
話題のクリエティブカンパニー「NAKED Inc.」がプロデュースを手掛けた、名古屋城を光と音の総合演出で彩るイベント「NIGHT CASTLE OWARI EDO FANTASIA〜絢爛たる尾張のはじまりをめぐる旅〜」が、12月1日(土)から12月16日(日)まで名古屋城にて開催中。
その土地の歴史や建造物の美しさを生かしたプロジェクションマッピングやライティングを用いた光の演出を数多く行ってきた「NAKED」が、今回、名古屋城本丸御殿完成公開を記念し、名古屋城と初のコラボレーションを遂げたことはすでに話題となっている。(LIVERARYも前回記事ですでにお伝え済み)

10年という長い年月をかけた復元工事を終え、2018年6月に完成披露となった名古屋城本丸御殿。この御殿に大胆にもプロジェクションマッピングを施し、映像や光を投射するという試み。これまでの歴史建造物に対するお硬いPRとは違う、ある意味“攻めの姿勢”を見せた名古屋城の担当職員・吉田祐治さん。そして、今回の企画プロデューサーのひとりで総合演出を行った「NAKED」の頼永有加さん。

写真左:吉田祐治さん、右:頼永有加さん。ともに愛知県の三河地方出身。
吉田さんは名古屋城担当になる以前には、名古屋のまちなかを使って歴史文化を再発見する都市の祭典「やっとかめ文化祭」の立ち上げなどに関わってきた人物。
頼永さんは地元愛知から「NAKED」入社のため3年前に上京。今回のプロジェクトを機会に、初めて名古屋城本丸御殿に訪れ、その凄さに驚いたと話す。
「『名古屋城本丸御殿』の果たして何がどうすごいのか?どういった観点で見たらいいのか?」
「NAKEDは、どんなアイデアを持ってしてこの名古屋城本丸御殿のプロジェクション・マッピングに臨んだのか?」
実際に名古屋城内を歩きながら、お二人に語ってもらいました。
FEATURE:
名古屋城 ☓ NAKED
双方担当者が語る、
「名古屋城本丸御殿」のクリエイティビティ。
Interview with Yuji Yoshida and Yuka Yorinaga[NAKED]
Text & Edit : Takatoshi Takebe [LIVERARY]
Photo : Masayuki Imai
写真左が本丸御殿。右が天守。
吉田:まず、大前提にお話しておきたいのが、いわゆる“お城”って現代では“天守閣”をイメージする方が多いのですが、当時は“お城”といえば、“御殿”のことを指していたんですよ。
ーえ、そうなんですか!
吉田:そうなんです。で、この本丸御殿を完全復元できたことは本当にすごいことなんです。そもそも「名古屋城本丸御殿」は国内最大規模のもので、国宝にも指定されていました。戦災によって焼失してしまったんですが、国宝だったこともあって詳細な実測図や記録写真が大量に残されていたんです。そのおかげで、奇跡的に当時のまま復元工事ができました。復元工事のやり方も江戸時代当時の手法にこだわってまして、木材などの建材も当時と同じ産地のものを使用しています。
「名古屋城本丸御殿」完成公開スペシャルムービー
映像作家・山城大督と音楽家・蓮沼執太によって制作され、こちらも話題となった。
ー10年もかけて行ったこだわりの復元工事自体が技術の結集であり、同時に江戸時代の技術力の高さを現在に伝承したってすごいことですよね。
吉田:当時の一流の絵師が集められ描かれた絵画、そのほかにも金具、彫刻と江戸時代のクリエティビティが結集されています。名古屋市民にとっても、数百年後に受け継いでいける宝になると思います。
ーなるほど。先ほど天守閣は単なる象徴だって話でしたが、御殿ってそもそも何に使われていた場所なんですか?
吉田:「政治」と「生活」の場ですね。儀礼的に将軍や藩主と謁見する場として使われていました。天守は権威を示すなど象徴的な存在ではありますが、実際に武士が暮らし、政治を行ったお城の中の中心的な場所は御殿だったんです。

