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FEATURE / 特集記事 Oct 21. 2020 UP
[SPECIAL INTERVIEW]
名古屋の港まちをアートと音楽で彩る祭典「アッセンブリッジ・ナゴヤ2020」。
注目作『音と変身』制作者の現代美術家・ミヤギフトシと、
前代未聞!? 港まちでの海上ライブを行う音楽家・井手健介の二人をインタビュー。

ASSEMBRIDGE NAGOYA 2020(愛知|港区)


写真左:井手健介、右:ミヤギフトシ

 

カフェでひとりギターを爪弾く青年がいる。そんなシーンを出発点とし、舞台はイタリアの街々へ。名古屋港エリアで毎秋開催される音楽とアートのフェスティバル「アッセンブリッジ・ナゴヤ」。カフェは港まちの“社交場”であるNUCO(NUCO=アッセンブリッジ ・ナゴヤの参加アーティスト L PACK.とともにプロジェクトを行なっている港まちの社交場)。この祭典で現代美術家のミヤギフトシによる映像作品《音と変身/Sounds, Metamorphoses》(愛知芸術文化センター・愛知県美術館オリジナル映像作品)が公開される。

 


「アッセンブリッジ・ナゴヤ2020」告知ビジュアル

 

2016年にあいちトリエンナーレで発表された《いなくなってしまった人たちのこと/The Dreams that have Faded》の続編である本作は、傷心のひとり旅でもある、と同時にその後の時世に翻弄された天正遣欧少年使節の足跡を辿る物語。加えて、遠藤周作、ゲーテ、ジェズアルド、それぞれのメタモルフォーゼ=変身を史実と想像で交差させる、一大回想紀行のよう。

これまで出身の沖縄のこと、そして自身のセクシュアリティが抱える問題を起点に作品制作を行なってきたミヤギだが、本作は国を越え、時代を越え、さらなる俯瞰的な視点から綴られた挑戦的な作品だ。今作についてミヤギフトシさん、そして“ギターの青年”で、同フェスティバルでライブが予定されている井手健介さんにお話をおうかがいします。

 

SPECIAL INTERVIEW WITH

ミヤギフトシ、井手健介

取材・文:中村悠介
撮影:冨田了平
2020年10月 オンライン取材 会場協力:ユトレヒト / Utrecht

 

心のうちを誰にも言えない。
それは時代に関係なく誰にでも起こりうること。

ーー今作《音と変身/Sounds, Metamorphoses》は、前作《いなくなってしまった人たちのこと/The Dreams that have Faded》に続き、16世紀に日本でのキリスト教布教において架け橋となるべくイタリアに派遣された、天正遣欧少年使節が扱われています。この使節に着目されたきっかけはどんなものでしょう?

ミヤギ:これまでずっと自分は沖縄のことだったり、セクシュアルマイノリティのことを扱ってきて。作品の中で、物語を使ってそういう問題や事柄を取り上げてきたんですが、その根底にあるものはユニバーサルであり、別の国でも、別の時代でもあり得ることなんじゃないか?といろいろ調べ始めて。それで使節のこと知り興味を持ったことがきっかけです。

ーー天正遣欧少年使節に興味を持たれたのはなぜです?

ミヤギ:少年使節とは比べられないのですが、自分も留学した経験があるので、使節が感じたカルチャーショックはもしかしたら自分が感じたものと本質的にはそう変わらないんじゃないかな、とも考えて。最初に興味を持ったのはその部分です。

ーーそこから使節への思いを巡らせてみた、と。今作は前作《いなくなってしまった人たちのこと/The Dreams that have Faded》よりさらに使節を追う形で(彼らが派遣された)イタリアへ、とスケールアップされています。

ミヤギ:前作の撮影では(使節のひとり、原マルティノが追放令を受け向かった地)マカオまでしか行けなかったこともあり、今回はさらに西、イタリアに行ってみたいと思い続けていました。

 

 



ミヤギフトシ《音と変身》2020

 

ーー今作は語りの中に「美術家」の言葉が登場します。このパーソナリティはミヤギさん、と捉えてもよいです?

ミヤギ:《いなくなってしまった人たちのこと/The Dreams that have Faded》がパーソナルな「僕」と、会話相手である「ニルス」の会話で成り立っていて。今作の「美術家」の語りは「僕」のその後、という形になっています。しかし今回は対話というよりも、「僕」の語りを前作とは異なる登場人物の語りに混ぜ、ひとつのナレーター的な語りを作りたいという気持ちがありました。

ーーナレーター的な「私」の存在は、物語に客観性を持たせるためでしょうか?

