N DRIVE × LIVERARY |SPECIAL INTERVIEW : KEI KAWACHI
さまざまな地域を巡り、丁寧を探す旅を続ける媒体『N Drive』による連載コラムがLIVERARYでスタート。
このコーナーでは、さまざまな地域に根付いた暮らし、そして人々、彼らが作リ出すモノ、コトをフックアップしながら、ローカル/カルチャーを掘り起こす『N Drive』の思いとともに、その旅の経過を記録していきます。
「N Drive」の理念
高速道路のドライブ旅は、時間にとらわれず自分のペースで旅ができる、自由自立な旅。その自由自立な旅をお手伝いする本、そして、ニッポンローカルのヒト、モノ、コトと、旅人の新しい出会いをつくる本が「N Drive(エヌドライブ)」です。この本のなかで、あなたの「気になる」「好き」を見つけたら、どうぞ味わったり、訪れてみてください。(Text by 「N Drive編集部」)
記念すべき第1回は、「N Drive」最新号でもフィーチャーしている土岐市。同市で暮らしながら、作品を日々制作している陶芸家のひとりである、河内啓さんをピックアップ。
SPECIAL INTERVIEW :
KEI KAWACHI
岐阜県土岐市に自らの窯と住居を構える陶芸家・河内啓さん。辺りは自然林に囲まれ、しんしんと静かに時が流れる…そんな風景が広がっている。静かに山間に佇む場所で、河内さんは2人のお子さんと奥さんと共に暮らしながら、日々作陶に励む。
もともと陶芸作家が住んでいたという河内さん宅。古びてはいるが、ゆっくりと時間を重ねてきた家屋ならではの味わいと、空気が流れている。「最近は専らコレにはまっていて」と言いながら、手動のコーヒーミルで挽いたコーヒーを、ご自身が作ったカップに淹れてくれた。コタツに入り、挽きたてのコーヒーをいただきながら、ゆったり和やかな雰囲気の中、インタビューは始まった。
―では、まず、河内さんが陶芸家になるまでの経緯について教えて下さい。
出身は静岡市で。大学は東京の大学へ進学して、卒業後は、一般企業に就職して、大型コンピューターのオペレーションの仕事を6年くらい静岡でやっていました。もともとは美大に行きたかったんですけどね。受験に失敗しまして、それで、経済学部の大学に進学しました。まあ、美術の道を半ば諦めて就職したんですけどね。静岡って工芸など盛んで、いろんなところを観に行ったりしているうちに、平嶌康正さんっていう陶芸家の方に出会って、仲良くなって。で、多治見工業高校専攻科を出ていた彼に「やっぱり産地で勉強した方がいい、もしやる気があるならやってみたら?」と言われて。それをきっかけに、僕はサラリーマンを辞めたんです。最初は、瀬戸の陶器の訓練校に1年通って、その後、土岐市駄知町の窯場で6年くらい作家活動もしながら働いていました。その後、独立しました。土岐に移り住んでからはもう14年くらい経ちましたね。
―なるほど〜。この辺り、すごく静かだし、作品づくりをするうえで環境的にも良さそうですね。お隣の多治見って全国誌などにも取り上げられたりしていて、陶器の町としての知名度がそこそこあると思うんですが、「土岐」ってどうなんですか?
多治見は有名なギャラリーもあったりするんで、賑わっていますね。土岐はそういう面で言うとそこまで外に向いてる感じもしないですが。僕も土岐市在住ですが、多治見に行くことが多いですよ。でも、土岐と多治見は境い目があまりない感じなんですよ。
―そうなんですね。
あと、土岐に住んでいることで、作家的にはいろいろとメリットがあって。まず、第一に材料の土が手に入りやすいっていうこととか。作陶の学校が周辺にたくさんあるので、同じ志の仲間もたくさんいて。「クラフトフェア」とかって、全国で開催されてるんですけど、そういうイベントに出展しても、多治見や土岐の作家が多くて、他にも益子とか日本中に産地はあるんですけど、その中でも土岐と多治見は層が厚い方だと感じています。土岐、多治見、
「奥さんも陶芸の学校へ通ってたんですが、友だちづくりのために行ってたんですよね。今は幼稚園の先生をやっています。」趣味はパンとお菓子作り。河内さんの器に盛りつけた奥さんの写真は、インスタで人気なのだそう。
本当の意味での「個性」とは?
―現在は、若者向けのライフスタイル提案型のセレクトショップでも、作品の器が取り扱われている河内さんですが、もともとどういった陶芸作品が好きだったんですか?
