2016年よりスタートした、名古屋・港まちを舞台にした音楽と現代美術のフェスティバル「アッセンブリッジ・ナゴヤ」が、11月10日(日)まで開催中。
音楽、現代美術プログラムのほか、ジャンルを越えたプログラムを展開するサウンドブリッジの3プログラムが特徴となるこのフェスティバル。
4年目となる今年は、各部門に新しい試みがみてとれる。音楽プログラムでは、コンサートに加えて一般公募による参加メンバーが、プロの音楽家の指導のもとで本番の公演に挑む企画が。また、アート、サウンドブリッジプログラムでは、本年の新作発表に向けて昨年よりリサーチを続けてきたアーティストの作品が発表されるほか、港まち、本フェスティバルの中だからこそ生まれた作品(プロジェクト)も。
今回、この芸術祭を楽しむポイントや参考コースをレポート記事で紹介する。同イベントにこれから参加予定の方も、気になっていた方もチェックしてみてほしい。フェスティバルを楽しむことはもちろん、港まちそのものの魅力をぜひ会場で感じてほしい。
SPECIAL REPORT
ASSEMBRIDGE NAGOYA2019
アートと音楽に出会える、港まちでの一日
アッセンブリッジ・ナゴヤの会場へは、名古屋駅から地下鉄で20分ほど。名古屋市営地下鉄・名港線「築地口」が、スタートポイントとなる。「築地口」駅の2番出口を出て左へ、すぐの道を左折して進むと、港まちポットラックビルが見えてくる。
ここがアッセンブリッジ・ナゴヤ2019の総合案内。目印は水色のまるい看板!
アッセンブリッジ・ナゴヤの総合案内〈港まちポットラックビル〉の入り口
アッセンブリッジ・ナゴヤ2019を思いっきり楽しむためには、まずこの総合案内で「ブリッジパス」(¥700)を購入しよう。あいちトリエンナーレ2019の1DAYパスやフリーパス、市営地下鉄の一日乗車券の提示で¥600になる割引もある。
全プログラムの情報が掲載されたパンフレットや港まちの美味しい情報が満載の「お店マップ」もぜひゲットしておきたいアイテム。パスと一緒に手に入れよう。
展覧会めぐりスタート!
アッセンブリッジ・ナゴヤが始まった2016年から続いている現代美術展「パノラマ庭園」。2018年からは「移ろう地図、侵食する風景」をテーマに、2年にわたるプロジェクトを展開している。そして今年も、名古屋港エリアに点在する複数の会場をつなぎ、展覧会が開催されている。ここ、港まちポットラックビルもそのひとつだ。
まずは、港まちポットラックビル1Fへ。
2019年6月~8月の約2か月間、「MAT, Nagoya スタジオプロジェクト vol.5」で滞在制作をしてきた、青崎伸孝さんの作品が迎えてくれる。
青崎伸孝 《From Here To There (Minatomachi)》2019− 撮影|冨田了平/写真提供|アッセンブリッジ ・ナゴヤ実行委員会
自身の生活圏から作品を生み出す青崎さんの作品。港まちでの滞在でも、ここでの生活を記録し続けている。思わずクスッとしてしまうメモも。
続いて、2Fへ!
2Fのプロジェクト・スペースには、顔一面にパンを付け世界中の人と交流する「パン人間」や自身が介護する母親を題材にした「アート・ママ」シリーズで注目を集める折元立身さんの作品がある。
折元立身の展示室 撮影|冨田了平/写真提供|アッセンブリッジ ・ナゴヤ実行委員会
写真や映像を見ているだけで楽しい気分に。そして、なんと!折元さんが世界各地で開催している作品(プロジェクト)のひとつ「おばあさんのランチ」が、アッセンブリッジ・ナゴヤ会期中に港まちでも開催されるそう。一般入場者は見学のみとなるが、貴重なこの機会にぜひ立ち会ってみては。
【関連イベント】
2019年10月8日(火)12:00~
会場|ガーデンふ頭臨港緑園
見学|要ブリッジパス
そして、3Fへ。
山本高之の展示室 撮影|冨田了平/写真提供|アッセンブリッジ ・ナゴヤ実行委員会
ここでは、山本高之さんのリサーチワークショップの記録を見ることができる。
1989年に名古屋港も会場になった懐かしの世界デザイン博覧会のあれこれや、「燃えよドラゴンズ!」やタイムボカンシリーズなどで知られる音楽家・山本正之さんとの対談、そして、今年の5月に開催されたユーカリをつかった発酵ワークショップの記録も。かすかに香るユーカリに癒される。2018年から港まちを拠点に行ってきたリサーチを振り返りながら、ワークショップで作ったユーカリを発酵させたドリンクを味わってみるイベントも行われるそう。
【関連イベント】
2019年11月2日(土)15:00〜17:00
会場|港まちポットラックビル
定員|15名
参加|要ブリッジパス
協力|アートラボあいち
ポットラックビルを出て、港まちを楽しもう!
