2024.10.12.Sat - 11.04.Mon | 尾張瀬戸駅周辺(愛知|瀬戸)
瀬戸市のまちなかで10月12日(土)〜11月4日(月・振替休日)にかけて開催される、国際芸術祭「あいち」地域展開事業「底に触れる 現代美術 in 瀬戸」。
メインコンテンツとなる現代美術展には、井村一登、植村宏木、木曽浩太、後藤あこ、田口薫、津野青嵐、波多腰彩花、藤田クレア、ユダ・クスマ・プテラ、光岡幸一の10作家が参加。また、会期中に芸術書を扱うブックショップの出店やZINEの展示即売会、一般応募出店者による本のフリーマーケットからなる「瀬戸まちなか本の市」、飲食や音楽を楽しむ一夜限りの「坂道まぼろし夜市」、100台以上にもおよぶキーボードによる演奏をするASUNAによるサウンドパフォーマンスといった企画が多数開催される。
単なる現代美術展に留まらない展開を見せる、「底に触れる 現代美術 in 瀬戸」。今回、LIVERARYでは各作家にメールインタビューを敢行。7つの会場と10名の作家を紹介しつつ、瀬戸に行った際には寄ってほしいオススメスポット3選+αもピックアップ。
これを機に是非とも瀬戸に足を運び、アート展示とともに街歩きも楽しんでみてほしい。
SPECIAL REPORT :
底に触れる 現代美術 in 瀬戸
Text & Edit:Takatoshi Takebe(LIVERARY)
Photo:Tomoya Miura
名鉄・瀬戸市駅に着いたら、まずは展示会場A「古民家レンタルスペース梅村商店」へ。
コチラは全会場の中で最も駅に近いということから、入り口に全体MAPを掲示。インフォメーション的な要素も兼ねている。
古民家を改装したギャラリー&カフェである「梅村商店」。こちらの会場では、特殊な装置で物質から音に変換する作品で知られる作家、藤田クレアが出展。実際にフィールドワークをし、瀬戸市内にあるマンホールやタイルなどからトレースした模様の陶盤などが展示されている。それらはまるで土地の記憶を記録したレコード盤のように、それぞれに不思議な音楽を奏でる。
展示会場A:古民家レンタルスペース梅村商店
藤田クレア
藤田クレア《聴こえる風景 ~Tones of the City~》(部分)2024年
ー瀬戸という街についてどのような感想を持ちましたか?印象的なエピソードもあれば教えてください。
瀬戸は街全体にやきものの文化が根付いているという強い印象を受けました。たとえば、道路に陶片が埋め込まれていたり、石垣に陶器が使われていたりして、街の至る所にやきものへの誇りが感じられました。
型を取っていた時のことですが、地元のおばあちゃんの家の石垣がとても魅力的で、思わず「この石垣の型を取らせていただけますか?」と尋ねたところ、「型を取るだけでしょ?いいよ、全然!」と快諾していただき、驚きました。東京だと「型を取る」と言っても何のことか分からない人が多いと思うのですが、瀬戸ではすぐに通じました。それだけやきもの作りが生活に深く浸透しているのだと実感しました。
ー今回の作品はどのような着想(またはコンセプト)から生まれた作品なのでしょうか?
まずは、瀬戸市という外からの視点を活かし、この街の面白さを発見できないかと模索し、「街を型取る」というアイデアにたどり着きました。
型を取るという行為は、街にある物や、その周りで起こる動きを映し出す手法です。また、それはその街を作る物や、その場所の上で起こる変化や時間の痕跡をも捉えることができます。型を取ることで、その場所で無意識に感じているものと向き合い、新しい視点を見つけるため、フロッタージュの技法を取り入れました。
さらに、やきものは焼成時に物質が変わり、時間の流れも異なる次元へと移行するような性質があります。これは、一瞬を切り取って永遠に保存する陶器そのもののような要素を持っています。型取った模様の陶板の一つ一つは、私がその模様を発見した時の、時間も環境も、その時の心情も、一緒に居た人も、その時の全てを保存しています。
今回はそれ等を音に変化させました。使用した楽器は大正琴です。名古屋発祥のこの和楽器は、街の雰囲気に合うと思い、洋楽器ではなく選びました。瀬戸で見つけた面白い形を、視覚だけでなく音に変換し、別の感覚でも楽しめるようにしています。
また、陶器や磁器は、高温で焼くことで、ただの土が化学変化を起こし、全く別の物質に変わります。この「時間とともに変化する」という特性に非常に魅力を感じ、これを活かして何か表現できないかとも考えました。そこで、様々な会社から集めた陶片を組み合わせたり、形をなぞったりしながら実験を繰り返していました。その中で特に印象的だったのは、「変化の瞬間」でした。陶器は焼成の瞬間に土が化学変化を起こし、時間の流れが変わります。また、割れた瞬間に生まれる独特の形も、変化の一例です。私は、こうして焼かれたり割れたりした陶器にさらに新たな変化を加えることができないかと考えました。手で作った形ではなく、土をかけて自然に積もらせることで、新たな変化の可能性を加えました。すでに変化を遂げた陶器に「新たな時間」を重ねることで、再び変わる可能性を引き出すという発想に基づき、この作品を作りました。
藤田クレア《街の型取り》2024年
瀬戸でのフィールドワークの様子も会場内に投影されている
ー制作上、苦労した点は?