もともと好きだったのは、柳 宗悦の思想で、いわゆる「民藝運動」に興味があったんです。飾りつけた芸術的な工芸品よりも、日本の職人たちが生み出す、使いやすさを追求した機能美を持った工芸品を「民藝(民衆的工芸)」と名付け、「美術品に負けない美しさがある」と唱え、「美は生活の中にある」と語ったとされています。今、言われている「民藝」って、柳 宗悦が昭和初期に集めたものなんです。だから、現代の住宅においてはちょっと古い感じがすると思っていて。でも、実際、彼が言っていたのは、伝統的な技法で、現代の生活に合うものをつくるっていう思想だと思っていて。
―柳宗悦の精神性の部分を受け継いで、作風自体は現代版にアップデートされているということですね。デザインについてはどんなこだわりがあるんですか?
そうですね、デザインというか、まず使い勝手の良さから入っていて、持ちやすさだったり、そういうところから必然的に生まれてくる形状にしています。あと、つくりもちょっと口が歪んでいたりもしているんですが、古い器で「井戸茶碗」と呼ばれるものとかあって、粗い仕上がりを味として楽しむっていう文化もあるんですが、でもそれを直接真似してわざと粗い感じをデザインとして施す、ってのはおかしいと思っています。何でそういう粗い仕上がりになっているか?っていうと、当時の職人たちが生活のために急いでたくさんの器を作らなくちゃいけない、という生活的な事情があって、それで、「粗い削り=勢いのある削り」になってしまった、というちゃんとした理由があったわけなんです。そういう勢いのある削りを真似した茶碗もあるんだけど、それってリアルではなくて…。そこにはリアルな作家の生活背景があったわけです。だから、自分は独立してひとつひとつの器の値段をつける時に、ひとつ何万円もするような値段にしては誰も生活の道具としては買わないなと思って値付けしています。そのためにはやはり数を作らなきゃ、生活していけないわけで。きっとひとつに費やす時間を増やせたら、もっと綺麗な形とかにできるんだと思うんですが、そんな時間がかけられない、と。だから、自然発生的に出た歪み、個体差であり、それが味につながっていると思うんです。自分の個性というよりか、状況からの必然性なんです。自分の個性を出そうという考えではなくて、自分の背景にあるものが出る、っていう。個性って、自分の欠点が個性になってると思うんです。
―それはつまり、どういうことですか?
よくものまね芸人が、有名人のものまねすると、本人が嫌がったりすると思うんですけど、あれは欠点を誇張しているわけで。「自分らしさ」という意味での「個性」ってのは、実は本人が消したい部分だと思うんです。で、自らが出そうと思って作った個性って、結局は、自分そのものではなくて、自分がなりたい姿だったり、他者からこう見られたい、といった自分に無いものを無理に出そうとした結果だと思うんです。
―「個性的」という言葉もありますが、それも2つのパターンがある、ということですね。だから、河内さんの作品は、わかりやすく「個性的」ではないかもしれませんが、本当の意味での「個性」が出た作品なんですよね。
機能美を追求するデザイン性という共通のルールで、仮に何かひとつのものを作ったとしても、僕じゃない人が作れば、僕が作ったものと同じモノは生まれないですよね。いろんな状況から、自分を出さないように自分を出す、というか。意識しない部分を出す、そのためにはシンプルであればあるほど、そこにはわざとらしくない個性っていうものが出る、という考え方なんです。
―「必然的なデザイン性」という感じですね。そういった作品作りのテーマ性については、作る前から考えていたんですか?
コンセプトや思想が先にあって、それを形にしていくという作品の作り方もあると思うんですが、自分がいいと思った形をまず作ってみる、そうすると、なぜそうなったのかという理由が見えてくる、と思うんです。そこで、はっきりとした理由を見いだせると、次の作品づくりにも自然とつながっていく。
―なるほど。では、作品を作る上で、一番大切にしていることとは何でしょうか?
やはり“自然さ”を残したいっていうのがあって。切り方も、少し土の味を残していたり、釉薬も流れたままの状態を残したり、ムラがあったり、色味も派手なものにはしなかったり。使いやすさとかのバランスを考えてて、表面的には粗さが出る。あとは、自分が普段使ってみて使いやすいものを…というのは当たり前ですが、大事にしています。器でもすごくかっこいいものだったりしても、使ってみて使いにくいと、すごくがっかりするんですよ。しゅっとしたスタリッシュな形のものでも、置いたときに不安定だったりすると、見た目が良い分、使ってみてがっかりの度合いが強くて。もう使いたくなくなっちゃったりして。僕自身、コーヒーが好きだから、コーヒーカップを自分で作ったものを使っています。で、そうすると、売れるのもコーヒーカップなんですね。
陶器は、自然と人の仲介役。
―コーヒーカップ以外はどうなんです?お猪口とかも作ったりするんですか?
