見えない旅路、振り返る故郷
インベーダーラダトーム3を終えて
Text:Tomoyuki Washio / Photo:Tomoya Miura / Movie:Ryota Ito / Edit:Takatoshi Takebe [ THISIS(NOT)MAGAZINE,LIVERARY]
スタジオのベランダから見える名鉄瀬戸線尼ケ坂駅に最終電車がやってくるのを眺める12月16日、
タバコを呑みながら一ヶ月前の出来事を思い出してみるものの当日クッタクタだった僕は
もしかしたらその出来事のことをあまり覚えてないないのかもしれないと自分を疑い始めたところだ。。
ワシントンデザイン研究室の記録員による写真と動画のスケッチを眺めながらぼんやりとした記憶を辿ってみる。
21時14分
2017年8月
聞くところによるとデビューして20周年を迎えるという。今年は20周年という言葉を各所で耳にする事が多かった気がするのも、僕はTHA BLUE HERBの20周年プロジェクトに関わっていた事もあり、周年という言葉に敏感になっていたのかもしれない、そういえば自分、友人の企画するクラブイベントのフライヤーを作り始めたのをきっかけにグラフィックデザイナーの活動を初めて20年ほど経つ。その中でcalmの音楽に触れる機会もたくさんあったし、calm presents K.FのCDジャケットを作らせてもらったのもデザイナーとしての自身の1つになっている。金沢21世紀美術館へ誘ってくれて粟津潔の回顧展を教えてくれたのはひらきだった。2007年くらいだったと記憶。「鷲尾氏が好きそうだから。」と。旭町にあるひらきの実家の二階にある二段ベッドの上下で寝泊まりしたのを覚えている。
calm presents K.F
石巻の過酷な(といっても比較的楽しかった)撮影から名古屋に戻った僕は心地よい風が通る円頓寺のcaféで朝のモーニングキャフェオレをちびちびと飲みながら江川線をぼーっと眺めていた。その時だったと思う。はっとcalmさんのライブとさわひらきを招いてパーティーを決めようと同時にひらきにLINE電話でその旨を伝えた。「いいんじゃない?」とひらき。9月、これまた札幌芸術祭でひらきの作品を見に札幌にいた僕は、深夜のソウルコップでHERBEST MOONのwachallと出会った。「楽しみにしてるからね。」とwachall。それと平行するようにひっそりと呂布カルマとメールをやり取りし始める。そこから僕のインベーダーラダトーム3の旅路は始まった。
どこにも所属せず、定まった仕事もなく、自由にやっていくことはいいが、たえず不安である。(中略) 自由にデザインの仕事をするといっても、デザインそのものは、然程自由なものではない。描かれたデザインやイラストレーションがかりに自由であっても、それが発表され、印刷され世に出る社会は、自由ではない。
粟津潔 造形思考ノート/「仕事」河出書房新社より
自由に企画し、箱側の条件の中でできる限りのパフォーマンスを可能にする。その場所が見慣れた、使いなれた場所だったとしても何か一つ新しい発見を来場者に提示し、喜んでもらいたい。インベーダーラダトームは僕が制作活動の道中に出会い、影響を受けた宇宙人を招いて自然発生したプロジェクト。
それは自分の旅(志したきっかけとして)の出発地点の地元といえるかもしれないし、多感な20代を通ったヨーロッパの時間かもしれない。誰にでもある出発地点の故郷からそれぞれ自分のやりたい事、やりたかった事を目指して、やらなかった事を見つけてその目標を叶える。叶えるために時間をかけて僕の場合は思考を重ねていく。
円を描くように会場を回廊する
日頃、プライベートでドローイングをしているダンサー(インベーダー)を今回のビジュアルに。会場内で、円を描くように導線を意識し、手をつなぎあって円をつくる気持ちをそのまま表現した。
会場のイメージスケッチと映像ルームのインストールスケッチ。
会場内に森を作る
calmの活動20周年をvioで開催する事になった初期の段階からフロアライブをしようと考えていた。ステージの美術装飾を橋の下音楽祭ですっかりおなじみとなった「造形集団・某」に具体的なプランを話しながら作戦会議を重ねた。今までに無いvioの使い方を見せたかったというのと、「円を描くように」をメインのテーマにしていたのもありフロアのデザインを考えて行った。森の中にうっすら光るミラーボールが月のように見えないかな。というアイデアから会場にたくさんの植物を持ち込んでステージを組み上げて行った。
あたりはずれ商店街
告知用に作った映像は、三浦知也のスタジオで撮影した。
「Migration」
2003年に発売されたcalmの代表曲「Light Years」はMVにさわひらきの作品「Migration」が使用されている。
vioに隣接するダンススタジオのスペースを使用して映像のインスタレーションを展開した。
さわひらきの代表作「dwelling」から奥能登芸術祭で披露された最新作「fish story」計4作品を2スクリーンで投影、かつて珠洲で暮らしたことがあるひらきの祖父が、海の交通によって一命を取りとめたという事実からなる「fish story」は4月の珠洲市、8月の石巻市での撮影から作られた作品。この映像ルームも円を描くような動線を意識してスクリーンを中央に配置した。
ここはあえて告知をしないサプライズアクトとして用意していた。
呂布カルマにcalmさんのライブのフューチャリングゲストとして出演してもらった。calmさんの音楽に呂布カルマが飛び入りの妙な違和感が面白そうかもしれない、というのと名古屋独自の企画というのも入れたいと思っていた。僕の尊敬する先輩のデザイナーはその妙な違和感をレイアウトに入れるという事を教えてくれた。
鷲尾友公
1977年、愛知県生まれ。イラストレーター、グラフィックデザイナーなど。表現という 分野において、ジャンルや手法、高尚も大衆の別もなく独自の文脈で作品を制作し活動する。 美術館や海外でも発表された彼のオリジナルモチーフの手君は運気アップのアイテムの一つ。最近手がけたアートワークにはTHA BLUE HERBの周年ポスターからPUFFYのグッズイラストまで、と幅広く越境中。http://thisworld.jp/