠回りをして、そのプロセスを楽しむようにしているから。基本的に、なるべく完成から遠回りしてます。
―なんか、近所の方から、レコードプレーヤーをプレゼントされたんですよね?
L:そこに置いてあるんですけど。わざわざ家から持ってきてくれて。
安:なんで?(笑)。
L:ご近所なんで、毎日会うから、話してて、そしたら、急にレコードプレーヤーを渡されたんです。「やるわ」って感じで。もし、普通にお店を始めようとしていて、改修工事していたとしたら、おじいちゃんがレコードプレーヤー持ってくることなんて起こりえないし。そういうのって、お店をオープンさせるというのがゴールだとしたら、なるべく排除しないと工事の作業が先に進まないから、排除すると思うんですが。僕らはそういうのを排除せずにむしろ楽しんでいる。そうしていくことで、想像していたゴールより、きっとすごいものができていく気がする。
―なるほど。ちなみに、街の人たちの反応って実際どうなんですか?古橋さんから見て感じることとかありますか?
古:街の人たちからすると、この場所は、20年間閉まっていたわけで。そこを僕らがいじり出した時から、街の人たちの間で噂が立って、あんなとこ天井抜けてるとか、いじったら全部倒れるぞとか、みんないろんな噂が飛び交っていたようです(笑)。でも、実際、手を入れて、いざ開けてみたら、いい感じだったんですよね。最初にお披露目した時、この建物に入るとみなさんの呼吸が少し深くなるんです。面白そう!って思ってくれて、みんなのワクワク感が伝わってくるんですよ。その感じが印象的でした。
―安田さんはここが寿司屋だった時のココは知らないんですか?
安:そうですね〜知らないです。でも、さっき演奏させてもらった「港まちポットラックビル」は昔よく行ってた場所なんですよ。文房具屋さんとして、よく親に連れて行ってもらっておねだりして新しい文房具を買ってもらったりした思い出の場所です。
古:文房具屋兼本屋だったんですよね。「港まちポットラックビル」がオープンする前に、2階に電気も通ってなくて、何にもまだ片付けられていない頃に、古本をテーマにイベントをやったことがあって…。そしたら、とある人がきて名刺を渡されて、「僕、妖怪の専門家なんです」って言われて。ここがまだ本屋だった当時に、妖怪の本を見て、妖怪を好きになったそうなんです。で、ぜひともここで「お化け屋敷」をやらして下さいって言われて!そこで、懐中電灯をもって妖怪本を見るって企画をやりました。その方は、港区の住人ではなかったみたいですけど、そこにあった本に大きな影響を受けたみたいです。本とかCDって若いうちに買った物ってそれをどこで買ったか?とか見たのか?をみんな覚えているもんなんですよね。それぞれに、ちゃんと記憶に残されていくんだなって思えたエピソードでした。
―なるほど〜。でも、古橋さんもL PACK的な考え方をお持ちなんですね。そういう偶然の出会いを、面白がって、そのまま企画としてやったりとか…。安田さんは、今日、自分が昔、文房具を買っていた思い出の場所ではあるにせよ、ちゃんとしたコンサートホールじゃない場所で演奏したわけですが、そういうのってクラシックをやってる方にとって抵抗とかありそうですが、どうなんですか?
