今回LIVERARYでは山下敦弘監督にインタビューを決行。主演の前田敦子の魅力や監督の映画に対する想いなどを語っていただいた。
山下監督 : 山下、どうしたんだ、また元に戻ったのかって (笑)。まあ一応久しぶりのオリジナル長編ということにはなっているんですが、今回の「もらとりあむタマ子」はもともとはドラマ用の企画だったんです。最初はあっちゃんおもしろいから向井にも紹介したいな~と。秋・冬編はそんな感じで作って。春編くらいから「映画にしたいな」と思って、春・夏と映画に向けて作り始めました。(※本作は当初、音楽チャンネル「MUSIC ON!TV」のステーションIDとして制作された。) 向井と言ってたのは、俺らってほっとくとこういう映画になっちゃうよね、と(笑)。自分たちの資質を思い知らされたというか。向井とは、ずっとオリジナル撮ってないから、今までとは違うオリジナルを作りたいね、といろいろ考えてたんだけど4~5年くらいまとまらなくて。でも今回、低予算でしばりも厳しくない中で自由に作ったら、こういうのができちゃいました。でもできあがったものはとても気に入っていて、今は無理して新しいものにチャレンジしたり、自分を変えなくてもいいかなって思ってるんです(笑)。もちろん違うものを作りたいって気持ちはあるんですが、自然な形でこういうのを作れてうれしかったですね。
山下監督 : 最初の頃の山本浩司さんが主演の映画(「どんてん生活」「ばかのハコ船」等)は主人公がどこか等身大の自分たちなんですよね。そうすると、どうしても自虐的になってしまったり、嘘をつけなくて徹底的にディテールに厳しくなってしまったり。もちろん笑ってもらいたいんですけど、どこか殺伐としてしまうというか。女の子となるとやっぱり客観的になれて、自分たちから見て愛らしいと思えるような視点で描けたかなと思います。
山下監督 : あ、気づきました?(笑)あれ貼ったんですよ。今回はもう、甲府スポーツという場所を見つけた時点で美術的には7割くらいできあがった感じです。結構向井と一緒にやるときは脚本の段階である程度ディテールの部分までイメージが固まっているので、あとは現場で場所ありきでドラマを作っていきました。
山下監督 : どうなんですかね~。でもできあがったものを見ると流れている空気や雰囲気がなんとなく「懐かしい」感じがあって、どっか自分が見て来た風景なんだろうなという気はします。
山下監督 : あっちゃんはダンスとかやってたから体が柔らかくて、おもしろかったですね。 ほっとくともっとだらだらしてたんじゃないかな。本人もAKBをやめてからの撮影だったので、緊張感からすこし解放された感じはあるんじゃないかなと思います。 今回の企画自体があっちゃんありきだったので、あっちゃんがああいうことしたら面白いだろうな、と。もちろん性格は全然違うんですけど。
山下監督 : やばいですよね。そこだけはちょっと。本人も心外だと思うんで (笑)。 タマ子ってどことなく猫っぽいじゃないですか。一か所でゴロゴロしててたまに甘えたりちょっと頑固で…ああいう雰囲気は本人が持っていたもので、前田敦子の魅力を活かす映画を撮ろう、というのがテーマでした。
山下監督 : 印象に残ってるのは、「苦役列車」の時に撮影の合間やプロモーションの時になんかふわふわしてる人だなと思って。でもカメラの前にたつときゅっとする。普段はね、普通の猫なんですよ。カメラ回ると急にチーターになったりライオンになったり。そういうギャップが面白いんですよ。
タマ子という女の子の日常を覗き見しているような映画として撮影してたんですけど、それにしてもあまりにも無意識で、あの感じは他の女優さんにはないんですよ。それこそ「天然コケッコー」の時の15歳の夏帆とかはそういう瞬間もあったんですけど。22歳の大人の女性がまだそれを持っているというのが、彼女の今の最大の武器だと思います。
「タマ子」は彼女の素の部分というか、無意識の状態を映すことができた作品で、もしかしたらあと数年しかないのかもしれないけど、彼女の無意識を活かした作品をもっとみたいなと思ってます。