1907年の開港以降、中部地方のものづくり文化を物流面から支えてきた港まちには、世界中から人がやってきた。そのため、飲食店がとっても多い。昔ながらの店から近年できたおしゃれな店まで、どこも気さくで温かい店主が迎えてくれるのだ。
ポットラックビルの展示を見終えたら、早速腹ごしらえ。この日は、港まちの人気ランチスポット「喫茶真砂」さんへ訪れた。
1952年より営業するこの喫茶店の人気メニューは、ナポリタンの「スパゲティ」(500円)。ボリュームは勿論、そのビジュアルにもテンションが上がること間違いなし。
レトロな鉄板に乗せられたスパゲティの隣には、目玉焼きがON。昔ながらの懐かしいナポリタンの味とそこに絡む目玉焼きがクセになる。
ランチタイムは+200円でドリンクセットにもできる。ぜひ港まちに訪れた際のランチスポットのひとつとしてチェックしてほしい。看板メニューのスパゲティの他にカレーやサンドイッチ、オムライスもあり。ミックスジュースなどのドリンクメニューも充実しているので、ちょっとひと休みするにもおすすめだ。
ここで耳より情報!
港まちポットラックビルの近所には、ブリッジパスの提示でお得に買い物ができる店もある。美味しいお肉やほくほくの揚げ物をテイクアウトして港まち散策をするのもいい。詳しくは、アッセンブリッジ・ナゴヤ受付スタッフに聞いてみよう。ただし、日曜日は定休日の店もあるのでご注意を!
ポットラックビル近隣には、アーティストユニット・L PACK.が有志のメンバーとカフェ営業を中心に「まちの社交場」として開いている《NUCO》がある。ここでは、具材を持参するとホットサンドを作ってくれる。まちのお店で買ったお惣菜を持っていけば、たっぷりのキャベツをはさんだ「コラボレーションサンド」(350円)も作ってくれるというアッセンブリッジ・ナゴヤならではのスペシャルなメニューも味わえる。
NUCO外観 撮影|冨田了平/写真提供|アッセンブリッジ ・ナゴヤ実行委員会
NUCO
OPEN|木・金・土・日・祝日
時間|アッセンブリッジ会期中は11:00〜19:00
住所|港区名港1-18-4
2016年からアーティストユニットL PACK.がプロジェクトとして手がけるこの「NUCO」。実は旧・潮寿司を改装した「UCO」が昨年取り壊しとなったその機能を移築し誕生した新スペースだ。2Fでは、L PACK.によるUCO時代からのアーカイブや関わりのあるアーティストの作品展示が行われている。1Fには青崎伸孝さんが港まちのさまざまな喫茶店のモーニングに毎日通い詰めて制作したユーモアある作品も展示されているので、コーヒーを待つ間に、鑑賞してみよう。
展示風景 L PACK.《NUCO》2019– 撮影|冨田了平/写真提供|アッセンブリッジ ・ナゴヤ実行委員会
腹ごしらえを済ませたら、再びまちへ!
