愛知県芸術劇場・小ホール(愛知|栄)、喫茶モノコト(愛知|千種)
いわゆる音楽を体感する場が「コンサート」であるとしたら、そこからはこぼれ落ちてしまうような前衛的な音楽作品や、「舞台/演劇」というカテゴリーからは逸脱した台詞・身体表現を伴う作品など未分類な新しい音楽×パフォーマンスを一挙に紹介する場、それが「サウンドパフォーマンス・プラットフォーム」である。
例年、行われてきた同イベントに今年も公募枠、ゲスト枠含め、全10組のアーティストが集う。日程は2月10日(土)、12日(月・休)。会場は、昨年リニューアルオープンを果たした愛知県芸術劇場・小ホールにて(同プログラムは愛知県芸術劇場による企画シリーズ「ミニセレ」の一環)。
2日間に渡り、事前に審査員によって選出された6組の公募アーティストと4組のゲストアーティストが両日に渡ってパフォーマンスを繰り広げる。公募枠からは、世紀マ3、おおしまたくろう、清水卓也、いまいけぷろじぇくと、山本和智、Aoiが選出され、ゲスト枠では、堀尾寛太、米子匡司、荒木優光、サンガツが出演する。
LIVERARYでは、公募枠の選出を行った審査員5名にそれぞれが考える「サウンドパフォーマンス」とは何なのか?また、オススメしたい注目のアーティストについて伺った。
今回、審査を務めたのは、ゲスト枠で出演するサンガツを始め、蓮沼執太、□□□、goatなど時代の最先端をゆくアーティストらを多数排出してきたレーベル「HEADZ」から音源リリースをしているバンド・空間現代のGt./Voであり、京都にて「外」というライブスペースをつくった、野口順哉。
名古屋・新栄でオルタナティブスペース「パルル」を運営し、長年に渡って愛知のアートシーンに携わってきた新見永治。
名古屋・鶴舞のライブスペース「K.D Japon」や、千種のギャラリー兼喫茶「喫茶モノコト」を運営し、自身もコンテンポラリーダンサーとしての顔を持つ、森田太朗。
名古屋・矢場町で作家やアーティスト〜バンドマン、ラッパーまで幅広く現在進行系の表現者たちが集う場所として運営される「spazio rita」店長であり、ミュージシャンでもある猫町。
そして、「サウンドパフォーマンス・プラットフォーム」の企画・主催者である愛知県芸術劇場のプロデューサー、藤井明子。
以上、5名の審査員はそれぞれに「場」を持ち、これまで多くのアーティストを見てきた彼らと交わしたQ&Aをここに掲載する。
SPECIAL INTERVIEW:
JYUNYA NOGUCHI,
EIJI SHIMMI,
TARO MORITA,
NEKOMACHI
AND
AKIKO FUJII
Text&Edit: Takatoshi Takebe [THISIS(NOT)MAGAZINE,LIVERARY]
―ではまず簡単に自己紹介からお願いします。
野口(空間現代/外):バンド・空間現代でギターボーカルと作詞を担当しています。空間現代は2016年に活動の拠点を東京から京都に移し、同年9月にはバンドが運営するライブハウス/スタジオとして「外」をオープンしました。「外」は、空間現代の楽曲制作や録音を行う為のスタジオ兼ライブハウスとして運営されています。ライブハウスとしては毎月、空間現代のライブを主としつつも国内外・ジャンル問わず様々なアーティストを招いたイベントの主催(またはイベンターとの共催)を行っています。ホールレンタルを行わず、いずれも空間現代がディレクションに関わるという方針のもと、ご来場頂いた方にとっての「新しい音楽との出会いの場」となるよう努めて運営に励んでいます。
野口順哉
新見(パルル):名古屋市中区でイベント・
新見永治
森田(K.D Japon/喫茶モノコト):2003年より鶴舞高架下にて演劇・ダンス・パフォーマンス・音楽などの総合的なライブスペース[K・Dハポン〜空き地〜]を運営する。2016年展示に特化したスペース[喫茶モノコト〜空き地〜]を千種区(ちくさ正文館書店2F)にオープン。どちらも遊びを生み出し遊びを創る場所と位置づけサブネームに 〜空き地〜 をつけて運営しています。
森田太朗
猫町(spazio rita):栄5丁目でフリースペースという名のオルタナティブスペースをやっています。平日は展示、受注会、トークショーなど。土日はライブイベントなどをメインに営業してます。
藤井(愛知県芸術劇場):愛知県芸術劇場企画制作グループ・チーフマネージャー兼シニアプロデューサーの藤井明子です。愛知県芸術劇場を含む愛知芸術文化センターに、開館から勤務して、いろいろな音楽事業に関わってきました。公立の劇場なので、民間のイベンターやスペースではできないが、ぜひ多くの人に観聴きしてほしいもの、やるべきものを取り上げてきました。
藤井明子
―今回、審査を行うにあたり〈サウンドパフォーマンス〉という芸術表現について、みなさんそれぞれどのように解釈されたのでしょうか?
