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FEATURE / 特集記事 Nov 13. 2020 UP
【REPORT|アッセンブリッジ・ナゴヤ2020】
海上の船から演奏する、という前代未聞のライブプログラム
「井手健介 The Lonely Surfer」をレポート。

ASSEMBRIDGE NAGOYA 2020(愛知|港区)

船に乗って登場する井手健介。

 

「まさか海の上で演るとは。もう体が揺れて揺れて(笑)」。そう話すのは、演奏を終えてすぐの井手健介。現在、名古屋港エリアで開催中の音楽とアートの祭典「アッセンブリッジ・ナゴヤ」。そのプログラムのひとつであるライブ「井手健介 The Lonely Surfer」が11月1日に行われた。これはミュージシャンのライブだが、ただのライブではない。井手が海の上で船に乗って演奏する、というから驚いた。港まちだから、では収まりがつかない雄大なエクスペリエンスだ。

 

REPORT:ASSEMBRIDGE NAGOYA 2020

「井手健介 The Lonely Surfer」

Text & Edit : Yusuke Nakamura
Photo:Tomoya Miura
Photo courtesy : Assembridge NAGOYA Executive Committee
Edit & Design :Takatoshi Takebe,  Chise Utahara[LIVERARY]

 

船首にギターを抱えた黒眼鏡の男。
対峙する海の音楽家と陸の私たち。

名古屋港の埠頭に40名ほどの観客が集まる中、開演時間を少し過ぎ、爆音で鳴り響いたのはジョージ・ガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」。この勇ましく甘美なテーマに乗せて、沖から豆粒のような一艘の船がこちらに向かってくる。近づくに連れ、サングラスでギターを抱えた男が船首に立っているのが確認できる。いかにも“海の男”然とした登場。しかしそれには不釣り合いな細身のスーツの伊達男。対峙する海の音楽家と陸の私たち。この妙なディスタンスをどう捉えたらよいのか? 岸の柵に一列となった観客からは期待の拍手だけでなくクスクスと笑いが起きる。

 

 

船は岸から15mほどの位置に停泊、まずは「ロシアの兵隊さん」の弾き語りで幕を開けた。そこからリズムボックスを使い「イエデン」「妖精たち」と彼率いるバンド、井手健介と母船の2ndアルバム『Contact From Exne Kedy And The Poltergeists』収録のナンバーを立て続けに演奏する。野外フェスの音でもなく、もちろんライブハウスの音でもない、凄まじくリバーブの効いた井手の裏声とギター。これはあとで聞いたことだが、スピーカーからの出音が岸壁に当たることで起こる異様な反響だったそうだ。天然のサイケデリック、白昼のファンタジアとか呼んでみたい世界が広がりに広がる(井手いわくジョー・ミークのようなエコーを目論んでいたそう。ちなみにLonely Surferはジャック・ニッチェより)。アルバムでの凝りに凝ったバンドアレンジのグラムロックが、弾き語りでも“聞かせる”ネイキッドな魅力も持っていることは発見だった。

 

 

「今日はそちら(陸)にいてくださってありがとうございます」とMCを挟み、沢田研二の「君をのせて」カバー。そして「帽子をさらった風」「ここはどこ?」「ぼくの灯台」と演奏は進んでいく。同時に西日が海をオレンジに染めていく。なんともロマンティックな光景の中、井手の歌に聞き惚れつつも、時折響く船のエンジン音、波の音、近くの名古屋港水族館の賑わいが一旦現実に引き戻すノイズの役割を担っていたこともこの状況劇場ならでは、で印象的だった。途中、曲のブレイクで大きな魚(ボラ?)が跳ねたり、またスライ&ザ・ファミリー・ストーン「ランニン・アウェイ」カバーの際に出港の客船が汽笛を鳴らすなどの偶然の演出も埠頭の私たちを静かに沸かせたのだった。

 

 

船上の井手健介の歌と
陸上のテライショウタの轟音。

船は岸壁から5mほどまで近づき(この企画に全面協力されている飛島マリンの操縦士の凄腕テクニックだそう)、陸で待ち構えていたゲストプレイヤーで井手とこれまでも数多くの共演経験のあるテライショウタ(from Gofish)とのセッションが始まる。岸壁に沿って動く船に合わせ、スタッフが引っ張る小さな台車の上で激しくギターを弾くテライ。古今東西、音楽はコミュニケーションなのだ、と云われる。が、誰もが初めて体験したであろう海と陸のソーシャルディスタンスセッションでそれをリアルに実感。船上の井手の「おてもや〜ん」の叫びに絡みつく地上のテライの轟音ギター、もう忘れられない。

 


台車に乗ってギターを演奏するテライショウタ。

 

その後、井手は下船し、かなり青い顔でテライの元へ駆けつける。そしてデヴィッド・ボウイ「スペース・オディティ」を演奏。宇宙船を海の船に見立てた日本語訳カバーで見事着港の大団円、かと思いきや止まぬ拍手にアンコール、CHAGE&ASKA「LOVE SONG」を披露。強い西日を背にふたりの熱唱(絶妙なハモリあり)で約75分間の演奏の幕を閉じたのだった。終わった瞬間から名古屋港のレジェンドに…少なくともこの日の参加者には納得してもらえると思うがどうだろう。

 

 

