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FEATURE / 特集記事 Mar 27. 2019 UP
人口減少に悩む岐阜県飛騨市が、名古屋の学生たちと新たな試みに挑戦!?
「みんなと飛騨でこんなことをやってみたいガイドブック」発行。
仕掛け人・千原誠、デザイナー・白澤真生らが語る、これからの飛騨。

FEATURE:飛騨市


飛騨市の風景(写真提供:千原誠)

 

現在、多くの市町村で問題となっている人口減少という課題に、岐阜県の飛騨市も直面しているということをどれくらいの方がご存知だろう?

飛騨といえば、観光地のイメージもありときおり耳にするニュースは観光にまつわる明るいものが多い。しかしながら、国が定める<消滅可能性都市>にリストアップされるほど、飛騨市の現状は深刻のようだ。※消滅可能性都市=2010年から2040年にかけて、20〜39歳の若年女性人口が 5割以下に減少する市区町村。

 


飛騨市の風景(写真提供:千原誠)

 

そんな中、来年度から飛騨市が新たな試みに出る。「みんなと飛騨でこんなことやってみたいガイドブック」と打ち出された今企画は、飛騨市内の文化ホールやグラウンド、合宿所などの施設を使って、あなたも何かおもしろいことをやってみない? そんなややポップなアプローチの施策となる。

 

「みんなと飛騨でこんなことをやってみたいガイドブック-飛騨市コンベンション支援事業-」ポスター

 

危機感を持ちながらも従来の考え方とは違った、新しいアクションへ挑む。そんなポジティブ且つ強い決断をした飛騨市。今回、そのクリエイションに関わった仕掛け人である、千原誠(故郷・飛騨市を拠点に活躍するクリエイティブ・ディレクター)と白澤真生(名古屋拠点に活躍するアートディレクター/デザイナー)、飛騨市市役所・観光課で今企画を担当する井谷直裕の三名に話を伺った。

取材場所は、彼らを結びつけ、今回のビジュアル制作がスタートした起点となったという、名古屋市内にある広告デザイン専門学校の学生たちの教室で。飛騨市と名古屋をつないだ新しいアクションについて取材を行った。

 

 

SPECIAL INTERVIEW:

千原誠(kongcong) × 白澤真生(ドロロープ) × 井谷直裕(飛騨市観光課)

Text & Edit : Takatoshi Takebe [LIVERARY]
Photo : Kazuhiro Tsushima [ TONE TONE PHOTOGRAPH ]

 

千原誠
kongcong代表。クリエイティブ・ディレクター。1981年4月3日生まれ、飛騨市古川町出身。名古屋でのクリエイティブ職に従事した後、2017年より故郷・飛騨に戻り活動を続けている。http://kongcong.jp/

白澤真生
名古屋を拠点とするアートディレクター、グラフィックデザイナー。1983年長野県生まれ。レンズアソシエイツを経て、2019年にドロロープ名義で独立。文字やイラストなどのデザインを中心に活動中。カンヌライオンズ ・ONE SHOW・CLIO Awards などの受賞歴もあり。社団法人 日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)会員。

 


写真左から千原誠、井谷直裕、白澤真生。(取材場所協力:名古屋の広告デザイン専門学校)

 

ーではまず、彼ら(学生さんたち)とはどこでどうやって知り合ったんでしょうか?

白澤真生:以前に、ONLY FREE PAPER NAGOYAさんのイベントで、千原誠さんとメゾネットの山本雄平さんと僕が登壇するイベントがあって、それはトークしながら即興でフリーペーパーをつくるっていう無茶振りな企画だったんですけど(笑)。それにみんなが来てくれたのが出会いですかね。

千原誠:そのときつくった即興フリーペーパーに「クーポンを付けよう」ということになって、僕は「飛騨市に来たら僕が案内します」っていうクーポンを付けたんです。そしたら、本当に学生たちみんなで飛騨市まで来てくれたっていう(笑)。

 


トークイベントをきっかけに飛騨市に訪れ、クリエイティブな現場に関わることになった名古屋の広告デザイン専門学生たち。【写真上】左から順に、木下ひなた、杉本佳菜子、(千原誠)、澤田星。【写真下】左から順に、尾関翼、(白澤真生)、小林弘奈。

 

千原:わざわざ飛騨市まで来てくれることになったんで、飛騨市観光課の井谷さんに「名古屋から学生さんが来てくれるんで、彼らと何かいっしょにできないかな」って話を持ちかけて、「なにそれ、おもしろそう!」ってなってくれて。彼らを案内する当日は、井谷さんだけでなく観光課の課長さんもいっしょに彼らと飛騨市を案内して回ってくれたんです。

 


