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FEATURE / 特集記事 Jul 22. 2015 UP
【SPECIAL INTERVIEW】
愛知県美術館・副田一穂、愛知県芸術劇場・山本麦子、
2人のプロデューサーが語るアートと演劇。その楽しみ方。

愛知県美術館&愛知県芸術劇場(いずれも栄・愛知芸術文化センター内)

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もうすぐ夏休み!

夏といえば、花火、キャンプ、野外フェス、青い海、青い空、夏のキラキラを追いかけてどこか遠くへトリップ……。いずれもきっと楽しいけれど(いや絶対的に楽しいはず)、立ちはだかるそんな夏の代名詞たちを差し置いて、LIVERARYでは「アートに触れるショートトリップ」をご提案。

夏休み期間中の8月13日(木)〜15日(土)の間、愛知芸術文化センター(愛知県美術館・愛知県芸術劇場)では、演劇と美術展を結ぶ、相互キャンペーンが実施される。期間中に開催されるのは、演劇『茨姫』(会場:愛知県芸術劇場・小ホール)と、美術館企画展「芸術植物園」(会場:愛知県美術館 ※こちらの会期は、8月7日(金)~10月4日(日)まで)の2つの企画。相互入場特典や、演劇の予習ができる非売品の脚本などがセットになった特別チケットの販売などもあり、「もっと気軽にアートも演劇も触れてほしい」という思いが込められたキャンペーンとなっている。

しかしながら、「普段なかなか美術館へ行かない人も、演劇を見たことない人もこのキャンペーン中にぜひ!」といきなり言われたところで、一般的には美術館も演劇も縁遠い方が多いはず…。そこで今回、LIVERARYでは、編集部内で最もアートやカルチャーに疎い(だけどさわやかな笑顔が素敵な)好青年スタッフ・井戸健輔が、この夏、美術館と劇場がイチオシするこの2大企画について、各企画のプロデューサーである愛知県美術館・副田一穂さん愛知県芸術劇場・山本麦子さん両名にプレゼンしてもらう、という誌上企画を実施。

前述した「普段なかなか美術館へ行かない人も、演劇を見たことない人も」に該当する井戸君は、もちろんインタビュー取材も人生初。そして、アートビギナーとプロデューサーの対談、というLIVERARYにとっても、お二人にとっても初の試みとなった今回、ぜひお手柔らかにご笑覧ください。

 

 

SPECIAL INTERVIEW WITH

KAZUHO SOEDA [ Aichi Prefectural Museum of Art ]

MUGIKO YAMAMOTO [ Aichi Prefectural Arts Theater


Interview & Text : Kensuke Ido [ LIVERARY ]
Interview , Text & Edit : Takatoshi Takebe [ THISIS(NOT)MAGAZINE, LIVERARY ] 
Photo : Shunsaku Hirai

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写真左から、山本麦子(愛知県芸術劇場)、副田一穂(愛知県美術館)

 

副田:まず、井戸君は、愛知県美術館にいらしたことはあるんですか?

井戸:(元気よく)ないですね!小学生の頃遠足で地元の岐阜県美術館には行ったことあるんですが。先生に静かにしなさい!とかしか言われなくて、あまりいい思い出がないです…。

副田:ただなんとなく有名な絵を見せられても、そのおもしろさとかってなかなかわかりにくいだろうと思います。井戸君も自らの意思で美術館に行くことはなかったわけですよね。

井戸:例えば、「フランスのルーブル美術館」みたいな、そういう有名な美術館は行っておきたい!というか、押さえときたい場所って気持ちはあるんですが。

山本:観光の一つとして、ってことですね。

副田:じゃあ、ぜひ当館(愛知県美術館)も押さえといてください(笑)。でも、まあ美術館にわざわざ行くっていうのは結構なことだよね。しかも展覧会に行くとそれなりにお金もかかるわけで、行こうと思う気持ちは結構強くないと動かないはず。しかも美術館って「静かにしなくちゃいけない」みたいな暗黙のルールがあって、気軽には行きにくい場所、敷居が高いような存在になっているんだと思います。正直、ひと昔前までは美術館の人間も、別に敷居が高くても良いと思っていたところがあるようですが、ここ10年、20年はやっぱり一人でも多くの方に来てほしいということで、中の人たちの意識も変わってきています。だから、美術館の雰囲気も変わってきていて、とにかく楽しく展示を観てもらえるように、という感じになっています。学芸員のトークなどのイベントも増えていますし、今はお客さん側に美術館側が歩み寄ろうとする時代になっていると思います。

武部:ちなみに、井戸君は演劇も観に行ったことないよね?

