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FEATURE / 特集記事 Apr 24. 2024 UP
【SPECIAL INTERVIEW】
空気から水を生み出す新たな技術で美味しいコーヒーを。そして、世界の水不足を救いたい。
名古屋在住のイノベーター・河﨑悠有(株式会社アクアム/AIR DRIP COFFEE)の眼差し。

FEATURE:LIVING CULTURE MAGAZINE BY INAX MUSEUMS #3

 

2023年、東京・渋谷にオープンしたAIR DRIP COFFEE」。なんと空気から水を抽出し、その水で淹れた珈琲を提供していることで話題だ。その技術を使って「世界の水不足を救うことが本当の目的」と話すのは、名古屋在住の河﨑悠有さん(株式会社アクアム)。開発に丸7年、奔走しながらもようやく辿り着いたスタート地点。その軌跡を熱量たっぷりに語ってもらった。

 

SPECIAL INTERVIEW:

河﨑悠有

Interview & Text:Takatoshi Takebe [ LIVERARY ]
Photo:Yuki Fujitani

 

河﨑悠有
2005年、名古屋市立大学芸術工学部生活環境デザイン学科卒業後に渡米。Integrated Lighting Designにインターンシップとして勤務し、照明デザイナー Babu Shankar氏に師事を仰ぐ。2006年帰国後、インテリアデザイン設計および照明デザイン設計に従事。2010年、河﨑悠有デザイン設計事務所を設立。2014年、株式会社ナイトフッドを設立 共同代表としてエコロブルー事業に参入。2016年、日本エコロ・ブルー株式会社代表取締役に就任しエコロブルー事業を継承。2017年日本エコロブルー株式会社として再登記し、代表取締役に就任。2023年、「AIR DRIP COFFEE SHIBUYA」をオープン。

 

日本の水文化と技術が、
世界の水問題を救う日が来ることを信じて。


ー空気から水を作る技術を世界に向けて発信するってかなりスケールの大きな目標だと思うのですが、そこに至るまでにどんなことがあったのでしょう?

名古屋市立大学の芸術工学部で建築を専攻していて、大学卒業後に、アメリカに照明デザインのインターンシップとして1年間留学をしました。海外で生活していくなかで、デザインの勉強だけではなくて、日本を出たからこそ日本の文化だったり歴史だったり技術だったりというところを再認識することになって。「日本の技術や文化を世界に発信できるようなことをしたい」と漠然と思うようになっていったんです

ー日本のことを発信したいと思うようになったきっかけは具体的に何かあったんですか?

LAで出会ったSEIさんという方との出会いがきっかけと言えるかもしれないです。彼は、Appleのミュージックビデオとかプロモーションビデオを作っているクリエイターとして活躍している方で。その人に仲良くしてもらっていたんですよ。で、世界情勢とか、日本の歴史について話すのが好きで、彼とディスカッションする機会がよくあったんです。日本にいて、日本人同士が日本のことを語り合うってあんまりないですよね。でもやっぱり、日本を出ると、日本人としてのアイデンティティが逆に目覚めるというか、彼は10年以上日本に帰っていないけど、日本大好きなわけですよ。向こうで日本茶買って、急須でわざわざ日本茶を淹れて、僕にご馳走してくれたりするくらい。自分自身やっぱり全然日本のことを知らなかったし、日本にいたら知るきっかけがなかったと思いますね。

日本に帰国してからも僕はずっと照明デザインの仕事をやっていたのですが、そんな中、人生の大きな転機がありまして。30歳の時にリーキーガット症候群という病気になったんです。小腸に穴が開いて、免疫不全になって、食べ物とか薬とかが効かなくなって、栄養を吸収できなくなるという重たい病気で。自分がまさか30の歳でそんな大きな病にかかるとは思ってもいなかった。「人生何があるかわからないな。だったら、自分のやりたいことをやっぱりやりたい!」とまたそこで強く思えたんです。で、自分のこれまでやってきたデザインの仕事以外にやりたいことってなんだろう?と改めて見つめ直した時に、先ほどお話した「日本の文化や技術とかを世界に発信できるようなこと」をビジネスとしてやってみたいと強く思ったんです。

