SPECIAL INTERVIEW: 笹原清明&植本一子
ファッション誌や音楽誌、広告等幅広いジャンルで活躍中の写真家、笹原清明と植本一子。ともに第一線で活躍中の二人が、ポートレートをテーマに「作品」としての写真を発表した写真展 『ハロー グッバイ』を6月29日までON READINGで開催している。
過去と現在、それぞれの被写体を見つめ、パーソナルな物語を提示した今回の写真展。 ニュートラルな姿勢で被写体に向き合う笹原。 感情に寄り添うように刹那の想いを写真に込める植本。
一見、対称的にもとれる、ふたりのまなざしの先にあるものとは―。 それぞれの写真に対する想いをうかがった。
仕事はいろんな制約がある中で飛び越えて撮っていて、不自由でいびつなほうが美しいものが出来る可能性ってあると思うんですよね。 (笹原清明)
―それではまず、簡単な自己紹介をお願いします。
笹原:音楽雑誌やCDジャケットなどを撮ってます。先日は、仕事で佐野元春さんを撮影しました。
―笹原さんは写真学校を卒業されて、すぐに仕事を始められたんですね。
1999年~2000年頃はサブカル誌や音楽雑誌も若手の写真家を使ってくれる媒体が多かったので、バイトしながら営業して仕事をいただいていました。
―この展示を開催するに至ったきっかけを教えてください。
元々、一子ちゃんと僕は「音楽と人」という雑誌でよく撮っていて、お互い名前は知っていたんですけど。僕が新代田のcommuneで展示していた時に一子ちゃんが来てくれて、「今度一緒にやりませんか?」と声をかけてくれたのがきっかけです。その時は、普段撮っている風景写真の展示だったんですけど、一子ちゃんは音楽雑誌で撮っている僕の写真が好きだと言ってくれて、人物の写真で一緒にやりましょうと。
―それでは、一子さんが音頭をとったわけですね。
はい。「ポートレート」というテーマも一子ちゃんから出ました。だけどそこから撮りおろすとなると、仕事っぽい写真しか撮れない気がして、それも違うな、と。素直に撮った写真といえば、昔の写真しかないと思って、大学時代に撮っていた写真を取り出してみたときに、自分で感動しちゃって。懐かしさももちろんのことですが、そこに確実にあったものが、今はない。でも確かにあったことはここに記録されている。でももう二度と戻らない。そういう写真の残酷さと美しさがあるなと思ったんです。 一子ちゃんはたぶん、撮りおろしてほしかったんだと思うんですけど(笑)。
―作品を拝見しても、昔に撮られたものだと思えないです。
そうですね、モノクロ故の普遍性もあると思うんですけど、僕自身が見ても、仕事の写真と被写体との距離感が変わらない。あまり近寄らないというか。人のことは好きだけど恥ずかしくてあまり近づけないもどかしさが出ていて、昔からこんな写真撮ってたんだなと思いました。
―学生時代の頃と、今とでは、写真に対する考え方や態度って、変りましたか?
今では写真は生活というか、お金を稼ぐ手段でもあるのでビジネスという側面を抜きには見れなくなってしまいましたが逆にそんな現実的な部分から離れらなくなった今でも写真を撮ることが楽しいので、もしかしたら昔よりも写真が好きになってるかもしれません。
―植本さんの作品をみてどう感じられましたか。
かなわない(笑) 僕は、撮ってプリントした写真が答えで、ゴールになるタイプだけど、彼女はそんなのすっとばすというか。写真も、自分の生活や生き様の一部の歯車にすぎない。一枚一枚の写真をみてどうこうというよりも全部で「植本一子の生き様」という。僕にはできないことをやれる人だなあと。
―今回の展示では、過去に撮った写真に現在撮られた写真も混ぜて展示されていますね。
「ポートレート」というテーマともう一つ、桜を入れたい、というリクエストを一子ちゃんにもらって、桜の写真は撮りおろしました。どちらも懐かしさを表現できたらいいなと思ってます。カラーとモノクロが、昔の写真と今の写真という対比になっています。
―桜というのも、出会いと別れ、「ハローグッバイ」の象徴的なモチーフになっています。
「ハローグッバイ」というタイトルも、一子ちゃんがつけてくれたんですが、すごくいいタイトルだなと思って。写真て、ハローした瞬間からグッバイしてるから。
―それでは、笹原さんの写真観について、少しお話を伺っていきますね。笹原さんがよく仕事をされている音楽雑誌って、若い人たちにとっては写真の入り口になりますよね。僕たちもそうですけど、好きなミュージシャンの写真を観て、これ誰が撮っているんだろうっていうところから、写真に興味が生まれたり。
僕もそうです。上田義彦さん
―なるほど(笑)。そもそも笹原さんは、写真集をつくったり、展示というかたちで作品を発表したりすることってあまりされていないと思うのですが、仕事とは別に写真を撮りたい、という願望はないんですか?
