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FEATURE / 特集記事 Nov 11. 2020 UP
【SPECIAL INTERVIEW】
豊田市美術館開館25周年記念展「DISTANCE いま見える景色」。
対談後編は「距離」をテーマとした展示に出展する作家・秋吉風人と
担当キュレーター・石田大祐が語り合ったアートの楽しみ方、その深み。

FEATURE:豊田市美術館|2020年10月17日(土)〜12月13日(日) 開館25周年記念コレクション展「DISTANCE いま見える景色」

 

前回に引き続き、豊田市美術館25周年記念対談をお送りする。今回は、25周年を記念するコレクション展の後半部「距離のたのしみ所蔵作品にみる遠近の感覚」に出展するアーティスト・秋吉風人と、同展の担当学芸員・石田大祐による対談だ(前回のアーティスト・青木野枝 × チーフキュレーター・北谷正雄による対談はこちら)。

石田大祐は、秋吉風人の初期の代表作Roomが今回の展示の鍵だと語る。同作は「部屋」という空間を題材に、一見、極端にシンプルな印象を投げかけながら、その内に奥行きや立体感が巧みに表現され、近づいてみたり離れてみたりすることで多彩な表情を見せる作品である。4枚で構成されるこの展示作品の話から始まり、「距離」について考える今回の企画展の楽しみ方、その背景に常に影響を及ぼしてきた地元・愛知のアートシーンについてなど、それぞれの視点で語ってもらった。

 

SPECIAL INTERVIEW SERIES #2

秋吉風人×石田大祐

 

Text & Edit : Ayuko Tani
Photo:Tomoya Miura
Edit & Design:Takatoshi Takebe(LIVERARY )

 


写真左:秋吉風人、右:石田大祐

 

秋吉風人
1977年 大阪府生まれ。名古屋芸術大学大学院美術研究科修了。2011年から2018年までドイツ・ベルリンを拠点とし、現在は愛知県にて制作、活動中。主な展覧会に、2010年「絵画の庭─ゼロ年代日本の地平から」(国立国際美術館、大阪)、2010年「あいちトリエンナーレ」(愛知県美術館 、愛知)、2013年 「さわらないでくたさい!? (常設特別展)」(豊田市美術館 、愛知)、2015年「Adherence」(SEXAUER、ベルリン)、2016年「if nothing else」(NON Berlin、ベルリン)、2018年「We meet only to part」(TARO NASU、東京)など。 豊田市美術館や国立国際美術館のほか、海外でのコレクションも多数。 http://www.futoakiyoshi.com

石田大祐
1988年愛知県生まれ。信州大学大学院人文科学研究科修了。あいちトリエンナーレ2016アシスタントキュレーター、東京都渋谷公園通りギャラリー学芸員などを経て2020年より現職。

 

石田:秋吉さんとこうしてお話をさせていただくのは初めてなんですが、この機会にいろいろうかがってみたいと思っていました。というのも、僕としては《Room》は今回の展示の鍵となる作品だと思っていて。秋吉さんの代表作の一つですが、今回のものは初期の作品なんですよね。

秋吉:そうですね。2002年なので、まだ大学院の一年生だった頃の作品です。

石田:絵の中に表現されている奥行きと、絵の表面の表情、その両方が僕らの視線を誘う仕掛けになっていて、気がつくと自然と絵に近づいたり、離れたりしてしまう。絵を見るとき自分がなにを見ようとしているのか、ハッとさせられる作品だと思っています。当時、ここまでシンプルに仕上げることについてはかなり勇気がいったのではないかと思いますが、どういう経緯で生まれた作品なんですか?

秋吉:美術大学に入って最初の23年は、僕も普通に基礎として静物とか人物とか具象的なものを題材にひたすら絵を描き続けてたんです。でもある時、その対象物が「自分にとっての何なのか?」ってふと考え始めてしまって。モデルさんが目の前にいる、でもまったく知らない人。この人は誰?みたいな。で、突然、描く理由を見失ってしまったんですよ。でも理由のあるものって何だろうと思って探してはみるけど見つからない。もやもやしたまま大学院に進み、大学院では自分のスタジオが持てるので、とりあえずそこに行ってみて、まだ何も物がない状態の部屋の中にぽつんと座って考えていた時、試しに目の前の何もない空間を描いてみることにしたんです。

石田:そうしてできたのがこの作品だったんですね。

 


秋吉風人/Rooms [2002年]

 

秋吉:そうですね。けど最初の一枚、右から二番目の。あれを完成させるだけで実は半年かかってるんですよ。

石田:半年相当な試行錯誤があったんですか?