ーなるほど。

照明デザイナーとして独立後は海外のプロジェクトなんかにも関わり始めていて、たまたま空気から水を作る技術に出会って。アメリカにその技術を製品化した会社があったんです。その話を聞いた瞬間、空気から水を作ることができるなんてすごいなって思ったんですよね。でもその技術も製品も日本にはまだ入ってきていなかったんで、すぐに問い合わせをして、その製品の日本での代理店から始めたいという話を持ちかけました。

ーでもそれだと、日本の技術を世界へ発信するという話とは逆のように思えますが?

で、実はその製品はまだまだクオリティが低かったんです。アイデアはいいけれども、製水される水の美味しさのクオリティが低かったのが一番の改善すべき点でした。日本って水は豊かだし、綺麗な水を飲むのは当たり前じゃないですか。水道水ですら世界の基準でいったら美味しい。どちらかというとさらに美味しい水だったり体に良い水を日本人は求めているほどですよね。だから、日本で販売することも考えても、日本人でも美味しいと思えるクオリティの水を作らないとと思いましたし、それが実現したら世界中で通用するレベルの美味しい水が空気から作れることになる。世界中に水不足に困っている地域があって、諸外国から高い金で水を買っている国だってあるんです。この技術を普及させることができれば、その状況を変えられるのでは?と。

 

 

ーなるほど。水に困っている人たちに単純に水を与えるだけでなく、どうせなら美味しい水を飲んでもらいたいってことですね。

僕はそれができるのは水に恵まれた国で生きてきた日本人だけだと思っていて。だから日本でその技術を改良して開発をしたいと思ったんです。で、そのアメリカの会社の社長と会う機会があって、ジャパンモデルを作りたいって直談判しました。実際交渉は2年くらいかかりました。やっぱり最初はいいよとは言ってくれなくて。じゃあ開発権でいくら積むんだ、とかお金の話になったりだとか、それが本当にお前にできるのか、っていう話でずっと交渉してたんですけど、結果彼らが事業自体縮小するタイミングがきて、最終的に開発権をいくらでいいから譲る、と。その開発権を取得するための資金を集めるためにクラウドファンディングもしましたね。ちょうど良いタイミングで未上場株をファンディングで集める、という取り組みをしている会社さんを紹介してもらって、そこで5000万集まって。契約金を払って、ようやく権利契約の合意に至って。そこから次は、ジャパンモデルを日本で作ってくれる企業を探し始めました。日本全国回って、最終的にたどり着いたのが名古屋だったんですよね。地元の名古屋のトヨトミさんという、石油ストーブを作っている大手メーカーさんが話を聞いてくれるということで紹介していただいて。正直うちみたいなスタートアップのベンチャー企業と共同開発というのはトヨトミさんとしては前例がないことで、そもそも他社と一緒に共同開発もやらない会社さんだったんですが、当時の会長さんが「分かった。そこまでやりたいんだったら協力しますよ」と言ってくださって。そこから一緒に共同開発が始まりました。

ーすごい!河崎さんの夢に向かっていく姿勢にいろんな人たちが協力してくれたんですね!

ですね。でも、身内というか特に父親からは散々反対されて、一時期は勘当もされてしまってましたけど(笑)。

ーあまりにも無謀な挑戦ですもんね!(笑)。それでも信じて貫いてきた飽くなき努力、尊敬です。でも、もともとの河崎さんのやってきた照明デザインの仕事とは、畑違いすぎて、何にも分かんないじゃないですか。気持ちしかない、みたいな。開発を協力してくれる企業さん探しは、どうやって目星を立てたんです?

もちろん、自分はそんな技術も知識もないので、当たりなんてつかないですよね。

ーえ!(笑)それはたとえば同じ思いを持った、知識のある方と一緒に、でもなく一人で、ということですか?

