2024.11.28.Thu - 12.15.Sun|名古屋城(愛知|中区)
11月28 日(木)~12月15日(日)の期間、「秋の特別公開」として 6 組のアーティストたちによる現代アート展「アートサイト名古屋城 2024 あるくみるきくをあじわう」が開催。
展示参加作家は、狩野哲郎、久保寛子、高力猿猴庵、菅原果歩、千種創一 + ON READING、蓑虫山人の計6組。場内さまざまな場所に作品が点在し、鑑賞者はそれらを巡りながら名古屋城の魅力を深く体感できる内容となっている。
今回、LIVERARYでは初日のプレスツアーに参加。本展のメインコンテンツとなる、現代アート展に参加する6組の作家&作品をここに紹介する。
FEATURE:
アートサイト名古屋城 2024
あるくみるきくをあじわう
Text & Edit:Takatoshi Takebe[LIVERARY]
Photo:ToLoLo studio
会場に入り、まず最初に見えてくるのは、普段は菊の花の展示を行う花壇を活用する形で張り出された巨大なパネル。ここでは、二組の作家が残した作品と彼らの紹介が展示されている。
旅とその出会いの情景を描いた放浪の旅人として尾張の地で生涯を閉じた蓑虫山人 (1836-1900) と、尾張藩士として尾張名古屋に根を下ろし名古屋城下の風俗や祭りなどを多数描いた高力猿猴庵 (1756-1831)。対照的な生き方をした二人のことを知るところから、本展が始まる。
本当にこんな人物が存在したのか?と驚かされるような、現代でも通用するようなユーモアと痛快さを持ち合わせた作品とその解説に目を見張る。
蓑虫山人・高力猿猴庵《旅と暮らしの民俗誌》
「アートサイト名古屋城2024」展示風景
撮影:ToLoLo studio
続いて、本丸御殿へと向かう。ここには、ダイナミックな造形と、繊細なディティールの両極を持ち合わせた新しい彫刻作品を作り出す久保寛子の大小2作品が鎮座し、静かに来場者を待ち構える。
久保寛子《水の獣》
「アートサイト名古屋城2024」展示風景
撮影:ToLoLo studio
久保寛子《ANCIENT CAT》
「アートサイト名古屋城2024」展示風景
撮影:ToLoLo studio
「歴史的な文化財という巨大で圧倒的な芸術に対して、個人が立ち向かうこともテーマであり、現代アートとは個人の歴史を表現するものである」と久保。その言葉は地元・広島を襲った水害の際に多用され、印象的に映った「ブルーシート」という材を使用し、古から神的な存在とされるドラゴン(=シャチホコのルーツとされる)を象った彫刻作品を、この名古屋城本丸御殿という場に展開する意味をより大きなものとして裏付ける。
続いては、御殿へ。内部にはその昔、客人たちを迎え入れるために作られた、いわゆる応接間が複数設けられており、奥に進むにつれて豪華絢爛な仕様になっていく。しばらく順路を進むと、復元された客間に狩野哲郎の作品が立ち現れる。
狩野哲郎《系(供物、囮、わな)》
「アートサイト名古屋城2024」展示風景
既製品や木材に加え、樹木や植物の種子、果物などを迎え入れたインスタレーション的な作風を得意とする狩野。
御殿の4つの部屋に構成された作品たちは、異物感はもちろんありつつも、それぞれの部屋の障壁や襖の色合いと不思議と共存しているように見えたのは、「表書院の作品は屏風の虎ならぬ、障壁画の動物をおびき出す「わな」がテーマとなっている」からかもしれない。
狩野の作品は御殿の外にも3箇所点在して展示されている。園内になぜか自生したバナナや、一本の銀杏の木に見えるけれど近づいてみると複数種の樹木が絡み合った状態の木々、忘れ去られたかのように佇む円形の水飲み場など、おそらく名古屋城の観光マップには載っていないアーティストならではの着眼点で見出された場所ばかり。御殿に仕掛けられた「わな」とはまた違い、城内に集まる野鳥たちの生態系に寄り添い、溶け込んでいるように見えた。
狩野哲郎《あいまいな地図、明確なテリトリー》
「アートサイト名古屋城2024」展示風景
撮影:ToLoLo studio
狩野哲郎《すべての部分が固有の形になる》
「アートサイト名古屋城2024」展示風景
撮影:ToLoLo studio
続いては、名古屋城内の北西に位置する「乃木倉庫」へ。ここには、カラスを観察し、写真やドローイング、ことばによってその行動を観察し、分厚いフィールドノートや写真作品を制作してきた、菅原果歩の作品が展示されている。
菅原果歩《青い鳥が棲む場所 》
「アートサイト名古屋城2024」展示風景
撮影:ToLoLo studio