安:私はカフェとかバーでも演奏するし、今日の場所も比較的演奏しやすい場所でしたよ。まず、みんながちゃんと聴いてくれていたし。全然、聴いてくれてないような場所での演奏とかもあるんで(笑)。今日のようなイベントがきっかけになって、意外とクラシックって取っ付きやすいと思ってくれて、演奏会にも足を運んでみようかなって思ってもらえたらうれしいですね。
古:クラシックって、貴族のテーブルミュージックだった時代があるんですよね。つまり、彼らにとってのお食事中のBGMというところから始まって、それがだんだん豪華になっていて、今のクラシック音楽の形になっていった。今回の音楽部門のディレクター・中村ゆかりさんとも話していた話は、さっきL PACKが言っていた「リレーショナルアート」の話に似ていて。美術館だとかコンサートホールの中で、お客さんを待ってるってことをやっていると、クラシック好きな人しか来ないわけで。それがずっと続いていくし、長いこと続いている文化だからこそ、お客さん側もどんどん高齢化していってしまうわけで。「じゃあ、音楽の方からも街に出て行かないと!」っていう発想で今回のイベントはスタートしていると言えます。ピクニックみたいなイメージで、街へ出かけていって、もっと気軽に音楽を楽しもうみたいになったらなって。そういうのを街の中で出来たらいいのにって話を中村さんからされていたんです。その話を聞いて、僕は「アート」も実は美術館の中だけじゃなくていいと思った。なんなら、もっとお客さんが参加できればいいな〜と。「アート」と「音楽」に共通点があるなと思ったんですよね。その共通点をさらに強く結びつけるのが、「街が舞台になる」ってことで。それぞれのやりたいことを街でやっていけたらいいな、って。僕ら港まちづくり協議会はそのために舞台を整備するのが役目というか。それをちゃんとするだけで、いろいろと可能性は広がるし、「アート」も「音楽」も「まち」も、だいぶ面白くなっていくと思っています。
―なるほど。では、実際、アートと音楽っていうのが街中に溢れて、変な敷居の高さみたいなものがなくなるようなのがゴールだとして、それは「まちおこし」になるものなんですか?きっと多くの人は、この「アッセンブリッジ・ナゴヤ」っていうイベントがまちおこしの一環だろうと思っていると思うんです。
古:さっきのL PACKの二人が言ってたことと似てるんですけど、ぶっちゃけそのゴールはあんまり決めてないんです。まず、僕らがつくり出した、「ポットラック」って、その意味としては「有り合わせ」っていう意味がありまして。つまり、着飾らなくていいから、在りものでいいから、何か持ち寄って、みんなでパーティーしようよ、みたいなのが根底にあるんです。港まちに既にある建物を壊して、更地にして、駐車場にするんじゃなくて。シャッター開けて、おじいちゃんにスピーカー貰って、珈琲屋さんができた!寿司屋でもいいかもしれないし。そうやって、街を作っていく方が面白いと思うんです。
古:さらに、そこに、アーティストならではの感性や、やり抜く力を借りながら一緒におもしろいことをやっていけたらって思っています。今回は、アートの専門家もいれば音楽の専門家もいて、僕みたいな「まちづくり」の専門家もいる。で、話し合っている中で「集める」「組み立てる」っていう意味を持つ「アッセンブル/Assemble」というキーワードが出てきて、そこにアートと音楽とか、街と人とかをつなぐという意味で、橋の「ブリッジ/Bridge」を組み合わせた新しい言葉ができたわけなんです。やっぱり皆さん、港まちの今のままの雰囲気を活かしつつ新しい価値や出来事をクリエイティブに再構築するってことに関心があるんです。
―アートや音楽をいくら街でつなげたいって思っていても、なかなか高尚なものとして多くの方は捉えるものだと思うんですが、実際、イベントの反応はどうですか?
古:フタを開けてみるまではもちろん不安でしたが、今日も本当に多くの人が来てくれて。やっぱり人が来てくれるのってすごい嬉しくて。あと、変わってくるんですよね、風景が。お客さんの反応がよくて、昨日も来てたお客さんは僕に目で合図してきて、「昨日も居たね、お疲れさま」みたいな。そういうのってすごいうれしいですよね。明らかな「ゴール」はないけど、街で楽しいことがどんどん起きていくことが自ずと「ゴール」になっていく。それを「まちおこし」や「まちづくり」って言うのかは、わからないですけどね。
安:ここが賑わうのって、みなと祭の時くらいですよね。人通りがそもそも少ないし、お茶するって言っても場所がないし、なんで港で?って私も思っていたし、盛り上がるのかな〜とも思ってました、正直。
古:でも、今日も、こうやって、クラシックの方とお話ができたこともうれしいですね。もしかしたらこれを機に、アッセンブリッジ本祭の時も「こんな場所があるんで、安田さんたちもまた港まちでコンサートしませんか?」みたいに広がっていくかもしれないし。そしたら、おもしろくないですか?