一人です。でも一人では何ともならなかったので。基本的には人からの紹介ですね。ツテを頼っていろんな人に話を聞いてもらって。町工場みたいな中小企業さんから、トヨトミさんのような大企業さんまで。1年くらいは製造パートナー探しをしてました。

ーその熱意が実ってようやく完成に至るわけですね。

契約してから完成するまでに7年かかりましたね。

ーちなみに、空気中の水分を取り出すというのは、除湿機の仕組みと近いんでしょうか?

原理自体は、除湿機とそんなに変わらないです。ただ過程として、いわゆる飲料水にするためを前提としてワンパッケージにしています。まず、フィルターを通して空気を綺麗にして、そこから水を取っているという感じです。当然、除湿機は捨てる水なので、空気自体の清浄もしないですし、フィン自体もそういう性能になっていない。さらに我々は菌が増殖しないような、繁殖しにくいようなコーティングをしたフィンを使ってます。

 


空気から水を生成する仕組み


こちらが完成した業務用の実機。現在は、小型の家庭用も開発準備中。

 

ー空気から美味しい水を作る技術的な改善点で大事にされたポイントはありますか?

工程の最後にミネラルを添加して飲料水にしていくんです。このミネラルを添加しないと飲用にあんまり適さない、鉄っぽい硬い味の水になるんですよね。やっぱり日本の名水だったり日本の美味しい水って、ミネラルのような天然成分が含まれているから、美味しくて体に良いんです。

で、ミネラルを添加する「セラミックボール」っていうのがあるんですよね。世の中で出回っている「セラミックボール」のほとんどが韓国製で、70%くらいが粘土で固められているんですよ。鉱石は30%くらいしか入っていないってことになるんんです。そうすると、ほとんど粘土を通しているようなものじゃないですか。僕は納得いかなくて。で、調べていったら、100%鉱石で作られている「セラミックボール」が実は東北にあったんです!もともとの水も良質な水なんですけど、さらにその「セラミックボール」を通して渇水化させた水を使って稲作をしたり、お酒を作ったりしていたんですよね。その「セラミックボール」で作った水は、やっぱり味がまろやかで、全然違うんですよね。それをうちがOEMで使用させてもらっています。

ーその100%鉱石の「セラミックボール」ってのは、古くから東北の方で使われていたんですか?

そうです。あまり表には出ていない技術で、調べていく中で、こんな技術が昔から日本にあったんだ!ってなりました。この日本製のセラミックボールを使えば、海外の空気から作った水でも、日本のミネラルウォーターと同じ味の水が飲める。いろいろ調べた結果で、そういうのがある。実はそれが最先端でも何でもなくて、昔からやってる地元では知っている人は知ってる、使っている人は使っている、というようなセラミックがあって、すごいとなって。やっぱりそういうものを組み合わせてやる、というのは大事かなと思って。

ー日本の文化と技術がここにも活かされているんですね。ちなみに、どれくらいの時間でどれくらいの量の水が作れるんですか?

中型業務用ですと、1日で約200リットルの水が作れます。例えば1人2リットルって考えると、100人分の飲料水を毎日作ることができるので、国内でも避難所だったりとか、不特定多数の方が利用される市役所とかそういったオープンスペースに置いて使ってもらえるようになったらとも思っています。福岡県の仲間市役所っていうところで、実証実験的に1年間半くらいの期間限定で置いてもらったりもしましたね。

ーすでに事例もできつつあるんですね。ゆくゆくは、日本だからこそ生まれたこの技術を世界に向けて発信するという目標だったと伺いましたが、その辺りの動きについては現状どうでしょうか?

