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FEATURE / 特集記事 Sep 18. 2014 UP
愛知県出身の新進気鋭アーティスト、長尾洋が見つめる世界のアートシーン。

Special Interview : Yoh Nagao

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ファッション雑誌からコラージュ素材を切り出し、それらをアクリル、ボールペン、マーカーと組み合わせる手法で、大胆かつ繊細な作品を創り上げるアーティスト、長尾洋。

NY、LA、チューリッヒ、ベルリン、パリ、アンジェ、ロンドン、東京などで開催されたアートフェアやイベントに多数参加し、2008年にはパリの有名セレクトショップ、Coletteでも作品が展示されるなど、国際的な舞台で活躍し、LODOWN magazine(ドイツ)、DAZED AND CONFUSED magazine(イギリス)、dpiマガジン(台湾)といった世界的に知名度のある雑誌や書籍にも取り上げられるなど世界中で評価が高まっている。

今年の5月にベルリンでの個展を終え、現在も多くのプロジェクトが進行中という彼に、作品に対する想いや、海外のクリエイティブ・シーンの現状などを訊いた。

Interview , Text & Edit by YOSHITAKA KURODA[ON READING , LIVERARY]

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_ 長尾さんは愛知出身なんですよね。どんな子供時代だったんですか?どうしてアートに興味を持つようになったんでしょうか?

はい、愛知県出身ですが、9歳くらいまでは横浜に住んでいて、父親の地元の鎌倉、逗子や葉山で頻繁に遊んでいました。横浜での住まいも 緑が多ったのもあって、ほとんどの時間を自然の中で遊んでいたと思います。しかし、かなり貧乏な家庭だったのでオモチャなどはあまりなく、家ではもっぱら新聞広告の裏をキャンバスにして絵を描いていました 。 父親が海が好きで、魚の絵をよく描いてみせてくれました。実はそれは全て実在しない適当な魚だったんですが、それに合わせて一緒に描いた魚たちがおそらく僕の記憶にる最初のアートな気がします。

_そういう環境で自由な想像力が培われていったわけですね。長尾さんの作品は、コラージュが重要な要素になっていると思いますが、この作風にはどのような過程でいきついたのでしょうか?作品の背景にある想いなどもお話いただけますか?

この作風はグラフィックデザインの仕事に少し似ています。異なる素材を集めて一つのメッセージを伝えるようなスタイルです。雑誌からコラージュの素材を見つけ切り出し、アクリル絵具で色を塗り、マーカーで線やドットを描く。画材が増える分手間もかかりますが、一つの画材で作るより表現の幅もひろがります。そもそも絵を描く事自体絵具と筆である必要も無く、またなにか新しい表現を求めていく中で、今この時代で作れるもの、身の回りにある素材を生かしたりすることができたら良いなとずっと思いながらここまで制作して来ました。

僕の作品は主に未来の人類を描いています。そこには心理的な豊かさ、ゆとりや高揚感をポップに描いています。現代社会において人類はあまりにも地球との調和を乱しています。心理的な豊かさよりも経済を優先し過ぎています。経済の隆盛と共に、戦争や公害、病気が蔓延し僕らを苦しめています。いったい人間の本当の豊かさとは何かを僕らは自ら見つけなければなりません。そのためのヒントやメッセージを作品を通して伝えていきたいと思っています。

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_長尾さんの作品は、色彩豊かでインパクトがあって、そしてとてもポップな印象をうけます。影響を受けたアーティストなどはいるんですか?

特に強く影響を受けたアーティストはいませんが、気に入っているアーティストは、ダリ、モネ、横尾忠則、天野喜孝、大竹伸朗です。 あと普段からファッションフォトや浮世絵、アニメや漫画を見る事が好きなので、その影響は強いと思います。

最近知ったアーティストの中ではアメリカのストリートアーティストのTristan Eaton(トリスタン・イートン)がお気に入りです。彼とは7月にメキシコで開催されたSEA WALLSという壁画プロジェクトで一緒になりました。ネットを通して知った彼の洗練されたペイント技術で描かれた巨大な壁画がとても強く印象に残っていたところ、まさか同じプロジェクトで一緒になるとは思ってなかったので夢の様でした。

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Photography © Tre’ Packard / PangeaSeed.org

_写真で作品を拝見しましたが、かなり大きくて迫力のある作品でしたね。こういった仕事も今までのワールドワイドな活躍が評価されて依頼されていると思うのですが、海外での活動はいつ頃から意識して取り組んでいるのでしょうか?またきっかけなどはありましたか?日本の環境に不満があったとか?