瀬戸市はやきものが特産で、どこに行っても素敵なやきものに出会えます。その歴史の深さや、市民の生活に根付いた文化の成熟度に圧倒され、最初は自分にできることがないと感じていました。しかし、それでも挑戦したくなり、未熟ながら自分なりの視点でやきものを捉えることにしました。
初めて扱う陶器という素材は、土の特性を感じ、触り、実験しながら理解していく必要がありました。また、土が乾燥するまでの時間も、普段使っている素材とは異なり、制作スケジュールの調整が難しかったです。
普段の素材にも発見はありますが、新しい素材ほど多くの発見があり、ワクワク感とソワソワ感が止まりませんでした。それが難しくもあり、楽しい部分でもありました。
ー「底に触れる」について、ずばり見どころは?
作品を通して、瀬戸の街を新しい視点で見て、聴いていただければと思っています!
駅から北上し、小高い山道を10分ほど登っていくと、瀬戸の陶芸文化の確立に大きな足跡を残したとされる工芸家・藤井達吉(1881~1964)が使用していた工房を移築・改修した茶室「無風庵」がある。この会場では瀬戸在住のガラス作家、植村宏木の作品が屋内外に展示されている。
展示会場B:無風庵
植村宏木
植村宏木《有無のはかり》2024年
ー瀬戸という街についてどのような感想を持ちましたか?印象的なエピソードもあれば教えてください。
何気ない街の風景の中の、いたるところに陶があることが何よりも印象的でした。自然とそこにあるといった陶がとても多く、何気なく足元の地面を見たときにも小さな陶のかけらが見つけられるのは、やきものの街ならではだなと思います。また陶磁器産業にまつわる人物を神様としてお祀りしている場所が街の中にあるような環境も面白いなと感じ、瀬戸の中心部にある深川神社は、街を散策する際によく訪れていました。愛知に拠点を移して4年目に、深川神社にある陶祖をお祀りしている陶彦社にて、「言束ね」という作品を制作する機会をいただきました。この作品は様々な形式で展開されるプロジェクトなのですが、境内にてインスタレーションを展開したのち、近くの商店街でのワークショップを通して街の人々の言葉を集め、最終的にひとつの立体作品としたものを陶彦社へと奉納することとなりました。瀬戸の街で何を得て、何を考え、何をするのかを深く考える出来事でした。
ー今回の作品はどのような着想(またはコンセプト)から生まれた作品なのでしょうか?
今回展示する作品は、ふだん瀬戸で生活をしている時に想像している、豊富な珪砂(ガラスの原料)が地面の下に広がっているようなイメージと、会場となる無風庵や隣接する場所の背景とを重ねて生まれました。無風庵は近代美術工芸家の藤井達吉にゆかりのある建物なのですが、藤井達吉が各地を訪れていた中で瀬戸との縁ができ、達吉が指導をした瀬戸の陶芸家の尽力があって現在の場所に建っています。恥ずかしい話ですが、瀬戸に住みながらも無風庵のことはそこまで深く知らず、藤井達吉についても詳しくは知らないような状態でした。藤井達吉その人のことや、無風庵が現在の場所に移築された背景などを調べていくうちに、見慣れた街の中に新しい視点が生まれたことが今回の作品にとっての大きな要素としてあります。もともと瀬戸で生まれた訳ではなく、他所から瀬戸へ訪れた自分と藤井達吉の生き方にどこか重なるものを感じたこともあります。瀬戸に暮らす人をはじめ、外から瀬戸へ訪れた人にとって、知らなかったことや意識できていなかったことを、異なる視点から考えるような展示になればと思っています。
植村宏木《うぶすなのこえ》2024年
植村の希望もあり、藤井達吉の掛け軸作品や道具箱などともに展示されている。
ー制作上、苦労した点は?
