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FEATURE / 特集記事 Nov 06. 2020 UP
【SPECIAL INTERVIEW】
豊田市美術館開館25周年記念展「DISTANCE いま見える景色」。
アーティスト・青木野枝、チーフキュレーター・北谷正雄が今、振り返る25年の歩み。

FEATURE:豊田市美術館|2020年10月17日(土)〜12月13日(日) 開館25周年記念コレクション展「DISTANCE いま見える景色」

 

今年、開館25周年を迎える豊田市美術館では現在、「VISION」と題したコレクション展を年間を通して開催中だ。その第二幕となる今期[10月17日(土)~12月13日(日)]は「DISTANCE いま見える景色」を共通タイトルに、2つの会場にそれぞれテーマを設け、豊田市美術館が誇るコレクションの魅力を再発見する展示となっている。

前半は、過去に開かれた展覧会のポスターとそれに関連する作品を展示し、同館のこれまでを振り返らせる、美術ファンにとっては胸が躍るようなアーカイブ展。後半は、コロナ禍において誰もが意識せざるを得なくなった「距離」について、美術の視点で捉え、数々の所蔵作品で構成した展示だ。

コロナの影響により止むを得ず過去の所蔵作品を展示した、と思う方もいらっしゃるだろう。しかしながら、本展は豊田市美術館のポテンシャルを改めて感じさせ、新収蔵作品を含めた圧倒的な作品群を辿っていく中で全く新しい世界を私たちに見せてくれる。過去と現在を繋ぎ、未来を映し出す、開館25周年展としてふさわしい内容と言える。

LIVERARYでは、同展に深く関係するアーティストとキュレーターの対談シリーズ2本を企画。前編となる今回は、彫刻家・青木野枝×チーフキュレーター・北谷正雄による対談をお届けする(後編は近日UP予定)。二つの対談を読み込んでいただくことで、豊田市美術館が示すビジョンについてより明確に見えてくるのではないだろうか。

 

SPECIAL INTERVIEW SERIES #1

青木野枝 × 北谷正雄

Text & Edit : Ayuko Tani
Photo:Tomoya Miura
Edit & Design:Takatoshi Takebe(LIVERARY)

 

「DISTANCE いま見える景色」の前半部「豊田市美術館25年のあゆみ−展覧会ポスターとコレクション」では、開館以来70回以上にわたり開催されてきた展覧会のポスターを一挙に展示。豊田市美術館と数々のコレクション作品との出会いの歴史を辿る。

今回の対談では、過去に豊田市美術館で個展を開催した主要な作家の一人であり、また開館前から現在までの歴史を作家の立場から長年見つめてきた、所縁深い彫刻家・青木野枝を招き、開館準備室時代からキュレーターとして同じく同館に関わってきた、北谷正雄チーフキュレーターとともにこれまでの25年を振り返る。

 


青木野枝「ふりそそぐものたち」(豊田市美術館2012)ポスター前にて。写真左:彫刻家・青木野枝、写真右:チーフキュレーター・北谷正雄

 

青木野枝
1958年 東京都生まれ。埼玉県在住。武蔵野美術大学大学院修了。80年代の活動当初から地球に水よりも多く存在し、古来より人類の近くに在った鉄という素材に魅了され、工業用の鉄板をパーツに溶断し、溶接して組み上げるシンプルな作業をひたすらに繰り返すことで完成する作品を制作。青木の手が関わる事でそれらは素材本来の硬質感や重量感、さらには彫刻=塊という概念からも解放され、作品の置かれた空間を劇的に変化させる。展示空間や作品の置かれる場を注意深く観察し、可視、不可視に関わらず広くそこに存在するもの、そして見るものさえをも作品の一部として取り込み、インスタレーションとも一線を画した独自の世界を構築する。近年は石鹸、石膏、ガラスなど異素材の作品も発表。芸術選奨文部大臣新人賞、毎日芸術賞、2017年、彫刻界の権威ある中原悌二郎賞を受賞。1997年より銅版、木版、紙版など様々な版画を継続して出版。シリーズは20にも及ぶ。

