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LIVERARY
FEATURE / 特集記事 Apr 19. 2016 UP
【SPECIAL INTERVIEW】
ダンサー・島地保武とラッパー・環ROY。
たった2人で創りあげる、前人未踏の“何か”。

ミニセレ ダンスとラップ〜島地保武 × 環ROY「ありか」

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コンテンポラリーダンサーの島地保武と、ラッパーのROYによる舞台作品「ありか」が、422日(金)から24日(日)まで愛知県芸術劇場にて上演される。同作品は、愛知県芸術劇場小ホールで行われる公演ラインナップ「ミニセレ」の2016年第1弾を飾る公演となるもの。ダンサーとしてドイツのザ・フォーサイス・カンパニーで9年間活動し、日本に戻った島地が、環ROYとの出会いをきっかけに、その後、愛知県芸術劇場に赴き「環と作品を作りたい」とプロデューサーに相談。それぞれの領域であるダンスラップが織り交ざる未知の領域「ありか」という舞台作品をクリエイションしてきた。本番2週間前、愛知県芸術劇場でリハーサルを行う2人に取材を行った。

 

SPECIAL INTERVIEW :

島地保武 × 環 ROY

Text & Edit : Takatoshi Takebe [ THISIS(NOT)MAGAZINE, LIVERARY ]
Photo : Shunsaku Hirai

 

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リハーサル風景より

 

今回の「ありか」という公演は島地さんから環さんにアプローチしたわけですが、環さんは最初どう思ったんです?おもしろそう!とかって感情はあったんですか?

環ROY(以下、環):おもしろそう、という以前に、全然想像がつかなかったです。やったことのない仕事が待っていそうだったので、やってみたい!と思いました。

―なるほど(笑)。島地さんは環さんについて、もともとどんなイメージを持っていたんですか?

島地保武(以下、島):曲は知っていて、でも会ったことはなくって、共通の友人を通じて出会って、それから交流が始まり、彼のライブにも行ってみて

環:そういうことじゃなくて、最初の印象とかそういうことを聞きたいんじゃない?2行で答えるみたいな。

島:2行か(笑)。蝶の羽を持っていて、でも尻尾に毒針が生えている、みたいな。

環:という印象を持っていたそうです。

―では、環さんは、島地さんの最初の印象はどうですか?

環:「踊る人だな~」という印象でした。

(笑)。特にファーストインパクトみたいな感情はなかったんですか?

環:うーん。いい人そうだな、と思いました。

(笑)。島地さんは、ドイツのザ・フォーサイス・カンパ二ーに所属されていたとのことですが、振り返ってみて、何を一番学んだと思いますか?

島:カンパニーで何を学んだのだろう?と、たまに自分に問うこともあります。学ぶって行為はずっと続くんだなってことを学びました。

環:在り方を学んだって感じですか?

島:そうだね。考え方、物の見方とかかな。

ちなみに、環さんはラップは誰かに教えてもらったってのはあるんですか?

環:ラップはラップをやってる人、全員に教えてもらいました。好きだから、この人の真似しようって思って。そういう気持ちがたくさん積み重なって今の自分の方法が出来上がっていった感じです。

島:ちなみに僕はテレビで観た「ダンス甲子園」がきっかけです。

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リハーサル風景より

 

2人ともきっかけは、メジャーなものからなんですね。環さんは「踊る」ってことは、たぶん今回が初めてだったと思いますけど、やってみてどうでしたか?

環:「踊る」っていうことを広義の意味で捉えるなら、今までにもたくさん踊ったことはあります。

えっとクラブで音楽に身をまかせて踊る、とかそういうことではなく、公演という形でプロのダンサーと一緒に踊って作品を発表するっていうことに対してはプレッシャーとかっていうものはなかったんですか?

