FEATURE:最果タヒ展|名古屋|〜2月28日(日)|大阪|3月5日(金)〜3月21日(日)
映像、WEB、音楽、アートなど数々の新しい詩の運動をまきおこしてきた現代詩人・最果タヒによる詩の展示「最果タヒ展」巡回展が、2月13日(土)〜28日(日)の間、名古屋パルコ西館6F・パルコギャラリーにて開催中だ。(※大阪・心斎橋PARCOでの展示は3月5日(金)〜3月21日(日)に開催される)
この展示は最果タヒの詩世界を様々なアイデアのもと具現化し、体験することを主体とした展示空間となっている。
最果とタッグを組み、アートディレクションや空間デザインを担当しているのは東京の第一線で活躍し、2020年のJAGDA新人賞を受賞したデザイナー・佐々木俊。
展示初日、本展の企画者であるキョードー大阪の山城真由子がインタビュアーを務め、トークゲストに佐々木俊、そしてLINEで参加という“らしい”スタイルで最果タヒも加わった対談企画が行われた。
最果タヒの著作をデザインしたことが佐々木俊自身のキャリアにとっての大きなステップアップにつながっていることはこの対談でも語られているが、平面のグラフィックデザインから立体的な空間デザインへとさらに活動の幅を広げている佐々木俊の現在進行形のデザイン論と、LINEで参加した最果タヒの互いの才能を認め合う確かな関係性が感じられたトークセッションは、1部、2部に分かれて計2時間に及ぶ濃密な内容に。
今回、LIVERARYでは、2回分のトークをひとつに再編集。さらに、読者から集めた最果タヒへの質問とともに編集部からの質問も合わせて、全て一問一答で答えてもらったロングインタビューも掲載!(2ページ目▶︎)
すでに展示に足を運んだ方も、これからの方もぜひ読んでみてほしい。
SPECIAL TALK SESSION:
最果タヒ
佐々木俊
Interview:Mayuko Yamashiro(KYODO OSAKA)
Text , Edit & Photo:Takatoshi Takebe(LIVERARY)
写真左:佐々木俊、右:山城真由子、中央:モニター上(最果タヒはLINEで参加)
ー本日は最果タヒ展にお越しいただきまして誠にありがとうございます。開催記念トーク「最果タヒの詩とデザイン」を始めさせていただきたく思います。司会を担当いたします本展の制作担当・山城と申します。よろしくお願いします。
佐々木:よろしくお願いします。
ー佐々木さんは、最果さんの複数の著書や展示関係のデザインをされていらっしゃいまして、本展でも展示作品やチラシやポスターなどの告知物、オフィシャルグッズなど全てのデザイン、ディレクションを担当されています。
佐々木:頑張りました(笑)。
ーこのトークでは、最果さんにも音声をお届けしておりまして、LINEでご参加いただくことになっています。最果さん、よろしくお願いいたします。では早速なのですが、最果さんと佐々木さんの繋がりについて探っていきたいと思います。ファンの方はご存知かもしれませんが、まず、佐々木さんと最果さんが一番最初にご一緒したお仕事が3冊目の詩集の『死んでしまう系のぼくらに』ですよね。
佐々木:そうです。それが2014年だから7年前くらいでだいぶ昔なんですけど。それが出る前まで、自分は全くの無名のデザイナーで、ほぼ誰も知らなかったと思うんですけど。当時は、Tumblr(タンブラー=デザインや写真、映像などを載せ、交流をする割とクリエイター向けのSNS)ってのが主流で、まあ今もあるんですけど、そこにイケてると思ったものを作って、ただただアップロードするっていうのをやってたんですね。その時は、海外の方からのレスポンスがたまに来るくらいで、日本人からあんまり反応が来なくって。僕大学を出たのが2010年なので、ちょうど社会人3年目くらいの時、小さなデザイン会社に所属していて、所謂サラリーマンデザイナーみたいなことをやっていたんですけど、リトルモアっていう当時『真夜中』っていう雑誌を出していた出版社があって、そこの熊谷さんっていう素晴らしい編集の方がTwitterでDMをくれて。「最果タヒっていう詩人の詩集を作ろうとしていて、最果さんが僕にデザインをやってほしいって言っているから、どうですか?」って。その頃の僕は、チラシ作ったりとか、ロゴとかあとは所謂広告仕事がメインだったんで、書籍はやったことなかったんですよね。でもまあこれはチャンスだ、これは絶対やらなきゃいけない!って思って、「やります!」って答えて。そこから本を作るためにInDesign(インデザイン=書籍や雑誌などページものをデザインすることに特化したAdobeのソフト)の参考書を買って、それを見ながら勉強をしながら作ったって感じです。
ー当時、お勤めされていた会社の社長さんにはこのお仕事のことは言ったんですか?