瀬戸に住んでいることもあり、会場との距離が近いことが大きなメリットだったと感じています。藤井達吉や無風庵について、そして瀬戸の街についてを考え調べることにできる限りの時間を充てることができました。今回の作品では瀬戸で集めた素材が多く使われているのですが、作品のイメージが出来上がっていくにしたがって、作品に規模も大きなものになり、素材集めに多くの時間を費やしました。多くの方のご協力もあり、どちらも十分な準備ができたことで、地元の作家としての利点を活かせたのではないかなと思います。僕個人の苦労よりも、ご協力いただいた方々のご苦労が大きかったのではと思いますので、改めてお礼申し上げます。
ー「底に触れる」について、ずばり見どころは?
10人の作家の異なる視点や新たな見方が、瀬戸に集まることがとても楽しみです。それぞれの作品を楽しんでいただきたいのはもちろんですが、会場をまわる途中で出会う瀬戸の街そのものも、いろいろな視点で見ていただけたら嬉しいです。
宮前地下街と呼ばれるこの並びには、著名人たちも全国から駆けつける有名な鰻屋もある。
山を南下し、深川神社の鳥居の脇から「せと銀座通り商店街」へ。程なくして「ポップアップショップ」というガラス張りの貸しスペースが見えてくる。こちらの会場では、今展示会唯一の海外作家である写真家のユダ・クスマ・プテラの作品が並ぶ。被写体に布を被せ、その家族(コミュニティ)を代表する人だけを顔出しする、という独特なルールのもと撮影された写真は代表作。また今回の滞在中に、日本における鳥と人間の関係性に興味を持ったところから着想を得た新作コラージュも展示されている。
展示会場C:ポップアップショップ
ユダ・クスマ・プテラ
ユダ・クスマ・プテラ《鳥とネット》(部分)2024
ー瀬戸という街についてどのような感想を持ちましたか?印象的なエピソードもあれば教えてください。
Last year, I visited Seto City for the first time. Masa san and Namiki san as the curatorial team invited me to visit Ceramic Master Kato san in his studio,
Walking through the traditional market corridor, visiting the Gura Museum and the Glass and Ceramic Museum. From that short visit, it is true that this city has a close relationship with the history of ceramics. I was very impressed when the fences of the houses were filled with works of art, the bridges that became exhibition spaces, the decorations of the residents’ houses were filled with ceramic ornaments and elements. I think this reflects that Seto City was not made for tourist purposes, but history has truly become one with the people who live in this environment.
去年、初めて瀬戸を訪れました。陶芸家の加藤さんの工房を訪問させていただき、歴史ある商店街を歩き、瀬戸蔵ミュージアムや瀬戸市新世紀工芸館にも足を運びました。短い滞在でしたが、家々の窓にはアート作品が飾られ、橋はやきものの展示スペースとなっていたことがとても印象的で、この街とやきものの密な関係を感じました。こういったことは観光客向けではなく、歴史が人々の生活環境の中に入り込んでその一部になっているのだと思います。
ー今回の作品はどのような着想(またはコンセプト)から生まれた作品なのでしょうか?
In simple terms, the thing that always inspires me in creating works is the relationship between humans and each other, the relationship between humans and nature, and how these relationships influence each other.
簡単に言うと、私の制作活動のインスピレーションとなっているのは、常に人間同士の関係や人間と自然の関係であり、それらがどう影響を与え合っているか、ということです。
ユダ・クスマ・プテラ《過去、現在、未来がひとつに》(部分)2017年、2019年、2023年、2024年
ー制作上、苦労した点は?
The two series of works that I will exhibit, use participatory methods or require other people to participate or collaborate. The first thing that is quite difficult or an obstacle is the problem of language differences. Luckily I was helped by good people around me, who were happy to translate from English to Japanese, then it was easier for me to express the intent and purpose of my work to others.
今回展示する作品のうち2つのシリーズは、人々に参加、協力いただいて成立する作品でした。そのためまず言語の難しさがありました。幸いにも、周囲に通訳してくれる人がいたので、今回の作品の意図や目的について伝えることができました。
ー「底に触れる」について、ずばり見どころは?
I will exhibit my work in a shophouse that was previously used as a vegetable shop, located in the middle of a market bustling with the activities of local residents.
It is a challenge to present the work to a wider audience, and the old statement resurfaces, art for art’s? or art for whom?