そうですね~。自分の作品として写真集を作ることにもあまり興味がわかなくて。僕は、頼まれて撮るのが大好きなんです。例えば完璧な自己表現をしたいと思ったら、僕は小説とか油絵を書いたりしたいと思うんです。写真は、被写体は借り物だし、風景も自分が作ったものではないから。 でも一回ぐらい写真で「作品」を撮ってみたいというのは最近思ってきました。アンドレアス・グルスキー
―笹原さんは、Spangle call Lilli lineとして音楽活動もされていますよね。バンドで創る楽曲は、もちろん「作品」だと思うのですが、写真と音楽でバランスを取っている部分もあったりするんでしょうか?
写真で煮詰まってる時にバンドに助けられたりその逆だったり 両方が忙しいとストレスになりますけど(笑) ふたつとも大切なものですね。
―植本さんから、笹原さんへの質問です。「きーたんとは不思議な縁を感じます。一緒にいてほんとに苦じゃないです。きーたんはどうですか?」
ありがとう。僕も一緒です(笑)
笹原 清明
1975年生まれ。99年、東京造形大学卒業後にフリーランスの写真家として活動を始める。ファッション誌、音楽誌や広告写真を手がけている。バンド「Spangle call Lilli line」のメンバーでもある。
http://www.sasaharakiyoaki.com
被写体に助けられているという点は、昔から変わらないですね。(植本一子)
―それではまず、簡単な自己紹介をお願いします。最近のお仕事や近況なども。
植本一子、31歳、広島県出身です。19歳の時に写真新世紀で荒木賞をもらいました。キャリアはそこからと考えると、もう12年は写真で仕事をしていることになります。最近は写真だけでなく映像の方もたまに声をかけてもらったりします。ライフワークとしては下北沢で「天然スタジオ」
_そもそも、この展示は、植本さんから笹原さんにお声掛けして実現したそうですが、なぜ笹原さんと展示をしてみたいと思ったんでしょうか?
きーたん(笹原さん)はわたしの10歳上くらいだと思うのですが、わたしが写真を雑誌なんかでいちばん研究していた高校生の時によく名前は見かけていたんです。それで、その頃からいいポートレート写真を撮られるなあと思っていて。たまたま知り合いのギャラリーで展示されていて、その時が風景の写真だったので、なんかもったいないなあと思ってしまったんです。わたしもちょうど、展示をやってみようかな、と思っていた時期だったので、その時すぐに二人展を提案しました。
_植本さんが、今回の展示のテーマやタイトルを決めたということですが、そのあたりの意図や思いを、おしえていただけますか?
出会いと別れというのは、わたしの中で結構大きなテーマでもあり写真を撮る動機でもあって。いつかは誰とでも離れ離れになってしまう、という恐怖を少しでもやわらげるために、その人といた大事な一瞬を残しておこうというか、写真は自分のためにやっていることではありますね。
_今回展示してある作品について話していただけますか?
これはある男性との一年間の記録を時系列に写真を並べたのと、言葉は、その一年を通して感じたことをまとめたものです。人と人はいつか別れてしまうものと思いながらも、こうして一年間一緒に時間を過ごせたということが奇跡でもあるということがわかって、そういう気持ちを久しぶりに文章にしてみました。文章を書くことは「かなわない」
_これを機に、また文章を書いてくれるの楽しみにしてます。今回の展示で書かれている文章には、過去に書かれていたテキストの一部も引用されていますが、過去と現在を見比べて、植本さんの中で変わったこと、変らないことってあったでしょうか?