秋吉:描くことを決めたはいいけど、次に何色にするかでまたあれこれ考えるわけです。何色でもいいんだけど、どれを選んでもその色のイメージに左右されてしまう。だったら一番抽象的な色がいいかなと思っていろいろ試した結果、金はどうだろう?と。金色ってだいぶ光に依存するし、そもそも色として存在するのか?とか、そんなふうに「色」と「現象」の間にあるようなところが面白いなと思って。

石田:微妙な濃淡や諧調の差だけで表現されていますよね。特に左から二番目のなんて、ほぼ一色なのに全体で見ることでここまで奥行きを感じるのか!みたいな驚きがあります。

秋吉:でも、実際やってみてわかったんですけど、金の油絵具って油に金属を粉々にしたものを混ぜてあるだけなので、油の部分が多い透明色なんです。だから筆でザーっと塗っても均等にはならない。キャンバスのところどころに黄色っぽいラメみたいのが付着するだけで、あとは透明でほとんどの面積が白いまま。あ、これはヤバいなと。結局、下地に茶色を一色塗り、その上から少しずつ金色の絵具を取って何度も何度も、まるで点描のように塗り進めて、乾かしてからまた塗って、それを数回繰り返して……

 

 

石田:なるほど。半年かかった意味がわかりました(笑)。

秋吉:何もない空間と金色、二つの要素しかないのに作業的なレイヤーはけっこう多くて、まるで修行のようでした。

石田:そんなに手間がかかっていたとは知りませんでした。絵の中の空間に何も置かないということに意味はあったんですか?

秋吉:自分のスタジオなので、場所との間には関係性や距離感が感じられるわけです。でも例えばここに机とかが入ってきちゃうと、もはや情報が多すぎちゃう。そもそも何もない空間ってだけで、けっこう情報多くないですか?なんとなくこう、あざといというか……。別に僕、あざとさを意識したわけではないんですけどね。

石田:何もない方が情報が多いっていう感じ、面白いですね。何を描くかで悩み、選択を迫られる難しさがわかるような気がします。2002年以降、しばらくこのシリーズは描いていらっしゃらないですよね。

秋吉:56年空きましたね。あまりに制作行程が辛かったので、もう二度とやるか!みたいな気持ちになって(笑)。修行のような作業への反発からか、次は真逆のもの、豊田市美術館にも所蔵していただいているんですが、『Room』のシリーズでは抑制されていたものを発散するみたいな気持ちで絵具だけを積み重ねて作った山、『A certain aspect (mountain) のような作品が生まれるんです。後にはオファーもあって、再びRoomにも取り組むことになるんですが、今は当時より楽しんで描けるようにはなりました。

石田:そうだったんですね。次に、作品を観るときのことをうかがいたいんですが、作品を観る人に対して、ここから観てほしいとか、そういう希望のようなものはありますか?

秋吉:いやあ、あんまりないですね。自分の展示については僕、すごく細かくて、展示室に入ったところからまずどう見えるか、順路に沿ってどう展開し、フィニッシュにどの作品がきて、とか、そういうところは毎回しっかりとこだわってやり切る。けど自分で満足しちゃうので、あとは観る人に投げてしまおうって感じです。そもそも作品の前に人が立った時点で空間のコンポジションは狂うものだから、僕のこだわりなんて台無しになりますよね……。あ、もちろんお客さんには来てほしいし、たくさんの人に観てもらえるのは嬉しいですよ(笑)。

石田:その感じ、なんとなくわかります。他の作家さんの作品を観るときはどこを気にしますか?

 

 

秋吉:どこだろうなあ……。そういえば、さっき展示を案内していただきながら、額に入れて完成という作品がけっこう多くて、額へのこだわりってすごいんですねって話しましたね。

石田:そうでしたね。作家さんによりますけど、額装はしたりしなかったり。していないもので絵具の層が見てとれると、作家さんの手つきというか、制作の過程を垣間見れるような気がして面白いと個人的には思っています。縁の処理には作家さんの個性が色濃くでる気がしますね。

秋吉:初期の頃はアバウトだったけど、最近は作品に余分な情報は入れたくないので側面まで気にするようになったかも。自分のでも他の人のでも、僕が基本的に作品とか展示空間とかを立体的に見がちなのは、多分、コンポジション重視の人だからなのかもしれないです。どの位置から見てもコンポジションが定まっているか、バランスはしっかり気にします。

石田:なるほど。そういうことも関係あるのかもしれませんが、秋吉さんの作品にはどこか常に実験的な要素を感じます。

秋吉:作品としてはわりとコンセプチュアルに捉えられることが多くて、当然、それも大切にしてはいるんだけど。コンセプトに依存しすぎたくはないけど、雰囲気だけのビジュアルアートにも依りたくない。でも欲張りなのでちょうど中間をいきつつ、且つ全てを成立させたい。そうすると実験的な作業をし続けることになるのかもしれないですね。

石田:「描く」という行為そのものが常に実験的で興味深くて、しかもそこから生み出される作品の面白さが、僕ら鑑賞者にもよく伝わる。そのバランスがずっと保たれているのはすごいことだなと思います。

 

 

石田:少し話題を変えて、作家としてのご活動を振り返りながら話を伺いたいのですが、ご出身の大阪から名古屋に来られて美術大学に入られたのはいつですか?

