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FEATURE / 特集記事 Sep 10. 2016 UP
【REVIEW】
“アンビエント”とは何なのか?
こだまの森の奥の奥のずっと奥で問いかける
「Deep Ambient Forest 」in TAICOCLUB’16

「Red Bull Music Academy Presents Deep Ambient Forest」in TAICOCLUB'16

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昨年に引き続き参加した、長野県こだまの森を舞台とした野外フェス「TAICOCLUB」。国内外のアーティストがジャンルレスながらも抜群のブッキングセンスで招聘される同フェスは、全国的に注目を集める国内フェスのひとつで、毎年多くのミュージックフリークたちが集まる場となっている。

今年のラインナップには、toe、ハナレグミ、サカナクション、水曜日のカンパネラ、あふりらんぽ、石野卓球…といった国内組〜DAN DEACON、TRAX MAN、LOAD ECHO、TYCHO、おなじみのNICK THE RECORDなどの海外勢が集結。2015年のBOREDOMSステージのようなトピックはなかったものの、TAICOならではの安定感のある良質なラインナップだったと言えるだろう。

 

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「Red Bull Music Academy Presents Deep Ambient Forest」の出演者たち

 

そんな中、昨年に引き続き、ビッグステージから放たれる重低音の裏側で、今年も「Red Bull Music Academy Presents Deep Ambient Forest」が出現。灰野敬二、蓮沼執太「こだまの森アンビエント」、Akiko Kiyama 、Sparrows (Ambient Set) 、Chihei Hatakeyama、Haioka、Whitelightが代わる代わる登場し、それぞれの解釈でそれぞれのアンビエント・ミュージックを披露したこのステージについて、振り返ってみる。

 


ちなみに、Ambient(アンビエント)とは、直訳すると〈環境〉の意。そして、音楽ジャンル名でもある。どんな音楽かを言葉で表すと「ダウンテンポの音楽のジャンルの一つ」とある。さらには「アンビエント・ミュージックとは、作曲家や演奏者の意図を主張したり、聴くことを強制したりせず、その場に漂う空気のように存在し、それを耳にした人の気持ちを開放的にすることを目的にしている。 シンプルで静かなメロディーを繰り返す場合が多い。」と書かれている。


 

 

降りしきる雨の中、明らかに異質な風景を描いた、

「Deep Ambient Forest」とは何だったのか?

Interview,Text&Edit : Takatoshi Takebe [ LIVERARY, THISIS(NOT)MAGAZINE ]
Photo: ©Great the Kabuki-Cho/Red Bull Music Academy

 

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水のせせらぎや雨音といった自然音とともに、雑踏音、話し声、笑い声、遠くの方から聴こえてくる4つ打ちのリズム、爆音とともに空を染めるほどの光の線……それらとは相反するともいえる別世界を描いた「Red Bull Music Academy Presents Deep Ambient Forest」。深淵の森の中に小さく、だけど深く響き渡るアンビエント・ミュージック。会場内には赤/黒の特設エアソファがいくつか置かれ、そこで寝っ転がるように音の波に身体も心も浸る聴衆の姿も。

 

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そんな中始まった気鋭のアーティストたちのアンビエントをテーマとしたライブをざっと振り返る。

Whitelightは反復的なミニマルテクノと、ゆっくりとリフレインするギターフレーズの2つの波が重なり合い、永遠を感じさせるほどにとろけるようなサウンドを無限に放射し続けた今回のためにアンビエントトラックを作ってきたというSparrowsはいつもとはだいぶ違った静かなる音像を浮遊させた。続いて、HOIOKAは、重低音と和の要素を取り入れた艶美なトラックが、雨がしとしと降るロケーションの中、煌びやかに鳴り響かせた。まさにアンビエントな微音スタートから、変則的なトラックへゆるやかに転調していった、 AKIKO KIYAMA。

 

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そして、雨が振り続ける悪天候の中、わらわらと人が集まり始めた午前3時。

