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FEATURE / 特集記事 Jul 11. 2014 UP
【SPECIAL INTERVIEW】平野勇治(名古屋シネマテーク)
文化を届ける仕事論。“体験としての映画”を、名古屋で、これからも。

まちのメディアピープル #01:平野勇治(名古屋シネマテーク)

連載コラム「まちのメディアピープル」

このコラムでは、LIVERARY編集部が気になった、私たちが住むまちの文化形成において重要なポイントとなっているであろう【ヒト】にフォーカスし、ご紹介していきます。

ということで、第1回目は……この方です。

Special Interview :
YUJI HIRANO (名古屋シネマテーク)

 
01

名古屋市・今池にあるミニシアター「名古屋シネマテーク」。1982年に設立された、名古屋を代表するミニシアターの1つだ。東京でも大阪でもなく、名古屋というまちで映画館を運営することの意味とは?これからの映画を作る人、映画を見る人をどう育んでいくのか?映画と僕たち観客のあいだにいつもいながら、普段は会話を交わすことのない“メディア人”の生の声を聞いた。

Interview & Text by Tomohiko Kono[LIVERARY]
 

02

 
名古屋シネマテークという“場”
 
―名古屋シネマテークはどういった映画館だとお考えですか?

1982年に名古屋シネマテークをつくった際のポリシーとして、当時いた小川伸介や土本典昭といったような作家性の強い作り手のドキュメンタリー映画を上映していきたいというのが1つありました。
そしてそのために、映画館をつくるというよりは、“場”があったほうがいいという発想だった。会場を借りていると様々な制約があるけど、自前の場所さえあれば、なにかできる。自分のところだったら、多少融通を利かせられるじゃないですか。映画は映写機と白い壁さえあれば上映できるし、シネマテークの代表には「名古屋とばし、ダメ」という発想もあったし。

あとは「見たい映画を上映する」という考えもあって、当初はそうした欲望の全面展開でやっていた。ただそんなことをやっていると、あっという間に超大赤字の連続になって、それでは映画館として続けられないので、「見てもらいたい映画」へとだんだんシフトしていったというのはあるんじゃないかな。

今ではだいたい、映画会社から提案された映画のなかから「シネマテークに合っているもの」を選んでいる。名古屋のミニシアターは、微妙に重なってはくるものの、それぞれにはっきりと個性が分かれています。そういう意味で、映画会社の方でもわかっている方は「これはシネマテークだろう」という風に提案してくれる。お客さんの方でも「これはシネマテークだろう、これはシネマスコーレだろう」とある程度の予測を立てられるというのはあると思う。

―具体的に、シネマテークで上映されている映画の特徴はどういったところでしょう?

シネマテークで上映する映画の基準は、おおざっぱな言い方をすれば「個性的な映画」ということだと思う。シネコンでやっている映画は、結果そうなるかどうかはともかく、100人見たら100人満足することを目指して作られていると思うんです。でもうちでやっている映画は、10人見たら5人は「いい」って言うけど、5人は「ちょっとどうかな」「なんだこりゃ」という映画であっていい、と思っているんですよ。
100人が満足する映画ばかりで映画が成り立っていたら、「作家性」というか、「俺がつくりたい、私がつくりたい」という作品が世に出にくい状況になる。ミニシアターは、個性的なおもしろさのある映画、魅力のある映画と言いましたが、すべての人を満足させようという映画じゃなくていいだろうと。むしろ、作家の個性が出ている映画の方が、そこにぐっとくる人も必ず存在するだろうと思っている。そういう非常に大きな、いい加減と言えばいい加減な、“柱”を持っています。

さらに、名古屋にミニシアターがいくつか存在するなかでも、特にうちに求められているのは“とんがった映画”だと思う。これは偶然だと思うけど、それぞれの支配人・番組選定者が無理していないと思うんだよね。俺はとんがった映画が好きだし、ある映画館は「映画は娯楽だ」っていう感じ。別の映画館はもうちょっとビジネスライクにシニア層狙いっていう。

こうした棲み分けは現在の名古屋というまちの規模、映画をご覧になるお客さんの数を前提に成立していることでもあって、人も少なくてミニシアターが1つしかない、もっと小さなまちでは、うちなんかでやっている映画の40%くらいはできないでしょう。

 

03

 
名古屋というまちで映画を上映すること
 
―シネマテークの今のありようは、名古屋のまちを前提にしているんですね。名古屋というまちで映画館を運営することの意味をどうお感じですか?

日本各地にミニシアターがあるなかで、名古屋でミニシアターを運営するということは、さっき話したような“棲み分け”ができるっていうこと以外にも意味があります。まずは興業の面から言うと、ミニシアターの映画の、名古屋での動員はだいたい東京の1割くらいと見られていて、実際にほぼその通りになる。東京が1000人なら名古屋は100人。大阪は、昔は名古屋の3倍くらいだと思っていたんだけど、低迷してきて今では、大阪:名古屋=2:1くらいになっている。

昔は名古屋、札幌、福岡なんていうのはいい線で競っていたんだけど、今や札幌・福岡というのは数字的に非常に厳しい状況になっている。そういった意味で、(ミニシアターの映画というのは実際ほとんど東京で稼ぐんだけど)自主制作の映画や、小さな会社が頑張って買ってきた映画は名古屋がしっかりやってあげないと、次がないということもあるわけなんだよね。名古屋にはそういう責任みたいなものもある。
大阪や福岡にはがんばってほしいんだけど、そういった都市での集客数が落ちてきているなかで名古屋は(よくもなっていないけど)変わらないから、がんばらないといけない。

東京と名古屋の比率が変わっていないことの背景には、経済的なこともあるだろうけど、前に言ったように、名古屋はそれぞれのミニシアターの個性が比較的はっきりしていて、なおかつすべて地下鉄東山線の沿線にあって行きやすいということがあると思う。大阪だと九条や十三にミニシアターがあって、しかもそんなにはっきりと個性が分かれているわけでもない。

それに比べて、街としていいかどうかはともかくとして、コンパクトで効率よくすべてが片付いてしまう名古屋のまちの特徴のなかで、名古屋のミニシアターも存在しているという面はある。好きな人はすぐハシゴしてくれているから、その辺りの「見やすさ」はあるんだと思う。

もう1つ別の視点から言うと、岐阜・三重、そして静岡の一部がうちの“商圏”になっている。そうした地域からものすごく短時間で名古屋に来られるようになっているなかで、地元にこういう映画をやっている映画館がなければ、うちで上映しないと岐阜・三重・静岡の一部の人が映画を見られないということになる。

この話はうちであれ、名古屋のほかのミニシアターであれ同じだと思うけど、そこで上映しなければ愛知・岐阜・三重の人たちが見れないということになる。それがシネコンとの違いだよね。ミニシアターの映画はだいたい1都市1スクリーンという感じで上映されるわけだから、ミニシアターには地域の人に鑑賞機会を提供するある種の責任がある。うちの代表が持っている、「名古屋とばし、ダメ」みたいな考えとも通じると思う。

 

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名古屋シネマテーク
名古屋市・今池にあるミニシアター。
1982年に設立。 (ただし、前身にあたる自主上映団体「ナゴヤシネアスト」が活動しはじめたのは1971年)
客数は40席。上映作品は、邦・ 洋画を問わず、ロードショー公開から監督特集などの企画ものまでバラエティーに富んでいる。詳しくは、上映作品のスケジュールを御覧下さい。
http://cineaste.jp/

 

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