北谷正雄
1964
年、神奈川県生まれ。成城大学大学院修了。1993年から豊田市美術館開設準備室に勤務し、1995年に豊田市美術館の開館を迎える。企画した主な展覧会は「ジュゼッペ・ペノーネ」(1997年と2009年の2回)、「アルベルト・ブッリ」(2000年)、「若林奮」(2002年)「シュルレアリスムと美術」(2007年、横浜美術館、宇都宮美術館との共同企画)、「山本糾-光・水・電気」(2011年)、「青木野枝│ふりそそぐものたち」(2012年)、「山口啓介│カナリア」(2015年)など。

 

 

−お二人は開館前からのご縁だそうですね。豊田市美術館ができた頃のことなどもお聞きできるとのことでとても楽しみです。まずは北谷さん、今回の企画展の趣旨や見どころからお聞かせください。

北谷:豊田市美術館は今年で開館25周年を迎えました。四半世紀という長い年月を積み重ねる中で70回あまりにわたってさまざまな企画展を開催し、その都度ポスターを作ってきました。豊田市美術館では「デザイン」もひとつのコレクションの柱と位置づけて力を入れてきましたので、ここでそれらをもう一度見つめ直し、展覧会ポスターもグラフィックデザインのひとつという視点で見ていただきたいと思い、企画しました。同時にコレクションも展覧会活動と相互に関連し合いながら着実に形づくられ、それなりに充実してきましたので、一緒に展示することで、豊田市美術館がいまの姿に成長してきたこれまでの足跡を振り返り、将来につなげていけたらと思っています。

−25周年を振り返る節目、同時に将来を見据える大切な通過点ともいえますね。

北谷:そうですね。我々学芸員はみんな、常に10年後、50年後、あるいは100年後までを考えて、その時々に豊田市美術館がどう評価されているかということを念頭に置きながらコレクションをつくっていかなければならないと思い、取り組んでいます。

−今回、これまでのあゆみを振り返るタイミングでの対談のお相手に青木野枝さんをお招きになったのは?

 

 

北谷:当館にもいくつかの作品を所蔵している若林奮という彫刻家がいるのですが、豊田市美術館の開館前、その作品をコレクションする過程で何度かスタジオに伺う機会がありました。当時そこでアシスタントとして制作に携わられていたのが青木さんだったんですよ。若林さんはその後2003年に亡くなりましたが、青木さんとはそれ以来のお付き合いです。

 

若林奮
1936年東京生まれ。59年東京芸術大学卒業。62年二科展で金賞。67年第2回現代日本彫刻展で受賞。80,86年ヴェネツィア・ビエンナーレに出品。87年東京国立近代美術館・京都国立近代美術館で[今日の作家 若林奮展]を開催。96年中原悌二郎賞受賞。99年多摩美術大学教授。鉄や銅、鉛などの素材を使い、深い自然観に基づく思索的な作品を制作した。2003年芸術選奨文部科学大臣賞受賞。同年10月に永逝。

 

青木:あれは92年か93年ごろでしたね。私はその頃、自分の作品の制作をしながら若林さんのアシスタントをしていて、スタジオに北谷さんをはじめ開設準備室の方たちがよくいらしてたのを覚えています。

北谷:僕にとって青木さんは、もっとも古くからお付き合いをさせていただいてきた作家さんですので、今回もぜひ一緒にこの25年を振り返ることができたらと思ってお越しいただきました。

 

 

−青木さんは開館前からのこともご存知とのことなので、共有する思い出なども多いでしょうね。

北谷:そうですね。美術館の人間と作家という別の立場で同じ場所を見てきた我々が、それぞれに思い出を語れたら面白いだろうなと思います。あの当時、主任学芸員だった、これも同じく青木さんという方ですが、その人たちから見ても若林さんは憧れの作家の一人だったんですよ。新しくできる美術館でコレクションをつくっていくにあたって、外すことはできない存在でした。