安:実際、「店内でコンサートイベントをしたい」って言っても、なかなかお店側が引き受けてくれるところがないっていう状況を今日、関係者の方から聞いたんです。それで、実は、私の母が今日来ていたんですけど、母のお兄さん、つまり私のおじさんは港まちに住んでいるので、その叔父に頼んでくれるって話になって。「うちの姪がコンサートやるから!」ってお店の人に言ってくれるって。おじさんはもちろん今日も来てくれていましたけどね(笑)。
―おお!そんな展開が!そんな風にして街の人たちから率先してお店探してくれてるなんて、すごい!
古:うれしいな〜。
―音楽が街へ出て行ったことで、新しい動きが生まれたってことですよね。まさに今回のイベントは、「プレ」なわけですし。「やってみる」ってことが大事なことなんだなって思いました。
古:まちづくりって、結局、僕らがやるんじゃなくて、街の人がやらないと本当はダメだと思っていて。その安田さんのお母さんが動いて、その親類の方が動いて、そのご近所の方が動いてってなっていく、そういう連鎖が起きたことは素晴らしいことです。この場所がL PACKによって改装されていくと、勝手に物を持ってきてくれる人がいるとかも実はすごいことだと思う。そういうことすべてが街を良くしていこうっていうのに繋がっていくと思うんです。
―これって、でも、名古屋の栄とか既に賑やかな場所でやっても、きっと隣人はレコードプレーヤーとか持ってきてくれないですよね。それは、ここの街の魅力かもしれないですね。そういうの感じますか?
L:港まち、変わってますよね。プロジェクトでいろんな場所行くんですけど。ここは、濃い人が多い。みんなキャラ立ちがはっきりしてる。
古:それは、褒め言葉だと思ってるんですが、いろんな街を知っている人が「この街、なんか面白いよね」って言ってくれるのがうれしいんですよね。
安:みなと祭は小さい頃から行ってるんですが、昔も今もこの街の人たちの地元愛は感じられますね。
L:ココにいると、初めて来ましたって人がやっぱり多いですが、みんな楽しんでると言うか。説明しなくても何かを感じてるのか。その何かってのは、この街自体が発してるのかな、と思います。あと、人が少ないから、そこの前の通りでおばちゃんとおばちゃんがたまたま出会って、立ち話始めちゃうようなことまで、一つ一つがまるで映画の1シーンみたいに繋がって見えてくるんです。
古:街がもともと観光地じゃないので、普通なんですよね。で、普通に歩いていても特に面白くはないと思う。でも、「観光」って遊びに行くと言うよりも、街の良いところを、街の光を自らが見出す、という意味での「観光」だと思っていて。だから、「ここで、あそこのおじさんやばいよ」とか「あのお店いいよ」とか聞いて、ヒントもらって自分で会いに行くのって面白いと思う。「その街の人に会いに行く」ってのもひとつの「観光」の在り方だと思っています。
―クラシックも、アートも、だと思うんですが、それの見方とか、どこがどうおもしろいか?つまり、今の話のどこが「光」なのか?を見る、その方法を教えてくれたら、きっともっと面白がれる人は増えるんじゃないかな〜って思いますね。
L:歌舞伎って、イヤホンを渡されて、そこから流れてくるラジオみたいなので同時解説をしてくれるんだけど、「次はこういう場面です」みたいな。で、最初は見てても何かわからなかったけど、その解説を聞いてから、その後、同じ演目観るとすごいよくわかるし、わかると、違う楽しみ方もできて。敷居を下げるとか、上げるっていう話じゃないけど、アートもクラシックもそれと、お客さんとの間に楽しみ方を意訳してくれる人がいればいいかもね。
―僕は、クラシックにそこまで興味は実はないんですが、さっきのヴァイオリンの話聞いてすごく興味深かったです。「私が使ってるのは1800年代なんですけど、1700年代のヴァイオリンはさらにすごいんですよ!」みたいな話を聞いたら、もうそれは聴き比べたい!って思うし、同年代のものでも形が違えば、そこで音も変わるって話だったんで、もうそしたら、いろんなヴァイオリンを集めて、その微妙な音の違いを聴き比べするようなコンサートとかあったら、一気にイベントっぽくなるな〜って。でも、やってることはクラッシックであって。だから、見せ方を面白くすればいいと思いますね。
L:さっきのモールス信号の日記をヴァイオリンで演奏できないかな?