佐々木:当時の僕はサラリーマンデザイナーだったんですけど、それ言ってなかったんですよ。というか、言えなかったんですよ(笑)。あんまり推奨されることではないんですよね、会社を通さないということは。
ー隠したまま(笑)
佐々木:そう隠して(笑)。でもなんか自分個人でやりたかったから、社長の目を盗んで、ちょっとずつ日夜進めていたんですけど。色校正を受け取る時も会社じゃなくて、近くのカフェまで編集の熊谷さんに来てもらっていて。「コンビニ行ってきます」とか言って出て行って、校正用紙を受けとって、お腹に隠して会社に戻ったりしていて(笑)。
ー(笑)
佐々木:実は、バレてたみたいなんですけど、無視してくれてたみたいで。そういう隠密行動をやりながら生まれたのがこの『死んでしまう系のぼくらに』 です(笑)。
ー海外の人しかほぼレスポンスがなかった中で、最果さんは佐々木さんに依頼をされたわけですよね。どうして佐々木さんに依頼されようと思ったんでしょうか?
最果:熊谷さんと(自分の書籍を依頼する)デザイナーについて考えていたとき、熊谷さんが「新しい本になるはずだから、デザイナーも新しい人がいいね」って言って。それで、いいなと思っていた佐々木さんのTumblrを見せたんです。どんな人か全然わからないけど、でもこの人に頼んでみようって…。
佐々木:勇気ありますよね(笑)。Tumblrには、プロフィールも何も載せてなくて、ただメールアドレスと名前しか載せてなかったんで。
最果:熊谷さんアグレッシブなんで、ほとんどそこは気にしてなくて、むしろ「メアド書いてあるから依頼できるよ!」って言われました。
https://sasakishun.tumblr.com/より抜粋
ー最果さんは、純粋に佐々木さんのデザインだけを見て判断されたっていうことですよね。それからお二人の関係は、今につながっている。
佐々木:だからまあ、そんなことで始まっておきながら、7年もやれているということは、不思議なことですね。
ー佐々木さんのデザインがいいってなった最果さんに改めてお聞きしたいんですけど、佐々木さんが作るデザインは、(詩集の表紙にしては)グラフィックの要素が強いものだと思うんですが、どういう風に思われているのでしょうか?