「名古屋城」敷地図

「本丸御殿」平面図。独特の形状になっている。
吉田:入ってすぐのこの玄関は、訪れた客人に待ってもらうための、いわば待合室のような部屋になっています。まずはここに通されて呼ばれるのを待つわけですね。この部屋に虎と豹を大胆に描いた「竹林豹虎図」があります。当時、虎の絵を使って威厳を示すという風潮があったんです。名古屋城本丸御殿の絵の中でも代表作と言われる重要な作品です。ちなみに、当時の日本人は虎と豹を見たことがなかったので、こっちの虎がオスで、この豹はメスの虎だと思っていたそうです。
頼永:この「竹林豹虎図」の虎は、今回のプロジェクションマッピングの序盤にあたる、名古屋城本丸御殿の玄関の車寄(くるまよせ=殿舎に牛車(ぎっしゃ)を寄せて昇降するために廂(ひさし)の屋根を張り出し,下を敷石にした場所)の中に登場してもらっています。
玄関車寄に映し出された虎が飛び出し動き回るという迫力の演出も。
ー当時の客人の待合室に描かれたこの虎と同じく、今回のイベント来場者を出迎えるポジションを担っている、というわけですね。
吉田:みなさんよくご存知の「大奥」ってあるじゃないですか? 御殿は玄関などの「表」にあたる部分とプライベートな「奥」の部分とで構成されています。部屋の用途や様式によって、絵画や金具、欄間、天井などがグレードアップしていくところがおもしろいところです。名古屋城の本丸御殿は1634年に幕府将軍専用の「上洛殿」などが増築されていて、ここが最も格式の高いつくりになっています。絵のモチーフが、虎、豹といった四足動物から、二足歩行の鳥類へ、さらに人へと変わっていきます。これにも理由があって、江戸時代の狩野派では、足の多い動物より少ない動物のほうが尊いとされてきたからなんです。
―へ〜!
天井、床、襖、すべてが当時の最上級の結集となっている「上洛殿」。
「上洛殿」の襖は、狩野探幽など日本画史上最大の画派とされる「狩野派」の絵師たちにより描かれた傑作とされている。
吉田:「上洛殿」の水墨画は余白が効果的に使われ洗練された美しい構図になっています。
―今見てもかっこいい。最初に見た虎の絵もそうでしたが、さらに「デザイン」されてるって感じですね。
吉田:最新のデザインだけが、クリエイティブってことじゃないと思うんです。当時の作品も驚くほどクリエティブだと思いますし、建て替えられた当時のままに技術を結集して復元したことも、クリエティブなことだと思っています。
―なるほど。そういった観点も持って御殿を見たら、また違った見方ができそうですね。
―江戸時代の芸術も技術もいっぱいに詰まった本丸御殿を、今回はNAKEDがさらに彩ったっというわけですが、NAKEDさんは毎回場所によって何かしらテーマを変えていっているんですよね?
頼永:場所だったり季節だったりを意識してテーマをつくって、そのテーマにあわせて毎回イチから映像をつくっていきます。今回は本丸御殿の中にある絢爛豪華な世界を夜の名古屋城で表現し、「没入型ナイトウォークイベント」として、当時の江戸時代の街にタイムスリップしてしまったかのような演出となっています。
―没入型!?
頼永:少し前まではインタラクティブな体験を提案していたんですが、最近は、体験を超えた体験というか、その世界そのものにユーザーが没入してしまえるような空間づくりをしていますね。NAKEDとしても今回の名古屋城さんのような史跡を使った案件が増えてきていて。ちょっと前に長崎の「平戸城」とか、今も開催中なのですが(12月9日(日)まで)、京都の「二条城」でもやらせてもらっています。
ーなるほど。今回はどんなアイデアで映像を作られたんですか?
頼永:今回、名古屋城本丸御殿の完成披露を記念イベントの一環として行われるってことだったので、映像の素材のほとんどは御殿の中の装飾や絵を使っているんです。屏風や壁に描かれた町人の絵や、木製の彫刻、壁に使われている金具まで、ひとつひとつが素材としてすごくおもしろいものだったので、それらほぼ全部を写真撮影して、写真を元に手作業で絵を起こしてモデリングして、CG映像の素材にしていきました。
ーそんな地道な作業の積み重ねであの映像ができるんですね。めちゃくちゃ大変そうです。
頼永:今回、CGチームもかなり力を入れて取り掛からせてもらいました。数センチくらいのすごく小さな絵もあって、全部ある程度の解像度が必要なので、一気に撮影して後からトリミングするってのができないので、ひとつひとつのモチーフを撮影していったため、素材を収集するだけでも膨大な作業になりましたね。
吉田:NAKEDさんたちは閉館後の夜しか作業ができないので、みなさん連日、昼夜逆転状態で作業してくださいました。
頼永:映像の投影や光や音のチェックなども夜しかできない現場が多いので、こういうことはよくあります(笑)。
―本丸御殿のクリエイティビティに、まずはNAKEDさんが没入して、そこからサンプリングして、アウトプットした映像作品ってことですね。
吉田:見ていて、あ!あそこの襖に描かれていた相撲取りがいる!とかって気づいて、すごく楽しく見させていただきました。
―その答え合わせみたいな見方は、御殿を隅々まで見ている吉田さんしかできないと思います(笑)。
頼永:でも、そういう見方もおもしろいですよね。昼間の本丸御殿をまずは見てもらって、さらに夜のプロジェクションマッピングへ足を運んでもらえたら、と。個人的には、御殿に映し出される映像にあわせて現代ジャズの要素も取り入れた音楽もオススメです。皆さんそれぞれに感じて、楽しんでほしいです。映像の盛り上がりとともに、お客さんたちも踊りだしてしまうような、そんなイメージをしながら楽しんで作りました。
―では最後に、今後の名古屋城の展望について吉田さんにお聞きしたいです。
吉田:今、お城のような史跡や文化財でこれまでになかったような新しい取り組みをすることが全国的に増えてきています。観光などさまざまなバリエーションで「活用」していくことが求められるようになってきているんです。今回のNAKEDさんとのコラボは、昼間だけでなく、夜も公開して活用していくということで、名古屋城にとっては新しい試みです。
―史跡に該当するような建造物って、歴史的に貴重なもののはずなので、大切に「保存」することの方にどうしても意識がされてきたと思います。今回のような大胆な企画は難しかったのかもしれないですね。え!?名古屋城にプロジェクション・マッピング!?そんなことしちゃっていいの!?みたいな。
吉田:そうですね。もちろん新しい活用方法なら何でもあり!ってわけではないと思いますが、今後も皆さんに楽しんでもらえるような新しい試みを行っていきたいですね。
新旧のクリエティビティが交わったとも言える今回の「NAKED」☓「名古屋城」のコラボレーション。江戸と現代をつないだ艶やかな芸術世界に、あなたも没入してみてはいかがだろう。
歴史や伝統を大切に守り次代へと受け継ぎつつ、現代的な手法を用いてこれまでとは違った層へとアピールを仕掛け始めた「名古屋城」。今後、どんな新しい試みを行っていくのかにも、注目していきたい。