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FEATURE / 特集記事 Jun 05. 2015 UP
サードウェーブとイタリアンバールの邂逅!?
個性豊かなバリスタ・トリオによる、オルタナティブ・カフェ「THE CUPS」の挑戦。

【NEW OPEN】THE CUPS(錦)

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3人のバリスタが共同代表を務める、という特異なスタイルを持ったカフェ「THE CUPS」。2015年6月6日(土)、長者町商店街から程近い、中区錦2丁目に新たなスポットとしてオープンする。

コーヒースタンドが街に増え始め、コーヒーに興味がない人でも気づいたらその類いの店を利用する機会も増えてきた昨今。大きな波に飲まれてしまいそうなコーヒー業界において、その潮流をもっと大きな視野で見渡せるかどうかは重要なポイントになりそうだ。

古びたビルを全面改装した5階建て(うち1Fはカウンター、2Fフロアは広々としたレストスペース)の規模感でオープン前からすでに周囲に存在感を放つ「THE CUPS」は、<これまでにない新しいカフェ>を目指しつくられたという。

キャラ立ち具合も抜群な3人のバリスタ(写真左から、勝野さん、尾崎さん、桜庭さん)それぞれに、まずはこれまでの経歴について話を伺った。

Text & Edit by Takatoshi Takebe [ THISIS(NOT)MAGAZINE, LIVERARY]
Photo by  Yoshihiro Ozaki[DARUMA] and  Kazuko Takasu[THE CUPS]

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この3人だからこそ生まれた「THE CUPS」という個性。

尾崎:僕はスタートはホテルマンで。そこから、フランス料理レストラン、イタリアンといった高級料理レストランで働いて、人と接するサービスマンとしての仕事の経験を積んできたんですが、その中でコーヒーに出会って。そこからコーヒーにもいろんな資格があるってことを知ったり…ひとりひとりのお客様とコミュニケーションをとる中でその人好みのコーヒーを淹れる「バリスタ」という職業に出会ったんです。で、こんな職業があったのか!と思って、カフェの道に進みました。


桜庭:
僕と勝野は以前に同じイタリアンバールで5年程いっしょに働いていました。そこでは、いわゆるクラシックなイタリアンカフェの道を突き詰めようとしていたんですが、一旦、その店を離れて大型店で2年働いたんです。そこで、コーヒーに対してもっといろんな視点で価値判断することが必要なんだ、って気づかされたというか。そんなことを考えている時に、勝野から「THE CUPS」立ち上げの話をもらったんです。

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尾崎:
味ってどうしても個人差があるのでそこを突き詰めるのではなく、料理でいうところの盛りつけ、見た目の部分で美味しさを伝えるっていう意味で「ラテアート」というジャンルを選んで突き詰めていきました。

勝野:そうそう、だから尾崎くんはラテアートの技術っていう面を追求して世界3位というすばらしい実績も掴んだ人物で、スペシャリティコーヒーの知識とかも持っている。つまり、僕が持っていないものを持っているんですね。で、僕と桜庭はさきほど話した通り、イタリアンバールのいわゆるクラシックなカフェを追求してきた。

—スペシャリティコーヒー、ラテアートに精通した尾崎さんと、イタリアンクラシックなカフェでの経験や資格を得てきた勝野さんと桜庭さんという違う流派ともいえるバリスタがお互いの能力を尊重し合う、そんな良い関係でチームを組んだ、というわけですね。

勝野:はっきりいってカフェ業界の中でもその二つって、二分化しているのが現状なんですが…。僕はもっとそこを柔軟に考えたほうが、お客さんの求めるコーヒーに近づけるんじゃないかな、と。その考え方が合致した3人で、この「THE CUPS」を立ち上げることにしました。


―でも、そういう新しいことをやろうとすると、反感を受けたりするとも思うんですが、同業の方々の反応はどうだったんですか?

勝野:立ち上げ時の話をすると、「全然違う畑のバリスタ同士なのに揉めないんですか?」って言われたりもしましたが、そこは「大人なんで!」ってかわしたりしてましたね(笑)。でも、よくよく考えれば、お客さんが飲みたいコーヒー、おいしいと思える味を出すことがゴールなわけで…。そこで流派が違うバリスタでも着地点がいっしょなら、うまくやっていけると思ったんです。個人店が陥りがちな、やる側がひとりよがりになってしまうことのないようにとも思っています。やっぱり、がっちりイタリアのバリスタに傾倒してきた人って、どうしても「サードウェーブが何だ!」「イタリアのエスプレッソが一番でしょ!」みたいになっちゃうんで、そこは敵/味方でもないと思うんで…。


尾崎:
逆に「何だ!?」って皮肉を言われるくらいでいいんですよ(笑)。そうやって気にしてくれるんだったら、ぜひ飲みに来てほしいし、来てくれたら満足して帰ってもらえるよう最善のサービスをしますよ!