最果:詩集は基本的に具体的なイメージをつけない方がいいとは思っていて、むしろ詩を解説するものよりも、もう一編の詩をそこに収録するような感じで表紙があるといいなと思っています。
佐々木:僕もそう思います。詩集をデザインするって上で、詩をそのまま表現するのではなくて、表現の余白っていうか、これは何かな?って見た人が考えるみたいなそういう「間」というか「余地」というかを残すようにしていて。
当日、最果タヒから送られてきた実際のLINEの画面。※LINEの文面をリライトしてもらったものを今回の記事に掲載しています。
最果:佐々木さんに最初依頼した理由は、非常に繊細で意識が行き渡ったデザインを作られていて、じっと見ていてもいくらでも見ていられる、でも理屈とかではないところにその秘密がある気がして、その澄み渡っている感じが、詩に近いと思ったので依頼しました。
佐々木:嬉しいです。
ー最果さんにとってはそのようなデザインに感じた、と。だから任せられたんですね。ということで、最初は詩集のデザインでタッグを組まれたお二人でしたけど、今回の展示の告知物をはじめ、この会場にある作品は基本的に全て佐々木さんのデザインによるもので、色とか形とか使う素材とかフォントとか、会場レイアウトとか一つ一つの文字の組み方に至るまで、トータルでアートディレクションをされています。まず今私たちがいるこのメインの展示について。この空間は「詩になる直前の、名古屋パルコは。」っていう作品なんですけど、最初2019年に横浜美術館の企画で展示されたもので、そもそもの作品の成り立ちとしてどのように作られたのかなと。例えばモビールが、こういう形にしてあるのはなぜなんですか?
佐々木:この部屋は、詩が両面に印字されたモビールで展示されてるんですが、人が動いた時に風が当たったりすると、表裏がクルクルと入れ変わるっていう最果さんのアイデアで。そのアイデアをどう定着させたらいいのか?っていうのを僕が考えて、言葉の破片のような形にして、多角形というか、不安定な形がいいかなって思って。最初は、きれいな円形とか四角とかでやろうとしてたんですけど、なんか不規則な形にしてみたら、自由な感じがしたというか、揺らぎが生まれたなと思って。文字も不安定な感じで組んでみたりしてます。
ーそうですね、斜めになってたり、バラバラですね。
最果:言葉が傾いているのいいですよね。
ーこのモビール型の展示は2019年の横浜美術館での展示の時からあって、「最果タヒ展の企画を立ち上げて全国で展開していきましょう!」ってなった時に、「モビールを中心にしつつ色々な作品を追加しましょう」ということになったんですよね。他にも、「ループする詩」「詩と身体」など様々な作品展示がありますが、どんな風にして生まれたんでしょう。
佐々木:そうですね。これまでにやってない詩の空間的なアプローチはないかな~ってのを考えようと思いました。〈空間だからこそ意味が生まれる、詩の読まれ方〉みたいなのをやらないとダメだなって。(詩が)ぐるぐるってこんがらがっている感じのイメージで。例えば、この部屋の展示空間では、詩が立体的になっていて、身体を動かさないと読むことはできないし、2個の詩が同時に視界に入ったり、それらが絡まることでAの詩とBの詩が交わるみたいな瞬間が生まれたり、角度によって読める詩が変わったりすると思います。あと「ループする詩」はその名の通りはじまりも終わりもない、どこで始めてもいいしどこで終わってもいいっていう。それって本じゃ難しい。そういうことがやりたいなっていうのは最果さんと僕で共通認識があったのでその中で思いついたんですけど。それっていうのは僕が結局アイデアは出したけど、最果さんの考えをもとにして自然と出てきたアイデアなんです。
ループする詩
ー最果さんとコンセプト部分はいつもしっかり共有されてから始めるんですか?
最果:新しいアイデアを話しあったときに、「その場にいることで完成する詩にしたい」ということを最初に共有した気がします。
佐々木:そうですね、今回の展示は、今まで最果さんとやったことの(現時点での)集大成的な内容になってます。時間・分・秒をそれぞれ詩に置き換えた展示もあります。つまり、今の3時50分32秒みたいのを、その時にしか読めない詩が存在するっていうことなんですよ。あの展示は、時計だってことにすら気づかれていないかも(笑)
ー(笑)。ライティング(照明)とか、展示空間ならではの演出として考えることってあると思うのですが、その辺りはどうでしょうか?