水に恵まれていない地域にこの機械を設置できないか?というこの活動を「ウォーターステーションプロジェクト」という名前で2022年くらいから進めています。今、ナイジェリアとかケニアでパートナーシップを組んで動いてもらっている現地のNPOがあって窓口になってくれてるんですけど。彼らが運営してる学校とか病院があるので、そこにまずは1台導入して、そこをウォーターステーションにしようとプロジェクトは進んでいます。で、実は、ハワイも日本よりも水が貴重で高いんですよね。ハワイだとアフリカ諸国よりも日本人にとって馴染みがあると思うので、この活動を知ってもらうきっかけになるという意味で、良いモデルケースになってくれたら、ということで、まずはハワイでウォーターステーションを立ち上げようと動いています。あとは、水耕栽培を行なっている企業さんとタッグを組んだりとか、そういう動きもありますね。

ー並行して、2023年に都内にもこの活動のフラッグシップになるような「AIR DRIP COFFEE」がオープンしたわけですね。こちらのショップはどういう立ち位置なんでしょうか?

そうですね。日本の方に実際、空気から作った水で淹れた珈琲の味を確かめてもらいたいって思いももちろんあるんですが、ここで買った一杯の珈琲が「ウォーターステーションプロジェクト」自体の応援につながっているという形にしているんです。珈琲代の中の一部がその資金になります、と表記していて。

 


「AIR DRIP COFFEE」では豆もオリジナルの焙煎のものを使用。バリスタが一杯ずつ丁寧に淹れる。

 

ーお客さんの反応はどうですか?

実は「AIR DRIP COFFEE」に来てくれているお客さんは、何も知らずに普通のコーヒーショップだと思って買いに来てくれたお客様が大半なんですよね。何かの記事を読んでうちを知っていてくれて、「空気から作った水のコーヒーってどんな味なのか気になってきました」というお客様も中にはいますけど。ほとんどお客さんが普通に美味しいからって来てくれるみたいな感じなんですよ。僕はそれでいいと思ってて。

ープロジェクト自体は壮大ですが、あくまで気軽に参加してほしいってことですね。

そうです。「実はこれ、空気から作った水で入れてるんだよね」ってくらいでいいというか。きっかけはそれくらいでいいと思ってて。もちろん、プロジェクトの仕組みやメッセージは店頭でも出してはいますのでプロジェクトのことも知ってもらいたい気持ちもありますが、単純に毎日飲む珈琲一杯をうちで買ってもらうことによって、その一杯を通じて世界の水不足を救う「ウォーターステーションプロジェクト」の活動に参加できるっていう仕組みにしてます。「AIR DRIP COFFEE」はこのプロジェクトを押し付けがましくなく、入口になってくれたら、と。そこからじわじわと広まっていってくれたらいいなと思っています。

 


 

※このインタビュー記事は、2024年3月に発行された常滑・INAXライブミュージアムの広報誌「LIVING  CULTURE MAGAZINE BY INAX MUSEUMS」に掲載された記事から抜粋しています。同誌は、INAXライブミュージアムのほか、名古屋エリアを中心にさまざまなカルチャースポット、飲食店等で配布されています。ぜひそちらもご覧ください。

https://livingculture.lixil.com/ilm/explore/magazine/vol3/

 

河﨑悠有
2005年、名古屋市立大学芸術工学部生活環境デザイン学科卒業後に渡米。Integrated Lighting Designにインターンシップとして勤務し、照明デザイナー Babu Shankar氏に師事を仰ぐ。2006年帰国後、インテリアデザイン設計および照明デザイン設計に従事。2010年、河﨑悠有デザイン設計事務所を設立。2014年、株式会社ナイトフッドを設立 共同代表としてエコロブルー事業に参入。2016年、日本エコロ・ブルー株式会社代表取締役に就任しエコロブルー事業を継承。2017年日本エコロブルー株式会社として再登記し、代表取締役に就任。2023年、「AIR DRIP COFFEE SHIBUYA」をオープン。

AIR DRIP COFFEE
住所:東京都渋谷区松濤1-27-1
営業時間 :10:00 ~ 19:00
定休日:なし
TEL:0368049373
https://airdripcoffee.com/


 

 

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