FEATURE:MOTHER FUCKER / lessthanTV
バンドがやりたい、結婚したい、子どももほしい、そして今すぐにでも走り出したい。
初期衝動的な熱量と生活へのポジティブな欲求が、不思議な組み合わせで同時に押し寄せてきた。映画『MOTHER FUCKER』は、東京アンダーグラウンドシーンを25年に渡って転がり続けてきた世にも奇妙な「lessthanTV」というパンクレーベルのドキュメンタリー映画だ。すでに東京、大阪で上映され、9月23日(土)よりいよいよ名古屋・今池シネマテークで上映される。
これまで「lessthanTV」は、U.G MAN、DMBQ、bloodthirsty butchers、ギターウルフ、ロマンポルシェ、younGSounds、odd eyes……脈々と続くオルタナティヴ且つストレンジなアクションを起こし続けてるバンドたちの「今」を音盤に刻んできた。もちろん、名古屋のバンドマンたちも「lessthanTV」とは所縁があり、この映画でもNICE VIEW、Gofish、SOCIALPORKS、THE ACT WE ACTらのライブ映像が登場するシーンも。
今作が初監督作品となる映像作家・大石規湖が追いかけたのは、同レーベルを主宰する谷ぐち順とその妻・YUKARI、そして息子の共鳴(ともなり)からなる谷ぐち一家。3人の家族とlessthanTVの愉快な仲間たちの「今」を映し出した『MOTHER FUCKER』は、音楽レーベルの歴史を追った眠気を誘う類のドキュメンタリー映画では追いつけない、疾走感を持ったリアルで純度の高いパンクムービーと言えるだろう。
同映画の主役・谷ぐち順、YUKARI夫妻、愉快な仲間たち代表としてDEATHROに集まってもらい、今池のバンドマンたち御用達の中華料理店・四川園にてロングインタビューを行った。
SPECIAL INTERVIEW WITH
JUN TANIGUCHI, YUKARI & DEATHRO
Interview&Text:Takatoshi Takebe [LIVERARY/THISIS(NOT)MAGAZINE]
Photo:Sara Hashimoto[LIVERARY]
Cordinate & Special Thanks:Hideaki Gomi [THE ACT WE ACT]
Tape Rewrite:Kensuke Ido & Kaori Nakajima [LIVERARY]
左から、YUKARI、(四川園のおばちゃん)、谷ぐち順、谷ぐち共鳴
音楽、結婚、家族、生活、教育、社会。すべて地続き。
ー『MOTHER FUCKER』を見て、お二人独自の結婚観や家族観にぶっ飛ばされました。僕は独身なんですけど、年齢的に周りに結婚してる友人が多いんです。でも「結婚っていいな〜」って思わされるような夫婦よりもむしろ「結婚って大変そうだな〜」って思ってしまうことが多くて。でも、この映画を見たら結婚生活に対してすごくポジティブな感情が芽生えたんです。
谷ぐち順(以下、谷):例えば、見た目がものすご〜くもっさいハードコアバンドのライブを観に行ったら、そのバンドのココ!やばいでしょ!って良いところを見つけるようにしてます。結婚って色んな要素が絡んでくるから難しいこともあると思いますけど、一言で言えば「すげー最高」だし。武部くんの周りのそのブツブツ言ってる人たちも本当はそう思ってるはずです。不満だけをピックアップしているだけだと思いますよ。日常の中のちょっとした幸せな瞬間があったり、そういうのにハッとしてるはず。そういう小さいこと、細かいところを貪欲に探していかないと。
YUKARI(以下、Y):ん?ちょっと待って!ひどくない?!探さないとないんだ〜。
谷:いや、あるあるある!
一同:(笑)
谷:インタビュー的に面白いから言っただけで……本当は質問を聞いた時に、奥さんも子どものことも俺は溺愛してますよ!みたいに答えようとしたんです。でも、それじゃつまんないかな〜って思って。
Y:ふーん。
ーえっと……ちなみに、YUKARIさんの周りには、いわゆるママ友さんもいらっしゃると思いますが、そういう方々とはどんな話してるんですか?