ミヤギ:今回、主題に対する距離感の取り方が難しいと考えていて。(天正遣欧少年使節は)400年以上前のことだったりするので、共感を覚えつつも歴史的というか、すでに史実として相対化されている存在というか。しかし、遠藤周作の話になると時代的にけっこう近くなってくる。そのような割と近い時代の人たちのことをパーソナルな視点から語ると急に生々しさを感じてしまいその生々しさから少し離れるために、安直なのかもしれませんが、もうひとりがナレーターとして語っていく作りにしました。

ーー天正遣欧少年使節もそうですが、時代が変われば、あっけなく弾圧、抑圧される対象になってしまう。歴史上、そのようなことは少なからずありますが、それはこれまでミヤギさんが取り組まれてきたテーマと関連しているようにも思います。

ミヤギ:ある社会に属して、そこから弾かれて、心のうちをもう誰にも言えない。それは時代に関係なく、誰にでも起こりうることだと思っています。そこに(今作を制作する)きっかけを見つけたというか。今作はまず(使節のひとり)千々石ミゲルの物語、生き方に興味が湧いて。他の三人に比べると記録は残ってないのですが、彼のパーソナルな思いはどんなものだったのか?と想像するところから始めました。

ーー今作は使節のみならず、遠藤周作、ゲーテ、「変身物語」のオウィディウスのエピソードを併走させた重層的な物語となります。その意図を教えてもらえますか?

ミヤギ:イタリアを旅した使節のことを調べている中で、それらの人物が浮き上がってきて、自然につながってきた感じがあります。例えば(使節と)作曲家のジェズアルドは時代も、いた場所も近くて。そして、そのジェズアルドを調べているとゲーテとつながったり。そんなつながりというか、こぼれ落ちていくところも残しておきたいというか。そういうことを考えていて。意識的に調べているときであれ、適当に本を読んでいるときであれ、シンクロする部分を見つけたとき、そこに物語が浮かんで、その重なりを作品にしたい、と思うことが多いです。一方的であれ、偶然であれ、そのつながりがきっかけになるというか。

ーー偶然だとしても、過去のつながりが現代まで及ぶ、と想像するといきなりリアリティを帯びてくるようです。

ミヤギ:そうですね。過去のことでも、遠いところのことでも、自分との繋がりを見つけられるとやはり嬉しくなって、それをもっと掘り下げたいなと思いますね。

ーーちなみにヴェネチア、フェラーラ、フィレンツェ、ナポリ、これらイタリアの映像はいつ撮られたものでしょう? ヴェネチアの浸水がかなり印象的です。

ミヤギ:2019年の)11月の後半です。ヴェネチアはいちばん(浸水が)酷かった時期に行ってしまって。それはそれで絵になるかな、とは思ったんですが、長靴は意味ないし寒いし冷たいし、カメラ水没するし。安いカメラだったので助かったのですが大変でした。港まちは3月に撮影を行いました。

 

港まちの海の風景を
撮ってみたいと考えていて。

 

ーー今作では、港まちのNUCOでギターを弾く青年として音楽家の井手健介さんが登場されています。これはどのような経緯で?

ミヤギ:いちばん最初のきっかけは別の写真作品を制作していたときに、被写体としてお名前が上がったことです。それに新作(井手健介と母船『エクスネ・ケディと騒がしい幽霊からのコンタクト』)は民話・神話的な要素があって、「変身物語」とシンクロして。歌詞の物語の内容と、作品を通して自分が考えていたことと重なるところがあったことが大きいです。

ーー井手さんは今回の依頼を受けていかがでしたか?

 

 

井手:まず、ある曲を弾いて欲しいという依頼があって。その曲は普段聞くことのないような曲だったんですが、ミヤギさんから歴史的な背景をうかがって、それがすごい面白いと思って引き受けたんです。でもこれギターの曲じゃなくて。もともとチェンバロのための曲ですよね?

ミヤギ:そうです(笑)

ーージェズアルドの「カンツォン・フランチェーゼ」ですね。

井手:やり始めてから青ざめた(笑)。これは大変なことを引き受けた、と。すっごい大変でした。そもそも人に頼まれて曲を弾く、ということが初めてなんですけど、そういえば僕、譜面読めないなとか(笑)。自分が普段聞いている音楽がいかに狭い時代のものかと思い知らされましたね。リズムをとれないしメロディも覚えられない。多分、原曲と違うものになっちゃってミヤギさんに申し訳ないなと。

ミヤギ:大丈夫です(笑)

ーーNUCOでのあの練習風景のシーンは演技ではなく?