環:あんまりそこにプレッシャーはなかったですね。ラップしたことのない人のラップとか聴いてみたいと思いますし、上手い下手とか関係ないかなって。

島:プレッシャーがあるといったら、作品がどうできあがっていくか?みたいなプレッシャーだったんじゃない?

環:暗闇を手探りで進んでいくような感じだもんね。

島:どこに向かっていくのかもわからないような

環:すでに今、存在しているものではないものを生み出すタイプの創作だったので。例えば、音楽をやってる人っていうと、3~4分くらいの曲を作って、10曲入りくらいのアルバムにして、CD出して、ライブしてっていうフレームの内部でやることが多いと思うんですが、それとは創作の仕方が違くて。フレームそのものを創作していくっていう感じなんです。そこの分野においては、島地さんのほうが経験が深いので。日々学んでいます。

なるほど、そういう暗闇の中で探り探りという状態の中で、光が見えた!っていう感じですか?

島:まあ、そうですね。

環:ゴール的なものは最初から共有してはいたんです。でもぼんやりしていた。それをクリアにしながらリアライズするって作業だったと思います。

島:最初、メールとかでやり取りして、お互いの興味とか情報を交換したり、共有してみたり。

環:あれ、そんなことしてたっけ?

島:してたよ、忘れたの?(笑)。で、最初、クリエイションが始まって、たくさん対話してる過程でテーマ的なものはすぐに見えました。でも、スケールが大きくなりすぎちゃってそれを意識し過ぎると引っ張られすぎてしまうと思ったので、一旦、置いておいたり、で、もうちょっと地に足をつけて「自分たちのいま」みたいなことをベースにしながら具体的に詰めていきました。今日、名古屋について、実際にこのステージを見て、触れてみたことで、また少し変化があったと思っています。だから、現在進行形ですね。

 

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リハーサル風景より

 

ちなみに、振付は島地さんが決めていくんですか?2人でクリエイションをしながらつくっていく中で、どちらかがイニシアチブを取るということはなかったんですか?

島:彼がどう踊るかは基本的に彼に任せていました。例えば、こうした方が客観的によく見えるとか、そういうアドバイスはしましたけど。ここは絶対にこうして!とかって、細かくオーダーしたりとかは全然ないです。その時々で、彼が判断して動いて、やってくれたらそれでOK。二人とも動きも言葉も完全に決めないようにしています。「どうなるのか?」っていう要素はどこまでいっても残しておきたいと思っています。

環:僕が作った音楽や、彼の振付に、それはないでしょ!と、お互い言い合ったことはないよね。10個ある選択肢の中から4個を2人が自然と捨てた、6個残った、みたいな繰り返しで積み重なってきています。だから、どちらかが完全にイニシアチブを握るってことはなかったです。

どこまでが即興で、どこまでが決められた構成なんだろうと感じました。

環:カッチリした構成があった上での即興性を大切にしています。例えば「朝起きて、パジャマを脱いで、歯を磨いて、ご飯食べて、外へ出る」という日常のルーティーンがあって、それは同じことの繰り返しのようだけど、歯ブラシの角度とか、歯磨き粉の量、どの角度でベッドから出るか?とかって決まってないじゃないですか。ディティールの部分では毎日変化している。なんかそんな感じです。

島:やることは決まっているんですが、やり方は自由って感じです。カレーを作ることは決まってるけど、具は好きに選んでね、みたいな。

環:ダンスってさまざまな表現の中で、最も現在性が高いように思っていて。記譜や録音技術が発達する以前のことを考えると、音楽もきっと本来は、今と比べてより現在性が高かったと思うんですね。今回の創作でそういうことに気付いたり。音楽の最初の姿を考えたりする機会が生まれたように思います。音楽もダンスと同じくらい現在性を表現することが出来るんだ、と。

 

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リハーサル風景より

 

2人それぞれジャンルは違えど、表現活動に対しての姿勢や思考がマッチングしたから、奇跡的にうまくいっているようにも思えますね。

島:瞬間、瞬間に2人がコミュニケーションしていることが大事だと思っていて、それが出来る相手だなと思っています。

環:そうですね。あと、お互い、相手を理解しようとする姿勢を持つことで、自分を理解していっているような気がしますね。 

なるほど。今回の公演においては、ステージがかなり特徴的ですよね。<ダンス>と<ラップ>の関係性、<環さん>と<島地さん>の関係性など、何らかの2つの要素を相対的に表しているように受け取れます。この舞台のイメージは島地さんの発案なんですか?