瀬戸の人々が集う賑やかな商店街の一角で展示する予定です。より多くの方に作品を見ていただくことはチャレンジングであり、「芸術のための芸術か、誰のための芸術か」という古い言葉が蘇ります。
ユダ・クスマ・プテラ《瀬戸の詩的断片》(部分)2024年
続いては、街を南北に分ける瀬戸川を渡り、「せと末広町商店街」へ。新旧さまざまな店や時間が入り混じった独特な雰囲気を持った商店街だ。
廃墟となった大型施設、レトロな看板、謎の顔ハメパネルなど……歩いているとついつい気になってしまう場所が多々。
商店街をしばらく進むと、古い旅館を改装し、1Fがギャラリー、2Fが学生寮となっている「松千代館」の看板が見えてくる。こちらの会場では、蚊帳で囲われた、波多腰彩花の白い陶芸作品が息を潜めるように静かに並んでいた。
展示会場D:松千代館
波多腰彩花
波多腰彩花《Skin of a Calm Day》2024年
ー瀬戸という街についてどのような感想を持ちましたか?印象的なエピソードもあれば教えてください。
瀬戸の町は、今回の展示の下見の際に初めて訪れました。
春の晴れた日で、歴史のある文化的な建物と現代の生活が共存する街並みは、あかるく静かな空気が流れ心地よさを感じました。古いものと今の生活とが近い関係にあり、互いに調和している雰囲気が印象的でした。
また、やきものの街ということもありいつかは訪れたいなと思っていたので、このような形でご縁がありうれしかったです。
ー今回の作品はどのような着想(またはコンセプト)から生まれた作品なのでしょうか?
スポンジの上に置かれた石鹸や等間隔に置かれたプランター、向かい合う椅子といった日常のふとした時にあらわれる心地よい空気感やそこから連想される穏やかな心象、それらにかたちや触感を与えることをテーマに制作しています。手びねりという陶芸の一般的な技法を用いて土の膜を立ち上げ、作品に空洞を内包させることで記憶が持つ空気の可視化を試みています。
今回は新たなアプローチとして空間自体も取り込むやきものの在り方を模索し、展示空間を薄布で覆いその中に作品を置いています。そして作品には小さな穴が穿たれており、それはまるで植物の気孔のようにゆるやかに外界と自身をつなぎ、すべてのものが膜という曖昧な境界を保ちつつも、常に関係し合いながらそこにあることを表しています。それは空間を仕切りながらも閉ざしきらない薄布と呼応し、鑑賞者の意識を内と外との関係性へと導くことを目指しています。
波多腰彩花《Skin of a Calm Day》(部分)2024年
蚊帳の中に入り、間近で見ることができる作品も。
ー制作上、苦労した点は?
陶芸は完成までのプロセスが多く、大型の作品になるほど技術的な難易度が上がります。私が使用している土はキメが細かく、本来大型の作品の制作には向きません。しかし、求める質感のためには必要な素材だったため代替できずに苦労しました。
ー「底に触れる」について、ずばり見どころは?
「底に触れる」というタイトルにもあるように、新たな視点の発見にあると思います。まちなかという日常的な空間に作品が入り込むことで、美術館での鑑賞体験よりも馴染みやすく、普段は見えていなかったものに気付くきっかけとなるのではないかと思います。わたし自身も他のアーティストの視点を楽しみにしています。
「せと末広町商店街」から5分ほど歩いたところに見えてくる立派な建築物が、瀬戸市新世紀工芸館だ。大正3年6月30日建造された旧瀬戸陶磁器陳列館を再現し建てられたという、この会場では、1Fと2Fの展示室を使用。後藤あこ、井村一登、津野青嵐の三者三様の作品群が展示されている。
展示会場E:瀬戸市新世紀工芸館
後藤あこ
後藤あこ《細い目》(部分)2024年
ー瀬戸という街についてどのような感想を持ちましたか?
瀬戸市は大学卒業後一番長くアトリエを構えた、第二の故郷とも言える街です。私自身、彫刻を軸にして主にセラミック素材を使っていますが、伝統的な瀬戸のやきものとは作風が異なります。瀬戸のやきもの文化の深さに近寄りすぎても離れすぎてもダメだろうなと感覚的に思っていて、今となっては付かず離れずのふわふわとした街との付き合い方をしていたように思います。この展覧会や国際芸術祭を通して近くて見えていなかった瀬戸を再発見できたら嬉しいです。
ー今回の作品はどのような着想(またはコンセプト)から生まれた作品なのでしょうか?
普段は虚構や現実、並行世界についてよく考えています。今回の作品では今住んでいる上海で自分の体験した感覚や不思議に思ったことを作品化しています、現地で出会った中国、台湾、香港、韓国と日本のアーティストをモデルに制作しました。政治やいろいろな問題がありますが、それらをすり抜けて、個人レベルまで落とし込めたらいいなと思っています。
ー制作上、苦労した点は?
