Assembridge NAGOYA 2016
京都の前衛集団・ヒスロム。現在、開催中の「アッセンブリッジナゴヤ2016」にて彼らの作品は展示されている。前回、LIVERARYでは彼らの制作過程の初日を密着取材させてもらった(コチラ)。「丸太とともに川沿いを移動しながら、港まちを目指す」という、パッと聞いてすぐに理解することができないであろう、この大がかかりなアートプロジェクトはその後も数日間に渡って継続された。制作初日以降の同行を、プロジェクトの現場を担当した港まちづくり協議会・古橋敬一が追った。
【SPECIAL REPORT:アッセンブリッジ・ナゴヤ2016】
切り出した丸太とともに、川沿いを移動し、港まちに上陸!?
前衛集団・ヒスロムが企てた、壮大なるフィールドプレイ。その②
Text&Photo : Keiichi Furuhashi [ JOINT COMMITTEE OF PORT TOWN ]
Edit : Takatoshi Takebe [ THISIS(NOT)MAGAZINE, LIVERARY ]
Day2(9月7日)
10:00
初日の入水ポイントと同じところからスタート
初日は、川と丸太、ゴムボートでの撮影などの感触をつかむために時間を費やした。そして、今日からは本格的な移動を開始。とはいえ、その歩みは遅々たるものだった。およそ2キロ進んだ先で昼食にありついたのは、14時手前。車でいけば3分の距離を4時間近くかけて移動していることになる。もちろん、そのプロセスの中で、丸太との関わりを探り続けているわけだが。昼食をとりながらは、前後の打ち合わせやそれぞれの感触の確認。岸から見ていてどうだったかという意見も求められる。いろんなことを考え考え、小さなトライ&エラーを繰り返しながらゆっくりと進む。
15:00
次なる入水ポイントへ
丸太の上げ下げは、かなりしんどい。体育会系男子が5人がかりでようやくかつげる丸太を、足場の不安定な道なき道を上がり下りするのだから当然だ。
16:00
激流ポイント
昨日確かめた流れの感触とは明らかに異なる。緊張感が漂う場面だった。この辺りから、丸太が生き物のように、まるで鯨やイルカのように見える瞬間を感じるようになる。そんな時の丸太はコントロールできない。川での遊び方を丸太に教えてもらっているような可笑しな気分になってきた。
19:00
夜間撮影
暗くなってきたのを見計らって夜間撮影に。ところが、発電機のエンジンが、全くかからない。結局断念せざるをえず、LED投光機のみで撮影、羽虫が集まってきて幻想的雰囲気に包まれたのが印象的だった。
21:00
本日の撮影は終了
Day3(9月9日)
昨日の愛知は、台風が近づいて激しい雨に見舞われた。しかし、その日ヒスロムは、関西に。船舶免許取得のため、今回の行程の中で唯一現場を離れていた。そして今日、再び晴れ。今回のプロジェクトは、どうやら相当な幸運に恵まれているようだ。
10:30
入水
未だ上流域ではあるが、ここからは少し流れが穏やかになり、住宅がちらほら河岸に見え始める。心配していた濁流は皆無だったが、水温が幾分低く感じる。丸太の感触もだいぶつかめてきたので、いろいろな遊びを試しながら進んだ。今日からは、水中カメラを使った撮影も行った。
13:30
一旦岸に上がって昼食
……といっても近くのコンビニで、腹が膨れそうなものを買ってきて、その場で口に放り込むのみ。登山の行動食さながらだ。さすがのヒスロム達にも疲れが見え始めている。食後は、思い思いの場所で、ほんの少し昼寝。
15:00
再び入水
水中カメラでは、生き物のような丸太が気泡を纏いながら水中を行く様子を何度となく撮影。水中カメラといっても、デジタル一眼を防水バックで包んでいるという方がわかりやすいかもしれない。撮影者がファインダーを覗くためには、水中メガネとシュノーケルを装備しなければならない。つまり場合によっては泳ぎながら、水中を行く丸太を撮影するということになる。これは、本当に難しい撮影で、何度もやり方を議論し、様々なやり方を納得いくまで試すこととなった。
17:00
本日の撮影終了
夜の時間は、疲れ気味の体力の回復と後半の撮影に向けての作戦会議に。それぞれが感じている感触を何度も口にして、お互いの感触をそれぞれの中に取り入れる。それが、やがてチーム全体で共有する感覚を育てていく。効率性とかからは、ほど遠い。でも、漸進的とでもいうのだろうか。何かを確かに進めていくという意味では、確実に積み上げられているものが感じられる。それっていいなと思う。
Day4(10日)
10:30
入水
本日も快晴。今日は、いよいよ上流域での最後の撮影。岩場のある風景も今日が最後だった。前日の水中カメラの映像確認から、手振れをどうするかが課題だった。水中でも三脚で固定するとか、丸太にカメラを乗せて固定するとか。様々なアイデアを出しながら、いろいろと試す。状況は、刻一刻と変わるのだ、全てはやりながら対処していくより他はない。
昨日買った高機能シュノーケルの使い勝手が素晴らしいようでテンションが上がっているのがよく伝わってくる。でも、そのシュノーケルは、マジックで黒く塗りつぶされている。映像に干渉しないようにするための工夫だ。実は、ウェットスーツも縫い目は全部マジックで塗りつぶしている。本人たちは真剣なのだけれど、ちょっと笑えてしまう。
15:30
昼食