井戸:ないですね。でもちょうど行きたいと思っていたんです!

武部:え、ウソっぽ!(笑)。

 

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井戸君と楽しげに談笑するお二人。普段は別々の部署に所属している山本さんと副田さん。この取材時にはじめてお互いの年齢を知る、なんてことも…。

 

山本:ちなみに、なんで演劇に行きたいと思ったんですか?

井戸:今日マチ子さんの『cocoonっていう演劇が来週あるんですが、それを観たいと思ってました。原作の漫画を買って、演劇も観たいと思っていたところで。

山本:なるほど、漫画から入ったんですね。最近はそういう他のジャンルと演劇がコラボしたりすることが多くなってきています。さらに言えば「演劇」って「現代アート」のジャンルに近くなってきていて、だんだんアートの一部みたいになってきているのも最近の傾向ですね。作品内容もそうなってくるし、お客さんも現代アートが好きで、現代演劇も好きで、音楽も好きで…ていう感じで。ジャンルにこだわらず好きなものを観る、という感覚で、視野が広がってきていると思います。今回の『茨姫』は、「地点」という京都のカンパニーさんと一緒に作っています。「地点」は美術家の方からも評価が高く、空間現代というバンドと一緒にやる公演があったり、少し変わったことをしているカンパニーです。

 

空間現代は、評論家・佐々木敦主宰レーベル「HEADZ」に所属するバンド。編集・複製・反復・エラー的な発想で制作された楽曲を、スリーピースパンドの形態で演奏する。今秋には地点とのコラボ第2弾となる新作を発表の予定。なお、同レーベルには蓮沼執太サンガツといった演劇シーンなど多角的且つ複合的な活動をするアーティストが多数所属している。彼らの活動が山本さんの言う、演劇と現代アート、その他のさまざまな要素をミックスし距離を近づけている要因のひとつとも言えるのではないだろうか。

 

井戸:「カンパニー」というと…会社なんですか?

山本:「カンパニー」って会社とかの意味ではなくて「劇団」などの集団やチームのことを指します。役者だけでなく演出する側、スタッフまでを含んだ意味で。ちなみに、「ダンス」のジャンルでも使いますね。

井戸:なるほど。業界用語ですね!

武部:では、山本さんが企画した今回の演劇『茨姫』について詳しく教えて下さい。

井戸:よろしくお願いします!

山本:はい、ではがんばってプレゼンしたいと思います(笑)。えっと、まず年に一度当館で主催している、「AAF戯曲賞」という戯曲(=脚本のようなもの。脚本・台本・シナリオなどを文学として捉えた言葉)のコンテストがあるんですが、そこで受賞した作品を翌年上演するという企画なんです。で、今回「地点」という尖ったことをやっているカンパニーが上演したらどうなるのか?という私たちにとっても期待作であり、意欲作となっています。物語の内容は、ある街で冬虫夏草(とうちゅうかそう)症という病気が流行ってしまって、植物になってしまう子がいるんです。その子が入院していて、ある少年がその女の子のところにたまたま弟のお見舞いついでに出会ってしまう。そこで芽生える恋心。最後はどんでん返しが…!?という作品になっています。で、それをそのままやるのではなく、物語の要所を抽出して現代アート的なコラージュした演出になっているのが見どころです。

 

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写真:『茨姫』よりイメージカット。(撮影:羽鳥直志) 作:水都サリホ、演出:三浦基、出演:安部聡子 石田大 小河原康二 窪田史恵 河野早紀 小林洋平、田中祐気。

