CLUB QUATTRO NAGOYA(愛知|矢場町)
国内インディーバンドシーンにおいて〈孤高の存在〉と称される、OGRE YOU ASSHOLE。コンセプトアルバム3部作をリリースし、ようやくたどり着いた久々のセルフプロデュース作品『ハンドルを放す前に』。決して原点回帰作などではなく、これまでバンドが培ってきたものの延長線にあった今作について出戸学(Vo./Gt.)に話を伺うことに。
取材日当日、降りしきる雨の中、出戸の運転で僕たちは夜のドライブに出かけた。行く着く先は一体何処なのか?
SPECIAL INTERVIEW:
MANABU DETO [ OGRE YOU ASSHOLE ]
Interview,Text&Edit:Takatoshi Takebe[THISIS(NOT)MAGAZINE,LIVERARY]
Photo:Sara Hashimoto[LIVERARY]
−これまでゆらゆら帝国の制作チームががっつりオウガの制作に関わっていた状態から、また自分たちだけの力で作品作りに臨んだってのは、個人的には、すごく楽しみにしていた展開で。プロデューサーの石原洋さんから吸収するものはたくさんあったと思うんで、その石原さんからは離れた時のオウガがどんなものを作るんだろう?って。出戸君自身はどうですか?
出戸:石原さんに出来上がった音源を聴かせたら「今までのオウガの作品の中で一番いい!」って言ってくれたんだよね。それはすごくうれしかった。離れたことは結果としてよかったんだなって思えたというか。
−お〜!石原さんが関わっていた作品を越えてしまった!みたいな?
出戸:「越えてる」とは言われてないけど(笑)。まあ、一番いいって言ってくれたから、それはシンプルに自分たちにとってすごく自信につながった。
−前作までは「コンセプトアルバム3部作」ってのが続いてて、それが終わって今回のアルバム制作に至ったわけですが、はっきりとしたテーマとかはあったんですか?
出戸:今回は「抑圧されたもの」をバンドで表現したかったというのがあって……。て、あれ、ていうかもうこれもしかしてインタビュー始まってるの(録ってるの)?
−始めてたよ(笑)。
出戸:言ってよ。わからなかったよ(笑)。
−明らかにインタビューな感じで質問してたんだけど……。日常会話で「今度の作品がどんなテーマなんすか?」なんて話しなくない?
出戸:いや、けっこう作品の話ばっかりするよ。今回のはどうだったとか、前のがどうだったかとか。そういう話を友達とする。
−え、メンバー間とかではなくて!友達と?!
出戸:知人とか友達とか。
−へ〜。じゃあ、毎回「今回のは抑圧されたものがテーマでさ・・・」って説明をしているんだ?
出戸:毎回する(笑)。
−(笑)。その「抑圧されたもの」をバンドで表現したってことですが、抑圧=ストイックとも言い変えれるかなと思うんだけど、どんなレコーディングだったんですか?
出戸:まず、レコーディングするのに3ヶ月もかかっていて。
−長っ!
出戸:そうそう。で、レコーディングは中村宗一郎さんのスタジオ(PEACE STUDIO)にあるビンテージの機材を借りたりして音作りをしていったんだけど、ひとつひとつの機材が重たいし、動かしたり、入れ替えたりするだけでもかなりの重労働で。
−ある意味、すごく機材もアナログだし、すごく面倒くさいなやり方ってことですね。
出戸:特に「寝つけない」っていう曲とかかなり時間がかかっていて、なかなかこれだ!って決まらなかったんだけど。アナログシンセを使っていて、たまたま出た音がすごく良かったから、それを入れたら、これだ!っていうものになった。試行錯誤しまくった曲ですね。
で、「抑圧されたもの」っていうのはドラムのパートが特にそうで。かなり引き算していって、バスドラだけしか鳴ってないみたいなのもあったりするし。メンバーの間では「バンドなんだけど、バンドじゃない音楽」というのを共有して、作っていったかな。
−でも、そういう話を聞かずに聞いたら、そんなにひとつひとつの音にまでこだわったんだってことがわからないくらいに、スッと聴けてしまうアルバムだな〜とも思って。だから、それはコンセプトというよりは手法だからリスナーにわからなくてもいいことなのかもしれないね。
出戸:ある意味、すごく厚みの無い音になっているから、聞きやすいってのはそうかもしれないね。やっぱり自分たちが聴きたいと思える曲作りっていうのによりフォーカスした結果なのかも。
三部作をつくったときに、そのコンセプトであったり制作するうえでのテーマというか指標になるものを言葉で話し合ってから作り始めるってことがすごく大事だって学んだというか。ただスタジオに入って、音出しして、曲を固めていく、いわゆるバンドっぽい曲の作り方じゃなくて、自分たちはこのやり方の方が身体に合ったと言えるかもしれない。
−プロデュースされるってのは、誰かにコントロールされたり指示をされたりするわけで、ある種「抑圧された」ってことかなと思うんだけど、その状況から外れたのにも関わらず、さらに自分たちだけになっても「抑圧される音楽」を選んだってのがすごく興味深いな〜って思ったんですけど。もう、抑圧されることが大好きなのかな?って(笑)。
出戸:プロデュースされることに関しては、全然抑圧されてる感覚はなかった。むしろ、音楽的な知識とかが増えて、やれることが増えて、制作的にはもっと自由になってる感があって。むしろ、自分たちだけでやっていた頃って、曲作りをするうえであんまり脳で考えずに「高い声出してみよう」「テンポを早くしてみよう」とかって感覚的で肉体的な作り方でおもしろいと思えるものを、無理やり見つけ出そうとしてた部分があって不自由を感じていたかもしれない。で、最近は、その頃よりはちょっとだけ頭が良くなってて。音楽の文脈とか楽器の知識とかそういうのをたくさん学習したからその経験があって、こうしたらこうなるってのがわかりやすくなった。「抑圧された音楽が好き」ていうか、ワイワイしてる感じとか、俺たち楽しんでます!みたいな音楽は、別に聞きたくないっていうところから逆算して行き着いた表現だと思う。
−家で聴く音楽がワイワイ系のひとって、もうクラブとかイキまくってるギャルとかそういう人たちだけなんじゃないかな〜って思っちゃうんだけど?
