FEATURE:TOKONAME CITY
常滑焼とは何なのか?を考察し、
その伝統を更新していく。
山源陶苑の内部
鯉江:ここが山源陶苑の工場です。うちでは、土の板状に切り出した塊を石膏型に乗せて形作るたたら成型と、液状の土を石膏型に流しいれて作る鋳込み成形が主流です。基本的にやきものを作る方法は一通り全部できるようになっているので、機械を使う動力成型や圧力鋳込みもできます。
―機械よりも手作業の方法が主流なんですか。
鯉江:そう。機械で成型するほうが早いし均一なんだけど、その分競合が多いんです。量産しているような工場と、同じになってしまう。あくまで手作業の味わいを残して付加価値をつけています。鋳込み作業を見てみましょうか。
鯉江:液状にした土を石膏型に流し込み、乾燥させます。そうすると、石膏型が水分を吸収するので、外側から土が固まって均等に厚みがついてくる。余分な土を流すと形が出来上がるんです。
―これは昔からある製法なんですか?
鯉江:そうですね。この石膏型っていうのが、産業として地域に根差すことができたひとつの要因だと思います。型を使うことで、地域の人を雇用して産業として盛り上げられたんだと思います。普通、石膏型は外注で委託するんですが、うちは社内で石膏型をつくる技術を持っています。型からすべて社内で一貫生産ができる。この規模の窯元では珍しいことみたいで、県外からもよく視察に来たりします。
―なるほど!陶器のパーツごとに石膏型があるんですね。
鯉江:そうです。余分な土を落とすバリ取り作業を終えたら、それぞれのパーツをくっつけて窯で焼きます。素焼きの場合はコストを下げて生産効率を上げるために、大きな器の隙間に小さな商品を詰めて焼きます。素焼きを終えたものに釉薬をかけたら本焼きします。
鯉江さんが「常滑焼の伝統を更新する」をテーマに2013年にスタートさせたTOKONAMEプロジェクト。常滑焼の急須に代表される、茶器を作るために蓄積された多様な技術と素材を活かしながらも、日本茶に用途を限定せず、ティーポットを中心としたラインナップのティーファミリーシリーズが誕生した。コロンとしたかわいらしいフォルムと、マカロンのようなパステルカラーが好評で生産が追い付かないほどだ。
―このパステルカラーのシリーズも釉薬がかかっているんですか?
鯉江:いや、これは釉薬はかかってないんです。白い土に顔料を混ぜ込んで焼き締めています。
—常滑焼というと、朱泥色の急須や湯飲みが思い浮かぶんですが、どうしてこういう色やデザインにしたんでしょうか?
鯉江:TOKONAMEプロジェクトを始めるときに、常滑らしいものを作りたかったので、常滑焼って何?っていうのを考えたんです。常滑焼の守るべき伝統と、更新していくところを、プロダクトデザイナーや映像作家とチームを組んで探っていきました。まず、常滑焼の釉薬をかけなくていいという素材の魅力、それから、焼き物の中でいちばん難しいとされている、茶器を作る技術は残したかった。逆に更新するところは、”伝える”ことだと思って。“作ること”と“伝えること”の両方に同じ価値を持たせたかったんです。それで、今までのユーザーとは違う、若い人にも届くようにかわいい色にしました。この淡い色を作り出すのが難しいんですよ。そして、このプロジェクトでできがったシリーズのフラッグショップとしてオープンしたのが、TOKONAME STOREです。
TOKONAME STOREの外観
鯉江:TOKONAME STOREでは、ものづくりの楽しさを体験してもらいたくて、陶芸の体験教室を開催しています。もともと陶器の原料屋だった倉庫内に、器を販売する小屋、陶芸体験ができるワークショップ小屋、コーヒースタンドの小屋が建っています。
TOKONAME STOREの中を案内する鯉江さん
鯉江:じゃあ今度は、”陶業と陶芸”の陶芸の方で活躍されている陶芸家を紹介します。まず、常滑ならではの高い技術で、精度の高い急須を作っている陶芸家・前川淳蔵さんの工房(前川製陶所)に行ってみましょうか。
小さな茶器に集結する、
常滑焼の伝統と技術。
陶芸家・前川淳蔵さん
竹内:前川さんは、先ほど名前の出た伝統工芸士・前川賢吾さんの息子さんです。
前川淳蔵(以下、前川):前川です。普段は主に、問屋さんに卸す急須などの茶器を制作しています。それだけじゃ面白くないし、刺激もないので、ギャラリーで個展をひらいたり、台湾に急須を持っていったり…というような活動もしています。
竹内:先ほどから、常滑は”陶業と陶芸のまち”という話が出ていますが、前川さんはその両軸をされていて、茶器のお店にも作品を卸しているし、自らでも売るというスタイルで活動されています。
―制作はひとりでされてるんですか?