引用によく気づきましたね!そうなんです、わたしが写真新世紀で優秀賞を受賞した時の受賞コメントとして書いた一節
_笹原さんの作品についてはどう感じましたか?
きーたんは、圧倒的に人を肯定する力を写真に持っていると思います。そこが憧れでもあり、シンパシーを感じる部分でもあります。人柄と写真にブレがない気がします。とにかく優しい人で、今回は20年くらい前の学生の時に撮ったものだと聞きましたが、ちゃんと最初からその姿勢があったのが垣間見れて、嬉しかったです。
―なるほど~、「人を肯定する力」という点においては、確かに植本さんの写真と共通している部分と言えますね。今回の展示でも、著作の「働けECD」や「かなわない」で植本さんのことを知って、写真に興味をもったというお客さんがたくさんいらっしゃってます。僕が植本さんの写真を知った当時、ちょうど写真新世紀でアラーキーが「いいなぁ。人生がはみ出ている。」って評していたのを憶えているんですが、もう今や、「はみ出ている」どころじゃないですよね。そういうところに、植本さんの写真作品の魅力が凝縮されていて、ある種切実なものとして、見る側に迫ってくる何かがあると思っています。植本さんにとって、写真を撮ること、言葉を綴ることは自分にとってどういうことなのか話していただけますか?
自分を救う行為だと思います。どちらも、自分で自分を肯定するのに必要なものというか。それを見たり、読んだりした人が、また少しでも何か楽になれたり、気持ちが震えるようなことがあるなら、それはそれですごく嬉しいと思いますね。
―植本さんの写真や文章で、救われた、または救われる人って大勢いると思うんです。昔、魚喃キリコさんが、小泉智浩さんの漫画の帯に「甘ったるくなんかないけど、愛ばっかりだ。」ってコメントを寄せてて。僕、その言葉がすごく好きなんですけど、植本さんの写真や文章に触れると、いつもこの言葉を思い出すんですよね。何か身体の真ん中で感じるものがあるというか。逆に植本さんが、写真や、本などで救われた経験ってありますか?感銘を受けた作家や、特に尊敬している人などについて教えてください。
数え切れないくらいありますよ。世の中に芸術っていう純粋なものがあってよかった、と思います。その時々の自分の状況によって、見るもの読むものも変わりますし、19歳の頃はそれこそ魚喃キリコさんも一通り読みました。ずっと読み続けていて、どの状況でも発見があって、いつの自分にもしっくりくるなあと思うのは、やまだないとさんの「西荻夫婦」ですね。これも漫画ですが途中にモノローグがあって、それが素晴らしいんですよ。ブックオフとかで100円コーナーにあるとつい買ってしまって友達に配ったりします。あとは安田弘之先生の「ちひろ」ですね。安田先生は縁あって今でも非常にお世話になっているのですが、先生のことは心から尊敬します。「ちひろ」と、続編の「ちひろさん」を読めばわかります(笑)
―それでは、きーたんからの質問です(笑) 「一番落ち着く時間はどんな時ですか?」
一番落ち着く時間・・・!!!家で、夜、子供も寝静まって(21時とか)旦那も仕事で遅くて帰らなくて、静かな家で一人起きてる時が一番落ち着きますね。一生帰ってこなくていいとも思います(笑) この時よ永遠に・・・と! 私にとっては誰かがそばにいて、且つ一人でいれる、ということが大事な気がしますね。
植本 一子
1984年広島県生まれ。2003年にキヤノン写真新世紀で荒木経惟氏より優秀賞を受賞。写真家としてのキャリアをスタートさせる。広告、雑誌、CDジャケット等幅広く活躍中。
http://ichikouemoto.com
6月17日(水)~6月29日(月)
笹原清明 × 植本一子 写真展 『ハロー グッバイ』
会場:ON READING 名古屋市千種区東山通5-19 カメダビル2A
営業時間:12:00~20:00
定休日:火曜日
問:052-789-0855
http://onreading.jp/