上海のレジデンス施設みたいな場所で制作している都合上、制作過程における現地の人とのコミュニケーションです。ですが言葉の壁や文化の違いはあれど、アートや文化を好きな人たちとの交流は、苦労以上に楽しさと希望もたくさん感じることができました。
また国をまたぐため、輸送における作品の強度、サイズや重量などにも今までで一番気を使いましたが、その中でどうやって自由に表現できるかを大事に制作を進めました。
ー「底に触れる」 についてズバリ見どころは?
現代美術展だけではなく、飲食や音楽、ワークショップなど複合的なところが素敵だと思います。現代アートより少し前の、街の風土を育てるこうした活動にとても共感します。特に地方都市では重要で根気のいることだと思いますし、少しでも貢献できたら嬉しいです。
展示会場E:瀬戸市新世紀工芸館
井村一登
井村一登《Magic mirror》(部分)2024年
ー瀬戸という街についてどのような感想を持ちましたか?印象的なエピソードもあれば教えてください。
街の中にやきものが溢れており、街全体が作品のように思えました。飲食店に行った際も、それぞれの店の器にこだわりを感じました。
ー今回の作品はどのような着想(またはコンセプト)から生まれた作品なのでしょうか?
瀬戸市のガラスの原料(珪砂)が採掘される鉱山をはじめ、三角縁神獣鏡が出土した犬山市の東之宮古墳、新城市の鳳来寺山の鏡岩など愛知は鏡にまつわる場所が多いのです。それらをリサーチしながら人と鏡の関係性を歴史、信仰、産業など多角的にアプローチしていきました。
鏡岩の由来が、それを構成する松脂岩の持つ光沢なのですが、資料館でお話を聞く中で、銅鏡に自身を映し、それを鏡岩の上から捨てることで、自身の邪気を祓うという歴史がありました。
そこで今までの魔鏡が反射によって像を浮かべるのに対して、透過するガラスで構造を作ることで、「反射」「透過」を繰り返すことで鏡岩で人々が行った祓う行為に代わるのではと考え、制作しました。
井村一登《Magic mirror》(部分)2024年
ー制作上、苦労した点は?
珪砂からガラスという素材自体を作る行為はもちろん、リサーチした場所を鏡に反映するための設計、さらに鏡にするための研磨、塗装など数多の工程で大変多くの方にご協力いただきました。また鏡を活かすための照明、空間設計も瀬戸市新世紀工芸館という会場を活かしながら行いました。鏡を作る行為はほとんどが企業、工場の製作によるものという中で、鏡を「制作」することができ、
ー「底に触れる」について、ずばり見どころは?
この機会、この場所でしか作れない作品になりました。ガラス鏡は表面がガラスその裏に金属がコーティングされ鏡になっています。「底に触れる」というタイトルから、今回はガラスの表面に塗装したものも制作しており、作品によって「底」が金属、ガラスで分けているので、構造を見比べながら鑑賞していただきたいです。その中でピントを変えながら交差させて、映っている自身、鏡という物自体の関係性を感じてもらいたいです。
展示会場E:瀬戸市新世紀工芸館
津野青嵐
津野青嵐《Trace the pottery》(部分)2024年
ー瀬戸という街についてどのような感想を持ちましたか?印象的なエピソードもあれば教えてください。
日本中の食卓を支えてきた器たちが、ここから生まれたんだ···!という感動がありました。
ー今回の作品はどのような着想(またはコンセプト)から生まれた作品なのでしょうか?
祖母を在宅介護する生活の中で生まれた、私自身の願いから着想を得ました。
津野青嵐《The Wishing Table》(部分)2024年
ー制作上、苦労した点は?
今まで3Dペンを使用した作品作りをしてきたのですが、今回のメインとなる作品はそれらを使用していません。ファッションデザインを仕事にしているのに布を使った基本の服を作る経験が乏しく、デザイナーの友人から指導を受けながら制作しました。それは私にとって新たな挑戦でした。
また、今までは作品は写真で残すことが多く、映像作品を制作するのも初めてでした。大切な存在の姿を作品にしたいという私の個人的な強い欲望は暴力性を孕んでいます。今回の制作を通して、私はその難しさ、そして面白さを痛感しました。今後も、この問いを持ち続けながら、新たな表現に挑戦し続けたいと考えています。
ー「底に触れる」について、ずばり見どころは?
