まちのメディアピープル #02:大岩拓己(MAISONETTEinc.)
個性派集団を最強の組織へと導く方法論。
―今でも時々店頭に立ったりもしているんですか?
最近は、店頭に立つ機会は減ってしまったんですが、やっぱり常連のお客さんたちとお店で会えた時に「今日、来てよかった~」って言ってもらえると、うれしいですね。これまで来てくれてた人が、ずっと来てくれてるってのが普通にありがたいことだと思います。
―お店を運営していくためには、ひとりではどうしようもできないこともたくさんあると思います。大岩さんがいっしょにチームとして働きたいと思える、その線引きってどんなところを大事にされているんですか?
まず、話をしてみることですね。それで、仕事の価値観が合う/合わないか、あとは単純に気持ちがいい人がいいですね。「ただ面白いことやりたい!」ってのが前に出てるだけの人だと、仕事するってなるとちょっと難しいと思います。会社の仕事としてやるからには、やりたいことが「自分のため」ではなくて、お店だったりとか、会社の他のスタッフとか、社会貢献のこととかにまで、つなげて考えてられると理想的ですよね。そういうことまで考える必要性、そこをちゃんと理解ができる人間かどうか?は大事だと思います。
―スキルとかは重要視しない?
スキルとかも当然判断基準の一つではあるんですけど、まあスキルは学べば身につくという考え方です。それよりも、その人のまとっている空気とか、持ってる個性とかを重要視していますね。それって、練習とかでなんとかなるわけじゃないんで。
―単純に、キャラクターって大事ですよね。
うん。もう、フィーリングですよね。そこが一番大事じゃないかな~と。
―なるほど。さっき、「社会貢献」って言葉が出たんですけど、最初は「ただかっこいいことがやりたい」ってので、それを形にしようと言って形にしたのが「re:Li」で、お店だからまわしていかなければってことで運営を続けていって、2店舗、3店舗と増やしていって、今に至るわけですが、今現在の新たな目標とかって何かありますか?
目標か……うーん。最近思うのは、名古屋で一番になりたい!とかではないんですけど、それくらいの自信を持ったうえで、もっと大きな事業に挑戦するとかですかね。“ローカル”がどうのこうのみたいな話が出たときに、東京で流行ってることをただ名古屋に持ってくるってのは、そういう意味でも何か違うかなって思います。東京の人たちの感度と、ローカルの人たちの感度が違うのは都市の規模や若い人たちの絶対数からいって当たり前の差なんですけど、だからといって、敷居を下げるとかではなく。東京が一番イイとかって話でもないですが、東京でやっていけるくらいのレベルの人材がローカルにもいるってこと、それをちゃんと届けたいですね。名古屋にいても東京の仕事だってできるわけだし。例えば、名古屋のファッションスナップがダサいって言われたりするのもわかるけど、でもそれは飲食に置き換えても同じで、そういうローカルの感覚に甘んじてしまってはダメで、結局、名古屋という街でローカルを盛り上げたいって言ってる人が、名古屋でずっと仕事してて、外の世界を知らないのもよくないと思います。それだと、あまり成長しないマーケットのままになってしまうかな、と。しっかりとした軸があれば、あとはどれだけそこからブレずに続けられるか。それが、お店をやる人にとっては大事なのかなと。目先の利益に気をとらわれ過ぎて、自分たちの方向性を見失ってしまうようなことがあると、自分自身もお店も、クオリティーが下がって、良いお客さんもつかないだろうし…。
―最初に掲げた軸を常にキープしていくことが重要ですよね。それができている人たちってやっぱりずっとかっこいいですもんね。少し話を戻しましてさっき大岩さんがいっしょに働きたいと思える人材について聞きましたが、MAISONETTEinc.さんって全員が個性的なのに統一感があるからすごく良いチームなんだな〜って感じさせるんだと思うんです。大岩さんの考えるチームづくりに対しての考え方を教えてください。
個が組織になったときに、掛け合わせでできること。そこに会社としての、チームとしての魅力を感じます。仕事っていろんな人たちと関わりを持ってやっていくものだし、だったらそれが楽しい方がいい。「Maisonette(メゾネット)」って「個別に部屋が分かれている」といった意味があるんですけど、今の自分たちを表している言葉になっています。スタイリストがいて、管理栄養士がいて、パティシエがいて…みたいないろんな人がいて、それぞれの個が立つ集団が「組織」になれば強いわけで。仕事にあわせて人を集めるんじゃなくて、管理栄養士がいるからちゃんと健康に気を遣った料理を出すお店にしていこうとか、パティシエさんを雇ったからお菓子の強いお店にしようよ、とかって具合に。
―人を雇うスタンスが一般的な企業とは違う気がしますね。
3人でお店まわすのがきついから、じゃあ4人にスタッフ増やそうっていう考え方ではなくて、もしそういう理由で人を増やしたとしたら、その店が暇になった時、じゃあその4人目のスタッフは何するの?っていう。結局、分業するとその先もないなって思うんです。例えば、もしうちの会社にLIVERARYの誰かが入ったら、今ある仕事をやってもらうのではなくて、カルチャー色を強めて「re:Li」の二階スペースをもっと有効活用してイベントスペースにしよう、みたいな話になったりするわけです。それくらい会社が変わる存在の新入社員の方がおもしろいよね!っていうスタンスです。面接も3回くらいするし。その後、体験入社みたいな感じで働いてもらって、さらにもう一度話をして「本当にうちでやりたい?」って聞くようにしてます。入社するまでにすごい時間がかかる会社かもしれませんが、時間をかけてでも向き合って話をしないと、結局ここで人生の大半を過ごすことになるわけだし、お互いのためにその方がいいんです。それくらい人間味がある会社でありたいし、ひとりひとりの将来のことまでちゃんといっしょに考える、そこを大切にしたい。代表の山本もそう思っているだろうし。その感覚がずっと変わってないからずっと一緒に仕事をやれていると思うし。お互いに頼るんじゃなくて自立していて、時にお互いを壊すというか、変えさせるくらいの関係こそ、良い関係だし、それが築けていると思います。
ーなるほど。いっしょに働く仲間を編成していくうえでフィーリング+αが大事なんですね。ちなみに、お客さんたちの中にはアンテナが高くない人もいると思うんですが、自分たちの発信しているものを広げるっていう意味で、もっと間口を広げたい/敷居を下げたいっていうは考えは生まれないんですか?