「経験したことのない謎(笑)の高揚感」(テライ)
「こんなソーシャルディスタンスのライブができるとは」(井手)

 

「もう、ありがたいライブでした」とは埠頭に来ていた現代美術家のミヤギフトシ。そもそもこのライブは今回の「アッセンブリッジ・ナゴヤ」で公開中のミヤギの映像作品《音と変身/Sounds, Metamorphoses》に井手が抜擢されたことに端を発する。あらためて「(井手の楽曲と)水のイメージがぴったりで。それに海の景色がいつもより新鮮に見えましたね。(ライブ中は)いっぱい写真撮ってしまいました」。
現代美術家・ミヤギフトシと井手健介のインタビューはこちら:https://liverary-mag.com/feature/85647.html  

そして「すごい楽しかった。今まで経験したことのない謎(笑)の高揚感があって。波も静かで天候のコンディションも最高で」とテライもご満悦。最後に井手に感想を聞くとこう語ってくれた。「今日はロマンティックに決めよう、と。でも船を降りた瞬間はヤバかった。ぐるぐるバッドをやった後みたいな。酔い止めの薬は飲んでたんですが、もし吐いてもキレイな色のものが出るように(笑)事前にゼリーを食べてました。自分の曲は水のイメージのものが多くて海の近くで演るのは似合うとは思っていたんですけど、まさか海の上で演るとは。こんなソーシャルディスタンスのライブができるとは。いやーほんと面白かったです」。

イベント情報

2020年10月24日(土)〜12月13日(日)会期中の木曜、金曜、土曜、日曜、祝日
アッセンブリッジ・ナゴヤ2020
会場:港まちポットラックビルほか名古屋港エリア
時間:11:00–19:00(入場は閉場の30分前まで)*名古屋港ポートビル展望室は 9:30‒17:00
http://assembridge.nagoya/

ARTプログラム
現代美術展『パノラマ庭園 ー 亜生態系へ ー』
アーティスト:上田 良、L PACK.、折元立身、丸山のどか、三田村光土里、ミヤギフトシ
入場:鑑賞にはブリッジパスが必要になります。
ブリッジパスは会期中、総合案内(港まちポットラックビル)にて販売しています。
http://assembridge.nagoya/2020/8611.html

SOUND BRIDGE
アーティスト:浅井信好、石若 駿 、井手健介、イ・ラン、イ・ヘジ、大城 真、角銅真実、Gofish、呂布カルマ
http://assembridge.nagoya/2020/soundbridge.html

【会期中のイベント】
2020年10月24日(土)-12月13日(日) 11:00–19:00
港まちで再会する映像プロジェクト 
出演:角銅真実、大城 真、石若 駿 、浅井信好、呂布カルマ、Gofish、イ・ラン、イ・ヘジ 
上映会場:築地シティ住宅2F・ テナントスペース東側奥 
入場:鑑賞にはブリッジパスが必要になります。 
http://assembridge.nagoya/2020/12810.html

2020年12月12日(土) 
港まちブロックパーティー 
会場:築地口商店街界隈(予定)
http://assembridge.nagoya/2020/12298.html

井手健介

1984年宮崎県生まれ、東京都在住。音楽家。東京・吉祥寺バウスシアターの館員として爆音映画祭等の運営に関わる傍ら、2012年より「井手健介と母船」のライヴ活動を開始。さまざまなミュージシャンと演奏を共にする。バウスシアター解体後、アルバムレコーディングを開始。2015年8月に1stアルバム『井手健介と母船』(Pヴァイン)、2017年に12インチ・EP『おてもやん・イサーン』(EMレコード)、1stアルバム・ヴァイナル・エディション(Pヴァイン)をリリース。また2020年4月には、石原洋サウンドプロデュース、中村宗一郎レコーディングエンジニアのタッグにより制作された、「Exne Kedy And The Polter-geists」という架空の人物をコンセプトとした2ndアルバム『Contact From Exne Kedy And The Polter-geists(エクスネ・ケディと騒がしい幽霊からのコンタクト)』を発表する。その他、映像作品の監督、楽曲提供、執筆など、多岐に渡り活動を続ける。
http://www.idekensuke.com

 

Gofish

1973年岐阜県生まれ、愛知県在住。テライショウタによる歌とギターをメインとしたソロユニット。2000年頃より活動開始し、これまでに5枚のアルバムをリリース。またイ・ランや柴田聡子など、さまざまなアーティストとのコラボレーションも行っている。1995年結成のハードコア・パンクバンド「NICE VIEW」ではギター/ボーカルを務める(現在は活動休止中)。ライブやリリースを行う他、テライショウタとして音楽とスパイスの宴「カレー・ミーティング」や「カレーとノイズ、その他」を主催するなど、幅広く活動する。2020年8月から10月には名古屋港エリアで展開するアートプログラムMAT, Nagoyaの「スタジオプロジェクト vol.6」に参加し、制作・活動発表を行う。アッセンブリッジ・ナゴヤでは、2017年に音楽を奏でながらまちをめぐる「みなと音めぐり」に出演、2018年にはソロライブ「UCOの裏庭ライブ」を実施、2019年はテライショウタ名義でNUCOにてカレーイベント「Curry Shop by Shota Terai」を行った。2020年は「港まちで再会する映像プロジェクト」をはじめ、多数のプログラムに参加している。

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