佐々木:ライティングとかに関しては結構、会場によって制限がかかるのが、それも展示の面白いところだと思っていて。会場によってライティングの配置や構造が変わったりするし、天井の高さとか調整することすらできない部分もあって、その中でどう成立させるかっていう、それをもう即興的に判断する要素もあって。平面でデザインを作るのとは違う面白さかなって思ってます。
ー展示空間ごとに合うようにその場で調整することが多いのですね。
佐々木:そうですね、だから展示空間との対話みたいなところあります(笑)。でも展示の仕事するようになって、制限に対して即興的にどう対応していくかみたいな、ピンチをどう楽しむかみたいなところも展示デザインの醍醐味だなと思ってきていて。ここの名古屋の会場とかだと、名古屋しか来てない人はわからないと思うんですけど、今までは真っ直ぐな奥行きのモビール空間だったんですよね。だけど今回は会場の形を利用して、初のL字型モビール部屋になってます(笑)。
ーモビールの数もこれまでで最大ですよね。このモビール空間にある壁文字とかも実は今まで開催してきた福岡、東京、名古屋と全部変わっていて。突き当たりの壁の詩も、全会場変わってるんですけど、こういう文字の見せ方というか組み方みたいなのは、どう決めているんですか。
佐々木:あまり詩の内容を見ないで、オブジェクトとしてどうレイアウトするかっていうことをやってるんですよ。改行位置とかで、文字数とか変わったりしてるわけじゃないですか、それに対して、どういうコンポジションがいいかみたいなことだけを見てやるんですよね。で、そうした方がいいなっていう風に思ってるんですよね。詩に寄りすぎないみたいなことは意識してます。
ー空間に対して文字をどう入れるかに重きを置いている、と。結構いろんな場所にレイアウトされているのも面白いポイントですよね。こんな位置にあるんだ!とかっていう発見も。
佐々木:意外と気づかないかも。探してもらえたら、と。
ー会場ごとに違った楽しみ方ができるってことですね!では、ちょっと告知ビジュアルについてもお伺いしたいと思います。このビジュアルができたのって最初に最果さんからいただいた〈われわれはこの距離を守るべく生まれた、夜のために在る6等星なのです。〉っていうタイトルとコンセプトが起点になっていますよね。〈ここに来て、その場に立つことで完成する場所を作りたい〉っていう展示のコンセプトを伺った後に、佐々木さんがそのビジュアルを作ってくださったわけなんですが、このデザインはどういう風に着想されたんでしょうか?
告知ビジュアル
佐々木:まず、タイトル長えなと思いました(笑)。でも、タイトルが長いことによってできることもあって。どっちが天地だろう?というものにしたかったんですよね。重力が存在しない感じっていうか、どの方向からも読める、みたいな。そういうビジュアルがいいなと思って。丸とかのモチーフについては、これは何を表現してます、とかではなく、宇宙というか星、天体のようにも見えるしなんかこう、望遠鏡の中を見ているときにすごく小さい物を見ているんだけど、すごく大きいものを見ているような錯覚ってあったりするじゃないですか。小さい物が大きく見えたり大きいものが小さく見えたりっていうのがおもしろいなって思っているんですけど。その発想で、このビジュアルも、宇宙みたいにも見えるし、小さい細胞のようにも見えるっていうものにしました。〈◯◯の様にも見える〉っていうのが詩を扱ったビジュアルの時に大事なような気がしていて。一つ定まったものを見せないというか、複数のものに見えるっていうことがやりたいなと思ったんですよね。なおかつ動かしたかったので、モーションビジュアルも作ってもらっているんですけど。本当はこの時点で動くことも決めていたんです。
ーもう少し細かいところで、この部屋にある文字ってゴシック体ばっかりかなと思うんですけど、導入に配置されている詩は、チラシの書体に合わせてゴシックと明朝で作られています。明朝体とかゴシック体の違いというか、どういう考えでフォントは選んでらっしゃるのでしょうか?
