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FEATURE / 特集記事 Apr 01. 2021 UP
【REPORT】
名古屋市による新たな試み「名古屋市文化施策推進体制準備委員会」活動報告。
これからの名古屋に必要な正しい文化芸術助成とは?

FEATURE:名古屋市文化施策推進体制準備委員会

 

「ジャンルを超えた文化芸術の交流と協働」をテーマとしたパイロット事業「場作りの実験ー長者町コットンビル編ー」の報告会(作品の発表とトーク)、公募と厳選なる審査により採択された「文化芸術活動連携支援事業助成金」による5つのプロジェクトの成果発表会という二つのイベントが、伏見・長者町コットンビル1Fスペースにて3月7日(日)に開催された。

今企画は、名古屋市が新たな文化芸術の推進体制の検討のために組織した「名古屋市文化施策推進体制準備委員会」2021年3月7日現在)が企画・主催したもの。そしてこの取り組みを元に、名古屋市は今年度、名古屋版アーツカウンシルの設立を計画しているという。

 

 


「名古屋市文化施策推進体制準備委員会」HPのビジュアル

 

同委員会が「場作りの実験ー長者町コットンビル編ー」を企画した背景としては、今後、国内外からアーティストやクリエイター、キューレーターやプロデューサーを招聘するなどし、外部からの新鮮な視点で名古屋の魅力再発見に繋げていくことができれば、名古屋の文化芸術活動の発展になると考えたという。

この活動体が名古屋のまちにどんな変化をもたらし、国内アートシーンの活性化にいかに貢献していくのか? 今後の展開にも期待しつつ、今回行われれたパフォーマンス、トーク、成果発表会のレポートとともに、参加アーティストや、主催者である名古屋市職員の生の声をお届けする。

 


REPORT:

名古屋市文化施策推進体制準備委員会

Text & Edit :Takatoshi Takebe(LIVERARY)
Photo:Tomoya Miura

 

 

「場作りの実験ー長者町コットンビル編ー」と題された、まさに実験的企画に参加したメンバー(以下レジデント)は、インストーラー・青木一将(ミラクルファクトリー)、建築家・河部圭佑、ヴァイオリニスト・城戸かれん、アーティスト・西山弘洋。全くジャンルの異なる4が今回の企画で組み合わさることで生まれたのは一体どのような作品となったのか。

会場の長者町コットンビルは、名古屋・伏見の繊維問屋街、長者町の元・布団業者が入っていた古びたビルだ。作品の制作及び発表の場となった1F部分は、天井が約4mの高さを持つ、がらんとした場所で元々はただのガレージだった場所。これまでLIVERARYの企画により、夏目知幸、小田島等、大橋裕之といったアーティストや、シヤチル、提灯東京といった飲食店を招聘したイベント、AICHI⇆ONLINEの音楽プログラムのライブパフォーマンスも行われている、2021年6月より多目的スペースとして活用され始めたばかりの場所だ(ちなみに、同ビル3Fには現在準備中のLIVERARY officeが入居している)。

 

長者町コットンビル外観

 

今回の作品は、建築家・河部圭佑、インストーラー・青木一将(ミラクルファクトリー)による会場造作があり、そこにアーティスト・西山弘洋のドローイング映像が視覚的に重なり、さらにヴァイオリニスト・城戸かれんの演奏パフォーマンスがリアルタイムで行われる、といった立体的な構造に。

 

 

「場作りの実験」とは何だったのか?

