Feature:『LIVING & CULTURE MAGAZINE BY INAX MUSEUMS』#4
やきものの産地として知られる愛知県常滑市を拠点とする施設「INAXライブミュージアム」が、年刊で発行する冊子『LIVING & CULTURE MAGAZINE BY INAX MUSEUMS』。その最新号「Vol.4」が現在配布中。
同誌は、武部敬俊(LIVERARY)が編集を担当。side:LIVING(生活)とside:CULTURE(文化)の両開き仕様となっており、最新号では、「火」をメインテーマに掲げ、「火と職人と生活」「火と祭りと信仰」の2テーマにもとづいて様々な人々に取材を敢行した。
<SIDE L> 特集:火と職人と生活
田中太郎
新海竜也(Ekstedt)
長命佳孝
大森亮太郎(大森和蝋燭屋)
筒井良太(筒井時正玩具花火製造所)
<SIDE C> 特集:火と祭りと信仰
大石始
今回、この中から、多治見在住の野焼き作家でありカレー店も営む田中太郎のインタビュー記事をLIVERARYにて再編集し掲載する。
SPECIAL INTERVIEW:
田中太郎
Interview, Text & Edit : Takatoshi Takebe(LIVERARY)
Photo : Misaki Kato
取材時はカレー屋さんのスタイル。自身のお店「タナカリー」にて
「自分の肩書きは作家ではない」と語る田中さんは、「陶芸家」と「カレー屋」という二足の草鞋を履きながら生活をしているユニークな人物。京都精華大学で陶芸を学び、卒業後、多治見に移住した。その理由も「陶芸作家の多くいる場所に行けば作業環境も整いやすいはず」というもので、きっかけは多治見の友人に家を紹介してもらったことだった。
最初の頃は窯を借りたりしながら作品をつくっていたが、「窯を手に入れてまで、何かをつくりたかったわけではなく、陶芸を続けたいだけ」という考えに至った田中さんは、「野焼き」と呼ばれる方法で作品をつくり始める。「野焼き」はまず薪を割るところから始まる。円形の焼き場に、まるで魔法陣を描くように薪を並べた後、中央に作品を置き、火に焚べる。火の具合を見ながら、徐々に火のついた薪を中央に寄せ、温度調整をしながら器を焼き上げる、という原始的な手法と言えるだろう。
「もともと土器が好きだった」という田中さんが今の作風に至ったのは、プエブロ族(北アメリカ南西部・メキシコ北部に居住する先住民)の土器について書かれた本との出会いが大きい。「自分たちが生活するために、自分たちに必要な分の器をつくる。土から器をつくっているのではなく、もともと土がその形になろうとしていただけ」という彼らの考え方に大きく共感したそうだ。カレーを食べるための皿、収穫した野菜を入れるためのボウル、お酒を飲むための猪口……全て自分が使いたい器を形にしていく、いわば作品づくりでもなく生きる術なのだ。
取材時、田中さんの作業場〜野焼きの一連の流れを見せてもらった
土によって温度に対する焼き上がりが違ってくるため、まずは土を選びブレンドするところから作品づくりは始まる。実際、田中さんの作業場にはさまざまな種類の土が入った袋が大量に置かれている。
野焼きに必要不可欠な薪は、解体した家の廃材などから使えそうなものを分けてもらい、ストックしているのだそう。
「土によっては一気に加熱すると水蒸気が逃げようとして、爆発してしまうこともある」と作業中の田中さん。これまでトライ&エラーを繰り返してきた
藁を一気に被せ、燃え上がる様子は、野焼きのクライマックス!藁がフタの代わりになり、中で熱が循環する。
籾殻が入ったコンテナに焼き上がったばかりの器を突っ込む。急激に温度が下がった部分が炭化し、変色していく。
部分的に温度の違いが生まれ、色味もさまざまな独特の表情を見せる作品たちは、どれも一点もの。
「カッコつけて無理してつくっているようではダメ。それだったら遊びながらつくっていけばいい」と語る田中さん。事実、生活費はカレーで稼ぎ、休みの日に作品をつくり、展示に出品し、作品が売れたら+αの収入を得る。田畑を耕し、得た農作物でカレーをつくり、集めた粘土と薪を使って土器をつくり、カレーを盛る。彼のライフスタイルに直結しそのまま反映された作品には、究極にピュアで、シンプルな潔さが表れている。
写真は、スリランカチキンをイメージしてつくったチキンカレー。副菜には、しめじのアチャール、レモンピックル、人参のサンボルと栄養も豊富。ちなみに、このカレー皿も自身の作品。畑の地面を掘って出てきた粘土を使ったのだそう
写真・記事は全て、『LIVING & CULTURE MAGAZINE BY INAX MUSEUMS』#4より抜粋したもの。これを機に気になった方は是非冊子も手に取って、そのほかの記事も読んでみてほしい。アンケートに答えるとプレゼントがもらえるキャンペーンも実施中(*応募締切:7月10日)
田中太郎
1990年東京都生まれ。京都精華大学大学院芸術研究科前期博士課程修了。卒業後、多治見に移り、土器をつくり始める。田畑で作物を育てながら、カレー屋として出店活動も行うように。2023年、多治見市内の複合施設「かまや」内にカレー店「タナカリー」を開店。作家活動と並行して、カレー店を営む。
『LIVING & CULTURE MAGAZINE BY INAX MUSEUMS #4』
2025年3月発行
SIDE:LIVING「火と職人と生活」
生業の中で火と向き合う職人たち、生活の中で触れられる火の魅力を伝える伝統技術の後継者たちを取材した特集。
SIDE:CULTURE「火と祭りと信仰」
全国の火祭りの例から、恐怖や信仰の対象である火についてのインタビュー記事。
別冊「INAX MUSEUMS A to Z Book」
当館の概要ほか館内マップ等の基本情報をまとめたハンディな冊子です。
<SIDE L> 特集:火と職人と生活
田中太郎
新海竜也(Ekstedt)
長命佳孝
大森亮太郎(大森和蝋燭屋)
筒井良太(筒井時正玩具花火製造所)
REPORT INAX MUSEUMS 2024
<SIDE C> 特集:火と祭りと信仰
SPECIAL INTERVIEW:大石始
気になる、東海の火祭り4選
NEWS&TOPICS
STAFF COLUMN
企画・編集・ディレクション:武部敬俊(LIVERARY)
デザイン:伊藤 潤
発行元:INAXライブミュージアム