野口:「サウンドパフォーマンス」という言葉はとてもやっかいなものだと思いました。「音楽」でも「パフォーマンス」でもないもの、とまずは受け取りましたが、この「どちらでもないもの」というものを定義するのはとても難しい。ただ枠組みから外れていればよいという訳にもいきませんし、かといって既存の枠組みに回収されてしまうものをよしとする訳にもいきません。しかしながら、音楽を作る者として、あるいはライブハウスを運営する者として「サウンドパフォーマンス」という言葉に潜む魅力と、その名付けの感覚は非常によくわかるのも確かなのです。近年その地位を確立してきた「サウンドアート」という言葉を避けた意図や、いわゆる「音楽」いわゆる「パフォーマンス」とは異なるものを発掘しようとする企画者の開拓精神。それらを尊重した上で、自身の立場と経験に引き寄せつつ、次のような定義を仮に行い、また自身の審査基準としました。それは「《音楽》と《そうでないもの》、その距離の変化と過程そのものがパフォーマンスとなっていること」というものでした。
新見:単純に「サウンドを軸に据えたパフォーマンス」と捉えました。
森田:サウンドパフォーマンスとはサウンドだけでは無く身体性を伴った表現であり。既存のダンスや音楽では表現できないパフォーマンス性を加味した芸術表現。既成概念に囚われないアート性も重要な要素であると考えています。
猫町:聴覚上ギリギリ音楽であり、視覚上ギリギリ肉体表現してればいいのかな、と思いました。感覚上基本的に理解あんまりできてないです。
藤井:「音楽」も「美術」も「ダンス」も「演劇」も、今や、いろいろ多方面に可能性が延びていて、どんな表現でも「アート」と認められるようになりました。そこには大きな自由があると思っています。しかし、では究極のところ、劇場でやる「音楽」って何が大事なの?と考えた時に、「サウンド(音)」と「パフォーマンス(人間の身体によるライブ)」だと思います。
―それを踏まえ、どのようなポイントで今回の応募アーティストの評価/選考をしたのでしょうか?
野口:まず、「サウンドパフォーマンス」という今回の舞台における、「サウンド」と「パフォーマンス」という言葉について考えました。
「サウンドパフォーマンスはただの音楽ではない」という前提のもと、上記の基準が生まれました。しかし、「サウンド」という言葉をどう捉えるかといった時に、私はやはり「音楽」というものと結び付けなければならないと思ったのです(もちろん、ノイズだから駄目とか、メロディがないから駄目という意味ではありません)。それは、そうでなければ「サウンド」自体は面白くなくてよい、ということになってしまいかねないからです。「サウンド自体は面白くなくとも、それが何らかの効果をもたらすものであればよい」という考え方では、演劇やダンスなどの舞台芸術との差異がなくなってしまうと考え、慎重に審査しました。
という項目で考えました。
「パフォーマンスと銘打ちさえすれば来場者全てが観客/聴衆になるとは限らない」という前提のもと、このような基準が生まれました。そのため、パフォーマー側が自己完結してしまっているような見え方になってしまう可能性があるものは減点対象としました。また応募要項にもある通り、パフォーマーがそこに居る必然性も重要視しました。サウンドアートやサウンドインスタレーションとの差異についても考えながら選びました。
新見:サウンドとパフォーマンスという二つの言葉をどのように解釈し、
森田:何組かライブが観たいと思うほど音楽性の高いアーティストも応募されたのですが、残念ながら落選とさせていただきました。さきほどの質問の答えとも被るのですが、身体性パフォーマンス性が伴った表現であり、コンセプトと作品の純度の高いアーティストを優先して選びました。
猫町:審査の定義が最初しっかりしたものではなかったので、審査委員みんなで議論してある程度方向が決まって、改めて去年自分が応募して落とされたのは正解だと思いました。自分は見たいなと思ったのを第一に上げました。
藤井:「サウンド(音)」と「パフォーマンス(人間の身体によるライブ)」そして、その組み合わせ、という3つのポイントです。
―今回、審査をする上で印象に残ったアーティスト、もしくはイチオシのアーティストは?見どころも教えてください。
野口:「清水卓也」です。曲=楽譜があり、ちゃんとした打楽器奏者がいて、しかしそこに楽器はなく、あるのは横たわった女性の体。演奏者が楽器のようにその体を叩けば当然ペチペチ音が鳴る訳で、楽器ではないとは言えども微細な音色の差やリズムは伝わってきます。これだけ見れば単に楽器の代わりに体を置き換えた以上の事はない様に思えるのですが、最大のポイントは叩かれ続けた女性がふと漏らしてしまう声にあると思いました。楽器の抵抗、あるいはパフォーマンスの露見。その声こそが音楽を隠すことで生まれた新たな余剰であり、サウンドパフォーマンスという言葉の持つ可能性や魅力が訪れた瞬間かもしれない、と思わずハッとしてしまいました。愛嬌や可笑しみがあるのもポイントでした。思わず見入ってしまう/聴き入ってしまう仕掛けと、観客を飽きさせない工夫が伝わってきました。
