まちのメディアピープル #03:建築家・間宮晨一千
名古屋のまちづくりについて考えるようになったきっかけ。
―名古屋で建築デザインに携わりながら、間宮さんは「まちづくり」というジャンルにも関わっていくわけですが、まず、どんな取り組みからスタートされたんですか?
2008年に名古屋に10年ぶりに帰ってきた当時に、「ナゴヤデザインウィーク」という“デザインで街を盛り上げる!”をテーマに掲げるイベントがあって、もともと知り合いだった当時のディレクターの村上さんから、けっこう気軽な感じで「実行委員、手伝って!」って話をされて引き受けたんですけど、すっごい大変でした。また、騙されちゃったんです(笑)。
―(笑)。
100名以上の参加店があって、それらの取りまとめする業務だけでもかなり大変なのに「お前もデザイナーなんだから出品もしなよ」って話になって。
―その出品では実際どういうことをされたんですか?
実際、出品するといっても制作予算みたいなものはもらえなくて、つまりボランティアワークなんですよね。で、考えた挙句、「ケンケンパ」っていう企画をやりました。150mに渡って道路に、記号でケンケンパができるようなグラフィックを描いたんです。で、150mもの長い距離のケンケンパを道路に書くとなると許可も必要だと思って、いろいろ話を聞きに行くんですが、もうその規模だと道路の落書きレベルじゃなく、もはや汚染だ!って怒られて…。
―え、怒られたんですか?たしかに許可を取るのは大変そうですよね。
そうなんです。土木局に許可を取りに行ったんですけど、「何を言っているんだ君は!道路に何か書くって汚染だからね!」ってめちゃくちゃ怒られて(笑)。その後、警察にも行ったんですけど「土木局の許可が無いなら、うちは許可出せないね」って言われて。でも、いくつかの功名なテクニックで何とか土木局の許可をもらって、再度警察のところに行ったら、「え、ほんとに許可取れたの?」って驚かれました(笑)。
―なるほど、結果として評価はどうだったんです?街の皆さんの声とか。
イベントが終わって消す作業をしている時に、近所に住んでるおばあちゃんが、「消さなくていいのに〜」って言ってくれたんですね。その方自身は、乳母車を引いてて飛べなかったけど、道路に「ケンケンパ」が描いてあるだけで、町が楽しくなったし、子どもたちも遊んでくれているからすごいよかったねって言われて。
―お金をかけるとかではなく、アイデアだけで町の景色を変えたってことですよね。それって建築かもしれないですけど、建築じゃないですよね。
そうそう、やっている最中、自分たちも「これほんとに建築って言えるのか?」って思ったりもしました(笑)。チョークで書いているだけだから、そんなにお金は掛かっていないけれど、自分のデザインによって街の人たちが楽しくなって、子どもたちにとっての通学路の風景が変わった。公共の空間にひとつアイデアを加えるだけで、楽しいことができるって実感しましたね。あまりにも子どもたちが遊びに来すぎて、学校側が心配して「登下校時にケンケンパをしないように〜」なんていう校内アナウンスがあった、なんて話も聞きましたね(笑)。
まあ、結果としては、やれてよかったと思っています。この「ケンケンパ」でデザインウィークの方々からも「間宮さんはイベントの主旨に最も合ったことをしてくれた」ってある程度の評価をいただけましたし。何より、「アイデアひとつで町を楽しくしていけるんだ」ってその時初めて実感できたし、「この街を盛り上げていきたい」っていう思いも自分の中でより強いものになったきっかけになりました。でも、そう思う反面、名古屋って街は「自分たちの力で変えていくんだ」っていう動きが何もないなってことにも気づいていました。とは言え、その時まだ僕は30代前半くらいの若造だったので、熱い思いだけあっても実績やステータスが無いから、結局、その上の人たちを動かすことができないんだって感じて…。だったら、このあと数年かけて自分の実績をちゃんと作って、どこまで上げられるかわからないけどステータスを上げて、この界隈だけじゃなく世界で評価された上で、名古屋で行動を起こしていこうっていう考えに行き着きました。自分たちで少しでも外に外にって意識していましたね。さっきの世界で賞を獲るっていうのもすごい目標にしていたし、東京や京都でプロジェクトをやったり、とにかく県外でもプロジェクトをやっていました。
最近、学生とのプロジェクトで、3軒のお家を建てたんですが、近くにあるんで今から見に行ってみませんか…。
間宮晨一千
1975年8月愛知県生まれ。2000年芝浦工業大学工学部建築学科卒業。2003年東京都立大学大学院工学研究科建築学専攻修了。2006年より、株式会社間宮晨一千デザインスタジオを設立。常に掲げる建築デザインの理念は、「デザインで人を幸せに、社会を豊かにする」。建築デザイン分野においては、これまでに数多くの国際的な賞を受賞。また、現在は、愛知淑徳大学講師、なごや朝大学運営、ウェブサイト「なごや百貨不動産」の企画・運営にも携わる。http://www.m-s-ds.com/