僕の勝手な推測ですが、彼女は14歳からAKBをやって普通の10代が経験しないような舞台や景色を見てきて、どっかにまだ14歳くらいで止まってしまった自分を持っていて、一方では芸能人としてのキャリアは積んでいる。そういうアンバランスさがあるのかもしれない。これから女優としてどうなっていくのかとても面白いです。本人はこの映画に対する感想あんまり言わないんですけど(笑)、あっちゃんにとっては客観的に見られない作品なんじゃないかな、と思います。たまに生まれたての赤ちゃんみたいな顔してますよね。
山下監督 : テーマというんじゃないんですけど、僕自身がどっかで大人になりたくない、というのがあるんですよね。新幹線でスーツ着てる人が隣に来たりするとドキドキして「大人だ~」と思っちゃったり。よく見たら全然年下なのに。学生時代からずっと映画作ってきて、会社に入ったこともないんで、どことなく大人になりきれないってところがあると思います。タマ子も23歳なのにどんどん中学生みたいになっていく。向井も「山下そろそろ大人になって次の映画撮ろうぜ」なんて思ってるかもしれないですが(笑)。
まあでも今回は結果として「もらとりあむ」な女の子なんですが、前田敦子の魅力で映画を作ろうという事が先で、就職に失敗して実家でぐうたらしているっていう設定は後づけなんですよね。話としては親子の距離感とかがテーマで。昔と比べてパッケージは似てるんだけど、見てる視点は違うものができたなと思います。
山下監督 : 「中途半端」ですかね。言葉だけとるとマイナスですけど、色のはっきりしている“東京”や“大阪”とは違う、ある種の無責任な感じが居心地がいいですね。地元を背負うとかってのはないんですけど、東京で愛知出身の人と出会うと妙に嬉しかったり。自分にとってはいい距離感ですね。
山下監督 : 次回作は~そうですね。まだ頭から「タマ子」が離れなくて。まだ次のことに全然頭が回らない。そろそろ前田敦子離れもしなくちゃな~とおもってるんですけどね (笑)。
山下敦弘(やましたのぶひろ)
1976年愛知県生まれ。高校在学中より自主映画制作を始め、95年、大阪芸術大学映像学科に入学、熊切和嘉監督と出会い『鬼畜大宴会』 (97)にスタッフとして参加。
その後同期の向井康介、近藤龍人と共に短編映画を制作する。初の長編『どんてん生活』(99)で、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター部門グランプリを受賞。
長編2作目の『ばかのハコ船』(02)も各地の映画祭で絶賛され、その独特でオリジナリティにあふれた 世界観が評価された。つげ義春原作の『リアリズムの宿』(03)、『くりいむレモン』(04)等を経て、初の35ミリ撮影による『リンダ リンダ リンダ』(05)で女子高生バンドの青春を瑞々しく描いてロングランヒットを記録する。
『松ヶ根乱射事件』(07)に続き手がけた『天然コケッコー』 (07)は、第32回報知映画賞監督賞、第62回毎日映画コンクール日本映画優秀賞をはじめ数々の賞に輝いた。その後も妻夫木聡、松山ケンイチ出演『マイ・バック・ページ』(11)、『苦役列車』(12)を発表、国内外で高い評価を得ている。
今の日本映画界において常に最新作が待たれる若手監督の筆頭的存在。
< 公開情報 >
タイトル:もらとりあむタマ子
公式HP: http://www.bitters.co.jp/tamako/
Twitter : @sakai_tamako
MUSIC ON! TV + KING RECORDS Presents
監督:山下敦弘
出演:前田敦子 康すおん 伊東清矢 鈴木慶一 中村久美 富田靖子
主題歌:星野 源 「季節」(SPEEDSTAR RECORDS)
配給会社/ビターズ・エンド
尺/78分
レーティング:無し
上映劇場:センチュリーシネマ 名古屋PARCO東館8F http://www.eigaya.com/
上映期間:11/30(土)~
© 2013『もらとりあむタマ子』製作委員会