『私たちのハァハァ』 シネマスコーレ(愛知|名古屋)
「今の若者って例えば、花火を見に行ったことを喜ぶんじゃなくて、花火に行った報告をツイートして、それがリツイートされたことで喜ぶだろって。」
―松居監督の最近の作品は、TwitterやツイキャスやLINEの画面がそのままスクリーンに登場しますよね。これは映画としては珍しい手法だと思いますが?
そうですね。今の自分にしかできないこととか、今の時代だからこそ撮れるものを作ろうと思っています。世に出ている、青春映画とされているものって、「これそんなに青春じゃないだろ?」「古臭いところで、喜んだり怒ったりするなあ…」って疑問に思うことがあって。若者のコミュニケーションをちゃんと見てないような気がします。今の若者って例えば、花火を見に行ったことを喜ぶんじゃなくて、花火に行った報告をツイートして、それがリツイートされたことで喜ぶだろって。それを誰も表現しないから、「じゃあ、俺がやらなきゃ!」と。でも、やりだしたらみんながやらなかった理由が分かったんですよね。フィルム時代の映画ファンの方からすると、映画の美しい画面の上にテロップを乗せることは、ちょっとした映画への冒涜だっていう批判があった。関係ねえし!と言い聞かせましたが。
―そうなんですね。ミュージックビデオを撮られたり、演劇を作られたり、そういう広い視野があるからできたことですよね。
観る人はそんなに気にしてないと思うんですよね。ちゃんと象徴的に時代を反映してる方が、面白いって思ってくれるはずだから。
―もはや、現代の私たちはTwitterやLINEの画面をずっと眺めて生活してますから、逆に日常と同じで違和感は感じません。
うん。みんなカッコつけなくていいと思うんですよね~。
―今回舞台となった北九州ですが、監督のご出身地ですね。
スタート地点の舞台である、若松区がまさに生まれ育った場所です。今回、福岡を出発地点にしたのも、自分が福岡にいたころ、単純に福岡と東京の距離感を感じていて。週刊誌が一日遅れで来るとか、見たいテレビ番組が深夜だとか。でも、ちょっと頑張れば行けるんじゃね?とも思っていたんですよ。高校の時とかって、チャリでどこへでも行けるような気がしなかったですか?その当時感じていた精神的距離と、物理的距離の違いを表したかった。
―なるほど。地方と東京の距離感って、地方に暮らす人にとっては切実に感じます。 ここ名古屋にはよく来られますか?
『自分の事ばかりで情けなくなるよ』の舞台挨拶で来たのが2年前です。あ、でも2か月前にプライベートで来たんですよ。俳優の池松壮亮と、池下のGURUGURUというお店に竹原ピストルさんのライブを見に行きました。…あ、そういえば、『私たちのハァハァ』でも、ワンカットだけ名古屋で撮ってるんですよ!
―え!そうなんですか!それは全然気が付かなかったです。
神戸で撮る予定だったシーンが、日が暮れて撮れなくなっちゃって。バスも返さなきゃいけなかったので、足元のカットだけ名古屋で途中下車して撮ったんです。東京駅という設定で。
「今作でも正解が分からないから、どこに行くんだろうと思いながら、一緒に旅をしている感じでした。」
―『自分の事ばかりで情けなくなるよ』に続き、今作でもクリープハイプのライブをゲリラ撮影されていますね。
そうですね。NHKホールのツアーファイナルで、しかもアンコール。本当に、信頼があるクリープハイプじゃないと許してもらえないような撮影でした。尾崎君(注:クリープハイプのVo/Gtである尾崎世界観)に「ツアーファイナルで、ちょっと撮影したいんだけど」って相談したら、「ニュースになるからいいよ」って。(笑)
―ライブに来ていたお客さんは一切知らず?
そうそう。パニックになったら嫌だなと思ってたんですけど、ポカーンっていう感じだったので良かったです。でも、大変だったのはその後で、ファンの子達が「わけわかんない子が4人上がってきて、しかもカメラ回ってるし、アンコールの気持ちが台無しになった」って怒ってて。そのゲリラ撮影した日の0時にネタばらしの発表をしたんですけど、全然おさまらなくって「なんだよ『私たちのハァハァ』って。絶対観ないんだけど」とか言ってて。絶対見るはずの子達が。(笑)
―それは…あなた達のための映画だよって言いたいです…!
観てくれたらその気持ちも昇華されると思うんですけどね。
―松居監督はこれまで『アフロ田中』、『男子高校生の日常』、『スイートプールサイド』と、いずれも男子高校生を描いた作品が多かった印象ですが、最近は女性を主人公にした作品を撮られていますね。何か違いがありますか?
作り方が真逆なんですよね。男子高校生は思考回路がよくわかるから、「もっとこうだろ」って言えるんだけど、僕は中高男子校で、女子高校生に関しては全く分からないから、出演者に聞いたりして。 ビジョンがないから怖くもあるけど、逆にいくらでも妄想して書ける。それに命を吹き込んでくれるのは、役者さんだったりスタッフさんだったりです。今作でも正解が分からないから、どこに行くんだろうと思いながら、一緒に旅をしている感じでした。 向かい合うか、一緒に走るかの違いですね。
―松居監督の作品はどれも主人公の疾走が印象的です。『私たちのハァハァ』でも4人が全力疾走しますね。
なんだかんだ、毎回走りたくなるんですよね。走ることって、疲れるし髪も乱れるし、後先考えていないことの象徴のような気がして。僕があんまり走りたくないじゃないですか、疲れるから。(笑) でもきっと、どこかに走りたい気持ちがあって、それを役に投影しているのかもしれない。 今作に関しても、自分が高校生の時は旅なんてしたことなくて、でもだからこそ女子高生たちに旅したかった気持ちを託した感じがありますね。
「一緒に走る」―この言葉通り、監督もスタッフ役者も、物語と一緒に1000キロの道のりを駆け抜けたことがありありと伝わってくる、躍動感溢れる作品となっている『私たちのハァハァ』。女子高生4人の限りなく素に近い、瑞々しい演技にも注目だ。
大好きなものを夢中で追いかけていた、あの頃の自分が並走しているような、そんな感覚が呼び覚まされる。スクリーンに映し出されるリアルな息遣いを、ぜひ劇場で体感して欲しい。
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9月12日~ テアトル新宿ほか全国公開
『私たちのハァハァ』
公式HP:http://haa-haa.jp/
監督:松居大悟
出演:井上苑子/大関れいか/真山朔/三浦透子
クリープハイプ/武田杏香/中村映里子/池松壮亮
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
2015年 / 91分 / カラー / 日本
(C)2015『私たちのハァハァ』製作委員会
上映劇場:シネマスコーレ 名古屋市中村区椿町8-12 アートビル1F
http://www.cinemaskhole.co.jp/
松居大悟
1985年、福岡県北九州市生まれ。劇団ゴジゲン主宰。
09年、NHK『ふたつのスピカ』で同局最年少のドラマ脚 本家デビュー。12年2月、『アフロ田中』で長編映画初監督。以降、クリープハイプのミュージックビデオから生まれた異色作『自分の事ばかりで情け なくなるよ』(第26回東京国際映画祭正式出品)や、青春剃毛映画『スイー トプールサイド』など枠にとらわれない作品を発表し続け、ゴスロリ少女と時代を象徴する音楽で描いた絶対少女ムービー『ワンダフルワールドエンド』は第65回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門に正式出品された。