佐々木:これはB101っていうゴシック体で、僕がよく使うフォントなんですけど。初期段階では、このモビールも明朝体でも検証したんですよ。でも、明朝フォントで空間に存在しているとなんだかエモい感じが強くなってしまう、というか(笑)。
ー(笑)。
佐々木:あ、これ話がずれるかもしれないんですけど、詩って、そもそも感傷的だったり、エモーショナルだったりという要素を必ず持っていると思うんです。それに対して、デザインでそれを強調するようなことはしたくないんですよ。何ていうか強迫的な行為に思えるというか、感動しろや!みたいな銃口を突きつけて言ってるみたいな感じで。それはしたくない。詩がそもそも持っているエモーショナルな要素に、デザインは寄り添わなくていいと思っていて。もともとすごく甘い苺だったら、練乳かけないじゃないですか。そのままの苺を出せばいい。そういう過剰なエモーショナルの演出みたいなのを避けたいなっていうのがあって、あえて明朝は避けて、ゴシックにしてるんです。以前に、僕と服部一成さんと祖父江慎さんと三人で最果さんの詩を展示するっていう企画が太田市美術館・図書館であったんですけど、そこでの経験は、僕にとって結構その後に生かされています。服部さんと話した時に、「映画の悲しい場面で、悲しい曲を流すことをしたくないよね」みたいなことを言っていて、それだー!って思ったんですよ。それが僕の中で大きく残っていて。それは常に意識しています。
最果:詩と、詩を読む人に対して、親切すぎない演出というのは私も大事だと思います。佐々木さんは読む力がすごいある人なんだなっていうのは仕事をしていて思うことが多く、言葉に対する距離感が絶妙なので、詩がそのまま一番フラットに出るようにしてもらっているような気がします。絶対読書家やろうなと思っていたから、谷川俊太郎さんのファンだったと知ってやっぱり!って思いました。
佐々木:最果さんもビジュアルが見えてる人だな~と思いますけどね。
最果:いや、いつもそこは不安です。判断しなくちゃいけないことも多いから、素人なのに大丈夫かなって。ありがとうございます。
ーデザイナーのお仕事ってまさに、そういう風にコンセプトとかを聞いて具対的なことを出すっていうお仕事なのかなって思うんですが。
佐々木:自分ができてるかわからないですね、それを。最果さんの仕事については最果さんがやりたいことを自分が理解して噛み砕いて(デザインにして)出すっていう感覚です。
ーまた具体的なことをお聞きしたいんですけど、展示空間は「詩ょ棚」を除いてモノトーンで抑えられています。これは何か意味があるんですか?
「詩ょ棚」
佐々木:本の表紙はカラフルでも、中身のページって基本モノクロじゃないですか。ここも展示空間でありながら、考え方は本のデザインと一緒っていうか。感覚としては本の中に入ったっていうか、本の中に、つまり言葉の世界に身を投げ入れる感じに思ってもらえたらいいかなって。最初色を付けるのもありかなって思ったんですが、でもやっぱり色って意味が出てきてしまうんですよね、可愛いとかカッコいいとかイメージが付いてしまう。言葉の世界だったら、その言葉を読み取れば、そこから色のイメージが出てくるから、ピンク色を使わなくても、ピンクが見えてくる言葉ってのがあるわけですよ。だから見た目は、モノクロだけど、読み取っていけば、カラフルな展示なんです。
最果:詩の演出の為のデザインというより、空間の上に詩を存在させるためのものになっている感じがします。でもそれって紙においても同じで、詩って言葉なのでデータでしかないので、文字や声にならないと、空間にも紙にも存在できなくて、詩を物理的なものにしてくれるのが、デザインだと私は思います。
ー最果さんの場合はスマートフォンで詩を書かれるので直筆原稿が無いということもあって、詩はそれ自体だけでは存在出来ない、といったことを仰っているのを以前にお聞きしたことがあります。だからどういう書体で、どんなデザインで世に出ていくか?ってことにすごく気にされていらっしゃるんですよね。
最果:詩人が書いているのはその手前なので。どういった形になるか?という点は意識せずにはいられないです。
佐々木:声とかで言うと、「座れる詩」っていう展示もあって、朗読が聞けたりするんですけど。それもある意味、空間で味わうものになっています。