Y:「今日は旦那が帰ってこないからラッキー!」とかって話してる。
ーそういう声、なんかよく聞くイメージあります。
Y:でも、私はそれは「もったいなーい!」って思う。旦那さんて、ずっと一緒にいると決めた人のはずなのに。一緒にいない時間の方が楽しみ!だなんて……。
谷:そういう奥様方が「旦那はもういらない」とか言っているのって、やっぱりそれは冗談であっても、普通にそれを聞いて僕はいい気持ちにならなかったです。
Y:私は、基本的にずっ〜と一緒に居られるならずっと一緒にいたいんです。
ー谷ぐちさんのこと、めっちゃ好きなんですね〜。
Y:(谷ぐちさんの顔を見ながら)それはどうかな〜(笑)。
ーあはは(笑)。バンドとプライベートが地続きになっているお二人だと思いますが、それって生活がほとんどずっと一緒なわけで、普通の家庭だと父と母がこんなにいっしょに行動してないかなって思いますし、結婚生活における幸せの共有の機会が多くあることは一般的な夫婦、家族と違う大きなポイントなのではないか、と思います。でもだからって、ずーっと一緒にいても逆に上手くいかない夫婦もいると思います。映画の中でも言い合いになるシーンもあったりしましたが、お二人はどうですか?
谷:結婚生活の最初の頃は、例えばお互いの音楽観のことで、すごい喧嘩したことあって。「お前の曲ダセー!」って言い合いになって、ぶつかり合うみたいなことよくあったんです。
Y:バンドで音楽をやることも夫婦生活も私は一緒だと思う。バンドメンバーのことも好きだから、いい音楽作っていきたいと思えるわけだし。好きな人とだから、もっといい関係作りたいって。
谷:結婚ってつまるところ「超リアル」じゃないですか。お金のことだったり、生活のことだったり。そういう中で、結婚生活を楽しめたらいいですよね。だから常に貪欲に楽しさを求めたいし、自分のスタイルを持って、誇りを持ってやっていくことがいいのかなと。そうすれば苦労することだってきっと楽しいし、力強く進めると思う。結婚して子ども作って、その上で面白いことができれば自分たちがワイワイやってるのを見て感じ取ってもらえればいいなと思います。レーベルもバンド活動もスタイルとしては(生活と)いっしょで。こんなレーベルあったのか!って思ってもらいたいし。それを「音楽」じゃなくて「家族」にも落とし込めたらと思っていました。こんな「家族」いたのか!って。
映画『MOTHER FUCKER』より
ー谷ぐちさんとYUKARIさんともう一人の主人公として、共鳴君がこの映画の中でバンド組んで、初ライブまでにぐんぐん成長していく姿には、かなり感情移入して「がんばれ〜!」って心の中で思いながら見入っちゃいました。ちなみに彼は現在9歳ですけど、もっと小さかった頃からライブハウスには一緒に行ってたんですか?
谷:最初にライブハウスに行ったのは生後6ヶ月くらいですね。
ーライブハウスデビュー、早いっすね(笑)!
谷:小岩のライブハウスで、久土’N’茶谷ってバンドの茶谷君のドラムを食い入るように見ていましたね。
Y:でもライブハウスに連れて行くことは、もちろん親として迷いましたよ。夜遅くなるし。タバコの煙もすごいし。帰りは大体、満員電車に乗って楽器を背負って一緒に帰るので……。
ー周囲の人から見たらこんな夜遅くに子どもを連れ回してなんて親だ!って悪く思われてるだろうなって話ですね。映画でもそのことについて悩むシーンありましたね。
Y:好きなこと(音楽活動)を続けていくことを諦める理由をこの子にはしたくなった。だから、周りから何て思われようがライブハウスに連れていくことが私たちにとって正しい選択だと信じるしかなかったんです。
谷:ある時から、共鳴は自立して自分で色んな人と遊び始めたんです。気づけば、共鳴を連れて行かない日があるとライブハウスにいるみんなの方から「あれ、今日は共鳴来てないんすか?」みたいに言ってくれるようになっていった。本当にライブハウスで遊ぶ友だちみたいな関係になっていって。俺らの子どもだからっていうことじゃなくて、もう共鳴とそのライブハウスにいる連中との間に友人同士の関係性ができ始めてきて。
Y:最初は、自分の子どもは自分で面倒みないといけないって思っていたんです。遊びに来てる友人はライブを楽しみに来てるんだしって。だから共鳴を預けて「ちょっとみてて!」なんて気が悪くてできなかった。人に頼ることは迷惑だと思ってたんです。でも、共鳴がみんなと勝手に遊び始めるようになって、これでいいんだって気づきました。
谷:俺もそれは同じように思ってたんですけど、共鳴とみんなの関係性を見ていたら、他に誰かが連れてきた子どもに対しても、俺の方から積極的に子どもにアプローチするようになったな〜。それまではあんまり他人の子どもには気軽に接することはダメだなんて変に気を使っていたと思うんです。でも、子どもって親の付属物じゃなくて、ライブハウスに来ているひとりの「人間」だって思うようになって、普通に接するようになった。『MOTHER FUCKER』を見た人からいただいた感想で、「(共鳴のことを)全然子ども扱いしていないのがよかった」って言われましたが、今では共鳴に限らず、ライブハウスに来る子どもたち全てに対してそうです。
Y:共鳴以外の子どもが来てても、そこにいる大人がみんなで、その子のお父さんお母さんになって面倒をみてあげることができるんだなって。そういう関係でOKなんだって。そう思ったら、気持ちが楽になりましたね。
ー共鳴君、ライブハウスで友達ができて映画の中でバンド・チーターズマニアも結成して、ライブもやっちゃうわけですが、逆に普段の学校生活大丈夫かな?って(笑)。
映画『MOTHER FUCKER』より
谷:うーん、学校の友だちとは合わないみたいだね〜。
ー小学生で常にオルタナティブであることのかっこよさを知っちゃうと、学校では変なやつみたいな感じになっちゃいそうですね。
谷:共鳴は、たしかに全然ポップじゃないね。
ー映画の中でもかなり引っ込み思案なところ出てましたね。
谷:そうそう。でも、あいつ(共鳴)なりの表現っていうのはあって、歌詞とかも面白いなってすごい思うんだよね。映画の中にも出てくるけど、初ライブのブッキングも自分でしてるしね(笑)。
Y:案外考えてるんだよね。いろいろね。だって、チーターズマニアのアルバム作るのに曲順を決めようってなったとき、どうせ無理だろって思ったから、「一緒に考えなきゃね〜」って言ってたら、もう自分で決めてて紙に書いてあったんだよね!