「約 1 ヶ月間、名古屋城内にテントを張り野営しながら、名古屋城に生息するカラスをリサーチし作品制作をしてきた」という菅原。メインとなるのは、高さ2.5メートル、横5.5メートルほどの巨大なサイアノタイプ(青写真)作品。観光客たちが去った後の名古屋城に次々と集まってくるカラスたちを黒い不気味な存在ではなく、幸運を運ぶ青い鳥として焼き付けた。
また、カラスの生態系をリサーチし、丁寧に記録したお手製のノートや地図も展示されているので、こちらもじっくり読んでみてほしい。
菅原果歩《青い鳥が棲む場所 》
「アートサイト名古屋城2024」展示風景
撮影:ToLoLo studio
最後に、二之丸庭園へ。コチラでは、千種創一 + ON READING、前述した狩野哲郎の作品が園内に複数点在している。
千種創一+ON READING《the Garden)
「アートサイト名古屋城2024」展示風景
撮影:ToLoLo studio
ON READINGは名古屋拠点の書店&ギャラリー。今回の話をもらった際、「来訪地で和歌を詠むことは、かつての旅人たちにとって旅の記憶や情景を伝える馴染みある行為」であったことを起点に、「平易な言葉を使いつつも、感情の機微に新しい陰影を与える歌」を得意とする名古屋出身の歌人・千種創一を迎え、作品の共同制作に臨んだ。
千種の短歌作品は、過去の制作物から今回のために書き下ろしたものまで全13首。それらは鏡に白い文字で印刷されており、見る角度によっては、読んでいる自分が鏡に映り込む。「わたし」や「あなた」という主語がまるで自分ごとのように感じさせるおもしろい仕掛けだ。
「作品の展示場所はマップ等に記していない。宝探しのような感覚で園内を探して作品と出会ってほしい」という千種の思いのもと作品は、わかりやすく立っているものもあれば、池の水面であったり、岩の窪み、木々に吊るされていたりとさまざまな形、場所に展示されているため、あなたは気づけば園内を隈なく散策させられてしまうだろう。
千種創一+ON READING《the Garden》
「アートサイト名古屋城2024」展示風景
撮影:ToLoLo studio
そもそも今回の展示テーマは「観光」。会場内に点在するこれらの作品を眺めながら散策することで、アーティストたちの視点を味わい体験することで、名古屋城の魅力を再発見するおもしろい「観光」となるのではないだろうか。
さらに、特別イベント『ナイトミュージアム名古屋城』も3日間限定開催!
川村亘平斎
12月6日(金)、7日(土)、8日(日)の三日間は、特別イベント『ナイトミュージアム名古屋城』も開催され、昼夜を通して史跡とアートの融合を楽しむことができる。
この「ナイトミュージアム名古屋城」には マーケットエリアも出現し、飲食・物販さまざまな店が立ち並ぶ予定だ。さらに、同マーケットに出店する、オルタナティブなスタンスで注目を集めるハンドメイドブランド「途中でやめる」のデザイナー・山下陽光を迎えたトークイベント「山下陽光のおもしろ金儲け大学」や、滞空時間としても活動する影絵師/音楽家の川村亘平斎による影絵と音楽のワークショップワークショップ&パフォーマンス、アーティスト・野村誠による100枚の瓦を使った演奏パフォーマンス「尾張名古屋のカワラモノ音楽」&ワークショップ「誰でもカワラバンド」、前年から引き続き同企画に携わっている映像作家/美術家の山城大督による名古屋城にある樹齢600年のカヤの木の実から精製した香りを表現したプロジェク ト「SOUND OF AIR」の実演・販売や、樹木医・寺本正保とのトークなど関連イベントも多数開催される。
現代アート探訪とともにワークショップやトーク、マーケットも楽しんでみてはいかがだろう。
2024年11月28日(木)~12月15日(日)
アートサイト名古屋城2024
あるくみるきくをあじわう
会場:名古屋城内の各所
時間:9:00~16:30(閉門17:00)作品観覧時間:10:00~16:30
観覧料:大人500円中学生以下無料・名古屋市内高齢者(敬老手帳持参の方)100円・障害者手帳をご提示の方無料(付き添い2名まで)
※名古屋城内への観覧料で「史跡・文化財の特別公開」「アートサイト名古屋城」「ナイトミュージアム名古屋城」を併せてご覧いただけます
作品展示作家:
狩野哲郎
久保寛子
高力猿猴庵
菅原果歩
千種創一+ONREADING
蓑虫山人
2024年12月6日(金)・7日(土)・8日(日)
ナイトミュージアム名古屋城
時間:9:00~19:30(閉門20:00)
作品観覧時間:10:00~19:30
参加作家:
川村亘平斎
野村誠
山城大督
出店:
いたまど
Art Space & Cafe Barrack