ーそうですね。青柳いづみさんという、「マームとジプシー」とか「チェルフィッチュ」とか劇団を中心に活躍されている女優さんの朗読が聴ける展示になっています。
最果:朗読、最高!すごく嬉しかったです。
佐々木:青柳さんの朗読素晴らしくて、僕もデザインという形で、デザインをした。だから多分僕じゃないデザイナーが同じことをやろうとしても全然こうなってないと思うんですよね。これは僕の判断したやり方で。読書と同じというか、ある意味朗読したり、デザインも表現だと思うんですよね。内面的な表現ではなく、最果さんの詩をどう見せるのかっていう表現。読むこと自体も表現って言っていいと思うんですね。声にも出すし、出さなくても頭の中で声になったりするし。そういうことを最果さんって大切にしてると思うし、それでどう変化していくかみたいなところが、詩って面白いですよね。それぞれの受け手の解釈によっても変わったりする、得体の知れなさっていうか、それが詩のすごいいいところだなと思ってて。
ー最果さんから佐々木さんへの質問は何かありますか?
最果:佐々木さんがデザイナーになろうと思ったきっかけを聞きたいです。
佐々木:ないんですよ、なってしまったという感じなんですよね。そもそも◯◯のデザインに憧れてたとかってのが全然なくて、なんかよくあるちょっとだけ絵が好きな人間が東京に上京したい理由をつけるために、東京の美大を受験して頑張って入って、就職しなきゃってなって、なんとか就職して……長い夢を見ていて、パチって目が覚めて、起きたら今ここにいる、みたいな感じなんです。
ーデザイナーになるぞ〜!っていう感じではなかったんですね。
佐々木:別にデザイナーに対する憧れはなかったんですよね。
最果:すごい。
佐々木:でも、そんなもんですよ。だって最果さんだって詩人に絶対なりたいって思ったわけじゃないと思うんですよね。だから往々にしてそうかなって思います。まあなっちゃったからには頑張ってみるか、みたいなことをやり続けていって、現在に至る、みたいな。
ーなるほど。では、詩をデザインすることや、佐々木さんならではのデザイン表現についてもう少し深めていきたいと思います。そういう話にも繋がるのかなって思うんですが、今回のオフィシャルブックがすごい大作になってます。
佐々木:そうこれ、オフィシャルブックなんですけど、かなりオススメです(笑)。これは先ほど話に出たリトルモアの熊谷さんが編集で入ってくれていて。最初山城さんとかと話ししている中で、「オフィシャルブック作ったらどうですか?」ってアイデアがあったんですよね。
ーそうですね、この展覧会にある詩を本でも読めるみたいなカタログのようなオフィシャルブックを…という発案でした。
佐々木:でもなんか最果さんとか僕とか熊谷さんで、うーんってなって。「じゃあ展示やらなくて良くない?本でいいよね」ってなっちゃうよな〜って(笑)。だから「本を作るなら、展示の一部になるぐらいの本を作らないと!帰ってから読んだら展示の続きがあるみたいな本にしよう!」って。本当に色々なジャンルの方々の協力を得て、「最果タヒ展」オフィシャルブックなのに、最果タヒ以外の人がやたら入っています。僕の好きな谷川俊太郎さんの詩が入ってたりもするんですけど。最果さんの詩を元に絵にしたりとか、最果タヒそのものを文章にする人もいるし、まったく関係ない人もいるし。詩を考えるをテーマにした雑誌っぽい感じになってます。この本自体が詩、みたいな。
ーページデザインも、(寄稿してくれた方々)お一人お一人に合わせてっていうか同じデザインのページがないんですよね。
佐々木:そうそう。みんな原稿の長さが色々だからね。短い人もエッセイもあれば。もちろん詩があったり写真があったり絵があったり、すごい濃厚な内容になっています。「詩とは何か?」という問いに対する絶対的な答えを持ってる人っていないと思うんですよね。僕はデザイナーで、だけどデザインの中にある詩の部分っていうのを大切にしようとしているし、どこの誰だって詩を書いていいわけですよ。そういうことを肯定してくれる本。そういう意味ですばらしい一冊になっています。
ー最果さんとのお仕事ならではの、楽しさとか、難しさってありますか?