ーすごい!(笑)。
谷:今後も何が起こるかわかんないから、楽しみですよね。
ーバンドメンバーの入れ替えとか発生するんじゃないですか。
谷:そういえば最近、KONCOSの太一さんのお子さんが、共鳴のバンド(チーターズマニア)のことが好きみたいで。あの子、何歳だっけ?
Y:2歳かな。
谷:その子が共鳴の真似とかしてくれてるみたいで。それを聞いた共鳴が「ボーカル二人でもいいかもな」って言い出したんですよ。
ーわ!ツインボーカルだ!
谷:ツインボーカルで、さらに共鳴よりも年下の奴が入るっていう。ほんと面白いこと言うなって思って。明らかに子どもの声でパンクバンドっていう時点で、バンドとしてはオイシイですけどね。
ーライバル視ですか(笑)。
谷:負けてられないなとは思いますね。お前ずるいぞって。例えば、今後声変わりした瞬間に、それをごまかすようにデス声のボーカルスタイルに変わるみたいな。そういうのもいいすよね。
一同:(笑)
Y:まあ、急に「バンドなんてやめる!」って言うかもしれないしね。それはそれでいいしね。
谷:ちなみに、共鳴に「バンドやれ!」なんて勧めたことは無いですからね。そういうのは絶対押し付けたくないなって。でも、最初の頃はDEATHROに結構、憧れてたみたい。
Y:DEATHROのこと羨望の眼差しで見つめている時あったよね。
共鳴くんとDEATHROとそのバンドメンバーたち
DEATHRO(以下、D):でも、最近「尊敬してない」って言われたんですよ……。
ーえ〜。もう越えてしまったんですね!
D:もう今は共鳴のほうがライブ後に女の子にチヤホヤされるわけで……。DEATHROより俺の方が全然イケてんなって思ってんじゃないすかね。
ー共鳴くん、歌謡曲とか、そういうのには興味ないんですか?
谷:たまたま実家に帰ったときに24時間テレビかなんか見ててエンディングに「愛は勝つ」が流れたんですよ。字幕みたいなのも出て。ボケっと観てた共鳴が「この曲、歌詞ダサいね」って言ったのは驚きました。
一同:(笑)
ーすごいっすね。やっぱ周りの環境じゃないですか?
谷:今里くん(Struggle For Pride)が「共鳴が中学生くらいになったら、ひと夏、俺に預けてくれませんか」って言ってきてくれて。
一同:(笑)
谷:いろいろ世界を広げてくれるんじゃないですかね。ただ、生きて帰ってこれるか……。
ー共鳴くん、すでに谷ぐちさんとYUKARIさんから相当な教育を受けてそうですが。
谷:俺とかが障がい者の人の車椅子を押す姿もよく見てるからだと思うけど、電動車椅子に乗ってる人を街で見かけたときに「手伝わなきゃいけない」って共鳴が言い出して。「共鳴、よく考えてみ、手伝いが必要じゃないのに手伝いがいるって思っていちいち来られてもさ、それって何か嫌じゃない?」って。「そういう場合は、まあ意識はしてもいいけど、自分からわざわざいかない方がいいんじゃないか」って言ったんです。そしたら「そっか」って。ちゃんと理解してくれてるんだな〜って。
ー子どもの頃に、頭ごなしに怒鳴り散らされるんじゃなくて、多分そうやって丁寧に説明してもらえてたら、自分で考えるようになるから理解力は増していきますよね〜。
谷:面倒くさがってすぐ「ダメダメ!」って叱りつけるんじゃなくて、ちゃんと対応するようにはしてますね。それが子育ての面白いところなんだなって思ってて。子ども育てるまでわかんなかったんですけどね、結構色んな場面でそういう的確な判断を求められるっていうか。子どものいろんな価値観が形成されていくうえで、ココ大事な答えだって局面が結構あるんで。例えば、運動会とかの前日に「おら!絶対1位獲るぞ!それ以外無いぞ!」って子どもに言うのと、「明日は思いきり楽しんでこいよ!」って言うのとは価値観が変わってきますよね。
Y:でもさ、ちょっと無理してでもやらなきゃいけないときもあるってのも教えないと。ただ楽しんでこい!だけじゃなくて、それなりに練習とかもさせて成功体験もさせてあげないと!