パフォーマンス後にレジデント4名と、プログラムディレクターの北川明孝によるトークが行われた。4名のレジデントによる今回の企画実現に至るそのプロセスは、何度もZOOM会議を繰り返し、意見交流をしながら進められていったのだそう。異分野のアーティストたちの共同作業はやはり難しいものだったようだが、彼らはこの取り組みを終えてどんな感想を持ったのだろうか。

 

 

「まず、クラシックというジャンルにいると、別ジャンルとのコラボレーションもなければ、設備や環境が整えられたコンサートホール以外での演奏の機会がない」とヴァイオリニスト・城戸かれん。

楽曲のセレクトは、ウジェーヌ・イザイが作曲したヴァイオリン独奏のための作品「無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番」。イザイがバッハの楽曲を引用して作ったとされるこの楽曲は、クラシックなもの(伝統)に、新しい個性をプラスし更新しようとする、今企画への城戸自身の意思とリンクさせた。

 


城戸かれん
1994年、東京都生まれ。4歳よりヴァイオリンをはじめ、第79回日本音楽コンクール第2位(2010年)、カール・ニールセン国際ヴァイオリンコンクール第4位(2016年、デンマーク)のほか、数々の受賞歴がある。2017年、東京藝術大学を首席で卒業。2020年同大学院音楽研究科修士課程を修了。紀尾井ホール室内管弦楽団2020年度シーズンメンバー。クラシック音楽業界における女性演奏家の新しいあり方を提唱する弦楽合奏団「AS IT IS」を設立し、音楽の本来あるべき姿を追求している。

 

「会場を下見した時の第一印象が『洞窟』だった」という建築家・河部圭佑。予算も時間もある程度限られた中で、建築家として「洞窟」を表現する手法として取ったのは、大きな一枚の紙をくしゃくしゃにしシワを作り、天井から吊り下げるという発想。彼のキャリアの中でももちろん初の試みだった。「建築は先に設計図を作って、その通りに形にしていくもの。だが、今回はあえてそこを無視して、偶然性をむしろ楽しんだ」のだそうだ。

 


河部圭佑
1991年、名古屋市生まれ。横浜国立大学工学部建設学科卒業後、同大学大学院Y-GSA修了。アトリエ・ワン勤務後、2017年、河部圭佑建築設計事務所設立。2020年より、名古屋造形大学地域社会圏領域助手・領域マネージャーを務める。「芸術と建築」をテーマに、歴史的・文化人類学的思想を内包する空間構築の研究と、具体的・継続的な都市美運動の実践を行う。主な作品に「名古屋みなとのアトリエ住居」(2020年)ほか、アート作品も手がける。

 

建築家・河部圭佑が生み出した紙の洞窟に映像を投射するスタイルで作品を発表したアーティスト・西山弘洋も実は映像による作品は今回が初となった。「映像作品という表現は、周りからもやってみたら?と前々から勧められてはいたんですが、今回が初の機会となりました。」


西山弘洋           
1987年、熊本県生まれ。2009年、名古屋芸術大学美術学部絵画科洋画コース卒業。2011年、名古屋芸術大学大学院同時代表現研究修了。最近のグループ展に、「化現の光」(2020年、アートラボあいち)、ファン・デ・ナゴヤ美術展2020「ここに在るということ」(2020年、市民ギャラリー矢田)など。個人で作品を発表するだけでなく、他の作家と協働なども積極的に行う。

 

作品数にすると40枚ほどに及んだというドローイングは、城戸が選んだ楽曲「無伴奏ヴァイオリンソナタ」を聴きながら全て描いたもので、その描画のプロセスを記録したのが今回の動画作品だ。実際に投影されたそれらは紙の洞窟に壁画のように映し出された。また、演奏する城戸も同じ真っ白な紙の衣装をまとい、西山の作品のキャンバスの一部となっていく様も印象的だった。

 

当日のパフォーマンスの記録映像はこちら▼

 

3者ともに初の試みを行う中で、唯一イメージを確実に現実化させねばらならない重要な役割を担ったのは、これまで「あいちトリエンナーレ」アッセンブリッジ・ナゴヤなど、現代アートの現場でインストーラーとして活躍してきた青木一将(ミラクルファクトリー)。

「僕は普段からアーティストたちの無理難題に答えるインストーラーという仕事をやってるんで、こういった現場はよくあることでした。自分は作品には口を出していなくて、3人のやりたいことを聞いて、それをどうしたら実現できるのか?の調整役として、参加した感じですね」。

