2014年7月、音楽練習スタジオ「Reflect Studio(以下:リフレクトスタジオ)今池店」がオープンした。
同スタジオは、新栄にも1店舗を構える人気の音楽スタジオのひとつ。
リフレクトスタジオが新店舗を構えた、名古屋の今池という町には、複数のライブハウスがある。中には朝までやっている居酒屋兼ライブハウス「得三」や、愛知のハードコア/パンクの聖地と称される「今池ハックフィン」など…。また、単館系の映画館として映画ファンから愛される「シネマテーク」もあったり…と濃いコンテンツがそろっている。いわゆるそれらカルチャー的な要素と、昔ながらの商店などが立ち並び、どことなく感じられる人情味、それらが今池の独特な空気感を作り出しているのかもしれない。
そんな今池には、既に音楽スタジオは何軒かある。だから「今池に新しく音楽スタジオができました」というトピックはそんなに目新しいものではない。
しかし、この「リフレクトスタジオ」、一部のバンドマンにとっては伝説的な”場”として記憶されている。
同スタジオの代表であり、創設者である田中勇貴さん。
彼は、20代前半で、音楽系の専門学校を中退し、バンド仲間たちとスタジオを始めることになった。
果たして、一体どんな歴史があったのか。
そして、どんな思いが込められた”場”なのだろうか。
代表の田中さん、そして、当時の様子を知るバンドマン2人にお話を伺った。
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Interview & Text by Takatoshi Takebe[THISIS(NOT)MAGAZINE , LIVERARY ]
はじまりは、繊維商店街の地下から…?!
「リフレクトスタジオは、当初、店舗運営をするつもりなくスタートしたんです」
そう話すのは、代表の田中さん。彼は、専門学生時代、自身も3ピースバンドを組み、ライブや自主イベント等を多数行っていたという。ある時、そのバンド仲間たちで資金を出し合い、プライベートスタジオをつくろうという話が持ち上がった。
「スタジオとして使ってもいい場所って、なかなか町中では見つからなくて、しかも、そんなにお金はかけられなかったんで、安く借りれそうな場所ってなると全然なくて。最初は、遠方の郊外の方まで下見に行きましたね。でも、自分たちが住んでいる町からあまり遠いところにはしたくなかったんです」(田中)
そんな彼らが探し当てたのは、丸の内・長者町の一角にある繊維業店のビル。その地下倉庫だった場所を友人たちと借り、DIYな作法で作り上げた、手作りスタジオから始まったのが「リフレクトスタジオ」の1号店となる。
ちなみに、この長者町繊維街は、昔ながらの商店や卸問屋などが立ち並んでいるが、夜間は人気(ひとけ)が少なくなるため、近隣からの騒音問題の心配のない場所となる。
もともと友人同士で始めた自分たちの練習用スタジオだったが、一緒に出資し合ったバンドが次々と解散していってしまったため、継続が難しい状態に。そこで、運営資金を得るために一般開放し、スタジオ営業を開始することとなった。
安価な値段設定もあったからか、口コミで広がっていき、徐々にバンドマンたちが集まってくるようになっていく。次第に、1部屋では順番をまわせなくなったこともあり、同ビル上階にもう1部屋スタジオを増設。その部屋ではスタジオライブ企画も行われるようになり(収容人数は30人程で埋まる)、スタジオ練習のバンドマン以外の人たちも集まる”みんなの遊び場”へと変化していった。
僕たちの秘密基地?ホームグラウンド化するスタジオ
そのスタジオライブを初めて企画したのが、名古屋で現在も活発に動き続けているメロディックパンクバンド「killerpass」のBa/Vo.林隆司。彼に、当時のことを聞いてみた。
「あれは、2008年の冬頃。当時はまだ(リフレクトを)使っている人も少なく、おそらく店長さんの知り合い?