井手:限界までがんばって、あれです(笑)

ーーいや、むしろクラシックのプロではない新鮮さが味というか、なによりこの作品の内容に合っていたと思います。井手さんはこの作品をどう見られましたか?

井手:さっきミヤギさんもおっしゃってたんですけど、自分とシンクロしてしまったというか。水のイメージが作品に通底しているところや時間が伸び縮みするような感覚が面白かったですね。見てて、スッと自分の中に入ってきましたね。語り手の不確かな感じも自分の作品と近いのかな、とも思いましたし。

 

 

ーーたしかに誰の視点で語られているのか? そんなシーンがありました。今作はとにかく終始語られ続けています。

ミヤギ:前作の、行間の多いスクリプトではなく、今回は強迫観念的というか。ずっと語り続けている、それは可能なのか?と手探りなんですけど考えていましたね。

ーーなるほど。ではあらためて、撮影が行われた港まちの印象をそれぞれ聞かせていただけますか?

井手:僕は今回初めて、港まちに行きました。名古屋にそんなに海のイメージがなかったんですが、こんなに海に開けたところがあるんだって驚きましたね。

ーーミヤギさんはいかがでしょう?

ミヤギ:港まちは心地良い空間で、海に向かって開いていく感じが新鮮で。港まちポットラックビルやNUCOの最寄り駅(築地口駅)では海の雰囲気を感じないんですが、だんだん見えてくる海の景色もすごい好きで。それで、港まちの海の風景を一度作品で撮ってみたいと考えていて。

ーーそういえば、今作に関わらずミヤギさんの作品といえばという一面もあると思います。そのこだわりとは?

ミヤギ:今回の作品は必然的に出てくるところがあるんですが、いつも作品を制作するとき、毎回もう海は映さないようにしよう、って決めるんですけど(笑)。撮影の早い段階で入り込んでくる、っていうもう避けようのないモチーフになってしまっていて。

ーー沖縄のご出身、ということも関係していますよね?

ミヤギ:沖縄でもすごい小さな島で周りが海という環境で育ったんですが、泳げないので、いつも海の向こうのことを想像していたところがあって。見えない、行けないけれど向こうになにかがある、という曖昧さに惹かれているんだと思います。いろんなところに行くとその土地の海を見たくなるし、安心を感じるところもあります。見るのも好きだし、船とか安全な方法で海を越えて移動するのは好きですね。

ーー例えば、海を新しい目線で見るというか、泳いでみようという気持ちは出てきませんか? それを作品化するというのはいかがでしょう?

ミヤギ:いやほんとに金槌なので、ただ自分が沈んでいくだけの映像になります(笑)。

井手:(笑)。

ーー今回のアッセンブリッジでは、井手さんのライブが2つ予定されています。

井手:NUCOで行うライブと港で行うライブで。港でのライブはお客さんが港にいて、僕が船でそこにやってきて。船の上で演奏するライブですね。

ーーNUCOでのライブは朝の9時半からのモーニングライブ(ミヤギフトシさんによるお菓子付き)、そして港でのライブはまさに井手さんのバンドである、井手健介と母船とも言えるような?

井手:いや、母船というより小舟ですね(笑)でも、本当に船の上で演るのは初めてです。演者とお客さんの間が海で隔てられてる感じがおもしろいと思って、「The Lonely Surfer」というタイトルにしました。

ーー船上で演奏する井手さん、そして岸では名古屋のミュージシャン、Gofishのテライショウタさんが演奏するという前代未聞のセッション、まさに港があるまちならではの実験的な企画ですね。

井手:どんなライブになるのか?全然分からない。シュールな感じになると思います。ミヤギさんもよければ船に乗ってください。

ミヤギ:(笑)。邪魔になると思います。

ーーやはり《音と変身/Sounds, Metamorphoses》の「カンツォン・フランチェーゼ」の演奏に期待して良いでしょうか?

ミヤギ:ぜひお願いします!

井手:(笑)。もちろん、ここで演るべきだと思って、この間ちょっと練習してみたんですけど無理だと思います。いや、ほんとに難しい曲なんですよ(笑)。

 

イベント情報

2020年10月24日(土)〜12月13日(日)会期中の木曜、金曜、土曜、日曜、祝日
アッセンブリッジ・ナゴヤ2020
会場:港まちポットラックビルほか名古屋港エリア
時間:11:00–19:00(入場は閉場の30分前まで)*名古屋港ポートビル展望室は 9:30‒17:00
http://assembridge.nagoya/