また、ちゃんと楽譜があり、ちゃんとした打楽器奏者が叩くという設定が効いていると感じました。その事が演奏という行為(あるいは楽譜と演奏者と楽器の関係性)の異化やずらし、そして音楽というものへの批評性(外部からの応答/外部への開き)を生んでいるのだと思います。
新見:「Aoi」です!上記の回答の繰り返しになりますが、
森田:イチオシは「清水卓也」さんです。作曲された打楽器スコアを、人の身体を楽器に見立て忠実に演奏すると云う、現代版 腹つづみ!身体性も痛い程伝わってくるプリミティブでいてユーモラスそしてシニカルな現代的表現。
猫町:「おおしまたくろう」です。見た映像では子供が無邪気にプラレールで遊ぶ姿と、遠くから大人が恐る恐る見てる姿の同居感が面白かったです。
藤井:私はイチオシ!を一つに絞れないので、選ばせていただいた皆さんについて一言ずつコメントを添えたいと思います。
「世紀マ3」
応募企画書が迫力のあるイラストだったことに驚かされました!和太鼓、缶カラ三味線、サーキットベンドによるパワー炸裂を期待しています。
「おおしまたくろう」
家庭にあるいろいろな物や楽器などをパフォーマーが次々に組み合わせて行って最後には複雑なサウンドシステムを組み上げています。
「清水卓也」
まさに人体が打楽器となっています。いわゆるボディーパーカッションではないところがポイントです。きちんと作曲され曲を楽譜通りに打楽器奏者が演奏しているとは驚きました!
「いまいけぷろじぇくと」
このユニットも作曲作品を演奏するのですが、使うのは棒のみ!身体を使っての演奏(パフォーマンス)っていったい何?と考えさせられる作品でした。
「山本和智」
オリジナル電子楽器「ヴィデオロン」による、映像と音のコラボレーション。映像作品を演奏する、新しい表現だと思いました。
「Aoi」
どのような空間にも実際の音はある。でも音を視覚―文字、イラスト、記号、行為-からイメージする、それもまた音楽といえるのではないか、と考えさせられました。
―では、ゲストアーティスト4組(堀尾寛太/米子匡司/荒木優光/サンガツ)の中でオススメは?その見どころも教えてください。
野口:「サンガツ」です。どのアーティストも非常に面白い活動をされている方々ですので、どれもオススメ・・・なのですが、強いて挙げさせて頂くとサンガツがどのようなパフォーマンスを行うのかはとても興味深く思っています。音楽というもの、楽曲というもの、作曲というものについての当たり前を少しズラしつつも、その本質に辿り着こうとするサンガツの姿勢は、今回の「サウンドパフォーマンス」という言葉が抱える困難について考える上でも大きなヒントを与えてくれる様な気がしています。
新見:「荒木優光」さんです!これまでサウンドデザインと音響を担当した『三人の女』(愛知県芸術劇場 小ホール)とシンフォニーLDK(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA)を見ただけですが、いずれも音というものが自律したものではなく、環境の一部であることを感じさせられるものでした。鑑賞者を取り込むようなその広がりや深みが印象に残りました。
森田:どのアーティストもおすすめです。精鋭揃い!現場でどの様な空間が立ち上がるのか楽しみにしています。
猫町:「サンガツ」は昔聴いていたので、10年以上経ってどんな変化があるのかなと思います。
藤井:ゲストアーティストも、もちろん4組すべてオススメです。
「堀尾寛太」
自立して動く物や光を発する物の思いもかけない使い方でパフォーマンスやインスタレーションを作る。今回はマイクそのものを移動させたり、劇場の照明と日常の照明を組み合わせるなど、アナログとデジタルな手法の混在とバランスから発せられる音にご着目ください。
「米子匡司」
日用品に小型スピーカー、モーター、水滴、光の点滅などを組み合わせた音具・装置や、時にはトロンボーンの演奏を、その環境に置くことで、その場をひっそりと変化させる。小ホールのどこに何が置かれるのか探索してほしいです。
「荒木優光」
聴くこと/耳に聞こえること、視覚と聴覚の同調/ギャップに着目したパフォーマンスなどを行う。AAF戯曲賞受賞作「みちゆき」ほか演劇・舞台の音楽も多い。今回は、特別な音の発生装置やパフォーマーに依らない、「部屋」そのものによるサウンドパフォーマンス。「聴く」とは?一人一人が問い直す機会になるはず。
「サンガツ」
2011年より音を鳴らすためのプラットフォームを“作品”として提示するプロジェクトを開始しています。今回も、ハンドベル、拍手、ロープ(?)などを使って移動しながらのパフォーマンスを計画中です。
―審査員のみなさん、ありがとうございました!