飛騨と名古屋の学生たちをつなげた今企画の仕掛け人・千原誠。飛騨市を拠点に活動中のディレクター。ご実家は飛騨で寿司屋を営んでいるのだそう。

 

千原:そのとき「実はこんな課題があって……」という話を飛騨市さんからいただいて「彼らと実際に何かつくってみてほしい」という話に広がって、今回の「飛騨市コンベンション助成金制度」の広報物をみんなでつくる取り組みへとつながった、という経緯です。制作にあたっては、飛騨市内で動いている僕と、飛騨市外で動いている白澤さんにアートディレクターとして入ってもらうことにしました。個人的には、中のヒトと外のヒトで何か作ることが重要だという思いもあります。

 

飛騨市観光課・井谷直裕も、もちろん今回のクリエイティブにおけるキーマンのひとり。

 

井谷直裕:彼らのような若い人たちが、しかも名古屋から飛騨市について、外部からの客観的な視点で地域をデザインしてもらえるいい機会だと、僕としても願ったり叶ったりでしたね。

ー学生たちのアグレッシヴな動きに大人たちが逆に突き動かされたような形で、今回の広報物制作の話につながったんですね〜驚きました!ところで、飛騨市の観光業が落ち込み、居住者も年々減少していっているという話を聞いたんですが。

井谷:去年は映画「君の名は。」効果もあって、観光客が非常に増えたんですよ。でも、それは一時的なブームに過ぎないとも思っていますので、何か新しい仕掛けをしていくことは必要だと常に考えていますね。でも、残念ながら〈消滅可能性都市〉とされるレベルにまで飛騨市の人口減少は進んでしまっています。今まで通りのやり方では減少は止められない、という危機感も感じています。これまでの観光客というのは50代がメインだったんですが、これからはもっと若い方々に来てほしい。それが今回の「飛騨市コンベンション支援事業」の取り組みにつながっています。要するに、ホールや施設はたくさんあるので、学生さんや若い方々にもっと気軽に使ってもらいたい、飛騨市外から訪れるきっかけにしていただきたい。さらに言えば、市として新しい視点を取り入れていきたい、そんな思いがあります。(※映画「君の名は。」=2016年に公開された新海誠監督作の大ヒットアニメーション映画。そのロケ地のひとつとして飛騨市にある「飛騨市図書館」や「味処古川」といった実際の施設が登場する。「君の名は。」ファンたちが聖地巡礼ということで飛騨市にも多数訪れ、若い観光客が増加した)

ー学生さんたちは今回、飛騨市は初めて行ったそうですが、どんな印象を持ちましたか?

 


今回のクリエイションに関わった学生のひとり、木下ひなたさん。

 

木下:私も三重県の田舎の方に住んでいるんですけど、田舎って何もないイメージで。でも、飛騨市はぜんぜん違っていて。

ー何が違ったんです?

木下:単純に、まちのひとたちがやさしくて、温かったんです。すごくいいまちだなと思いましたね。


飛騨市の風景(写真提供:千原誠)

 

井谷:飛騨市のひとたちは温かい方が多いと思います。映画「君の名は。」効果で来てくれた観光客の方が市内を巡っていて、バスがなくなってしまい帰れなくなった方がいて、そしたら地元の方が車に乗せて送ってくれたり。おもてなし精神というか、人間的な温かみはすごく感じてもらえると思います。

千原:地名的なことで飛騨エリアって、飛騨市・高山市・下呂市・白川村の4つをあわせて「飛騨」って総称されていて。だから、飛騨って聞くと、みなさんおそらく高山の観光で賑わっているまちのイメージを持たれてる方多くて。

井谷:飛騨の方に遊びに行くってなったとき、大体の方は、高山に行って、白川郷に寄って、下呂の温泉宿に泊まって終わり、という観光ルートが多くて。なかなか皆さん飛騨市まで来てくれないんです。なので、飛騨(エリア)に行ったことあります、と言われてもよくよく話を聞いてみたら、高山市に行ったことがあるってだけで、飛騨市には来てくれていなかった、という僕らにとっては悲しいパターンが多いんです。

ーなるほど、僕もお話を聞きながらも、飛騨=高山と思ってしまって、イメージが混同していました(笑)。

井谷:ですが、高山に行き慣れた方が、飛騨市の落ち着いた町並みを逆に気に入ってくれる方もいらっしゃいます。

千原:観光スポットをつくる、という考え方よりも、日本の原風景というか、日常の風景を残していく、というところに飛騨市は注力しているんです。派手さはないんですけど、街を歩いていたら、昔ながらの建築が残っていたりして、そういった視点でまちを楽しめる要素はたくさんあると思います。

 


飛騨市の風景(写真提供:千原誠)