谷:いつもこんな感じで俺がYUKARIに教育されてますね。
Y:そこに関しては「楽しいことだけっ!」ってわけにもいかないから。
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2017年9月23日(土)〜9月29日(金)
『MOTHER FUCKER』
公式 HP:mf-p.net
出演:谷ぐち順、YUKARI、谷口共鳴 他バンド大量
監督・撮影・編集:大石規湖
企画:大石規湖、谷ぐち順、飯田仁一郎
制作:大石規湖+Less Than TV
製作:キングレコード+日本出版販売
プロデューサー:長谷川英行、近藤順也
1:1.78/カラー/ステレオ/98 分/2017 年/日本/配給:日本出版販売
© 2017 MFP All Rights Reserved.
上映劇場:名古屋シネマテーク 愛知県名古屋市千種区今池1−6−13 今池スタービル2F
http://cineaste.jp/
【関連イベント】
2017年9月23日(土)
映画『MOTHER FUCKER』劇場公開記念特別企画・名古屋今池
“later than LATE SHOW”
LIVERARY feat. lessthan TV
会場:大大大(名古屋市千種区今池1-6-13今池スタービル1F)
時間:22:30開演
出演:DEATHRO、Gofish
料金:1オーダー+投げ銭 ※定員20人ほど
企画:五味秀明(THE ACT WE ACT)、LIVERARY
ビジュアルデザイン:武部敬俊(LIVERARY / THISIS(NOT)MAGAZINE)
谷ぐち順
アンダーグラウンドレーベル「Less Than TV」主宰。U.G MAN、GOD’S GUTS、we are the world、younGSounds、idea of a jokeなどのバンドを経て、Limited Express (has gone?)のベーシスト、FOLK SHOCK FUCKERSへの参加と並行して弾き語りソロユニットとして活動を展開。また、レーベル主宰者として多くのバンド作品や『METEO NIGHT』など主催イベントに関わる。2016年4月、初めて単独で演奏・歌唱を行なった作品『FUCKER』をリリースした。
YUKARI
Limited Express (has gone?)のボーカル。2003年、「TZADIK」から1sアルバムをリリースし、世界15か国以上を飛び回る。2016年、5thアルバム『ALL AGES』をリリースした。ニーハオ!!!!、FOLK SHOCK FUCKERS、DEATHROなどでも活動を行う。
DEATHRO
lessthanTVを代表する、Rock Vocalist/Singer Song Writer!1984年12月30日生まれ、神奈川県央地域出身&在住。2005年ANGEL O.D.のボーカリストとして「LOW VISION/ANGEL O.D.」split CDでLessThanTVよりCDデビュー。同年自身のバンドCOSMIC NEUROSEを結成。10年間で4枚のオリジナルアルバムのリリースや全国各地でライブ活動を行う。2015年10月COSMIC NEUROSE無期限の活動休止に伴い、ソロアーティストとしての活動を表明。現在は、8ビートを基調としたトラディショナルなジャパニーズビートロックと現在進行形のUSインディ/ガレージ/パンク/オルタナティブロックの融合したサウンドをORIGINAL KEN-O STYLEと称し地元神奈川央を拠点に楽曲制作、全国各地でライブ活動を行っている。
大石規湖
映画『MOTHER FUCKER』で初監督を手がける。フリーランスとして、SPACE SHOWER TV や VICE japan、MTV などの音楽番組に携わる。また、トクマルシューゴ、 DEERHOOF、BiS階段、奇妙礼太郎など国内外問わず数多くのアーティストのライブ DVD やミュージックビデオを制作し、女性でありながら男勝りのカメラワークで音楽に関わる作品を作り続けている。映画『kocorono』(2010年・川口潤監督)では監督補助を担当。また谷ぐち順の初MVの監督も務めている。