彼らが初のスタジオライブを企画したときに相談に乗っていたのが、同じく名古屋を拠点にバンド活動を続ける「THE ACT WE ACT」のVo.五味秀明。彼も、その当時の「リフレクトスタジオ」を知るバンドマンの一人だ。
「安価に借りることができて、自分達がやりたいようなライブができるスペースを探し続けていましたが、交通のアクセスが悪かったり…色々試行錯誤している時に出会ったのが当時、長者町にあった「リフレクトスタジオ」でした。killerpassの林君から、どうやらスタジオライブもできるらしい、という情報を聞き、初めてリフレクトに訪れた時は和物雑貨販売とスタジオの受付を兼ねた、斬新且つゲットー感のある造りに驚きましたが(笑)…スタジオライブをやるには少し狭いかな?と思えるくらいの広さも僕らにはちょうど良かったし、何よりスタジオの音の鳴りが好みで(程よく音が分離されて程よく混ざるような)、普段の練習からリフレクトスタジオを利用するようになり、スタジオライブも企画し、自分達のホームグラウンドのような感覚の場所でした。」(五味)
THE ACT WE ACT のライブの様子(当時の丸の内リフレクトスタジオにて)
スタジオライブでしか味わえない魅力とは
「スタジオライブというライブのやり方が日本のパンクシーンで全国的に広まったのはおそらく90年代後半、2000年代初頭くらいで、僕もリアルタイムでその時にシーンにいた訳ではないのですが、アメリカでは今でもパンクやハードコアバンドは「HOUSE SHOW」と言って家の中に機材を持ち込んでライブをやったりするみたいなんですけど、そのノリを日本でやるにはどうすれば?ってなった時に普段使ってる練習スタジオでライブをやればレンタル費用やチケット代を抑えられるしいいんじゃないかって感じで広まったと何となく聞いたことがあります。」(五味)
基本的に鑑賞するために作り込まれた場所ではないということで、普段ライブハウスで見るライブとは全く違った楽しみ方ができるのがスタジオライブ。ある意味、恵まれた環境ではないからこそ、逆に何でもアリだったり、狭い部屋で暴れまくるバンドを至近距離で目の当たりにする、そんなスタジオライブだからこその臨場感や、ステージが無い状態でバンドとフロアがひとつになる一体感などが魅力的な要素といえる。
「僕らの周りの友達もリフレクトスタジオでスタジオライブを企画するようになり、屋上で肉を焼く人が出てきたり、屋上がいきなり一瞬だけ養蜂場になって白い防護服で全身を覆った人が頻繁に出入りしている時期があったり(笑)、V/ACATIONという東京で活動するバンドが来た時にVo.波多野君が盛り上がりすぎて天井に穴を開けたり(あの時のライブは最高でした)、当時はまだ高校生だった石田君(現在はyep.というバンドで活動していたり、イベントの企画も行っている)が頭から流血したり…といろいろな思い出がたくさんありまして、誰かが企画すれば遊びに行きたくなったし、何と言うか自分たちにとって、ちょっとした溜まり場みたいな感じでした。その延長線上として、今でも僕が友達と一緒に企画している”7Days Warrrrrrr”(=7日間、毎日同じ場所で開催されるイベント。詳しくはコチラ)があって、その第一回目の開催場所は、リフレクトスタジオだったんです。」(五味)
単なるスタジオ経営には留まらない理由。
もともとスタジオ経営をするつもりはなかったという田中さんだが、スタジオを運営する中である考えが浮かび、次第にその考えが自分の目標になっていった、という。
「最終的な目標、というか憧れは「音楽の文化が集結された複合型施設」を作りたいんです。巨大なビルの中に、ライブができる場所もあって、スタジオもあって、楽器屋もレコード屋も服屋もあってジムもあって、アクセ屋もあってみたいな…いわゆる音楽の商店街的な内容が1つの施設としてまとまった建物にしたいですね。音楽が好きな人やミュージシャン、バンドマン等でなくとも、音楽に触れるきっかけになる場所として、皆がそこに集まり、そこからたくさんのドラマが生まれるような場所…って言うとパルコみたいですけど…パルコよりも、イオンかな。60年以内につくります(笑)」(田中)
通常のスタジオでは、バンドマンたちはただ練習をするだけ。しかし、このリフレクトスタジオではバンドマンたちによるライブイベントがたびたび行われていたため、スタジオ利用者以外にもさまざまな人々が訪れた。バンドマンたちにとって、このスタジオは、単純にスタジオ代が安価だから使う、というだけでなく、練習をする場所であり、ライブイベントをやったり、友だちと集まって缶ビールを飲んだり…と、ある意味ではライブハウスよりもフラットに集まることのできる魅力的な社交場となっていった。
オープンしてから5年後、2011年にビルの老朽化により移転をすることになったリフレクトスタジオは、新栄に大きな5階建てのビルを借りきって、明らかに大きく成長を遂げる。長者町のDIYなスタジオの味はなくなってしまったが、それでも、田中さんの思いは残り、新栄のリフレクトスタジオ内にもライブスペースが用意されている。