海外での作品発表の機会は2008年くらいから始まりました。それより以前から東京でも作品を見てもらいたく何度も訪れましたが、あいにく縁がなく、主立った活動には至りませんでした。欧米社会でのアートは、日本の社会とは関わり方が大きく異なっています。今回のメキシコでの壁画のプロジェクトなどもNGO、地元行政、多くのボランティアやメディアのサポートがあって進められました。アートの力がより認知されているのを強く感じます。

日本だと商業的なイラストレーション、もしくはとても閉鎖的なコンテンポラリーアートの世界が主なアーティストの住処です。普段生活をしていてアートに触れる事、アーティストに会う事もとても少ないでしょう。2011年にはフランスのアンジェという街でのアートフェスティバルにも招待されました。これも街の行政の協力があって実現しました。小さな街でしたが、反響は大きかった様です。元々海外へ住みたい想いはありましたが、この頃から同世代の欧米のアーティストに沢山出会い刺激をもらい、やはりアーティストとしては名古屋にいてはチャンスは少ない、と決心してその翌年に日本からドイツ、ベルリンへ来ました。

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_現在は、ベルリンに住んでいるんですよね。そちらの印象(環境)はどうですか?アートに対する人々の関わり方って、やっぱり日本とは違いますか?

ベルリンはアートに対してとても好意的で寛大です。アートやクリエイティブに関わっていない、いわゆる普通の職業の人たちもよく 美術館やギャラリー、クラシックコンサートなどに行き、新しいものも古いものも含め、広く芸術を楽しむライフスタイルが根付いています。日本では漫画やアニメ、お笑いがいわゆる芸術や娯楽のメインストリームであり、古いものでは古典芸能や伝統工芸など、素晴らしいものが沢山ありますが、現代の人に取って、現代アートなどはあまり触れたりする機会も少ないと思います。それと共にアート作品を買う事も滅多にないと思いますので、アーティストもなかなか育たないのではないかなと思います。

_先日FBで、「あるアート系ブログの日本語版の文章がカタカナだらけで読んでもさっぱりピンとこない。あれではなかなか伝わらないと思う。発信するメディアや影響力のある人がもっと上手な言葉で表現し、綺麗な写真でアートを取り上げて伝えてくれれば、きっとさらに認知されるのになと思う。」とおっしゃっていましたが、僕もそのあたりはすごく共感していて。日本ってそもそも「アート」という言葉がすごく胡散臭くなってしまっているというか。いろんな考え方があるので定義することも難しいとは思うのですが、非常に狭い範囲で語られてしまっている印象があります。アート至上主義みたいな人もたくさんいたり、逆に「アート」という言葉だけで、私にはわからない/関係ないみたいに拒絶してしまう人もたくさんいたり。愛知でもトリエンナーレが開催されるようになったりして、アートと関わる機会が増えたのは歓迎すべきことなんですが、結局何のとっかかりもない状態でそれを見せても、ぽか~んという反応が増えてしまうだけのような気がして。たとえば子供の教育の現場でも、絵を描かせたり工作をさせたりはするのですが、作品をどう観るかとか、どう楽しむかというような授業はあまりなかったな~と思います。

長尾さん自身が他の作家の作品を観るときに、どんなところを観るかとか、こういう視点で観ると面白いとか、逆に自分の作品をお客さんが観たときに、こういう観方するんだ~、とか、そういったエピソードがあれば教えていただけますか?

本当にそうですね。日本人にとってまだまだアートは空想的な言葉としてでしか存在していなくて、その実体は異物であり、あまりにも未知の世界です。アートというのは、もちろん未知で特殊な世界なのですが、それは自然現象などではなく、人工物なので、かならずその背景にはその作品を裏付ける何かがあります。そこを紐解く事がきっと最短距離にアートを楽しむ方法だと思います。もちろん説明不要な作品も多くありますが、たとえば綺麗、すごい、デカい、かわいいの第一印象のあとに、『でもなぜこうなったのだろう?』といった様な疑問や好奇心を持って欲しいです。その作品は必ず誰かの手によって作られています。なんとなく、たまたま出来た何かなのではなく、意図して生まれて来ています。しかしそこから先はおそらく見た人がその作品の世界に足を踏み入れないと、それ以上は知り得ません。どうか遠慮せずにアーティストやギャラリー、美術館の学芸員の人に気になる事はなんでも聞いて欲しいなと思います。それは彼らの大事な仕事の一つでもあります。

欧米では大きな展示では子供達のツアーもよく見かけます。そこでは先生が生徒へ、作品についての印象を聞いています。作品から感じるものをみんなで共有して、見えている以上の情報を作品から引き出していました。この光景はとても印象的で忘れられません。多くの日本の教育現場では答えは多くの場合一つです。そしてそこへ到達する事を良しとします。私たちはその様な中で育った人の多くで形成された社会に住んでいますので、このプロセスではアートは計れない事をまず知らなければなりません。そして自らアートへ歩み寄り経験する事が必要となります。これができると自分の意見を持ち、他人との違いを知る事ができ、お互いを尊重し合えます。他と異なる事が良しとされるアートの世界と、他と違う事が歓迎されない日本の社会。真逆ですね。ですので、僕らアートの世界に関わる人間の任務は、この入り口へいかに上手に多くの人を導く事が出来るかどうかが重要だと思います。

