まちのメディアピープル#06:加藤幹泰(大ナゴヤツアーズ)
「ナゴヤを面白がる人を増やす」をコンセプトに、名古屋の「街」と「人」の魅力を新たな視点から発見するきっかけをつくってきた「大ナゴヤ大学」。これまで培われた、まち歩きやワークショップを取り入れたユニークな授業づくりの経験をもとに、2017年春から新たな体験プログラム「大ナゴヤツアーズ」をスタートさせた。大ナゴヤ大学・学長としての活動を続けてきた加藤幹泰さんが中心となって立ち上げた、この新しいプロジェクトについてはもちろんのこと、いつも楽しそうな笑顔を振りまく元気いっぱい!という印象の加藤さんの現在に至るまでの人生経験についても……じっくりお話を伺ってきました。
SPECIAL INTERVIEW:
まちのメディアピープル#6
MIKIYASU KATO
「大ナゴヤ大学」学長 /「大ナゴヤツアーズ」代表・加藤幹泰
Interview:Hitomi Hamada [ LIVERARY ] / Takatoshi Takebe [ THISIS(NOT)MAGAZINE/LIVERARY ]
Text&Edit : Yoshimi Ishiguro [ LIVERARY ] / Takatoshi Takebe [ THISIS(NOT)MAGAZINE/LIVERARY ]
Photo : Ryoji Yamauchi [ LIVERARY ]
加藤幹泰さん
人が繋がることで生まれる可能性。
人を繋げることの楽しさ。
―「大ナゴヤ大学」の学長として、名古屋エリアの新たな魅力発見を行ってきた加藤さんですが、「大ナゴヤ大学」に関わることになったきっかけから教えてください。
加藤幹泰(以下、加藤):どこから話そうかな〜って感じですが、まず高校時代はサッカーをやりながら、勉強もそこそこちゃんとやっていましたね。で、夏の大会ギリギリまでサッカーをやるから大学受験どうしようか?って考えて、その頃、特にやりたいこともなかったんですが、ただなんとなくの気持ちで大学選んでしまうのが嫌だな〜って思って。それで「チャレンジがしたい」と思って海外に行こうと決めました。ちょうど友達にアメリカに留学する子がいたので、その子の話を聞いてさらに刺激を受けたのがきっかけでした。意を決して、アメリカの短大に2年行きました。
―アメリカのどちらへ?向こうでは何をしていたんですか?
加藤:当時イチローがシアトルにいた影響もあって、シアトルの隣の街の「タコマ」って街の大学を選びました。当時はアメリカ人にただただ憧れていましたね(笑)。同時にコンプレックスというか悩みも多々。みんな体格も大きいし、言葉も通じなくて、いつも悔しい思いをしていました。でも、高校時代に続けてきたサッカーだったら負けないって思って、大学のサッカークラブに入ろうと思ったんです。トライアルを受けようとしたら、「お前は英語喋れないからダメだ」なんて言われてたんですが、ある時練習に何とか参加させてもらえて、英語は喋れないけどサッカーをやるうえでの意思疎通はできたんで、そこから認めてもらえて「入っていいよ」って言われて。そこから、日常がすごい楽しくなっていって、サッカーを通して友達ができたので、国際免許も取得して車で出かけたりして遊んでました。
−じゃあ、サッカーと遊びの毎日ってことでいいですか(笑)?
加藤:いやいや。勉強も最低限はやりましたよ。(笑)。ただ英語を勉強するだけなら日本でもできるので、ここで自分にしかできないことをやってみたいと思っていました。そんな時「インターナショナル・スチューデントオフィス」というのを作って、留学生とアメリカ人の間に入るコーディネーターみたいなことをボランティアでやり始めました。せっかくアメリカに留学に来たのに、ずっと日本人コミュニティのなかにいる人たちってたくさんいるんですよね。他の国の留学生たちも。その人たちのなかには、英語を喋りたいけれどうまく喋れないから、アメリカ人と仲良くなるきっかけがないという人が多くて。同じくアメリカ人の中にも、日本のアニメや文化が好きで、コミュニケーションをとりたいけれど、日本語が話せないから困っているという人もいたんです。その状況が歯がゆくて。自分もそういう時期はあったし、何か助けることができたらと思い、その間に入る活動として始めました。その時に人と人を繋げることの楽しさに気づいたのかもしれません。
アメリカで過ごした大学時代
加藤:で、時期が来て、「日本帰るか!」ってなったときに、「何しようかな?」とネットで調べて、人と人を繋ぐ仕事をしたいと思い、人材採用のリクルートの代理店をする会社に応募しました。
―リクルートでの会社員時代は、どんな仕事を?