前川:そうですね。下で親父が大きい陶器を作っていて、僕が二階で小さい茶器などを作っています。ひとりでやっているから、作れる数も限られています。手作りの急須屋さんって少なくなってきちゃってるんです。今たぶん最盛期の半分くらいだと思います。でも、それなりに需要もある。だから、手作りでやっているところはどこも忙しいんですよ。
—ひとつひとつ手作りで、高価なものを作られているんですね。
前川:そうですね。売値が1万円を下回る急須はほとんどありません。その代わり、手間暇かけて、今まで積み重ねてきた技術をすべてつぎ込んでやっているつもりです。
―わ~綺麗なグラデーションですね!
前川:ありがとうございます。こちらの矢羽ぼかしという作品で賞をいただいたりしました。
竹内:前川さんは、茶器でたくさん賞を獲られているんです。評価される理由って、ご自身ではなんだと思いますか?
前川:そうですね…。自分ではそんなこと思ったことないんですが、人からは「あんたの急須は細かいところまで完成度が高い」って言ってもらえます。お客さんは、急須を本当に隅から隅まで見て買っていくから、細かいことにも気を使いますね。茶器っていうのは道具ですから、使い勝手が良くないといけない。でもそれと同時に、見た目の美しさやかっこよさも追い求めていきたいという思いでやっています。
―眼の肥えたお客さんが買っていかれるんですね。どの部分が一番気を使いますか?
前川:やはり口先ですね。「口先これに尽きる」と思います。口先ひとつでも、すごく要素が多いですから。厚みや角度をどうするかで、その作り手の意図がうかがえると思います。いかに水切れが良いか、というのもとても大事です。
―なるほど。この細部に、その作家の技術や表現が集約されているんですね。
美しい丸みをおびた、軽く手触りの良い急須。手のひらに収まるほど小さなそれには、素人目にもわかる程、前川さんの誠実な技が光っている。先人から受け継いだ技を磨き、進化させた職人技の結晶だ。
この急須をお手本にして、常滑の伝統技術はまた新しい未来へと受け継がれていくのだろう。
古いものと新しいものが交差する前川製陶所を後にし、私たちは次の陶芸家のアトリエへと向かった。
固定概念に囚われない、
常滑に吹く新しい風。
写真左:増田光さん、右:大澤哲哉さん
ポップな色使いと何とも言えない表情の動物をモチーフにした作品をつくっている増田光さんと、ざらっとしたマットな質感が特徴的な器を作っている大澤哲哉さん。二人とも80年代生まれ、新進気鋭の若手陶芸家だ。
増田さんは、もともとは横浜出身だが、常滑の作家のアシスタントをするために常滑にやってきた。現在は独立し、大澤さんと共同のアトリエで作陶している。
「どうぞ。」と、招かれたアトリエは、それぞれの作業スペースが確保されながらも開放的で心地よい空間になっていた。自分たちで古民家を使いやすく改装したのだそう。作業場を見せてもらいながらお話を伺った。
大澤さんの作業場。目の前には不要になった土管でつくられた壁が。まちのあちこちに見られる、常滑らしい風景。
―ザラッとした質感が素敵な作品ですね。陶器なのに鉄のようにも見えます。
大澤:古いボロボロの茶碗とか好きですね。常滑の町並みの、モルタルが流れ出てきてたりタイルがはがれて風化したりしている感じもイメージの中にあるので、焼きあがったものを、わざとやすりやグラインダーで削ってこの質感を出してます。
―この仕様にはどうやってたどり着いたんですか?