ARTプログラム
現代美術展『パノラマ庭園 ー 亜生態系へ ー』
アーティスト:上田 良、L PACK.、折元立身、丸山のどか、三田村光土里、ミヤギフトシ
入場:鑑賞にはブリッジパスが必要になります。
ブリッジパスは会期中、総合案内(港まちポットラックビル)にて販売しています。
http://assembridge.nagoya/2020/8611.html

SOUND BRIDGE
アーティスト:浅井信好、石若 駿 、井手健介、イ・ラン、イ・ヘジ、大城 真、角銅真実、Gofish、呂布カルマ
http://assembridge.nagoya/2020/soundbridge.html

【会期中のイベント】

2020年10月24日(土)15:00–16:30
ミヤギフトシ アーティストトーク
会場:港まちポットラックビル
アーティスト:ミヤギフトシ
ゲスト:越後谷卓司(愛知県美術館主任学芸員)
定員:15名(要予約。予約方法はウェブサイトの「チケット」をご覧ください。)
参加費:ブリッジパスが必要になります。
協力:愛知県美術館
http://assembridge.nagoya/2020/12882.html

2020年10月31日(土)11:00–19:00(なくなり次第終了)
ミヤギフトシ モームとNUCO
会場:NUCO
アーティスト:ミヤギフトシ
http://assembridge.nagoya/2020/12926.html

2020年10月31日(土) 9:30–10:30
井手健介とモームとNUCO
会場:NUCO 
出演:井手健介
参加:¥1,500(別途、ブリッジパスが必要になります)*洋菓子モームのお菓子とドリンク付き
定員:10名(要予約。予約方法はウェブサイトの「チケット」をご覧ください)
http://assembridge.nagoya/2020/12781.html

2020年11月1日(日) 15:00–16:00(終了予定)
井手健介 The Lonely Surfer
受付:14:30より、ポートハウスで受付。受付後、14:45以降に会場にご案内いたします。
出演:井手健介
ゲスト:テライショウタ(from Gofish)
参加:¥1,500(別途、ブリッジパスが必要になります)
定員:25名(要予約。予約方法はウェブサイトの「チケット」をご覧ください)
http://assembridge.nagoya/2020/12803.html

2020年10月24日(土)-12月13日(日) 11:00–19:00 
港まちで再会する映像プロジェクト 
出演:角銅真実、大城 真、石若 駿 、浅井信好、呂布カルマ、Gofish、イ・ラン、イ・ヘジ 
上映会場:築地シティ住宅2F・ テナントスペース東側奥 
入場:鑑賞にはブリッジパスが必要になります。 
http://assembridge.nagoya/2020/12810.html

2020年12月12日(土) 
港まちブロックパーティー 
会場:築地口商店街界隈(予定)
http://assembridge.nagoya/2020/12298.html

ミヤギフトシ

1981年沖縄県生まれ、東京都在住。留学先のニューヨークにて、制作活動を開始する。自身の記憶や体験に向き合いながら、国籍や人種、アイデンティティ、セクシャリティといった主題について、映像、オブジェ、写真、テキストなど、多様な形態で作品を発表。また小説の執筆や文芸誌への寄稿など、美術分野以外でも活動の幅を広げている。アッセンブリッジ・ナゴヤ2020では、あいちトリエンナーレ2016で発表した映像インスタレーション《いなくなってしまった人たちのこと/The Dreams That Have Faded》と、その続編でイタリアと名古屋港で撮影した新作《音と変身/Sounds, Metamorphoses》(愛知県美術館オリジナル映像作品)をインスタレーション形式で発表。港まちの複数の会場でも展示を行う。
fmiyagi.com

 

井手健介

1984年宮崎県生まれ、東京都在住。音楽家。東京・吉祥寺バウスシアターの館員として爆音映画祭等の運営に関わる傍ら、2012年より「井手健介と母船」のライヴ活動を開始。さまざまなミュージシャンと演奏を共にする。バウスシアター解体後、アルバムレコーディングを開始。2015年8月に1stアルバム『井手健介と母船』(Pヴァイン)、2017年に12インチ・EP『おてもやん・イサーン』(EMレコード)、1stアルバム・ヴァイナル・エディション(Pヴァイン)をリリース。また2020年4月には、石原洋サウンドプロデュース、中村宗一郎レコーディングエンジニアのタッグにより制作された、「Exne Kedy And The Poltergeists」という架空の人物をコンセプトとした2ndアルバム『Contact From Exne Kedy And The Poltergeists(エクスネ・ケディと騒がしい幽霊からのコンタクト)』を発表する。その他、映像作品の監督、楽曲提供、執筆など、多岐に渡り活動を続ける。
http://www.idekensuke.com

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