まだ瀬戸市新世紀工芸館の中しか見られていないのですが、同じ会場で展示する井村さん、後藤さんの作品、それぞれ全く表現方法もコンセプトも違っていて、とても面白いバランスの空間であると感じています。
続いて、瀬戸信用金庫アートギャラリーへ。こちらのギャラリーは普段から市内の陶芸作家の展示を行っている場所なのだそう。2部屋に分かれた構造になっており、両者ともに瀬戸に所縁を持つ木曽浩太と田口薫の作品がそれぞれの部屋に展示されていた。
展示会場F:瀬戸信用金庫アートギャラリー
木曽浩太
木曽浩太《多様性の時代》2024年
ー瀬戸という街についてどのような感想を持ちましたか?印象的なエピソードもあれば教えてください。
生まれ育った街なのでいろんな感情があります。小さい頃はそんなに好きな街ではなかったような気がします。土埃が多いし、歩道が狭いのに大きなダンプカーがよく通って怖いと思っていました。両親ともに瀬戸が地元ではないのであまりアイデンティティを感じる場所でもありませんでした。大学を出てからはタネリスタジオとArt Space & Cafe Barrackがオープンし、気がつけば知り合いの美術家がたくさんいる街になりました。キャンプに興味を持つようになった今は、よく見ているキャンプ系YouTuberの方が活動している場所という印象が強いです。
ー今回の作品はどのような着想(またはコンセプト)から生まれた作品なのでしょうか?
瀬戸で活動していた画家・北川民次が制作した瀬戸市立図書館の陶壁画から着想を得ています。そこにはユーモラスなキャラクターが描かれており、普段自分が制作している作品にも通じる所があると感じました。今回展示するのは、それらのキャラクターが登場する物語を考え、絵画で表現した作品になります。また、自分自身が壁画のキャラクターに扮して初めてのキャンプに挑戦する様子を撮影した映像作品も併せて展示します。
木曽浩太《むちキャン~ネットで調べまくって準備万端なのでちょっと初キャンプ行ってくる~》2024年
ー制作上、苦労した点は?
普段は日本画の画材である岩絵具を用いて絵を描いていますが、今回は陶器の原料となる瀬戸の土を使用しました。絵の具として使える状態にするまでに、塊の状態から粉末状に砕き、ふるいにかけて粒子の大きさを揃え、フライパンで焼いて殺菌処理をするという工程が必要でなかなか手間がかかりました。けれど予想以上にきれいな色が出たのでやった甲斐がありました。
展示会場F:瀬戸信用金庫アートギャラリー
田口薫
田口薫《光の跡、遡行する影》(部分)2024年
ー瀬戸という街についてどのような感想を持ちましたか?印象的なエピソードもあれば教えてください。
瀬戸は地元で、6年前まで住んでいました。帰省するたびに尾張瀬戸駅周辺の商店街を散歩するのですが、昔よりもお店が増えて活気が高まっているような気がします。
また小学校高学年の時には全クラス参加の粘土コンクールがあったのですが、そういった小さな素材遊びの積み重ねから、ものづくりが好きになる人が現れる印象があります。
ー今回の作品はどのような着想(またはコンセプト)から生まれた作品なのでしょうか?
瀬戸は生まれ育った場所ですが、試しに瀬戸の風景を描いてみたらなんだか他人事のように思えてきました。自分の故郷と思えるような、なにか郷愁のようなものをそこに抱くことができませんでした。
かつて自分がありのままに受け入れていた瀬戸の風景を、現在の自分が見つめ直したらどんな絵になるのか興味がありました。
田口薫《光の跡、遡行する影》(部分)2024年
ー制作上、苦労した点は?
現在関東に住んでいるため、瀬戸に何度も滞在することが難しく、取材をする時間が限られていたことです。そのため欲しい情報は親族に頼んで送ってもらいました。瀬戸川や橋の写真を撮影してもらったり、瀬戸の歴史に関する書籍にも助けてもらいました。
ー「底に触れる」について、ずばり見どころは?
瀬戸市で現代美術の展覧会が大々的に開かれるのは珍しいことだと思います。この場所の新たな面が掘り出されていくかもしれません。その発見を学びとして持ち帰ってもらえたらいいなと思っています。
最後に訪れた会場は、その昔、陶器店として営業していたが現在は閉業した、旧小川陶器店。通りがかった際におそらく誰もの目を引くであろう光岡幸一の作品は、アプローチやプロセスも含め最も印象的だった。
展示会場G:旧小川陶器店
光岡幸一
光岡幸一《あとはどうぞご自由に。》(部分)2024年
タイトルの通り、これらの作品は自由に持ち帰ることができる。
ー瀬戸という街についてどのような感想を持ちましたか?印象的なエピソードもあれば教えてください。
駅近くにある「みそかつレスト サカエ」の駐車場にひしめく店主の作品群がすごすぎました。全員に見てほしいです。
ー今回の作品はどのような着想(またはコンセプト)から生まれた作品なのでしょうか?
予期せぬラッキーとアンラッキーが重なって絡まって弾けた後に、ゴロっとこぼれ落ちる様にできた作品です。
光岡幸一《あとはどうぞご自由に。》(部分)2024年
作品を包んで持って帰る際に使用する包み紙には今作の制作過程などが書かれている。捨てられてしまう存在の包み紙に、重要なテキストを残す行為もおもしろい。
ー制作上、苦労した点は?