大澤:もともとは昔からある、高価な白い土でできた磁器に似せるために、黒い土の上に白い土を乗せて焼く「粉引き」っていう技法を使っていて、なるべくやわらかい土の質感を出して、かつ、薄くシンプルにできるように作ってます。
―本当に薄いですね!
大澤:日本の器って手に取るものじゃないですか。お茶碗とか、食器棚から取り出しやすいようになるべく軽くっていうのは心がけてます。
―窯は共同で使っているんですね。
増田光(以下、増田):そうですね。ここに窯に入りきらなかった子たちが待機してます。
―かわいい~!!増田さんは白い土を使うんですか?
増田:これは白い磁器土なんですけど、常滑の土も使いますよ。割と柔軟に、半々くらいで使い分けてますね。
増田さんの作業場
―増田さんは常滑に来る前から陶芸をされてたんですか?
増田:大学で陶芸を専攻していたんです。それで4年生の時に「卒業しても陶芸を続けたいけど、いきなり陶芸家になれるわけないし、どうしようかな」と思っていたところに、常滑の陶芸家・吉川千賀子さんのアシスタントの話が来て。名古屋からそんなに遠くないし、まあ、生きていけるでしょう~みたいな最初はそういうノリで常滑に来たんです(笑)。
増田さんの作るなんともハッピーなかわいい作品は、ファッションブランドとコラボレーションしたアクセサリーなどもあり人気だ(二人は今年も人気フェス「森、道、市場」に出店)。伝統に対し、いい意味で囚われない自由なスタイルで作陶する彼らのアトリエに心地よい風が吹き抜ける。
鯉江:じゃあこれで常滑ツアーは終了です。どうでした?
—楽しかったです!観光に来ただけでは知ることのできない深いお話も聞けて、常滑の伝統も垣間見ることができました。
竹内:『TOKONAME BOOK』には、今日まわった場所や作家さん以外にもさまざまな方々の記事が載ってます。是非、多くの方に読んでいただきたいですね。
「TOKONAME BOOK」の内容の一部。今回巡った場所や、お話を聞いた方をはじめ様々な角度からの常滑が綴られている。常滑の魅力がぎゅっと詰まった一冊になった。
―最後に、鯉江さん、竹内さんのお二人に質問させてください。お二人が描く〈常滑の未来〉ってどんなものでしょうか?
竹内:常滑には、焼き物のまちとしての風景が色濃く残っています。それは、約千年前から今に至るまで産業としての常滑焼が続いていたからだと思います。だからこそ、常滑で焼き物産業があり続けるために、これから活躍する人たちのために、この「TOKONAME BOOK」で常滑焼や自分たちの「まち」のことに誇りを持ってもらえればと思います。そのことが常滑や常滑焼の未来に繋がると考えています。
鯉江:そうですね。僕は昔、親父たちがやってた頃の「まちに活気があって、働く人も汗水流して一生懸命働いていて、来る人たちの目がきらきらしていた常滑」の光景がいまだに目に焼き付いているんですよね。高度経済成長の時代だったこともあるので、今の常滑のまち全体がその当時に戻るのは正直難しいって思います。だから、全体論よりも、あくまで点であっても、自分たちはもっと頑張って、まち自体も活気づけていきたいな〜って思っています。次の世代に、なるべくいい形でバトンが渡せるよう繋げていきたいです。
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