青木:若林スタジオは茶畑の中にあって、バスケットコートが二面取れるぐらいの広さがあったんです。その奥の一角に自分たちで作ったお茶室のような場所があって、お客様が来られるとそこへお通しするんです。私たち助手がお茶を持っていくと、「先生の作品はいまどんな感じ?」なんて様子を聞かれたりしてね。時々、学芸員さんたちと若林さんがご飯を食べに行くのにも連れて行ってもらって、その中に北谷さんもいらっしゃって、新しくできる美術館のことをお話しされているのをそばで聞いたりしてました。そういえばあの頃って、各地に美術館がどんどんできていた時期でしたよね。すごかったんですよ、まるで乱立状態。ちょうどバブルの時代でしたっけ?

北谷:バブルが終わった頃ですね。

青木:当時、私は美術館ができるってどういうことなのかよくわかっていなかったけど、お話を聞いていると、豊田市美術館はなんとなく他とは違うなっていう印象はありました。

 

 

−どんなところが違うと?

青木:コレクションの内容や今後の構想もすごいなって感じてましたし、建物の構造や設計の面も。特に、展示室に可動壁を作らないとおっしゃっていたのが印象的で。

北谷:準備室の頃、設計の過程も見ていたんですけど、可動壁を用いないというのは大きなこだわりのポイントでしたね。展覧会ごとに展示作品に合わせて壁を作るというのはコストがかかるんです。しかし出品される作家にとっても、鑑賞者にとっても最良の空間で見ていただける。だからそこは大事にしたかったんですね。いまでもコストに代えられない価値や経験を提供できていると思います。

青木:可動式だと、ガーっと引っ張り出してきた壁を展示や仕切りにする。本音をいうと作家としてはあまり良くないんです。壁自体もきれいじゃなかったり、下が浮いてたりするのが嫌で。とは言っても、毎回テーマや作品に合わせて壁を設えてペイントするってすごくお金がかかるだろうなということもわかるんです。だからこそ、当時、作家の卵だった私の目から見ても、そこにこだわる豊田市美術館てすごいなと感じていました。

―作家さんにとって、どんな環境で展示するのか、どんな空間で見てもらうかということは私たちが思う以上に重要なのでしょうね。

青木:それはもちろん大きいです。でも当時はただただ「すごいなー」と思いながらお話を聞いてただけで、いつか自分が豊田市美術館で展示をやることになるとはまったく想像もしていなかったですけどね(笑)。コレクションはすごい作家のものばかりだし、私とは結びつかなかった。自分もここで展示ができるような作家になりたいだなんて想像すらしていなかった。なので、初めにお話をいただいた時は「ほんとかよ⁈」って驚きつつ、ものすごく嬉しかった。もう10年ぐらい前でしたっけ?

北谷:もっと前ですね。個展の開催は2012年なんですが、その3年以上前からそろそろ、というお話はさせていただいてましたから。開催のタイミングを探っているときに、名古屋市美術館の方からも実は青木さんの展示をやりたいんだっていう話を聞いて、だったら青木さんの「今」の姿をしっかり見せようと。それで名古屋市美さんとうちと二館を使い、十分なスペースでの共同開催が実現しました。

青木:ついに来たか!みたいな感慨があって、最初から大感激でした。でもそれも一瞬。次の瞬間には「さあ、作らなきゃ!何を作ろう?」って現実的なことに気持ちが引き戻されて。プレッシャーとかではなくて、楽しみでワクワクする感じでした。

 

 

−かつてアシスタント時代にコンセプトやこだわりに感動した豊田市美術館に、いよいよご自分の作品を展示してみてお気持ちはいかがでしたか?