「スタジオライブと聞いてスペースの狭さ故の閉塞感や身内感、ライブの観ずらさなどをイメージするかもしれませんし、実際そういうのはあるとは思うんですが、気になってるライブ、バンドがあってそのライブの料金がライブハウスよりも少し安かったらちょっと嬉しかったりするし、音楽を文化として捉えるのなら、僕がかつて炎天下GIGや限界破滅GIGでたくさんのバンドに出会い、自分にとって確実に大きな影響を与えてくれたように(限界破滅GIGはベテランバンドだけではなく、地元岡崎の若いバンドが演奏する機会にもなっていました)、気軽にライブが観れたり演奏できる環境があって色んな選択肢が増える事でより豊かな文化が産まれるんじゃないかなとぼんやり思います。」(五味)
後に、killerpass林が中心となり、丸の内リフレクトスタジオによく出入りしていたバンドが参加したコンピがカセットテープでリリースされる。
リフレクトスタジオのその後、そして今
移転後、スタジオの部屋数も格段に増え、広くてきれいなスタジオとなった、2号店「リフレクトスタジオ新栄店」。そして、今年オープンした新店「今池店」。いずれも、他のスタジオとは違うサービスや施設が組み込まれている。
やはり、それは原点が自分のプライベートスタジオを作ったところから始まった場所であること、そして、そこに集まってくるバンドマンたちと店側の交流も生まれ、その中で、よりバンド目線のコンテンツやサービスを追加していくことができたのが、今もなお多くのバンドから支持を受けている「リフレクトスタジオ」が続いてこれた理由だろう。
最後に、このスタジオを続けてきてよかったこと、辛いことについて、田中さんに聞いてみました。
「辛いことは無いですが、今は現場での外仕事(音響の仕事や楽器レンタル、設営など)や事務的な仕事をしているので、僕自身はスタジオに居れず、直接バンドの方との交流がほぼなくなってしまったので、それが寂しいですね。でも、今は僕の代わりに、そのスタジオ業務などをやってくれるうちのスタッフがいて、彼(彼女)らが過去の僕と同じような経験を得ながら、スタジオスタッフとして楽しんでくれている姿を見るのが、楽しみだったりします。あとはやっぱりベタですけど、うちが存在する事によって、何かしらの皆さんへのバンド活動へ貢献できたと自負する瞬間、またそういった声をいただいた瞬間が、やはり店側の立場からとして非常に嬉しく思う瞬間です。」(田中)
取材当日、今池店の2階にあるライブハウス「セカンドビジョン」では、高校生バンドたちが出演するライブイベントが行われていた。ちょうど、ライブを終えた出演者の一人が汗だくでステージを降りてきて、ライブを見にきていた友達たちと楽しそうに会話する姿を目にした。
もちろん、初期リフレクトスタジオと新店舗とは、明らかに別物かもしれない。あのDIY感はなくなってしまい、当たり前だが、しっかりと設備も整った真新しいスタジオとなった。しかし、この新たな”場”においても、これからさまざまな文化が交わり、また何か新たな気流みたいなものが生まれていく可能性を期待してもいいのではないだろうか。
今回、取材協力に答えてくれた五味くんによるバンド「THE ACT WE ACT」も出演するライブイベントが、
リフレクトスタジオ今池店2階「セカンドビジョン」にて、フロアライブ方式で行われます!
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2014年9月2日(火)
GUARDIAN ALIEN JAPAN TOUR IN NAGOYA
Supported by THISIS(NOT)MAGAZINE
会場:SECOND VISON(Reflect Studio 今池店2F)
19:30 OPEN / 20:00 START
ご予約:2000円(+1D) / 当日:???
出演:
GUARDIAN ALIEN (USA)
GAGAKIRISE (東京)
THE ACT WE ACT
VIDEO GIRL
※詳しくはコチラ!
店舗情報:
Reflect Studio 今池店
愛知県名古屋市千種区今池4-13-7E-レクトビルC
TEL : 052-733-8810
http://www.reflectstudio.jp/imaike/
Reflect Stdio 新栄店
愛知県名古屋市中区新栄1-32-31 E-レクトビル
TEL : 052-252-0328
http://www.reflectstudio.jp/shinnsakae/
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取材協力:五味秀明(THE ACT WE ACT)、林隆司(killerpass)