秋吉:1997年です。

石田:豊田市美術館はその2年前の1995年に開館しているんですが、その頃の愛知のアートシーンってどんな感じでしたか?

秋吉:当時はアーティスト・ラン・スペースがいくつもあって、それぞれがしっかり機能していた印象があります。その中に「dot」っていうアートスペースがあって、同級生のアーティストの鬼頭健吾君に誘われて行ってみたら、そこには現代美術大好き!みたいな人たちがいっぱいいてちょっとびっくりしちゃった。

 

 

石田:秋吉さんは違ったんですか?

秋吉:僕なんて大学に入学するまで美術にほとんど興味もないままなんとなく美大に行ったような感じだったから、まわりとは知識の差がすごくて。覚えたての「心象風景」なんて言葉に影響されて絵を描きはじめたばっかりの僕がいきなり入っちゃった。でもそれが刺激になって、現代美術に興味を持ってめちゃくちゃ調べるようになるんです。みんな、なんとかして世に出たいと意欲に燃えていたし、自分たちの手で展覧会やイベントなどもやって見てもらう機会を作ろうと頑張っていた。そこからデビューする人も多く、僕もその一人でした。アーティスト同士の繋がりも強くてしかもコア。ミーティングなんか白熱しすぎて、たまに泣いてる人もいました(笑)。そういう雰囲気も含めて、あの頃の愛知のアート界隈にはいいイメージしかないですね。

石田:そうなんですね。僕は少し下の世代で、大学のころは長野県に住んでたのでたまに名古屋に山からおりてきて、美術館やギャラリーを憧れながら見てました。愛知ではその後2010年にあいちトリエンナーレがはじまったり、各地でも芸術祭とかが盛んになってきますが、ちょうどそういう時期にベルリンに行かれたのはご自身のなかではどういうタイミングだったんでしょうか

秋吉:海外のアートシーンは学生の頃から意識していました。やっぱり自分の作品が海外でどのような評価をされるのかが知りたくなるんですよね。年齢的なものもあるし、経験とかキャリアをある程度積んでくるとアーティストの多くは一度は海外に出てみたくなるんじゃないでしょうかね。

石田:日本と海外、物理的に離れてみて感じたことはありましたか?

秋吉:そうですね。同じシリーズの個展を、例えば名古屋でやり次に東京でやったとしてもそれほど離れた感じがしない。あまり広角的ではないと思うんですよ。日本でやりベルリンでもやって、さらにはニューヨーク、ロンドンというように動けばしっかりと距離があるし、その都度リセットしながら見せることができます。ベルリンには結局7年いて、ベルリンだけでは3個展をやって帰ってきましたが、自分自身への影響はそれほど感じないけど、海外での反応や評価を受けたことによって、自分の作品への見え方や思いの部分は変化したと思います。

石田:いまは学生さんたちに指導もされているんですよね。ご自身の学生時代と比べて、違いを感じたりはしますか?

 

 

秋吉:ええ。いまの学生たちに接していて思うのは、スマホやタブレット上で何かを作りながら、もう一方の手に油絵具が付いた筆を持ってる。まあ面白くもあるんですが、その様子に違和感があって。それならもう絵具使わなくていいじゃんって思うんですよね。僕らの頃より面白いメディアがいっぱいあって表現の選択肢も山ほどあるんだから。アート=絵画ではなく、まずはあらゆるメディアやマテリアルの存在を知り、選択するところから始めてほしいと思っています。

石田:豊田市美術館としても開館から25年を経て、今後は作品や作家さん、あるいはお客さんたちとの関わり方という部分で、変わらないでおくものと時代に合わせて変えていかなければならないものがあるのかもしれません。まだいろいろお聞きしたいのですが、最後に、秋吉さんがこれからの豊田市美術館に期待することがあるとしたら?

秋吉:僕個人的には、豊田市美術館はどっしりと安定していて常に良い展示が行われているというイメージです。空間そのものもすごくクオリティが高い。世界各地の美術館を見てきて思うのは、入った瞬間にまず「おお、来たぞ!」って感動できるのがいい。そういう点でも、愛知ではここ以上に空間の感動を味わえる場所はないと思います。多くの作家にとっても憧れの場所。そのブランド力のようなものこそ今後も豊田市美術館が担っていく重要な役割なんじゃないかと思います。

石田:ありがとうございます!これからもそういう美術館であり続けたいです。

 

 

 

イベント情報

2020年10月17日(土)〜12月13日(日)
開館25周年記念コレクション展「DISTANCE いま見える景色」
会場:豊田市美術館
時間:10:00〜17:30(入場は17:00まで)
休館日:月曜日(11月23日は除く)
観覧料:一般300円(250円)、高校・大学生200円(150円)、中学生以下無料
主催:豊田市美術館
https://www.museum.toyota.aichi.jp/exhibition/vision_distance/

 
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