島:そうですね。単純に説明すると、ふたつの場があって、その真中に交流ができる橋だか道だかが通っている。「あっち」と「こっち」があるわけです。未来と過去とか、遠く隔たった2つの場所とか、あの世とこの世とかですね。あとは、見え方が面白いと思って。この舞台だとステージが両端にあるので、片方の演者を見ていたら、もう片方の演者が見れなくなるんです。観客の視線がが左右に振られるような環境を作りました。

 

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今回の公演の重要な役割を果たす、特殊なステージ。

 

確かに実際にリハーサルを見てその通りでした。でも、視界に入ってこない方にも、もちろん演者がいることはわかっているので、あっち側では今何してるんだろう?って気になったりして、チラ見してしまったりもしました。

島:一箇所を見ていたら、もう一箇所は見えない。これって普段の生活においても、ごく当たり前の状態だと思うんです。人って全部を見ようと頑張るんだけど、やっぱり全部見ることなんて絶対できないんですよね。

 

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2人は各々の活動においても「常に新しいことをやっていきたい」っていう思いが見える活動スタイルだと思っていたんですが、今回の公演もまさにそういう思いで取り組んでいますか?

島:「新しいことをやりたい」っていうより「新しい人と出会っていきたい」と思っています。

環:すごくいいこと言いますね。僕もそう思うことにします。

島:全くもって新しいこと、なんてあるのかなとも思っています。でも、新しい人との出会いはあって、そこで生まれるコミュニケーションは常に新鮮です。

音楽にしても、芸術にしても、あらゆる表現において、全く新しいことなんてもうないかもしれないですね。

環:例えば、僕がCDを作ったらヒップホップとかラップのコーナー入るんですよね。そういうフレームって便利だから必要なことではあるけれど、窮屈に感じちゃう時があるので。そうじゃないことをしてみようと思ったら、今回はこういうことになりました。

島:僕自身、「影響されたい」という思いがあるんです。だから「影響を受ける場所へ行きたい」と思って自然とそっちへ行く。だから、本来だったら、別に近づかなくてもいいところへも近づいてみたくなる。

環:そうだよね。べつにそれぞれお家の中に居ればいいもんね。

島:つまり、言語を共有できるダンサーと仕事をするっていうのも大事なことなんですが、そうじゃないところへ行ってみたのが今回の取り組みですね。

環:でも、ダンサーとラッパーって、全く違う人種って見方もできるけど、ある角度から見たらほとんど一緒だよね。だって同じ人間だし。さらに言えば、「ステージ上に立ってパフォーマンスする人」という見方をしたら共通点も多いし。まあ、でも、例えば、いきなりベンガル語のラッパーとオーストリアのダンサーがブラジルで一緒に何かを作る!ってことにはなかなかならないと思うんで。今回の場合は「ちょっとだけ遠くにいる人とも喋れるようになる練習」みたいなことだと思います。

 

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リハーサル風景より

 

実際、いっしょにクリエイションをしてみて、お互いに触れてみて、気づいたことは?

島:僕がやっぱり当たり前だと思っていたことが、別の角度から見たら、当たり前じゃないんだなって気付かされたことが多々あります。スタジオに行ってまずトレーニングウェアに着替えるとか、そういう小さいことも。着替えないでしょ?