加藤:就職サイト「リクナビネクスト」など求人広告の飛び込み営業をしたりしてました。僕は繋げることしか仕事で携われないですけど、そこからいろんなイノベーションが生まれたり、会社が大きくなっていったり、人が繋がることですごいことが生まれる可能性を近くで感じられる仕事は楽しかったですね。めちゃくちゃ頑張って、成績もすごいよかったです(笑)。表彰とかもされたり、給与もちゃんとそこそこもらえて充実した日々を送っていました。だけど、もっと「繋げる」ということで何か面白いことができないかな〜なんて考えていました。
アメリカ、大阪で学んだことは、まちへの愛情。
加藤:営業マン時代最後の職場が大阪だったのですが、大阪の街や人たちの「大阪、サイコー!」って感じが、すごいカルチャーショックでした。名古屋は別に嫌いじゃないけど、「名古屋、サイコー!」って声に出して言えるほどでもないな〜と僕自身も感じていて、周りもそうだったんで。「名古屋のこと、好き?」って聞いても「うーん……」ってみんな悩んじゃうみたいな。大阪にも友達ができて彼らのその自信満々な感じを見ていると、ほんと単純に人としてかっこいいなと思えたんです。アメリカでも同じような経験があって。みんな自己紹介するときとか「あなたの国ではどう?」とか「どんな文化があるの?」とか自分の地元のことについてをかしこまった話じゃなくて、普通に日常会話的にそういう話するんですよね。当時の自分は、名古屋について自慢できるほどに話すことができなかったので、自分の街について話せるのってかっこいいな、とうらやましく思っていましたね。
―自分が住んでいるまちなのに消極的な評価しかできないって、名古屋の人特有かもしれないですね。
加藤:自分の周りを見てみると「別に名古屋なんて来なくていい」とか「来ても何もない」って言ってる人ばかりだったから、この状況って変えられるのかな?って考えていたんです。仕事になるかはわからないけれど、とにかく動いてみたい!とだんだん強く思うようになっていきました。で、大阪から名古屋に帰ってくるときに「大ナゴヤ大学」の存在を知って、連絡して、最初はボランティアとして関わることになりました。
ものづくりの現場、祭や里山体験など、「大ナゴヤ大学」では気付かなかった街や人の魅力に出会う「授業」が目白押し。
−順調な仕事をわざわざ辞めて「仕事になるかわからないけど、何かおもしろいこと」って方に行く決断ってすごいですね。
加藤:ちなみに、営業マンを辞めた後はしばらくフリーターになって、小学生の教材の飛び込み営業とか(笑)、そういうバイトをいろいろやりながら「大ナゴヤ大学」でボランティアスタッフをしていて。その生活は大変だったけど、楽しかったんです。フリーター時代もなかなかいい経験になったと思いますね。で、僕が「大ナゴヤ大学」に入って半年くらい経ったとき前任の代表が抜けることになり、2012年から「大ナゴヤ大学」の学長に就任しました。
−半年で学長!?すごいスピード出世ですね!
加藤:タイミングもあると思いますが、元気がよくていろんなことに耐えられる奴が僕しかいなかった、なんて話もあります(笑)。
大丈夫。名古屋で面白いことをやっている人はたくさんいる
―なるほど。さまざまな授業やワークショップをこれまでにもたくさん手がけてきた「大ナゴヤ大学」ですが、「やっとかめ文化祭」のような大きなイベントも、名古屋市さんとコラボして運営されていますよね?
加藤:そうですね。「やっとかめ文化祭」は事務局として関わらせていただいてます。うちと名古屋市さんと、中日新聞さんと文化振興事業団の4つの団体による共催ですね。その前にも、名古屋のデザイン会社「クーグート」さんとも連携して「名古屋の歴史文化とユニークに出会う」をコンセプトとした『NAMO.』という紙媒体やそれに関連したイベントなども…。あと、栄の名古屋テレビ塔を中心としたまちづくりを盛り上げる「SOCIAL TOWER PROJECT」も。いろいろな形で「まちと人」や「文化と人」を楽しく繋げることに関わらせてもらっていますね。
「やっとかめ文化祭2016」の様子。レポート記事はコチラ(https://liverary-mag.com/feature/53320.html)
フリー・ペーパー「NAMO」は2013〜2014年まで発行。制作は株式会社クーグート。http://nagoya-namo.jp/top.php/
「SOCIAL TOWER PROJECT」の一環で行われるマーケットイベントは今年も開催決定告知がなされたばかり。http://socialtower.jp/
−なるほど〜。「大ナゴヤ大学」に関わり始める前から加藤さんがやりたかったことが実現に向かっていってるわけですね。ちなみに、LIVERARYとしても「大ナゴヤ大学」主催のトークイベントに出させてもらったりしましたね。
加藤:そうですね。あのトークイベントは今回の「大ナゴヤツアーズ」のスタートにももちろん関係していて。開催の経緯としてはちょっと前に報道があった「名古屋市が魅力がない街ワースト1」がきっかけでそれに対して何か打ち返したいという思いがあって。