結局苦労はしていなかったのかもしれません。
ー「底に触れる」について、ずばり見どころは?
(展覧会前の質問のため)まだ誰の作品も見ていないので瀬戸の見どころについて喋ります。
ずばり街の気配です。創られすぎた観光地には出すことのできない何かが充満する街で、それがとても魅力です。
自由にほったらかしにされた窯垣がそれをよく現しているような気がします。良い出会いでした。
「創られすぎた観光地には出すことのできない何かが充満する街で、それがとても魅力」という光岡さんの言葉にもある通り、瀬戸のまちなかには気になるポイントがそこら中に点在しており、街歩きしているだけでも楽しめそうだ。
今特集の最後に、瀬戸に訪れた際にはぜひ立ち寄ってみてほしい展示会場周辺オススメスポット3選!+αをご紹介。
#1
Art Space & Cafe Barrack
「底に触れる 現代美術 in 瀬戸」関連プログラムとして、10月19日(土)瀬戸市立図書館にて開催される音楽×マーケットイベント「坂道まぼろし夜市」の企画担当も務め、自身らも作家活動を続けている古畑大気さんと近藤佳那子さんによるギャラリー&カフェ。
「自分たちにとっての美術というものがカフェギャラリーという拠点
料理メニュー一例(写真提供:Barrack)※会期中のメニューとは異なります。
近藤佳那子さん
「カフェスペースではお食事をしたりコーヒーを飲んだりして過ごし
店舗営業だけに留まらず、3年に1度のペースで「瀬戸現代美術展」と題した瀬戸ゆかりの作家らと
「瀬戸現代美術展2022」バンド・シラオカによるLIVEの様子。会場は1967年に起工された大型団地「菱野団地」(写真:カワイコージ)
Art Space & Cafe Barrack
愛知県瀬戸市末広町1丁目31−6 タネリスタジオビルヂング 1F
営業時間:木・金11:00-18:00/土・日11:00-19:00
月火水曜日定休 (臨時休業あり) ※ただし11月4日(月・祝)は営業
https://www.instagram.com/cafe
Barrackのおすすめスポット:
anopan https://www.instagram.com/
庭禾 https://www.instagram.com/
いたまど https://www.instagram.com/
喫茶NISSIN https://www.instagram.com/
AND MORE!!
#2
古民家宿 ますきち
明治時代の陶工・川本桝吉の築140年の邸宅を改装した宿泊施設。オーナー・南慎太郎さんが、「観光地ではない、伝統工芸のある地域で、
オーナー・南慎太郎さんと、店主・加藤みなみさん
約30年放置され朽ちた状態であったため、オープン後も少しずつDIYな作業も施しながら改修し、1、2F合わせて8部屋(個室6部屋、ドミトリー2部屋)に増床。立ち上げ時の思いを貫き、瀬戸のまちなかガイドマップや「まちをあるく、瀬戸でつながる」
ゆったりとくつろげるレストスペースには瀬戸のまちなかの作家たちの作品も常設展示している。
慎太郎さんのパートナーでありライター業も営む南未来さんがガイドブックを担当。
ルームNo.のプレートは瀬戸在住の陶作家によるものを起用していたり、共用リビングスペースの床板は使われなくなった「モロ板」(=陶器製品を乾燥させたり運搬したり保管の際に使われる木材の板)を再利用していたり、と瀬戸への愛情とこだわりが細かな所にまで詰まっている。
今回の展示会場のひとつ「松千代館」と同じ、末広町商店街で「ヒトツチ」という名の土産屋店も展開。「手作りの陶製人形」(瀬戸陶芸社)は人気商品。
現在、無印良品 名古屋名鉄百貨店にて、「土の声を聴く from 瀬戸」と題した企画展も開催中(〜10月20日まで)。こちらは、瀬戸の地が「良質な土」が豊富に採れる地質を持つため、他地域の陶芸品の材料としても広く貢献してきた、というあまり知られていないトピックにフィーチャーした内容に。さらに、11月、12月には実際に鉱山や窯元を巡るツアー「土をめぐる旅」という新たな試みもスタートするという。「ますきち」による新たな仕掛けも気になるところだ。
古民家宿 ますきち
愛知県瀬戸市仲切町22
営業時間:チェックイン16:00~21:00/カフェ17:00〜21:00
火・水曜定休
https://seto-masukichi.com/
「ますきち」のおすすめスポット:
サマチャン https://www.instagram.com/summertimechamploo
KUMA BURGER https://www.instagram.com/kumaburger_jpn/?hl=ja
りえの焼そばチントンシャン~ぱんだ家~ https://rieusa.jp/
AND MORE!!