青木:うーん、なんだろう・・・ちょっと甘い言い方になっちゃいますけど、作る側に夢を持たせてくれる美術館だなって思いました。特によかったのは、最後の小さい部屋。今ちょうど若林さんの作品が展示されていますが、あの空間に、私にとっては〝賭け〟のような気持ちで作品を置くことができたんです。私って、ずっと鉄の作品ばかりを扱っている作家だと言われているんですが、名古屋市美から豊田市美へと二館を見ていただく流れの最後で、鉄ではない何か違うことをやりたいと思っていたんですよ。それで私的には珍しく石膏の作品を作ったんです。きっとあれだけを見たら私の作品だとわからないかもしれない。そういう試みができたことで、谷口さん(谷口吉生=豊田市美術館の設計を担当)という建築家は、作家に挑戦をさせてくれているんだなと感じました。あれは私自身の創作活動にとっても重要な通過点だったような気がします。

北谷:谷口さんの建築には包容力があるというか、何を置いても良く見えるんですよ。当然、大きさや高さといった物理的な条件はありますが、それぞれの部屋が個性的に見えて、実はどんな作品をも許容できる。しかもそれぞれの作家に対して考えを誘発させる力もある。谷口さんの建築はそういう性格を持っているのではないでしょうか。

青木:だからここで展示したいと思わせるんでしょうね。きっとたくさんの作家たちが同じように憧れていると思う。逆に、鑑賞に訪れる側の立場としても、まだ新しい人や知らない作家の展示だったとしても豊田市美ならば見に行きたいと思わせられます。そういう美術館ってあるようでなかなかない。そのレベルをずっと保ち続けているのはすごいです。

 

青木野枝「原形質/豊田 2015 」の前にて


−先ほど屋外に展示されている青木さんの作品の前でも撮影をさせていただきました。あの作品はどんな作品なのでしょうか。

北谷:あの作品は2012年の個展開催を機に、青木野枝という作家の「今」を見せたいということで改めてつくっていただいたものです。

ー展示場所があそこになった理由は?

青木:展示場所は、美術館の周りをいろいろ見て、あそこかなって決めました。

北谷:まず場所を決めた時点で作品のアイデアがあって、その後もいろいろ出してくださったんですが、最終的には想像を遥かに超えたすごいのができてきた(笑)。たぶん、青木さんの頭の中には自分でも意識していないようなものが生まれていて、それが自然に現れてくるのを待つ、そんな感覚なのでしょうか。

青木:自分でもどうしてそうなったのかわからない(笑)。そもそも私って自分がどんな作家になりたいだとか、理想みたいなのもなくて、将来の姿とかもあまり考えないんですよ。でも、そういう気持ちだったからこそ思いがけず豊田市美で展示ができたことも、心から嬉しかったんだと思います。

−25周年を迎え、いまや豊田市美術館は地元・愛知の私たちにとってすっかり親しみのある存在となりましたが、実際には私たちが思う以上に全国からの関心は高く、注目もされている美術館なのかもしれないと改めて感じさせていただいたような気がします。

青木:本当にそう。もし地元のみなさんがその価値に気付いていないのならすごくもったいない。

北谷:ありがたいですね。しかし、新型コロナウィルスの影響は大きくて、今後は展覧会のあり方自体が変わるのかもしれないという気もしています。海外からの作品もこれまでのように借りることが難しくなるなど、いろいろな影響もあります。だからこそこの事態によってもう一度、美術館の原点であるコレクションの価値をきちんと見つめ直して、魅力ある展覧会活動を継続していきたいですね。

 

イベント情報

2020年10月17日(土)〜12月13日(日)
開館25周年記念コレクション展「DISTANCE いま見える景色」
会場:豊田市美術館
時間:10:00〜17:30(入場は17:00まで)
休館日:月曜日(11月23日は除く)
観覧料:一般300円(250円)、高校・大学生200円(150円)、中学生以下無料
主催:豊田市美術館
https://www.museum.toyota.aichi.jp/exhibition/vision_distance/

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