コーヒームテ
おでんのまがたま
途中でやめる
SOUND OF AIR
Twelve KIOSK
2024年12月8日(日)
パフォーマンス1「尾張名古屋のカワラモノ音楽」
野村誠ワークショップ「誰でもカワラバンド」
会場:西之丸エリア
時間:10:00~12:00<出演:15:00~15:30>
時間割:10:00-12:00ワークショップ、12:00-15:00お昼休み(場内の展示や川村亘平斎のワークショップも楽しめます)15:00-15:30パフォーマンス、15:30-16:00記念撮影・解散
出演:野村誠、ワークショップ参加者
特別出演:青木将幸(NPO法人淡路島アートセンター)
協力:NPO法人淡路島アートセンター
定員:20名※要事前申し込み、先着順
対象:小学生以上
参加費:無料
条件:10時00分からのワークショップと、15時からのパフォーマンスに参加可能なこと
地面に直接座って演奏します
申し込みフォーム:https://forms.gle/xRAFS3qaARu4Deaa9
2024年12月8日(日)
パフォーマンス2「川村亘平斎の影絵と音楽」
川村亘平斎の影絵と音楽ワークショップ「影絵ワークショップ」
会場:西之丸エリア特設ステージ
時間:13:30~15:00<出演:17:00~18:00>
時間割:13:30-15:00ワークショップ
17:00-18:00パフォーマンス
定員:15名※要事前申し込み、先着順
対象:どなたでも(小学校低学年までの児童は保護者同伴)
参加費:無料
条件:13時30分からのワークショップと17時からのパフォーマンスに参加可能なこと
申し込みフォーム:https://forms.gle/bKr4wmdY7aVCRjiC6
2024年12月6日(金)〜8日(日)
パフォーマンス3「SOUNDOFAIR精油蒸留の実演」
会場:西之丸エリアリトルマーケット
時間:18:00頃~19:00頃
出演:山城大督
2024年12月7日(土)
トークプログラム1「蓑虫山人と猿猴庵のあるくみるきくをたどるたび」
会場:西之丸エリア特設ステージ
時間:13:30~15:00
出演:望月昭秀(『縄文ZINE』編集長・デザイナー)、田附勝(写真家)、武藤真(名古屋市博物館学芸員)
進行:服部浩之(本プロジェクトキュレーター)
2024年12月7日(土)
トークプログラム2「樹木医から診る名古屋城のカヤの木2024」
会場:西之丸エリア特設ステージ
時間:16:00~17:30
出演:山城大督、寺本正保(岩間造園株式会社取締役営業部長、樹木医)
2024年12月8日(日)
トークプログラム3「山下陽光のおもしろ金儲け大学」
会場:西之丸エリア特設ステージ
時間:12:00~13:00
出演:山下陽光(途中でやめる)、山城大督
※西の丸御蔵城宝館への入館は16:00まで
※乃木倉庫、本丸御殿への入館は19:00まで
※天守閣には現在入場できません
企画・制作 Twelve Inc.
主催 名古屋市
問い合わせ:名古屋城総合事務所 TEL 052-231-1700
ウェブサイト:https://nagoyajo.art/
狩野哲郎(かのう・てつろう)
1980年宮城県生まれ、神奈川県在住。2011年狩猟免許(わな・網猟)取得。生物から見た世界/狩猟/漁業/測量などを軸として国内外でリサー チ / 滞在制作を行う。近年のインスタレーションでは、時に鳥という「他者の視点」をとりこみ、私たちが意識することのない新たな知覚 や複数的な世界への想像を促すような作品を、既製品や植物を組み合わせ制作している。近年の主な展覧会に「弘前エクスチェンジ#06『白 神覗見考』」弘前れんが倉庫美術館(2024、青森)、「Reborn-Art Festival 2021-22 ̶ 利他と流動性 ̶」(2021、宮城)、個展「すべての部 分が固有の形になる」府中市美術館(2017、東京)、個展「あいまいな地図、明確なテリトリー / Abstract maps, Concrete territories」モ エレ沼公園(2013、北海道 )がある。http://www.tkano.com/
久保寛子(くぼ・ひろこ)