環:たしかに。そうだね。録音とかはあんまり汗かかないよね。

島:あとは、人との距離の取り方であったり、言葉を使ってのコミュニケーションに影響を受けました。ダンサー同士だったら、まず身体と身体でコミュニケーションすることが多いです。けど、昨日おきたことを普通に話し合うなんてことも大事なんだなって。そういうウォーミングアップもあるんだなって思ったり。

自分の立っていた場所を改めて考える。まさにお互いの「ありか」を再確認することで新しい発見があった、と。最初、何に魅せられているかわからなかったのですが、島地さんもラップをしたり、環さんもダンスをするシーンがあったりして、見ていくうちに、環さんの言葉がより鋭く聞こえたり、島地さんの動きがより力強く見えたり、そんな風に眼が変わったように感じました。そういう意味でも観客側にとっても何かしらの影響を与える公演だと思います。

環:よくわかんないけど、なんかよかったってことですか。最高ですね。いまや、よくわかんないものとかこの世になかなかないですし。

島:嬉しいですね。本番もがんばります。是非見に来てください!

 

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イベント情報

2016年4月22日(金)〜24日(日)
ミニセレ ダンスとラップ〜島地保武×環ROY「ありか」
会場:愛知県芸術劇場小ホール(名古屋市東区東桜一丁目13番2号)
時間:4月22日(金)20:00〜/4月23日(土)、24日(日)15:00〜(各回30分前開場)
※23日は公演終了後に出演者によるアフタートークあり
料金:一般3000円/学生(25 歳以下・要証明書)1000 円(全席自由・整理番号付き)
※3歳以下入場不可。
※車椅子でご来場の方は事前にお問い合わせください。
※10名以上の場合は団体割引あり。詳しくはお問い合わせください。

チケット販売:愛知県芸術劇場オンラインチケットサービス http://www.aac.pref.aichi.jp
愛知芸術文化センター内プレイガイド 052-972-0430
(10:00〜19:00/土日祝は18:00まで/月曜定休、祝休日の場合は翌平日)
チケットぴあ TEL:0570-02-9999 [Pコード 449-373]

出演・演出:島地保武/環ROY
振付:島地保武
音楽:環ROY
照明:渡辺敬之
衣装:横山大介(Sasquatchfabrix.)
舞台監督:世古口善徳(愛知県芸術劇場)
撮影:後藤武浩
宣伝美術:三ッ間菖子、石黒宇宙(gm proejcts)
特設サイト:石黒宇宙(gm proejcts)
プロデューサー:唐津絵理(愛知県芸術劇場)
制作:加藤愛(愛知県芸術劇場)/廣田ふみ
リハーサル協力:スタジオ・アーキタンツ
特設ウェブサイト:http://www.shimaji.jp/arika/

島地保武
ダンサー/振付家。1978年長野県生まれ。TV番組『ダンス甲子園』の影響で踊り始める。2004年より金森穣が率いるNoismに所属し、2006年にはウィリアム・フォーサイス率いるザ・フォーサイス・カンパニー(ドイツ)に入団。2013年、酒井はなとのユニットAltneuを結成。2015年からは日本を拠点に活動を開始し、Shimaji Projectとして『glimpse ミエカクレ』(原美術館)、『 身奏/休息』(神奈川近代美術館葉山)を発表。資生堂第七次椿会(2015年〜)のメンバーでもある。shimaji.jp


環ROY

ラッパー/音楽家。1981年宮城県生まれ。東京都在住。主に音楽作品の制作を行う。これまでに最新作『ラッキー』を含む4枚のCDアルバムを発表。フジロックフェスティバルなど国内外の様々な音楽祭に出演する。その他、パフォーマンス作品やインスタレーション作品、広告音楽などを多数制作。ミュージックビデオ『ワンダフル』が第17回文化庁メディア芸術祭にて審査委員会推薦作品に入選。インスタレーション『sine.sign』が第1回高松メディアアート祭にて審査委員特別賞を受賞。www.tamakiroy.com

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