かつてはにぎやかだった港まちも、近年では閉店してしまった店や、空き家になってしまった家も少なくない。アッセンブリッジ・ナゴヤでは、そんな空きスペースをなんとか活用できないものかと、まちの人びとの協力を得ながら空き家を再利用した展示を行っている。
展示風景 青崎伸孝《誰かの買い物(江川線、港まち、名古屋 2019年8月6日)》2019 撮影|冨田了平/写真提供|アッセンブリッジ ・ナゴヤ実行委員会
NUCOからポットラックビルへ戻る途中にある、「内藤ガレージ」。ここでは、ポットラックビル1Fで展示をしていた青崎伸孝さんの作品が見られる。
展示風景 青崎伸孝《予想と計算》(2019) 撮影=冨田了平 写真提供|アッセンブリッジ ・ナゴヤ実行委員会
ガラス張りの「スーパーギャラリー」。“すごいギャラリー”なのかと思ったら、以前スーパーマーケットとして利用されていた場所だったのだそう…。ここでも青崎伸孝さんの展示を見ることができる。
耳より情報
青崎伸孝さんの作品は、このほか、「第3佐野コーポ1F」や「名古屋港ポートビル展望室」会場にも展示されている。それぞれの会場で別のシリーズの作品が展開されているが、全ての作品が港まちと繋がるようで、青崎さんの港まち滞在を追体験できるかも!?特に展望室で鑑賞できる作品は必見。作品としてある仕掛けが施されていて、展望室とそこから望むまちの風景をユーモラスに繋いでいる。ぜひ展望室から目を凝らして望遠鏡を覗いてみよう。(展望室のみ最終入場16:30、閉館17:00なので要注意)
スーパーギャラリーの斜め向かいの「旧・岡田ガラス店」。
ここには、1Fと3Fに碓井ゆいさんの作品がちりばめられている。碓井さんは「港まちの女性と労働」をテーマに、2018年からリサーチを行ってきた。リサーチを行うなかで「保育」に着目し、なかでも1972年に港保育園で起こった保育士や保護者による、保育状況の改善を求めた運動を起点にした作品を制作。
展示風景 碓井ゆい《要求と抵抗》(2019) 撮影=冨田了平 写真提供|アッセンブリッジ ・ナゴヤ実行委員会
かわいらしいエプロンやスモッグに刺繍されている当時の言葉やイラストから、やさしさと強さをもった保育士や保護者、作家のそれぞれ視点を読み取ることができる。関連資料も会場で閲覧することができ、作品とあわせて見ることで当時の活動や時代背景、また現在につながる状況をより深く知ることができる。
ちょっと足を伸ばして、名古屋港エリアへ!
ポットラックビルから、江川線沿いを10分ほどまっすぐ歩いて名古屋港駅へ。窓から飛び出たたくさんのハートがひと際目立つのが、「旧・名古屋税関港寮」。
千葉正也の展示会場 撮影=冨田了平 写真提供|アッセンブリッジ ・ナゴヤ実行委員会
ここには、港まちで滞在制作をしていた千葉正也さんの新作が。千葉さんも約2ヶ月かけて港まちで拾い集めた素材や要素をもとに、絵画やドローイング、立体、映像など多岐にわたる作品群を制作。300平米もの広さのある税関寮の、建物全体を使った新作インスタレーションを発表している。まるで鑑賞者が、千葉さんの作品の一部に入り込んだかのような経験をもたらす。
また会期中、千葉さんとアーティスト・井出賢嗣さんによるユニット「NAZOLAZ」のイベントも開催。ゲストを招いて、それぞれが持ち寄った映像を鑑賞する。千葉さんのつくり出した空間の中で一風変わった企画を楽しんでみては?