1987 年広島県生まれ、千葉県在住。広島市立大学芸術学部彫刻専攻を卒業後、テキサスクリスチャン大学美術修士課程修了。先史芸術や 民族芸術、文化人類学の学説に取材しながら、生活に身近な素材を用いてスケール感の大きなインスタレーションを展開している。近年の 主な展覧会に個展「鉄骨のゴッデス」 POLA MUSEUM ANNEX(2024、東京)、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2024」 (2024、新潟)、個展「ISAAC」LOKO Gallery(2022、東京)、「さいたま国際芸術祭」(2020)など。受賞歴として、広島文化新人賞 (2022)、 六甲ミーツ・アート公募大賞 (2017)等がある。KAMU KANAZAWA(石川)、おおさか創造千島財団(大阪)などに作品が収蔵されている。 https://hirokokubo.net/
菅原果歩(すがわら・かほ)
2000 年秋田県生まれ。秋田公立美術大学アーツ & ルーツ専攻卒業。東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻在籍。野鳥を対象に撮影、制作、フィー ルドワークを行い、主にオルタナティブプロセスを用いて写真をプリントしている。デジタル写真をあえて古典技法を用いて焼き付ける ことで視覚を物質化し、原初的なイメージを得ようと試みる。近年の主な展覧会に個展「凍るのは端から,溶けるのも端から Frozen from the edge, thawing from the fringe」 ツバメスタジオ 3 階(2024、東京)、菅原果歩・後藤那月 展覧会「星影のたもと,うた は渡るる」 アラヤニノ(2023、秋田)、個展「分け入る森」秋田公立美術大学ギャラリー BIYONG POINT(2022)がある。
千種創一(ちぐさ・そういち)
1988 年愛知県生まれ。2005 年頃より作歌を開始し、歌人、詩人として活動。平易な言葉を使いつつも、感情の機微に新しい陰影を与え る歌を得意とする。積極的な会話体の導入による短歌の可能性の拡大を追求している。著書に、歌集『砂丘律』(2015、青磁社 / 2022、 ちくま文庫)、歌集『千夜曳獏』(2020、青磁社)、詩集『イギ』(2022、青磁社)等がある。受賞歴に、第 3 回塔新人賞(2013)、第 26 回歌壇賞次席(2015)、第 22 回日本歌人クラブ新人賞(2016)、日本一行詩大賞新人賞(2016)、現代詩ユリイカの新人(2021)などがある。 https://linktr.ee/chigusasoichi
ON READING(オンリーディング)
黒田義隆・杏子が運営する bookshop & gallery『ON READING』。2006 年に前身となる書店を、名古屋市伏見にオープン、2011 年に 名古屋市・東山公園に移転しギャラリーを併設する書店としてリニューアル。何かを感じたり、疑問に思ったり、考えるきっかけとなる ような、多様な価値観を教えてくれる本を、新刊、古本 問わずセレクトしている。ギャラリーでは、さまざまな作家の展覧会を開催。 2009 年に、出版レーベル「ELVIS PRESS」を立ち上げ、これまでにおよそ 30 タイトルをリリースしている。主な出版物に、『生活フォー エ バ ー』寺 井 奈 緒 美(2023)、『OMAMOR』湯 浅 景 子(2023)、『歌 集 こ こ で の こ と』(2021)、『See You Tomorrow』 NOBUE MIYAZAKI(STOMACHACHE.)(2018)などがある。https://onreading.jp https://elvispress.jp
高力猿猴庵(こうりき・えんこうあん)
1756 年生まれ、1831 年没の尾張藩士。江戸時代後期の 名古屋の祭り、見世物、開帳など、娯楽や話題になった事件の記録をビジュアル 入りで記した本を残した。城下の賑わいが生き生きと描写されている。これらは 2001 年~現在まで「名古屋市博物館資料叢書3 猿猴庵 の本」シリーズとして 30 巻が刊行されている。近年刊行された書籍に『猿猴庵日記 天明五年』(2024、名古屋市博物館)、『猿猴庵日記 天明四年』(2023、名古屋市博物館)がある。
蓑虫山人(みのむし・さんじん)
1836 年美濃国(岐阜県)生まれ、1900 年愛知県没の絵師、考古、造園家。生活用具一式を笈(修験者が経文や仏具を入れて背負った木箱) に入れ、全国各地を旅しながら寄留先の様子などを詳細に記録した放浪の画人として知られる。没後、その画業や生涯を紹介した主な展 覧会に「蓑虫山人 秋田を歩いた漂泊画人」(2020、秋田県立博物館)、「蓑虫山人展」(2004、2012、2013、2020、 ハートピア安八歴史民 俗資料館)、書籍に『蓑虫放浪』(2020、国書刊行会)、『蓑虫山人絵日記(上・下)』(1988/1993、三和文庫)、『蓑虫山人絵日記 東海編』 (1980、蓑虫山人絵日記保存会) などがある。