地点 CHITEN 
多様なテクストを用いて、言葉や身体、光・音、時間などさまざまな要素が重層的に関係する演劇独自の表現を生み出すために活動している。劇作家が演出を兼ねることが多い日本の現代演劇において、演出家が演出業に専念するスタイルが独特。2005年、東京から京都へ移転。2006年に『るつぼ』でカイロ国際実験演劇祭ベスト・セノグラフィー賞を受賞。2007年より<地点によるチェーホフ四大戯曲連続上演>に取り組み、第三作『桜の園』では代表の三浦基が文化庁芸術祭新人賞を受賞した。チェーホフ2本立て作品をモスクワ・メイエルホリドセンターで上演、また、2012年にはロンドン・グローブ座からの招聘で初のシェイクスピア作品を成功させるなど、海外公演も行う。2013年、本拠地京都にアトリエ「アンダースロー」をオープン。(法人名:合同会社地点)<以上、公式ホームページより

 

井戸:えっと……すいません!それってどういうことですか?

山本:例えば、特徴的な演出として、夢の中で少女と少年が出会うシーンが多いので、そのシーンを寝ながら役者が喋る寝言のような演出にしてみよう!というアイデアが演出家から出たんです。どこまでが現実でどこまでが夢なんだろう?みたいな…。

井戸:なるほど!

 

初めて演劇を見る方も「演劇ってこうだよね」という既成概念が無い分、おもしろい!と思っていただける作品かも(山本)

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井戸:ちなみに会場は「小ホール」ってところなんですよね?どんな場所なんですか?

山本:うちの劇場って客席と舞台が仕切られた「プロセニアム」(額縁型)ではなくて、80年代、90年代にアンダーグランドな演劇が流行ってきた時に設計された「ブラックボックス」っていわれる形になっています。なんて言ったらいいかな……大きなライブハウスみたいなものと思ってもらったらいいかもしれません。さまざまな演出に対応ができる舞台なんです。

井戸:お〜。なんかすごそうですね!

山本:ホール中央に「セリ」と言われる上げたり下げたりできる部分があって、公演によってどこをどんな高さで舞台に使うのか?どう客席を作るのか?を自由に考えられるのが小ホールの特徴です。今回は、「空(から)のプール」のようなイメージでセリを全部下ろして、お客様がそれを囲むような…ちょっと変わった形になる予定です。フライヤーが「水に浮かぶバラ」のビジュアルで「水」とか「海」などのイメージがあるのでちょっと幻想的な感じになりそうです。WEBでも戯曲が読めるのでどんな演出をしてくるか?をおもしろがっていただけたら嬉しいですね。初めて演劇を見る方も「演劇ってこうだよね」という既成概念が無い分、おもしろいと思っていただけるかも、と思っています。

 

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こちらが小ホール。今回『茨姫』上演の際は、ステージが下に下がって観客は上から役者たちを見下ろす不思議な状況になる。

 

井戸:ちなみに、この作品を名古屋でやることになったのは、山本さんからカンパニーへ、お願いしに行ったんですか?

山本:そうですね。「AAF戯曲賞」で受賞した作品をどのような舞台にするかを劇場側で話し合って、どんな演出家の方にお願いするかを決めていきます今回は、海外からも注目されている「地点」の演出家・三浦基さんのところへ頼みに行こうということになって。ちなみに「地点」はこの前、北京で公演があったり、毎年ロシアやヨーロッパなどへ行って世界で活躍されている存在なんです。8月の名古屋公演が終わったら、次はスイスへ旅立つ予定になっています。だから、演劇好きの方の中ではかなり注目されている方なので、今回の公演に関してすでに東京など県外のお客さんからのご予約もいただいています舞台美術は「ヨーロッパ企画」というカンパニーなどの美術でも活躍されている長田佳代子さんという女性美術家で、「地点」とも初コラボになります。こちらも楽しみにしていただければ、と。

 

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三浦 基 (みうらもとい)

地点代表、演出家。1973年生まれ。桐朋学園芸術短期大学演劇科・専攻科卒業。 1996年、青年団(平田オリザ主宰)入団、演出部所属。1999年より2年間、文化庁派遣芸術家在外研修員としてパリに滞在する。2001年帰国、地点の活動を本格化。2005年、京都へ拠点を移す。著書に『おもしろければOKか? 現代演劇考』(五柳書院)。2008年度京都市芸術文化特別奨励者。2010年度京都府文化賞奨励賞受賞。2011年度京都市芸術新人賞受賞。現在、京都造形大学客員教授。(撮影:松本久木)

 


井戸:へ〜!こういう演劇作品って
製作準備期間ってどのくらいかかるもんなんですか?