「こだまの森アンビエント」というこの日のためのテーマともとれる言葉を掲げた、蓮沼執太。もともとはソロでの出演を予定していたが、急遽、蓮沼ともつながりの深い2人の音楽家・千住宗臣Ametsubが参加したトリオ編成で登場。

 

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遠くのステージからは爆音で打ち鳴らされるダンスビート。ヒートアップしたオーディエンスの声も聞こえる。その荒波を鎮めるかのような、やさしい音が空間に注がれていく。3人はそれぞれに音を発し続ける中、まるで音で耳打ちをし合っているような、そんな演奏風景が続いた。中盤からは千住宗臣による不規則的なリズムが強く出始めると、少しずつ観衆たちが彼らの音に身体で反応し始め、中には踊り始める人も現れた。

 

ライブ後、蓮沼執太と少しだけ話ができた。

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―今回、どこまでが決まっていてどこまでがセッションだったんです?

蓮沼:完全にセッションでした。出番前に一時間くらい3人で話した程度で本番に臨みました。そもそも、それぞれどんな楽器持ってくるかすらも打ち合わせていなかったから。

―かなり実験的な内容だったのように見えますが、感想としてはどうですか?

蓮沼:いい感じになって良かったし楽しかった。雨だったからね、途中からアゲてったよ(笑)。いい感じに千住くんがリズム出してくれてあれが良かったな。スピーカーに巻いてある(雨除けの)ビニールが(音の振動で)ビリビリって音が出てて、ヤバかったけど。それも楽しんでたよね(笑)。

蓮沼執太「こだまの森アンビエント」っていう今回の出演名のサブタイトル的な言葉はどういった意味だったんでしょう?

蓮沼:今日僕らが表現した「アンビエント」とは「環境」のという言葉の意味の方であって、いわゆるイーノ的な音楽ジャンルとしての「アンビエント」ではなかったんだよ。

蓮沼執太「こだまの森アンビエント」の演奏は本来の「アンビエント」という言葉の持つ意味「環境」というキーワードやイメージから派生させた、彼らなりの「アンビエント・ミュージック」だったと言える。無理やり激情することなどはなく、3人の即興ライブは、まさにその言葉とおり、それぞれの「環境」や「キャラクター」をゆるやかに混ざり合わせていく、アンビエントな作曲風景だったのだ。

 

少し空は明るくなり始め、時刻は朝の4時をまわっていた。

慌ただしく準備をしながら、いよいよ同ステージのラストを飾る、灰野敬二が堂々の登場。

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爆音/ノイズのイメージが強い彼が一体どんな「アンビエント」を聞かしてくれるのか?とおそらく多くの人が注目する中、彼は無数のエフェクターを使用し、女性の泣き声のような、動物の鳴き声のような鼓膜を貫通するような高音に次々とエフェクトをかけていく。それは「アンビエント・ミュージック」というジャンルの音量では明らかになかったが、即興的に発せられる爆音と爆音の合間に、灰野ならではの「アンビエント・ミュージック」があったのかもしれない。

爆音と無音の感覚は次第に破壊され始め、最終的には幾重にも音が混ざり合い、ループし、音量は徐々に上がっていった。クライマックスを迎えたその刹那、灰野がマイクを握り「神はいない!そして何もしない!ただし、個性がない!」と高らかに叫んだ。白髪を振り乱しながら、彼のアンビエント・ミュージックは、狂気的なノイズで空間を切り裂き、「Deep Ambient Forest」は静かに曇り空の朝の空気だけを残し、終焉を迎えた。

 


 

TAICOCLUB2017も開催!チケットは好評発売中。

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TAICOCLUB’17開催決定!とともに、発表されたのは「2018年をもって〈こだまの森〉での開催を終える…」という衝撃のアナウンスだった。同フェスが新たに企てる新フェーズに期待がかかる。現在、各カテゴリー別にチケットは発売中。来年のラインナップも楽しみに待ちたい。

 

 

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