加藤:「そうじゃないよね〜」って思ってる人たちと話し合うきっかけを作りたかったし、多くの人にそれを呼びかけたかったんです。今さら数字に出されてネガティブキャンペーンをされたところで、僕らの周りの人にはこんなに面白いことをやろうとしてる人たちの存在があるんだよって。「大丈夫だよ。もっと自信を持って楽しもうよ」って声を大にして言いたかった。
2016年9月10日に開催されたトークイベント「魅力のない街?【名古屋】について考える。~ナゴヤ学~」の様子。LIVERARY編集部からも武部、黒田がパネラーとして参加。同じく登壇者の名古屋在住のライター・大竹敏之さんが「全国的に広がっている地元の食べ物でこんなにもたくさんのメニューが知られているのは、名古屋か沖縄くらいなんですよ!」と名古屋メシの特別さについて熱く語るシーンも。
―その後に、もう一度、名古屋の魅了について考えるシンポジウムも開かれましたよね。大学の先生や、名古屋市内外でまちについての活動をしている人たちがゲストでしたよね。
加藤:そうですね。この2回のトークイベントを通じて、僕自身、具体的にどうしていきたいか?どうするべきか?を考える過程として重要なものとなりました。
2016年12月に名古屋テレビ塔で行われた大ナゴヤ大学のシンポジウム「魅力を体感するナゴヤ都市観光の実現へ」。各地で都市観光の仕掛け人となっている5人の有識者とともに、集まった人たちも名古屋を盛り上げるためのアイデアについてお隣同士グループをつくってディスカッションする時間も。
―こうしたトークイベントなどの機会を重ねるなかで見えてきたのは、これまでの「大ナゴヤ大学」としてのやり方ではなく、「大ナゴヤツアーズ」という新しいプロジェクトにする必要性だった?
加藤:「大ナゴヤ大学」は基本的にボランティアベースで続けてきた活動で、関わる人たちのチャレンジや繋がりを大事にしたいと考えています。それとは別に、次のステップとして、これまでの経験とネットワークを活かして「新しい価値」を作り出したいと思うようになりました。それは「いい体験を日常に増やす」ということです。僕自身も「食べることが好き」ってとこから農園で美味しい野菜の収穫のお手伝いをさせてもらったり、味噌蔵で醸造文化を知ってから、味噌汁の味噌にもこだわるようになったり。お祭り好きが高じて郡上踊りや花祭りに毎年行くようになったりと、いい体験をすることで、自分の生活がどんどん楽しくなっていったんです。名古屋で暮らしながら、いいものに出会いたいと思えば身近なところにたくさんあるって強く実感しました。でもそれに気づけたのは大ナゴヤ大学の仕事をさせてもらっているから。美味しい食べ物を飲食店で食べたり、かっこいい服を洋服屋さんで買うように、このまちでいい体験をしたい人が誰でも参加できる場をつくり、それを喜んでくれるお客さんがいる、そんなまちづくりからの「顧客の創造」をしたいんです。だから「大ナゴヤ大学」の延長線にありつつも、事業化するうえではイメージの刷新が必要だと考えました。
―食べ物や洋服を買うように、体験を「買う」というフォーマットにした方が、分かりやすかったり気軽に参加しやすくなるという人もいそうですよね。
加藤:「大ナゴヤ大学」に入る前の自分って、面白い「もの」や「こと」は絶対あるけど、どこにあるのかがわからない、と感じていたんです。知りたいけど、どこにあるかわからないし、わかりにくく隠れていたりする。それを誰でも参加できるように体験プログラムという商品としてパッケージ化して、お客さんが面白い体験を目指して外へ出かけ、身近にある魅力的なまちの面白さに出会っていく。そんな面白い体験プログラムだけをセレクトショップのように集め、選ぶことも楽しんでもらえるのが「大ナゴヤツアーズ」です。
―なるほど。
加藤:また、外から訪れる観光の人たちにも、東海エリアでしかできない体験型観光としても楽しんでもらいたいです。これまで観光として取り上げられなかった、ものづくり、カルチャー、産業、自然などもディープに楽しんでもらいたいですね。
加藤:先日、「大ナゴヤツアーズ」のサイトが立ち上がって、31名のバラエティ豊かなガイドさんと一緒につくった31の体験プログラムを一挙発表しました。応募開始1週間で100名を超える応募がきている状況で、うれしい反響をいただいてます!
次ページ:実際にどんなツアーが企画されるのか?気になるその内容をピックアップ&解説。>>>
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大ナゴヤツアーズ
2時間あったら、
山へも、海へも行ける。都市もある、田舎もある。
この街は、そんな街。
新鮮で美味しい食べもの、個性あふれるお祭り、
陶器、醸造、自動車などの世界に誇るものづくり。
この街には、まだ知らない、良いものがいっぱいある。
いま、暮らしをもっと楽しくするのは、
「好き」「おいしい」「面白い」など
驚きや感動、嬉しくなるような体験ではないでしょうか。
個性的で愛情あふれるガイドの皆さんと、
この土地の良いものを集めたセレクトショップのような
感動体験ができる旅へあなたをお連れします。