安:どうやって?(笑)。
―それって、イベントタイトルとしては、「L PACKの港まち日記」みたいな感じだと思うんですけど、モールス信号で書いた日記で、しかもそれをヴァイオリンで表現して読み聞かせるってなったら…。もう本質がわからなくなるくらいおもしろいイベントになりそうですね!もし実現したら、ぜひ次回の「アッセンブリッジ・ナゴヤ2016」本祭でやってほしいです(笑)。
安:う〜ん、できるかな〜(笑)。でも、そうやって、お客さんが何に目をつけるかわからなくて、今みたいに、ヴァイオリンの形や音の聴き比べとかっていう着眼点は思いつかないですからね。私たち演奏家も、プログラムには悩みます。聴衆が求めている音楽、楽しんでもらえるプログラムと、自分たちが聴いてもらいたい、表現したい曲とのいい塩梅を探してプログラム構成をしているので。そうやって違うジャンルの方からお話を聞いてやってみるのは良い経験になるのかも。
古:じゃあ、秋はこの街に滞在して、曲を作るとかはいいかもね。
安:この街で生まれた曲ってことですね。良いかも!
古:なんかほんとにこうやってぎゅっと温度が上がる瞬間って楽しいよね。これも、L PACKがつくらなければなかった場所であって、ここでこんな話ができるとは思ってもみなかった。
―そもそも、アッセンブリッジ・ナゴヤというイベントが無かったら、みなさんがこうして肩を並べてお話することもなかったわけで、なんかそれだけで素敵なことですよね。今日は、みなさんありがとうございました。
「アッセンブリッジ・ナゴヤ・プレイベント」はもうまもなくすると一旦、幕を閉じ、秋の本祭に向けて動き出します。街の景色は今後また少しずつ変化していくことでしょう。まだ未体験の方は、ぜひ遊びに行ってみてくださいね。
まもなく終了!3月27日(日)まで開催中!
「パノラマ庭園 -動的生態系にしるす-」
名古屋港界隈をひとつの“庭”に見立て、作庭するように、アーティストやアート作品がまちのなかに入り込んでいく展覧会が催される。プレイベントでは、秋に開催される「Assembridge NAGOYA2016」で新作の制作・発表を予定しているアーティストの作品展示が行われる。※26日、27日は両日とも展示をご覧いただけます。
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2016年2月26日(金)〜3月27日(日)
アッセンブリッジ・ナゴヤ・プレイベント
会場:名古屋港~築地口エリア一帯
【音楽部門】
2016年3月20日(日)〜3月21日(月・祝)
時間:10:30〜19:00
会場:名古屋港ポートビル、港橋広場公園、名古屋港水族館、港まちポットラックビル、港まちの飲食店 (珈琲物語、うどんDINING釡半、いせや)他
出演:
名古屋フィルハーモニー交響楽団、 池永健二、岩崎洵奈、坂口裕子&増原英也、SAXY FIVE + 2、 島田真千子、少年少女合唱団 ~大陸間「水」プロジェクト『I Love Water』、声楽アンサンブル Nuovo Anno、竹澤恭子、徳田真侑、 名古屋アカデミックウィンズ、山形由美、 山形由美&中部フィルハーモニーのメンバーによるSQ、他
企画:中村ゆかり
【アート部門】
2016年2月26日(金)〜 3月27日(日)※休館日がありますのでご注意ください。
パノラマ庭園 -動的生態系にしるす-
時間:11:00〜19:00
会場:港まちポットラックビル 他、名古屋港エリア~築地口エリア一帯
エキシビション:城戸保、玉山拓郎、徳重道朗、ヒスロム、山本聖子、リトルビークル
プロジェクト:L PACK
ワークショップ:下道基行、トラベルムジカ