作りますよ。でも最初は上手く作れなかったんです。それはなぜか?って言うと、単純なことで、もともと僕はお酒が飲めなかったんですよ…。で、多治見の酒屋さんにおいしいお酒を教えてもらって、ちょっと飲んだら味が気に入って、呑むようになって。で、お猪口の展示も頼まれてやったことがあって、そのときはまだ呑むようになる前だったんで、想像でお酒が好きな人はたくさん飲みたいんじゃないか?って思って、割りと大きめの器を作ってたんですね。でも、違ったわけで(笑)。で、酒が呑めるようになってきたら、自分の作るお猪口も変わっていって、評価されるようになっていったんです。やっぱり、自分で実際に使う物じゃないとダメだな…って。だから、料理も作るようになったりして。実際に盛り付けてみて、一番使う器のサイズ感もわかってくる。それが定番商品になったりして。
―作家性の強いアーティスト寄りの陶芸家さんもいらっしゃると思うんですが、河内さんは、作品ぽい作品は作りたくならないんですか?
もとをたどると油絵とか彫刻といった美術作品をつくることが好きで、美大を目指していました。で、作陶をするようになって、最初は、人形のような作品も土で作ったりもしていた時期もあったんです。だけど、ちょっと自分が出すぎてしまうのが、何となく嫌になってしまって、器づくりへと移行したんです。そっちのほうが居心地が良かったというか。でも、今は、またオブジェのような作品も作ろうかなとも思っています。
―お〜!そうなんですね。ちなみに、どんな作品を作りたいとかって構想はすでにあるんですか?
僕の中の作品作りのテーマが先ほどお話した、機能美のことだったり、わざとらしくない個性だったりということの他に、もうひとつあって。それは<土から作り出される器は、自然と人の仲介役だ>という考え方で。エコとかナチュラル思考って考え方の人も、いきなり調理せずに物を食べるってことは通常しないじゃないですか。いくら自然が好きだと言っても、野生の動物みたいな食べ方はしない。そのままの自然物って人間は受け入れ難いもんなんです。食べ物だったら、器に盛ってから食べるし、花だったら花器に生けて飾りますよね?そういう意味で器は「自然と人間との仲介役」なんです。
―なるほど。
それと、陶器ってすごく簡単な工程でできるんですよね。土で形を作って、焼けば、もうそれが器になるんです。土も自然物ですし、釉薬も天然の木の灰なんです。自然物と工芸の境目を探っているんです。だから、今作っているものは工芸寄りのもので、段階的に、次は自然寄りのものも作っていきたいな、と。
―それが先ほどお話していたオブジェ的な作品へシフトしていく…という段階のことでしょうか?
そうです。器はもともと人間が使いやすい形にしたものだと思うんですが、例えば、抹茶茶碗とかの理想の形って、「土をそのまま両手で掴んだときのような形に近いほど、それが美しい」という考えがあって。自然を自分の手の中に取り込むというか、盆栽が自然を鉢の中に縮小して置いたもの、という考えだと思うんですけど、それに近いですね。山や木に寄ったような、そんな器とオブジェの中間でもあるような作品を作りたいなと…。でも、まあ家族の生活がかかっているのでね(笑)。オブジェはまだまだ先になるかもですね。
―作品としてもおもしろくて、器としても使えるオブジェ?みたいな…ちょうど良い着地点を探っているんですね。今後の河内さんの作品も楽しみですね〜。今日はありがとうございました。
PROFILE:
河内 啓(かわちけい)
陶芸家。1967年、静岡県静岡市生まれ。1991年、
N Drive SHOPでは、今回ご紹介した河内啓さんの他にも、土岐市の陶芸家作品を多数取り扱っています。ぜひこの機会に覗いてみてください。
N Drive
「ていねいを探す旅」をテーマに、2012年夏に創刊した「N Drive」。今まで見過ごされがちだった地域の「ていねい」を探すというテーマを切り口として地域のさまざまなモノ・ヒト・コトについてご紹介してきました。地域の知られざる情報をお届けする、あるいは見過ごされがちなその魅力を、現地へ訪れて引き出し、再編集するという作業は、わたしたち編集者にとっても新鮮な発見と出会いの喜びの連続でした。「N Drive」でつながった地域の人たちとの縁を大切にして、地域の「ていねい」を、皆さんの暮らしにも取り入れていただきたいー。そんな思いから「N Drive SHOP」をオープンすることになりました。「N Drive」と同じように、皆さんの「好き」「気になる」が見つけていただけたら、わたしたちもとても嬉しく思います。http://www.ndrive-shop.jp/