千原:
僕は現・飛騨市長さんになってから飛騨へ帰省したんですが、まちの持っている可能性をどんどん発信していこうという方針と、実際にそういった機運が市内にできつつあることがとてもおもしろいと思っています。

井谷:現・飛騨市長が新しいことに取り組んでいくことには貪欲な方で。飛騨エリアで唯一の児童精神科診療所をつくったり、「ぎふアニメ聖地連合」をつくったりといろいろ新しい考え方を取り入れた動きをしています。(※ぎふアニメ聖地連合=大ヒット映画「君の名は。」等の、岐阜県を舞台としたアニメ映画が相次いで発表される中、アニメゆかりの県内自治体が観光誘致等のために作った連合)

ーそんな取り組みもされているんですね!今回のプロジェクトも、斬新な打ち出し方になっていますよね?

白澤:実は2年前からこのプロジェクトはあったんですよね。でも、以前のチラシを見たときに、「施設を借りることはできる」というのはわかる内容だったんですが、「わざわざ飛騨市まで行って、施設を借りる」という行動につながるかな〜ていう課題点が見えたんです。そこを変えたいなと、まず思いましたね。

 

名古屋を代表するアートディレクター/グラフィックデザイナーのひとりとして知られる白澤真生。彼と仕事ができる、ということは同業種を目指す学生たちにとって大きなモチベーションとなったはず。

 

白澤:今回、学生さんたちといっしょに広報物をつくるってなったときに、じゃあ「どんなおもしろい施設の使い方ができるんだろう?」っていうアイデア出しからみんなと一緒に始めました。いわゆる表層の部分だけのデザインに関わってもらっても、それでは本当の意味で〈デザインを一緒につくった〉ということにはならないだろうって思って。

 


「みんなと飛騨でこんなことをやってみたいガイドブック-飛騨市コンベンション支援事業-」パンフレットの表面(上)、中面(下)。

巨大ドミノ倒し、チャンバラ大会、昼寝フェス、大玉転がし、大画面を使ったTVゲーム大会、野外映画館や野外ライブイベントなど学生たちから出てきたアイデアがパンフレットに掲載されている。


イラストビジュアルは、学生らが制作した手作りの消しゴムハンコを起用。

 

白澤:リーフレットには、使い方の例として、「みんなで昼寝大会をしよう」とか(笑)。学生の若い頭で考えたからこそでてきたようなアイデアも入っています。実現できそうなものだったり、やってみたいけど難しそうなものまで、入れてみました。

ー公募に対しての助成金制度があるんですよね?

井谷:今回の募集制度については、空いている施設をどんどん使ってほしいという思いと、団体で利用していただいて、飛騨市に泊まっていってもらいたいという思いがありますので、宿泊費の補助金や施設使用料の減免があります。

白澤:市が管理している文化施設やグラウンドを使って「何かおもしろいことをやってみて!」っていう提案をなかなか行政側から発信しないと思うんですよね。そういったアナウンスを市が自ら出すっていう姿勢が、飛騨市の器量の大きさを表しているとも言えて。そういうPRにもなっていると思います。

 

ー利用者数が少なくてハコが余ってしまっているもったいない状況ってそこら中の市町村でありそうですが、見て見ぬふりをしているか、新しい使い方に対して否定的だったりすることが多そうですよね。

千原:行政的にはかなり実験的な試みだとは思うんですが、さっき白澤さんもお話していたとおり、やっぱり同じように空き施設の利用を募集している他地域と見比べたとき、今回の募集パンフレットなどを見てもらえたとき、「飛騨市さんなら思いついたアイデアを形にしてくれそう!理解してもらえそう!」ってなると思うんですよね。

井谷:「それは難しそうだからお断りします」じゃなくて「難しそうだけど、じゃあどうやったらそれを実現できるか?いっしょに考えましょうか」っていうスタンスで取り組んでいきたいと思っていますよ。

 

 

ーおお……心強い!とても行政の方のご意見とは思えないです(笑)。ちなみに、白澤さん、実際に昼寝フェスやらないんですか?

白澤:僕らとしては来年度みんなでやりたいな〜って思っていますね。実際にやってみた記録映像とかも出していけたらな、と考えています。

ー何かおもしろい実例が生まれて、それが世の中に出たら、またその映像をきっかけにどんどんおもしろいアイデアが飛騨市さんに集まりそうですね。みなさんの今後のアクションも楽しみにしています。

 

 


 

INFO:

みんなと飛騨でこんなことをやってみたいガイドブック
−飛騨市コンベンション支援事業−

問:飛騨市役所観光課(岐阜県飛騨市古川町本町2-22)
TEL:0577-73-2111
https://www.city.hida.gifu.jp/soshiki/15/1111.html

 

 

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