トーク:五十嵐太郎、服部浩之、米澤隆
企画:服部浩之、MAT, Nagoya(吉田有里、青田真也、野田智子)
主催:アッセンブリッジ・ナゴヤ実行委員会
構成団体:名古屋市、港まちづくり協議会、名古屋港管理組合、(公財)名古屋フィルハーモニー交響楽団、(公財)名古屋市文化振興事業団
問:アッセンブリッジ・ナゴヤ実行委員会事務局
名古屋市港区名港1-19-23 港まちづくりポットラックビル
TEL 052-654-7039(受付10:00〜19:00)
www.assembridge.nagoya
LPACK
小田桐奨と中嶋哲矢によるアーティストユニット。バックパックに詰めた最小限の道具と現地の素材を臨機応変に組み合わせた「コーヒーのある風景」をきっかけに、まちの要素の一部となることを目指す。2007年より活動スタート。2009年~横浜に仮拠点「L CAMP」を構え、廃旅館をまちのシンボルにコンバージョンする「竜宮美術旅館」(横浜/2010-2012)や、室内の公共空間を公園に変えるプロジェクト「L AND PARK」(東京/2011-2012)、みんなのアトリエ兼セカンドハウス「きたもとアトリエハウス」(埼玉/2012-)、ビジターによるビジターのためのスペース「VISITOR CENTER AND STAND CAFE」(名古屋/2013)などを展開。また、各地のプロジェクトやレジデンスプログラム、エキシビションにも参加。http://www.lpack.jp/
安田祥子
名古屋市出身。4歳よりヴァイオリンを始める。名古屋市立菊里高等学校音楽科及び、愛知県立芸術大学音楽学部器楽科卒業。同大学大学院音楽研究科博士前期課程修了。現在は東海地方を中心に後進の指導にあたるほか、ソロ、室内楽、オーケストラ等各分野で幅広く演奏活動を行っている。第21回日本クラシック音楽コンクール第5位(最高位)。これまでにヴァイオリンを小澤久恵、森下陽子、服部芳子、久保田巧の各氏に師事。
古橋健一
1976年愛知県生まれ。名古屋学院大学大学院、博士(経営学)院生時代から、商店街活性化のまちづくり、愛知万博へのNPO出展プロジェクト、東南アジア地域を中心としたワークキャンプ等の実践に従事し、多忙な青春を過ごす。人と社会とその関係性に関心がある。2008年4月より、名古屋市港区にて港まちづくり協議会事務局次長。2015年より、大学の非常勤講師としてまちづくりの講義も担当している。
アッセンブリッジ・ナゴヤ2016
「アッセンブリッジ/Assembridge」とは、「集める」「組み立てる」
2016年9月22日(木・祝)〜10月23日(日)[予定]
2016年秋「アッセンブリッジ・ナゴヤ2016」開催
【ART】 9月22日(木・祝)〜10月23日(日)
【MUSIC】 9月22日(木・祝)〜9月25日(日)
会場:名古屋港~築地口エリア一帯
2016年秋に開催する『Assembridge NAGOYA 2016』。世界的に活躍する国内外のクラシック音楽家たちを招き、港まちはこれまでにない規模の音楽に包まれるでしょう。海の見えるガーデンふ頭には、港まちと世界をつなぐキーワード「水」の名を冠した特設ステージ《水の劇場〈ヴァッサービューネ Wasser Bühne〉》を設置し、名古屋フィルハーモニー交響楽団によるオーケストラ特別コンサートなど、祝祭的な野外公演を実施します。現代美術展では『パノラマ庭園』をテーマに、港まち全体を会場に、さらにその規模を拡大しながら、このエリアのリサーチをもとにしたアーティストの新作やプロジェクトなど、さまざまな作品がまちへと入り込んでいきます。この秋、音楽とアートによって世界につながる港まちにご期待ください。