 


青木一将(ミラクルファクトリー)
1984年、三重県生まれ。愛知県立芸術大学彫刻専攻卒業。国際芸術祭や美術館の展覧会などで作品を効果的に見せるための展示設営やアーティストの作品の構想を可視化・具現化するための作成補助などを行っている現代美術のインストーラーチーム「ミラクルファクトリー」の代表。あいちトリエンナーレ2010を機に結成され、長者町コットンビルがある長者町にある町中会場の展示設営で活躍した。

 

この4者の絶妙なバランスによって生み出された本作は、間違いなく今回のような機会がなければ生まれていなかった。彼らに司会の北川が「タイトルをつけるなら?」と質問をすると、全員が自分の作品ではないかような返答を行う、不思議な作品でもあった。

 

 

では、今回の企画で「どういう意図を持って彼ら4名を選んだのか?」「果たしてこの取り組みにどんな意味があったのか?」プログラムディレクター北川明孝さん、プログラムオフィサーの谷口裕子さんに尋ねてみた。

 

 


北川明孝さん(名古屋市文化施策推進体制準備委員会)

 

ー今回のレジデント4名はどのようにして選ばれたのでしょうか? 

北川:4名の選出に関しては、準備委員会でよく話をしました。我々自身が異なるバックグラウンドを持った集まりでしたので、レジデントの活動を異分野の方へも通訳・翻訳するような形で共有し、それぞれがどういった考えと専門性を持ったアーティストであるか、という点に注目しました。

最初からある程度、着地点のイメージを持って、選ばれたのでしょうか? 

着地のイメージは全くありませんでしたが、専門性を理解した準備委員会メンバーが伴走支援をすることで、各々他分野への理解が深まり、協働への橋渡しのような中間支援ができたのではと感じています。予想以上に、分野を超えた協働作品が素晴らしいものとなり、レジデントの皆さんの言葉をお借りすると、既存のメディア・ジャンルには分類できない「何か」が出来上がったように思います。

 


谷口裕子さん(名古屋市文化施策推進体制準備委員会)

 

ー今回の「場づくりの実験」、やってみてどうでしたか?

谷口:アーティストはもちろんですが、そこに集まるさまざまな人たちが交差することで、文化というものが育まれるハブになっていければ、と。今回の企画はまさにリアルな交差する場を作り出しましたが、私たちの団体の活動が媒介となって、この地域の文化芸術の発展に貢献できたら、とより実感を持つことができました。

 

 

「文化芸術活動連携支援事業助成金」成果発表会から見えてきたもの。

この日「場づくりの実験」パフォーマンスとトークの後には、昨年11月に募集がなされた「令和2年度 文化芸術活動連携支援事業助成金」(上限:100万円)に採択された5プロジェクトの成果発表会とパネル展示も行われた。

 


「名古屋市文化施策推進体制準備委員会」HPより


パネルの前に並ぶ、採択者たち

 

今回の助成制度の説明が冒頭にあり、その後プロジェクトを手掛けた5組の採択者たちが順々にどのような企画だったのか、どういった成果があったのかなどを説明していった。いずれもコロナ禍によりさまざまな表現活動が難しくなった現状のなかでできることを模索したようだ。

 


浅井信好さん

 

ダンサー兼振付家・浅井信好さんは、覗き穴から観るコロナ禍における新しい観賞装置とそれを使った舞台を企画。「PEEP SHOW アパートメント編〜アーティストの素顔を覗き見る」というタイトルで、ショッピングモールという開けた場所で開催し、視覚的なユニークさもあり、海外メディアでも取り立たされるなどし話題となった。

 

現代アーティスト・玉山拓郎との共作に挑んだピアニストの古田友哉さん。自身が演奏するベートーヴェンのピアノ楽曲の譜面に玉山の作品を落とし込んだ映像作品を制作し、発表。

 


古田友哉さん

 

 