山本:昨年の12月に『茨姫』が賞を取ったところからスタートしていて、7、8ヶ月くらいですね。具体的な稽古の準備は4月くらいからで、7月に入って本格的に毎日京都にある「地点」さんのアトリエで練習がスタートしています。普通は、だいたい1年くらいかけてプロジェクトを組むんですが、AAF戯曲賞の場合は作品の決定が遅いのもあって制作サイドはいつも追い込まれてます。

井戸:あと、気になってるんですが、演劇って何分くらいやるんですか?

山本:演劇の中では短い方で、上演時間は約1時間です三浦演出は、作品を全編やるのではなく、コラージュして、ここは美味しいぞっていうところを1時間でまとめられているんです。「作品の良いところだけを抽出する、まるでドリップ珈琲のような演出」と言われています。演劇って長いものだと、休憩を挟んで3時間!とかっていう作品もあるんですが。

井戸:3時間!?さすがに休憩挟んでもダレちゃいますね…きっと。1時間なら我慢できそうです!

武部:我慢…って(笑)。

井戸:失礼しました。1時間ならほどよく集中して楽しめると思います!楽しみにしています。

 

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イベント情報

2015年8月7日(金)〜10月4日(日)
芸術植物園
会場:愛知県美術館 (愛知芸術文化センター10F)
開館時間:10:00〜18:00 金曜日は20:00まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:毎週月曜日 (ただし9月21日[月・祝]は開館)、9月24日(木)
チケット料金:一般 1,100(900)円/高校・大学生 800(600)円 /中学生以下無料
※期間中、一部作品の展示替えを行います
問:愛知県美術館 TEL:052-971-5511(代)

 

2015年8月13日(木)〜15日(土)
愛知県芸術劇場ミニセレ 第14回AAF戯曲賞受賞作『茨姫』
会場:愛知県芸術劇場 小ホール(名古屋市東区東桜1-13-2 愛知芸術文化センターB1F)
時間:全日19:30〜
※開場は開演の15分前、チケットの整理番号順の入場。
問:愛知県芸術劇場 TEL:052-971-5609(代)

 


<愛知県美術館『芸術植物園』展×愛知県芸術劇場『茨姫』コラボレーション企画について>

【特別予習セット】4000円
+『茨姫』チケット (一般・日時指定当日3,500円)
+『茨姫』戯曲(1冊・非売品)
+愛知県美術館『芸術植物園』展チケット(当日1,100円)
+美術館オリジナルバスソルト&アートカードセット(400円)
→5,000円相当の内容が、4,000円でお買い求め可能に!
 
【相互特典】『茨姫』チケット・半券を美術館窓口でご提示いただくと『芸術植物園』展当日券が100円割引に(当日券のみ、他割引併用不可)公演当日、『芸術植物園』展チケット半券または美術館友の会会員証提示で美術館オリジナルポストカードをプレゼント。
 
愛知芸術文化センター10階美術館ミュージアムショップにて販売(※7月26日まで)
お問合せ:TEL:052-971-5609 MAIL event@aaf.or.jp
※特別予習セットに関してお取り置き等のご要望は上記連絡先まで

 

山本麦子
1982年名古屋市生まれ。大学卒業後、広告代理店での営業経験を経て2014年より愛知県芸術劇場にて演劇担当プロデューサーとして働く。主な担当事業に「パブリック・イメージ・リミテッド」(2015年)、AAF戯曲賞など。愛称はムギムギ。

副田一穂
1982年福岡県生まれ、2008年より愛知県美術館学芸員として働く。主な企画に「マックス・エルンスト:フィギュア×スケープ」(2012年)など。趣味は多肉植物の栽培とこけし蒐集。

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