佐々木:最果さんならでは、の話で言うと「スピード感」。原稿が来てから入稿までの間が短いことが多いんですよ(笑)。これは別に最果さんが悪いって言ってるわけではなくて。そのスピードだからこそ、のものが出来上がる。熟考してしまうと消えてしまうものみたいなものってあって。そこが楽しい。
ー私も、佐々木さんと最果さんの超スピードのメールやり取りを拝見していて、なんて速度なんだ!と思っていました(笑)。
佐々木:最果さんとのメールやり取りは、枕投げみたいな感じ、投げられたらすぐ投げ返す、みたいな(笑)。ある種この暴力的なやりとりみたいなのが生み出すパワーみたいなものもあると思って。なんかそういうことが起こり得るのが楽しいと前向きに捉えています。
ー佐々木さん、最果さんありがとうございます。この後も実は大阪・心斎橋PARCOの展示があるのでその作業をしながら、名古屋の準備もしてっていうことだったので……。
最果:いや、ほんと待たせてしまうことも多くて申し訳ないです。作業が増えてきて、依頼自体がギリギリのことも結構あるので、そうなってくるともう、お互い高速の世界を生きているな……と遠い目になることも多いです。
佐々木:(笑)。楽しいですよ、それが楽しい。
ーオリジナルグッズについても本当にたくさんそういう感じでアイデアから出して、作っていただいたので是非グッズ売り場もじっくりご覧いただければと。
佐々木:どのグッズも良い、楽しいものがいっぱいあると思うので日常に持って帰ってもらえると。どれも血と涙の結晶なんで(笑)。
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2021年2月13日(土)~2月28日(日)
最果タヒ展
会場:名古屋パルコ西館6F PARCO GALLERY
営業時間:館に準ずる ※最終日は18:00まで ※休館日:2/17(水)
料金:一般800円(税込)/ミニ本付チケット1800円(税込)
主催:キョードー大阪/パルコ
協力:中京テレビ事業/sou nice publishing
企画制作:キョードー大阪
チケット・詳細:https://iesot6.com/
※大阪・心斎橋パルコでの展示は、3月5日(金)〜3月21日(日)
最果タヒ
1986年生まれ。2006年、現代詩手帖賞受賞。2008年、第一詩集『グッドモーニング』で中原中也賞を受賞。2015年、詩集『死んでしまう系のぼくらに』で現代詩花椿賞を受賞。その他の主な詩集に『空が分裂する』『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(同作は2017年石井裕也監督により映画化)。エッセイ集に『きみの言い訳は最高の芸術』『「好き」の因数分解』、小説に『星か獣になる季節』『十代に共感する奴はみんな嘘つき』などがある。作詞提供もおこなう。清川あさみとの共著『千年後の百人一首』では100首の現代語訳をし、翌年、案内エッセイ『百年一首という感情』刊行。2017年にルミネのクリスマスキャンペーン、2018年に太田市美術館・図書館での企画展に参加、2019年に横浜美術館で個展開催、HOTEL SHE, KYOTOでの期間限定のコラボルーム「詩のホテル」オープンなど、幅広い活動が続く。最新詩集は『夜景座生まれ』。今春にエッセイ集『
佐々木俊
1985年仙台生まれ。
2016年AYOND(アヨンド)を設立。
デザインを担当。その他の仕事として、
(居)場所」宣伝美術、連続テレビ小説『エール』
術館・図書館『ことばをながめる、ことばとあるく―