名古屋・大須を拠点にこれまでもサルサやキューバ音楽のベーシストとして活動してきた、坂田ブンテイさんは、ラテン音楽「サルサ」やその文化の普及に務め、ライブダンスワークショップ、ミニトークを行った「Gran LatinOsu(グラン・ラティーノス)」をオンラインで開催。

 

名古屋エリアのジャズライブのスケジュールなどを発信するメディア「Nagoyajazz.com」の活動を行ってきた山下佳孝さんは、国際化リニューアルプロジェクトとし、ウェブサイトの多言語化や知られざる地元ジャズミュージシャンたちのインタビューと演奏をまとめた動画の制作を行った。

 


山下佳孝さん

国外への移動が困難になった現状で、オンラインでアーティストとまちが交流する共同制作を行った、オンライン国際共同制作:「名古屋×ペナン同時開催展:名古屋文化発信局」。企画者は、アジアのアートシーンを日本に紹介するなどしてきたSEASUN鈴木一絵さん。

 


鈴木一絵さん

 

行政が考える文化芸術助成の根幹にあるものとは?

最後に、「なぜそもそもこのような文化芸術助成の取り組みを名古屋市はスタートしたのか?」「その先に何を見据えているのか?」という疑問を「名古屋市文化施策推進体制準備委員会」の担当者である、名古屋市観光文化交流局文化振興室・三矢知徳さんに投げかけた。

-今回のようなアーツカウンシル的な取り組みは全国的にあるものかとは思うのですが、どういう経緯で名古屋でも取り組みを進めているのでしょうか?

三矢:文化庁がアーツカウンシル設立のための補助金を全国の自治体に出し始めたのが、2016年のことで最初に採択されたのは横浜市や新潟市など5つの自治体でした。現在では全国各地に多くのアーツカウンシルが設立され、それぞれの取り組みも様々ですが、アーツカウンシルの中核的業務となる助成金プログラムの実施や、専門性の高い企画力が必要とされ始めるなかで、国としては、芸術祭のインバウンド需要や経済効果も見据えて、今回採択されたようなプロジェクトをやっているような方々や、彼らと伴走ができるプログラムオフィサーと呼ばれる職種の専門家を育て、より自発的に企画を仕掛けていける人材を増やしていきたい、そういう意図あると思います。名古屋市でも専門家による文化芸術活動の支援や、文化芸術を他分野に活用する取り組みを創出する「新たな文化芸術の推進体制」を構築したいと考えています。

ー今後、この取り組みはどんな方向へと動いていくのでしょうか?

このような取り組みを通じて、文化芸術活動を支援するとともに、名古屋でも専門家を育て、他地域でも活躍してほしいと思っています。来年度以降、「名古屋市文化施策推進体制準備委員会」は名称を変え、本格的に助成制度などを行っていく予定ですので、これからの名古屋のアートシーンに良い流れをつくっていけたらと思います。

 

 

もちろん、このような文化芸術助成の取り組みに対してネガティブな考えを持つ方もいる。「どうしてこの事業は助成されたのか?」という基準が不透明であったり、「もっと助成すべき活動があるのではないか」という声や、そもそも助成金ありきで文化芸術活動を行うような流れが強まることで、文化芸術の根源の部分を腐らせてしまう可能性を危惧する考え方もある。

だからこそ、助成金の採択を行う側の人材育成が重要となる。アートに対する高い専門的知識と経験値、社会の動向やカルチャーシーン全体の流れも把握できていなければならないだろう。こうした取り組みがより活発になっていき、認知が高まっていくことで、形だけの助成ではなく、しっかりと質の高い文化芸術を生み出すきっかけとして機能してくれることを願いたい。

 


名古屋市文化施策推進体制準備委員会
本準備委員会では、名古屋市の文化芸術の創造・発信を推進するため、
文化芸術活動の支援や、先駆的な事業の企画立案、
地域の課題調査・情報発信、第三者の視点を取り入れた審査・評価等を行う

「新たな文化芸術の推進体制」の構築に向けた検討を進めてまいります。
https://a-c-n.jp/

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