自分たちの考えの100%を理解してもらうのは難しいとは思っていて。すべての人にうちに来てもらわなくてもいいというと誤解が生まれそうですが、例えば、10店のカフェが周りにあったとして、うちが独占してしまって儲かればいいっていう考え方ではないんです。そもそもカフェ文化とかコーヒー・カルチャーといったものが盛り上がって、そのマーケット自体が大きくなってこないと、そこに該当するお客さんも増えてこないと思いますし。うちの良さもあるけど、他店の良さもある。いろんなお店が増えていけば、選択肢も増えるけど、マーケット自体が大きくなって、この業界自体が潤って、結果としてうちの利用者も増えたらいいなっていう考え方です。正直この先10年後とかどうなっているかわからないと思っています。極端なことを言えば、MAISONETTEinc.は100年続けたい会社だとは思ってなくて。でも、うちで働いてた人で、また新しいお店を始めた人が活躍してくれたら、それで嬉しいし。例え「re:Li」がなくなったとしても、ここから自分で食っていきますって人を何人つくれるか?って考えます。
―ご自身が働いていたn.v. cafeさんも今はもう無いわけですけど、そこで出会った大岩さんと山本さんがいっしょに会社やってるっていう、今につながっていますもんね。でも、普通の企業はどうせだったら続く会社にしたいって考えると思うんですが。終わっちゃってもよくて、DNA的なところだけ誰か受け継いでくれればいいって考え方、おもしろいですね。
その人がやりたいことに賛同できれば投資したい。人件費は「消費」って考える人もいるけど、僕らは「投資」って考えます。会社のモチベーションっていうか、会社側の覚悟というか。店長もひとりの経営者だと考えているので、自分のお店としてやってもらって、お店を動かすうえでこうしたい、ああしたいっていう思いがあったら、僕の役目としては、それを実現に向けて調整したりする。自分の考えを無理に植え付けたら、店長やってても面白くないと思うから、そこの個人の裁量や振り幅は大事にしていて、やっぱり個性を大事にしたい。何が起こるかわかんないから面白い会社だと思いますよ。だから、しんどくても辞めようと思ったことは今までないです。
―これ「かっこいい」「おもしろい」って思うことをやり続けようってやっていて、後からお金がついてくるってのが理想だとは思うんですが、おもしろいこととか、かっこいいことやってるのに、お金がついてこない人もいる。その差は何なんでしょうね。
うちの場合は個性の集団であっても、その中でも役割がしっかり分かれていることがよい方向にはたらいたのかもしれないです。山本は、とりあえず採算がとれるかはさておき、やりたいことを発言する人。企画する人が最初から採算のことばかり気にしたら面白いことできないので、それでいいと思っています。お金をかけるところと、思いっきり削るところのバランスを取れたら、いいわけで。その調整をするのが僕の役割だと思っていて。ブランディングする人とマネージメントする人という感じで、そこのすみ分けがうまくできているから、かっこよく、おもしろく、やりたいこともやって、なおかつ採算もとれるようになっていったんだと思います。
―「かっこいい」「おもしろい」って感覚、人それぞれ違うとは思うんですが、そこもお互いが分かり合えるから強いチームなんですね、きっと。
AとBで迷った時に、「うちの会社ならBだよね」って何も言わなくても思考が合う関係性。AとBどっちがいいかな~?なんていう話をスタッフと日々しています。だから、お互いの価値観を信頼して、みんな自分で仕事を持ってこれるし、それを自分でやれる。この仕事やる?やらない?とかも判断は早い方がいいですしね。僕は、自分ひとりでやれることには限界があるって常々思っています。でも、個人では請け負いきれないような大きな規模の仕事だって、チームでならできるってことです。MAISONETTEinc.という個性派集団だからこそ、唯一無二の最強集団を目指せると思っています。
re:Li立ち上げ時は、5人からスタートしたMAISONETTEinc.だが、現在のメンバーは総勢19人に。
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大岩 拓己(MAISONETTEinc.)
19歳の頃からモデル事務所に所属し、スタイリストの山本雄平 (現MAISONETTEinc.代表)と、同じバイト先のカフェで意気投合し、その後「re:Li」立ち上げるタイミングで、MAISONETTEinc.に入社。現在では、飲食(re:Li、Maison YWE、&EAT)と物販(THINK TWICE)4店舗の統括マネージャーを務める。http://maisonetteinc.com/