【関連イベント】
ナゾラーに至る世界転覆に至る作戦会議もしくは合いの手、青い薔薇の触れ合い的な感じのイベント
2019年11月10日(日)16:00-18:00
会場|旧・名古屋税関港寮
定員|30名
ホスト|NAZOLAZ(千葉正也、井出賢嗣)
参加|要ブリッジパス
この日の最後は、サウンドブリッジのプログラムの1つであるライブ「イ・ランとみとなまち」へ。会場となったポートハウスは、三方がガラス張りという構造のため、時間とともに変化する港の景色を楽しむことができる。背後にそびえる南極観測船ふじも見どころだろう。
イ・ランとみなとまち/撮影|三浦知也/写真提供|アッセンブリッジ ・ナゴヤ実行委員会
音楽、エッセイなど幅広い活動を行う韓国生まれのマルチアーティスト、イ・ランは、名古屋では約3年ぶりの公演。「ここの空間はガラス張りで水族館のよう。イルカになったような気持ちです。」ライブ前のそんなトークに会場は和やかに。そのまま流れるようにライブが始まった。
一見無骨なようでいて、しなやかで力強く響くイ・ランの歌声は、まっすぐに会場に響きわたり見るものを魅了した。彼女の演奏をサポートするチェリスト、イ・ヘジの暖かくしなやかなチェロの音色とその絶妙な間の取り方は、イ・ランの歌声や詩、彼女の世界観をより一層と色づかせる。
ライブが始まったのは夜の7時。ガラスの向こうに広がる夜の港の空気が、しっとりと会場を演出していた。
曲の合間に彼女が話すエピソードは、あいちトリエンナーレの表現の不自由展にまつわる出来事や、近年の日韓関係の情勢についてなど、彼女のストレートな言葉が歌声と共に否が応でも胸に響いた。
ライブ終了後は、多くの来場者が彼女の作品を買い求め、サインの列に並んでいたが、その際に、イ・ランがイスを2つを並べて、その1つに腰かけてサインをしていたのは、彼女なりのメッセージだったのだろう。
イ・ランとみなとまち/撮影|三浦知也/写真提供|アッセンブリッジ ・ナゴヤ実行委員会
【今後のサウンドブリッジ情報】
9月28日(土)29日(日)には幼稚園で5組のアーティストによる「夏の大△ サウンドパフォーマンス」→が、10月17日(木)〜20日(日)にはダンサー・山下残による「山下 残 新作公演」がビルの屋上で、11月9日(土)には昨年も盛り上がりを見せた「港まちブロックパーティー」が開催。見逃せない企画が続く。
ライブ帰りには、フードやドリンクが楽しめるハイクオリティな港のフリースタイルバーへ。
濃密な時間を過ごしたライブの帰りは、港のキッチンバー・猫と窓ガラスへ。
通称:猫窓。このバーにはドリンクもフードもメニューはない。
「こんなメニューが食べたい/飲みたい」「この素材を使ってほしい」などのリクエストをもとに店主がドリンクやフードをつくりだしてくれるフリースタイル・セッションのようなバーなのである。
この日は、カウンターにあった「キウイを使ったカクテル」を注文。出来上がったのは、ラムとマスカットリキュールをベースに、カットされた新鮮なキウイをふんだんに使った甘さ控え目でフレッシュなカクテル。
グラスの淵には、皮ごと食べることの出来るマスカットと巨峰が飾られており、まるでフルーツを食べているような仕上がり。
おなじく、イ・ランのライブに行っていたという猫窓の店主とともに、今日のライブの素晴らしさを改めて確認し合う。ひとしきり話をした後、秋の夜風を感じながら帰路についた。
「アッセンブリッジ・ナゴヤ2019」は、11月10日(日)まで開催中だ。散策にぴったりな秋の季節に、港まちの各所で繰り広げられるアートに触れてみては?
2019年9月7日(土)〜11月10日(日)
アッセンブリッジ・ナゴヤ2019
会場:名古屋港~築地口エリア一帯
TEL:052-652-2511(アッセンブリッジ・ナゴヤ実行委員会事務局)
休場日:月、火、水(ただし祝日は開場)
料金:ブリッジパス 700円
※「あいちトリエンナーレ2019」国際現代美術展1DAYパスおよびフリーパス、「名古屋市交通局」ドニチエコきっぷおよび一日乗車券提示の場合は600円
2019年9月7日(土)〜11月10日(日)
現代美術展「パノラマ庭園―移ろう地図、侵食する風景―」
会場:港まちポットラックビル(アッセンブリッジ・ナゴヤ総合案内)、旧・名古屋税関港寮、NUCOほか名古屋港エリア内
開館時間:11:00〜19:00(名古屋港ポートビル展望室 9:30〜17:00) ※入場は閉館の30分前まで※鑑賞にはブリッジパスが必要
アーティスト:青崎伸孝、碓井ゆい、L PACK.、折元立身、千葉正也、山本高之
公式ウェブサイト:www.assembridge.nagoya