時間は想定の倍かかっている。大きい岩に囲まれたポイントだったため、対応に必死でどれくらい良い映像が撮れたのか全くわからない。疲れのためか、口数も少なめだ。
日がそろそろ沈みかけている川面に大きな鯉やナマズの群れを見かける。想像以上の数に、好奇心が湧き上がったのか、疲れを忘れてはしゃいでいる。夕暮れ時の川面に浮かぶゴムボートとヒスロム。なんだかいい風景だった。
19:30
本日の撮影終了
明日は、少し長めに移動しながら次の入水ポイントを目指す予定だ。
今回のプロジェクトでは、途中から港まちの方のご好意で軽トラックが登場。軽トラは、丸太を陸路で安全に移動させるためだが、その姿は中々勇ましい。
港まちの方に軽トラを借りに行った時、「お前ら、ようそんな馬鹿なことやるなぁ」と笑われた。口では皮肉ってるのに、目の奥が優しかったのがとても印象的だった。誤解を恐れずに言えば、そこには好意が感じられた。いろんな人に助けてもらっていることを改めて思い出し、感謝の気持ちに包まれた。人の優しさが引き出されて、それが連鎖していくのは、この種のプロジェクトの一つの特徴かもしれない。
ゴムボートは、船底が破れてしまったので、ガムテープで頑丈に補修した。流れが激しく、想定していた装備を超える知恵や工夫が日々問われる。思考に知性だけでなく野生が問われる。でも、これって結構本来的なんじゃないかと思ったりする。ヒスロムのプロジェクトには、それを揺さぶる魅力があるように感じる。
<つづく>
2016年9月22日(木)〜10月23日(日)
Assembridge NAGOYA 2016
会場:名古屋港〜築地口エリア一帯
休館日:9月26日(月)、10月3日(月)、10月11日(火)、10月17日(月)
※名古屋港ポートビル展示室は10月17日(月)のみ休館
主催:アッセンブリッジ・ナゴヤ実行委員会
構成団体:名古屋市、港まちづくり協議会、名古屋港管理組合、(公財)名古屋フィルハーモニー交響楽団、(公財)名古屋市文化振興事業団
問:アッセンブリッジ・ナゴヤ実行委員会事務局
名古屋市港区名港1-19-23 港まちポットラックビル
TEL 052-654-7039(受付11:00〜19:00)
http://www.assembridge.nagoya
【音楽部門】
2016日9月22日(木)〜9月25日(日)
ピクニックに出かけるように、港まちで音楽を。
港まちに、総勢200名の奏者が集結!
会場:つどいの広場特設会場 水の劇場<ヴァッサービューネ>、名古屋港ポートビル、ポートハウス、港橋広場公園、名古屋港水族館、港まちポットラックビル、港まちの喫茶店、居酒屋 ほか
出演者:名古屋フィルハーモニー交響楽団、ジャン=マルク・ルイサダ、ミシェル・ベロフ、円光寺雅彦、なぎさブラスゾリスデン、三浦一馬、村治奏一、中部フィルハーモニー交響楽団、セントラル交響楽団、茂木大輔、大宮臨太郎、島田真千子、宮坂拡志、朴葵姫、赤坂智子、高橋礼恵、辻本怜、山根一仁、今峰由香、岩崎洵奈、名古屋ダブルリードアンサンブル、名古屋アカデミックウインズ、愛知室内オーケストラ、Arion Saxophone Quartet、弦楽アンサンブルフルール、Nuovo anno、La la quart、Fleurs、トリオ de ブランチ、Trio Reson、ISSAKU & SACCO、加藤恵利子、佐藤光、佐野功枝、安田祥子、吉田絵奈、KASH ほか
料金:無料 ※ヴァッサービューネでは一部サポーター席(有料)、ポートハウスの公演ではアッセンブリッジサポーター限定公演があります
企画:中村ゆかり
【アート部門】
2016年9月22日(木)〜10月23日(日)
パノラマ庭園─動的生態系にしるす─
会場:港まちポットラックビル、旧・名古屋税関港寮、名古屋港ポートビル、ボタンギャラリー、旧・潮寿司 ほか
時間:11:00〜19:00
パスポート料金:700円(「あいちトリエンナーレ2016」のチケット提示で600円)
※名古屋港ポートビル展示場入場券を含む
※中学生以下は無料(名古屋港ポートビル展示室はのぞく)
※パスポートは、ご本人に限り会期中何度でも入場可(名古屋港ポートビル展示室は1回のみ)
参加アーティスト:碓井ゆい、臼井良平、L PACK.、遠藤俊治、オル太、城戸保、クリス・チョン・チャン・フイ、コラクル+渡辺英司、ゴードン・マッタ=クラーク、下道基行、鈴木悠哉、玉山拓郎、徳重道朗、トラベルムジカ、中尾美園、ヒスロム、山本聖子
企画:服部浩之、Minatomachi Art Table, Nagoya [MAT, Nagoya](吉田有里、青田真也、野田智子)
<関連イベント>
2016年10月22日(土)
ヒスロム関連イベント2:ヒスロムパフォーマンス
会場:旧・名古屋税関港寮
時間:19:30〜20:30
定員:30名(予約不要)
参加費:500円
ヒスロム
hyslom/ヒスロム(加藤至・星野文紀・吉田祐)は山から都市に移り変わる場所を定期的に探険している。2009年から始動。この場所の変化を自分たちが身体で実感する事を一番重点に置き、その時々の遊びや物語りの撮影を行う。ここでの記録資料を作るにあたり、映像、写真の他に出会った人々を演じることや、日記、スケッチの作成、立体物の制作やパフォーマンスなど様々な方法を試みている。2012年第6回AACサウンドパフォーマンス道場で優秀賞を受賞。http://hyslom.com/index.html