サードウェーブとイタリアンクラシックの違いとは?

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—ところで、アメリカ発の「サードウェーブ」といわれているスペシャリティコーヒーの流れと、イタリア発信のクラシックなイタリアンバール文化の2つの畑の話が出てきましたが、その違いについて改めて教えてもらえますか?

桜庭:今、盛んに言われているアメリカ発の「サードウェーブ」というのは、どんな豆なのか?どこの農園でつくられたのか?を追求して豆本来の味を引き出し提供できるか?というポイントを最も重要としています。だから、シングルオリジン(1つの豆から抽出するコーヒーの製法)を基本とした考え方で。ですが、イタリアの場合は基本的に豆はブレンドして提供するものとされている。そこが大きな違いですね。


勝野:イタリアのクラシックなコーヒーは、「エスプレッソ」がどこまでいっても主役という考え方なんです。
だから、ミルクをいれてカフェラテとかマキアートとかつくるにしても、その根本になるエスプレッソが100点の味じゃないとダメだっていう考え方なんですね。一方、アメリカから来たコーヒーの流れは、どちらかというとカフェラテとかマキアートといった混ぜ物が主流でそこに「エスプレッソ」をどう足すか?っていう考え方なんですよね。


ーなるほど。でも、僕なんて特にそうなんですが、お客さん側の立場から言えば、アメリカ式か?イタリア式か?ってそこまで意識していないですよね、きっと。

勝野:コーヒーが流行ったことで、知識がある方ももちろん増えてきてはいると思うんですが、こういう味の豆はこういう産地のこういう製法のもので…っていうくらいに深く理解しているかどうかっていうと難しいと思っていますし、それ以上に自分がどんなコーヒーが好きなのか?についても、なんとなくこういうのが好き、ぐらいの感じの方も少なくないと思います。だから、「THE CUPS」で、自分のおいしいと思える味をいっしょに探してもらえたらな、と。

極上のサービス精神とともに淹れるコーヒー。

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ー「お客さんのお気に入りの味をいっしょに探してあげる」って…ヘアサロンのスタイリストみたいな感覚ですね。


勝野:
もともとイタリアの「バリスタ」っていう職業はそういうものなんですよ。おいしいコーヒーをうまく淹れる技術ももちろん重要なんですが、それよりもサービスマンとしての役割が大きい。

尾崎:普通のコーヒー店って、店ならではの味を作り出してそれを推すために、何グラム入れてどんな淹れ方をするのか?っていう細かいマニュアルでその店の味ってものを統一化するんですが、僕らはむしろそこをナシにしてしまおうと考えました。それは、その日の天候や、そのお客さんの体調によって淹れるコーヒーの味を変えてあげるくらいのことをしてあげたいという思いからです。どの店もバリスタによって味の差は出てくるものなんですが、よりそのバリスタそれぞれの個性を強く出してそこをこの店の魅力としていきたいな、と。

ー「お客さんの体調にあわせてコーヒーを出す」ってのは、すごく難しい気がします。実際にはどんな感じで接客されるんですか?ヒアリングするような形ですか?


勝野:
まず、入店してもらったら普通にメニューからオーダーしてもらいます。で、何度か来ていただく中でこちらからお声かけさせてもらって…という自然な流れですよ。「普段どんなの飲んでるの?」とか「どういうのが好きなのか?」っていうところを聞いたうえで、その会話の中で例えば、その方が「昨日は移動が多くて疲れてしまった」とかって会話があって、その人がエスプレッソを注文したとします。そしたら、そこまでしっかりした味にしない、軽めにしてあげる、といった案配です。もう本当にコミュニケーションがすべてですよ。会話だけでなく、相手の状況からいろいろ判断する。大変なことだと思われるかもしれませんが、僕らは3人いますので、そこは対応できると思いますし、さっきのようなお客さんがいらした場合の対応も三者三様それぞれ違ったりすると思います。それも含め、おもしろいと思ってくれたらと。

コーヒーで心を、サラダで身体をもてなす。

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―昨今、「サードウェーブ男子」なんて言葉が出てきたりするくらい、一部ではその波に対してファッション的に飛びついてしまうような人たちがいたり、歪曲した捉えられ方もされたりしてると思うんですが、それについてどう思ってますか?