ひとしずく
10月13日(土)14日(日)に、「瀬戸まちなか本の市」内のプログラムとして「せとまちブックマルシェ ~ZINE special!~」を先ほど紹介した)ますきちと共同開催する、書店「ひとしずく」。
店主・田中綾さん
「自身の在り方について悩んでいた時に、読まずにそのままにしていた本を読み、改めて本の魅力に気付かされた」ことから一念発起し、主婦から出版取次営業の会社へ入社。そこで得たノウハウを糧に、瀬戸市内の古民家との運命的な出会いを果たし、書店をオープンさせた、という店主・田中綾さん。自分を奮い立たせてくれた「本」という存在が、さまざまな人に「潤い」を与えてくれる存在なのでは?という思いのもと、店名は「ひとしずく」と名付けた。
店内には、児童書や絵本、雑誌、小説……と店内には所狭しと本が並ぶ。(ちなみに、健康とビジネスに関する本はサイクルが早いため入れてないのだとか)
老朽化していたトイレを復活させるため、トイレにまつわる書籍を発行したり、2Fには「ふたしずく」という名のイベントスペース「ひとはこ本屋さん」コーナーを作ったり、とアイデア豊富な田中さん。さらに一箱単位で本棚を貸し出し、そこにお客さんごとの中古本コーナーも生まれた。「このコーナーを通じて元々は知り合いではなかったお客さん同士で交流も生まれたりして。書店を始めてみて大変なことも多いけど、お客さんを通じていろんなことを教えてもらえる楽しみは大きなやりがい」と語る田中さん。お薦めしてもらって入荷した書籍から新しい知識を得たり、ヨガや映画上映会などさまざまなジャンルの持ち込み企画を2Fで開催したり……。単なる書店に留まらない、本を媒介としたこの街の新たなプラットフォームと言えるだろう。
「ひとはこ本屋さん」コーナー
2Fのイベントスペース「ふたしずく」
現在、こちらのトイレをギャラリー化するという新アイデアも実行中!こちらもお客さんからのアドバイスを得て生まれたものなのだそう。
ひとしずく
愛知県瀬戸市陶生町24
営業時間:10:00〜16:30
月火水定休
https://www.instagram.com/hitoshizuku_books/
「ひとしずく」のおすすめスポット:
meguru diverse dining
ボクノトリノス
エラマーセト
宮前歩道橋
窯垣の小径
AND MORE
今回紹介した3スポット+αの他にも、きっとお気に入りの瀬戸が見つかるはず。この機会に、現代美術に触れ、街や人に触れ、あなた自身の奥底にある何かを見つめてみてはいかがだろう。
光岡幸一《あとはどうぞご自由に。》(部分)2024年
2024年10月12日(土)~11月4日(月・振替休日)
国際芸術祭「あいち」地域展開事業
「底に触れる 現代美術 in 瀬戸」
会場:名鉄瀬戸線 尾張瀬戸駅周辺のまちなか(50音順)
旧小川陶器店、古民家レンタルスペース梅村商店、瀬戸市新世紀工芸館、瀬戸信用金庫アートギャラリー、ポップアップショップ、松千代館、無風庵
時間:10:00-17:00(※瀬戸信用金庫アートギャラリーのみ10:00-16:00)
出展作家:
井村一登、植村宏木、木曽浩太、後藤あこ、田口薫、津野青嵐、波多腰彩花、藤田クレア、ユダ・クスマ・プテラ、光岡幸一
休館日:火曜日
(※瀬戸信用金庫アートギャラリーのみ 休館日:火曜日及び10月16日(水)、21日(月)、28日(月))
観覧料:無料(一部関連プログラムのみ有料)
主催:国際芸術祭「あいち」地域展開事業実行委員会、瀬戸市
瀬戸 まちなか本の市
日時:10月13日(日)、14日(月・祝)
※本のフリーマーケットは14日(月・祝)のみ開催。
場所:古民家レンタルスペース梅村商店、せと末広町商店街 ほか
企画:本のさんぽみち実行委員会
坂道まぼろし夜市
日時:10月19日(土)16:00–20:00
場所:瀬戸市立図書館
企画:Barrack
サウンドパフォーマンス
「100 Keyboards -Moire Resonance by Interference Frequency-」
入場料:有料、要事前申込み
日時:11月3日(日・祝) 17:30開演(公演時間:約90分)
場所:瀬戸市文化センター文化交流館31会議室
アーティスト:ASUNA
その他のイベント、詳細:https://aichitriennale.jp/aichi-art/