2月10日(土)、12日(月・休)に開催される「サウンドパフォーマンス・プラットフォーム」。今年も全アーティスト見逃せない、音と身体表現の臨界点に迫る実験的でココでしか体験できない貴重な二日間になることだろう。
LIVERARYでは、ゲストアーティストとして出演する
「サンガツ」をフィーチャーした関連企画を開催!
新しい解釈での「音楽」を追求する、サンガツ
今回の「サウンドパフォーマンス・プラットフォーム」のために新作公演を行うサンガツ(2月12日(月・休)出演)。おそらく国内初となる「ポストロック」バンドであり、その後形態を変えながらも「音楽」として表現してきた彼ら。現在においてはカテゴライズすらできない究極的な意味での「音楽」の形を追い求めてきたと言えるだろう。そんなサンガツとともに、本番前日にあたる2月11日(日)、LIVERARY主催特別企画「サンガツのワークショップ」を開催。会場は、今回審査員も務めた森田太朗が運営する「喫茶モノコト」にて。こちらのスピンオフイベントも本公演とともにぜひ参加してみてほしい!
サンガツのWSイベント詳細についてはこちらの記事をチェック
2018年2月10日(土)・2月12日(月・休)
サウンドパフォーマンス・プラットフォーム2018 -知覚の解放体験-
会場:愛知県芸術劇場・小ホール
時間:2月10日 17:00〜/2月12日 15:00〜
料金:一般(2日通し券) ¥3,000 一般(1日券) ¥2,000 U25(1日券) ¥1,000
高校生以下無料
(要予約 電話(TEL 052-971-5609)又はメール(event@aaf.or.jp)にて)
出演/演目:
2月10日(土)
世紀マ3「拝啓、高架下より」
/おおしまたくろう「PLAY A DAY」/
清水卓也「Polymorphism」(打楽器奏者:林美春 使用打楽器:池田萠)
【ゲストアーティスト】堀尾寛太/米子匡司
2月12日(月・休)
いまいけぷろじぇくと「身体奏法/stick」岩渕貞太作曲(いまいけぷろじぇくと委嘱作品)/
山本和智「Play-Replay-Meta-play」/
Aoi「声のないうた」
【ゲストアーティスト】荒木優光/サンガツ
※チケットは当日券のみ
※U25は、公演日に25歳以下の方が対象(要証明書)
※受付開始は各日開演時間の45分前から
※2日通し券は特製ステッカー付き!
※内容、出演者は変更になる場合がございます。あらかじめご了承ください。
主催・問い合わせ:愛知県芸術劇場 TEL:052−971−5609
詳細:http://www.minisele2017.com/
【関連イベント】
2018年2月11日(日)
サンガツのワークショップ
簡単なルールから 音楽をつくってみよう。
presented by LIVERARY
会場:喫茶モノコト
時間:OPEN19:30/START20:00(〜22:00頃まで)
参加料金:1500円+1DRINK500円(※小・中学生は参加料金500円のみ)
※定員25名程度。
※予約優先
※小学生以上が対象小学校低学年の参加者の方は保護者同伴がオススメ)
出演&講師:サンガツ
予約:
メール:info@liverary-mag.com
(氏名、人数、連絡先明記の上、メール下さい)
※Peatixからも予約可能
TEL:070-6411-7531(喫茶モノコト)
主催:LIVERARY
協力:喫茶モノコト、愛知県芸術劇場