出戸:え、そんなこともないでしょ〜。
−でも、オウガってワイワイ系ではないけど、別にその対局にある、悲しい感じとか、サッドな音楽でもないしね。何なんでしょう?
出戸:あまり感情的ではない「感情のない音楽」かな。かなりドライだから。特にこのアルバムに関しては、楽曲のメロディとかも含め、感情の起伏みたいなものを取っ払っていて。
−ワイワイ系がギャルとかがテンション上げるために聴く音楽だとして、オウガの「感情のない音楽」ってじゃあいつ聴く音楽なんだろうね?
出戸:う〜ん、ドライブ中じゃない?ドライブミュージックだと思うよ。
−え。ドライブミュージック?(笑)。思いっきりアルバムタイトルにフィットするね!でも「ハンドルを放す前に」だと。ドライブ中なら「ハンドルを掴んでいる」と思うんだけど…。
出戸:いやでもそれは考え方によっては「ハンドルを放す前」でしょ?
−なるほど。タイトルからも、セルフプロデュースに戻ったという制作状況からも、なんとなく「再出発」みたいな意味合いがあるのかな〜って思ったんだけど。
出戸:今まで積み上げてきたものを活かしながら、自分たちだけで作った今回のアルバムではあるけど、ここで改めて「再出発」って感じは全く思っていなくて。そこまで何かこう変化しようとかっていう変な気負いはなかったな。自分がいいなって思ったことに対して忠実にやったというか。前よりも今作で、焦点がよりしっかり合ってきたって思ってる。
−アルバムタイトルはすっと決まった?
出戸:歌詞を書き終えて、読み返してみたときに、ある程度やっぱり短期間に書いてる歌詞だから、それは自分自身を表していたと捉えていて。で、この『ハンドルを放す前に』ってのが一番しっくりきた。「ハンドルを放す前」、つまり「何かが始まる前」っていう感じがアルバム全体にはらんでいるんですよ。
−その「何かが始まる前」って、その「何か」ってのは何なんでしょう?例えば?
出戸:例えば……注射を打つときの針が刺さるその瞬間のちょっとだけ前のあの一瞬の恐怖とか。あとは、遠足に行く日の前日の無性にワクワクする感情みたいなものかもしれないし。
−なるほど。でも、「注射を打たれる前の恐怖」と「遠足に行く前日のワクワク」って「ネガティブ」と「ポジティブ」で、全然感情の方向性が違うと思うんですが。そこは出戸くんの中で、混在、もしくは同一のものだっていうこと?
出戸:結果が決まる前の、一歩手前の感じという意味では同じだと思っていて。そのニュアンスを出したかったということ。まだ何も決まっていない状態というか。「ハンドルを放す」っていうのが結果だとしたら、それは「何かに縛られていたところから解放される」ようにも取れるし「何か大切なものを放棄してしまった」とも取れるじゃない?だから、その次の瞬間の結果が、ネガティブでもポジティブでもどっちでもよくて。その結果が訪れるちょっと前の、頭の中にまだ何もないのその感じ。
−それがつまり「感情のない音楽」っていうのにもつながっている?
出戸:例えば、「悲しいムード」とか「楽しい気持ち」とかそういうものを曲を作るうえで全く表現しようとしていなくて。そうじゃなくて「悲しい顔をした彫刻作品があって、それを観察して模写しているだけ」というか…。どこか客観的に何か見ているものをそのままを持ってくるような曲作りをしているって感じかな。
『ハンドルを放す前に』というアルバムで、淡々と起伏無く連なる楽曲群は、OGRE YOU ASSHOLEがバンドらしさを削りつつも、あくまでもバンドであり続けることにこだわり続ける、その探究心と、自分たちが掴んだ何かを表現した結晶と言えるだろう。出戸学本人が「ここには何の感情もない」と言っても、ようやく辿り着いた道を知った彼らの何か達観した感情がアルバム全体に横たわっているようにも感じられる。OGRE YOU ASSHOLEが選んだドライブコースは淡々とした風景の連続のようでありつつも、自然と耳馴染んでしまう今作は前作よりもより中毒性が高い無意識の狂気をはらんでいるようにも思える。
2017年1月21日(土)
OGRE YOU ASSHOLE ニューアルバム リリースツアー 2016-2017 名古屋公演
会場:CLUB QUATTRO NAGOYA
時間:開場17:00/開演18:00
料金:前売3600円/当日4100円
出演:OGRE YOU ASSHOLE
詳細:CLUB QUATTRO NAGOYA HP
OGRE YOU ASSHOLE
出戸学(Vo,Gt)、馬渕啓(Gt)、勝浦隆嗣(Drs)、清水隆史(Ba)の4人組バンド。2005年にセルフタイトルの1stアルバムをリリース。2009年3月にバップへ移籍し、シングル『ピンホール』でメジャーデビュー。その後、長野原村を拠点に移し、P-VINEよりコンセプトアルバム三部作(『homely』『100年後』『ペーパークラフト』)をリリース。2016年11月に待望の新作アルバム『ハンドルを放す前に』をP-VINEよりリリース。http://www.ogreyouasshole.com/
撮影ロケ地協力:愛知県立芸術大学