僕にとっても作品を見てくれた人と話すときは絶好に機会になります。制作のプロセス、アイデアの源、普段の生活や興味など、作品とアーティストは鏡のような存在だと思っていますので出来るだけきちんと答えています。これも一つのアーティストと社会との関わり方だと思っていますので、作品を見た人が喜んでくれて本当に嬉しいです。

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_ ベルリンでの初個展を終えて、手ごたえはありましたか?どのような反応だったのでしょうか?

個展の反響はとても良かったですね。オープニングの日だけでなく、会期中も出来るだけ多くの人と喋るようにしていましたが、新作5点を含めた10点のみの展示だったのですが、長い人では1時間近くも鑑賞してくれて本当に嬉しかったです。そして会期の後ですが作品も何点か売れましたので、全体を通してベルリンに長尾洋というアーティストが受け入れられたように感じとる事ができました。

_多くのメディアにも取り上げられていましたよね!ますます楽しみな、今後の活動予定を教えてください。

9月に愛知県立美術館で開催される企画展  第20回 美術家集団G回路展に作品を出展します。それと普段の制作に加えて、オーダーメイドの作品を数点と、ベルリンのフォトグラファー 、ManoloTyとのコラボレーション作品を現在制作中です。10月はイタリアのローマでの壁画プロジェクトにも参加してきます。

また、日本でも僕の作品をぜひ知ってもらいたいと思っているので、近い将来、国内でも個展を出来ないかなと計画中です。その時は作品の展示だけでなく、壁画の制作やグッズの販売なども出来たら良いなと思っています。ベルリンを拠点にして海外で沢山の刺激と影響を受けてさらに表現の幅と奥行きが生まれて来ていると実感していますので、この感覚を日本の方にも存分に楽しんでほしいですね。
そして今回のON READINGさんによる大変貴重なこのインタビューが沢山の読者の方々にとって長尾洋の作品と活動に注目してもらえるきっかけになれば幸いです。ありがとうございました。

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というわけで、文字通り、名古屋が世界に誇るべきアーティスト、長尾洋の作品が、9月23日(火)~9月28日(日)に愛知県立美術館で開催される、『第20回 美術家集団G回路展』にて生で観ることができるとのこと。今回はグループ展のため、作品点数は少ないものの、気合いの入った大作が展示されるもよう。近い将来、個展も国内で企画されるはずなので、是非チェックしていただきたい。また、ベルリンで展示した作品のエディション入りプリントもオンラインで販売しているので、気になった方はHPとあわせてご覧ください。
http://www.yohnagao.com/purchase/index.html

 

PangeaSeed Presents – Sea Walls: Murals for Oceans – Mexico Expedition: Isla Mujeres 2014 from PangeaSeed on Vimeo.

イベント情報

『第20回 美術家集団G回路展』
会期:2014年9月23日(火)~9月28日(日)
会場:愛知県立美術館 美術館ギャラリーJ1・J2
名古屋市東区東桜1-13-2
時間:午前10時-午後6時 金曜日は午後8時まで(入館は閉館時刻の30分前まで)
http://www-art.aac.pref.aichi.jp/

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Photography © Patricia Schichl

長尾 洋  Yoh Nagao

ドイツ・ベルリンを拠点に活動している愛知県出身のコラージュアーティスト・ポップアーティスト。
地元・愛知県の名古屋造形大学を卒業後、グラフィックデザイナー、イラストレーターとしての仕事の現場でも存分に個性を発揮しながらもアーティストとして精力的に活動。

ユ ニクロクリエイティブアワード2005(現UTGP)、世界ポスタートリエンナーレ富山、SHIFTカレンダーデザインコンペティション等の国際的なコン ペティションで作品がセレクションされる。2009年には人生初となる個展を香港で大成功させ、国際的なコンペティションでは2011年にARTAQ Urban Art Award(フランス)のコラージュ部門にて佳作を受賞。同年にはロンドンで開催されたPICK ME UP Contemporary Graphic Art Fairにも招待され、その後もNY、LA、チューリッヒ、ベルリン、パリ、アンジェ、ロンドン、東京などで開催されたアートフェアやイベントに多数参 加。2008年にはパリの有名セレクトショップ、Coletteでも作品が展示される。さらに、LODOWN magazine(ドイツ)、DAZED AND CONFUSED magazine(イギリス)、dpiマガジン(台湾)といった世界的に知名度のある雑誌や書籍にも取り上げられるなど、その独創的なスタイルやクリエイ ティビティー、世界観がさらに認知されてきている。

http://www.yohnagao.com/

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