尾崎:
まず今までだったら、そんな話題にすらならなかったことでもあると思うので、批判的な意見も出るくらい、それほど「世の中にコーヒーが注目されている」ってことで、ある種カルチャー化したと捉えていますよ。むしろ、ありがたいと思っています。

ーたしかに、カフェに「ご飯を食べにいく」んじゃなくて、「コーヒーを飲みにいく」っていう消費者側の行動の変化はカルチャー的ですよね。


尾崎:
そうですね。ブルーボトルが進出してきて…とかそういうことも一昔前ならそこまでニュースにならなかったでしょうし。注目が集まりやすいってことは名古屋でもこの業種がやっていけるっていう僕らの再認識にもつながってます。逆に言えば、これだけ流行っている状況ですでにあるようなカフェをつくってもおもしろみがないなと思いました。なので、店名もあえて<カフェ>っていう言葉は外そう、となったんです。「カフェ」に行くっていうのじゃなくって、「THE CUPS」に行くっていう風になってほしいなって。


―なるほど。ちなみに、THE CUPSのフードメニューはメインがサラダだと聞いたんですが、これも斬新な発想ですよね。ただ、このエリアは会社員の方が多いと思うんですが、お客さんのターゲット層がそこだとすると、ちょっと物足りないって思われないでしょうか?

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尾崎:
サラダと言ってもトッピングに肉類だったりお米だったりもあるので。サラダだけじゃお腹が膨れないなんてことはないのがうちの特徴です。「サラダだってお腹いっぱいになるんだよ」っていうのを提案したい。脇役のちいさなサラダではなくて、主菜としてのサラダって思ってもらいたいです。

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たしかにトッピング次第では、男性でもお腹いっぱいになるボリュームのサラダ。


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桜庭:サラダの他に、素材の味が楽しめるオリジナルジェラートや、焼き菓子、スライダー(小ぶりのハンバーガー)といったフードメニューもあります。コーヒーで心を癒して、それだけでなくて、健康のことも考えると野菜も摂った方がいいですから、サラダで身体を癒してもらいたいですね。むりやり野菜不足を解消するためにコンビニのサラダを買うんじゃなくて、ふらっと来てもらってサラダだけでも買って帰ってもらえたらいいな~と。そんな思いもあって、野菜ソムリエさんに監修に入ってもらうなどしていて、“VEGE-WORKS”(野菜がWORKS(=体に効く)という意味での)なサラダをメイン料理として提供します。

この町に必要なコーヒー店とは?

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尾崎:ここ(長者町〜伏見エリア付近)はビジネス街なので、平日と土日で町の雰囲気ががらりと変わると思うんです。だから平日はやはり近郊の会社員の方々とかOLさんだとかにデイリーで使ってもらいたいっていう思いもあるんですが、だったら休みの日はガラガラになっちゃうんじゃなくて、休みの日は、また若者たちが集うようなそんな場所になったらいいなと思います。


―立地的には繁華街(栄)からも少し距離はありますが、
歩いて来れる場所ですもんね。


勝野:
そうですね、人の流れを作りたいってのはありますね。ちょうどこのエリアって「MITTS COFFEE」さんもありますし。THE CUPSがきっかけになって、この町自体が<美味しいコーヒーが飲める町>と呼ばれるようになったらいいな……なんて思っています。


―――


店内には、セレクトブックショップ&ギャラリーのC7Cの本が置かれていたり、至る所にイラストレーターで音楽家のCHALK BOYによるドローイングがされていたり…。コーヒーやサラダといったサービスの他にも、眼で楽しめるカルチャー的要素も取り入れていることは特筆すべき点だろう。

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原宿VACANTでは、EATBEAT!名義で料理を作る音と食べる音を音楽にしていくサンプリングミュージックを行ったり、チャームポイントの帽子も、服も自分で作ったり…というイラストレーションだけに留まらないマルチクリエイター・CHALK BOY。


「世に溢れる、単なるカフェにはしたくなかった…」
そんな三人の強い思いが見えてくるような凛とした店構え。そして、コーヒーへの知識がそこまで深くない筆者でもわかるように丁寧に取材に応じてくれたあたたかな人間味。この店を通じて得るものはコーヒーの知識や、サラダの栄養素だけでなく、自分の中のお気に入りの居場所や大切な人を見つけられたときの、あの喜びなのかもしれない。「THE CUPS」という一軒のコーヒー店が、サードウェーブもイタリアンバールも、あらゆる固定観念や枠組みも飛び超えることで、ひとつの町の潮流さえも変えてしまう…そんなことが起きれば、どれほど楽しいだろうか。挑戦はまだ始まったばかりだ。

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THE CUPS
名古屋市中区錦2-14-1 X-ECOSQ 1-2F
8:00〜21:00(平日)/11:00〜19:00(土日祝)
TEL : 052-209-9090

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