Text & Photo by Ayaka Torii
仕事は辞めずにバックパッカー。
名古屋在住アラサーOL海外一人旅日記
東南アジア編④カンボジア・シェムリアップの洗礼。商魂逞しいタクシードライバーと灼熱の遺跡巡り
カンボジア・シェムリアップ
2024年2月21日(水)
ラオス・ルアンパバーンを出発し、16時頃カンボジアのシェムリアップ・アンコール国際空港に到着した。この空港は2023年に移転したての真新しい空港だ。
シェムリアップには長めに3日間滞在することにしていた。カンボジアに入国するにはビザが必要だったので、事前に日本で取得したe-Visaをプリントアウトしてイミグレーションの際に提示した。ビザが必要な国に来るのは初めてで少し緊張したけれど、プリントアウトしたものを渡すだけで入国自体は簡単だった。
空港から街まで行くにはバスかタクシーが主な移動手段らしい。バスは本数が少ないようだったので、空港を出てすぐのタクシー乗り場で受付をした。支払い方法が現金のみだと言われたので、ATMがどこにあるか聞いたら空港にはないから街中で下ろすしかないという。そんなことがあるだろうか。しかもこんな新しい空港で。後から調べたら実際にはATMがあったのだけれど、いつものように空港のATMで下ろすつもりでいたので、カンボジアの通貨であるUSドルとリエルを全く持っていなかった。昔バンコクに行った時に余ったタイバーツを一応持ってきていたので、ダメ元で支払いできるか聞いたらOKだったので事なきを得た。
しばらく待っているとサングラスをかけたアラフォーくらいの男性ドライバーが現れて笑顔で挨拶をした。タクシーに乗って出発。この後、このドライバーにはカンボジア滞在中ずっとお世話になる。
彼は陽気な性格で日本語も少し話せた。聞くところによると自動車関係の会社を経営するお金持ちの日本人が友達にいて、その人に日本語を教わったらしい。
1時間かけてホテルに到着。料金を払おうとしたら明日はどうするのかと聞かれた。アンコールワットに行こうと思っていると伝えると、それなら明日の早朝迎えに来るからホテルの前に集合しようと言う。どうしようか迷ったけれど、どちらにしてもアンコールワットはタクシーかトゥクトゥクを頼まないと行けない距離にあるのでお願いすることにした。料金はいくらか、と聞くと「あなた次第」と日本語で答えた。怪しい。絶対にぼったくられるパターンだ。ひとまず連絡手段がないとお互い困るだろうと思い連絡先を聞いたら、特に連絡先は持っていないよとスマホを片手に答えてきた。どう考えてもますます怪しいが、とにかく明日ここ集合でと言われて、移動の疲れもあった私は二つ返事で承諾してしまった。
ホテルはかなり綺麗だった。旅の中盤で疲れが出るだろうと思ったので、カンボジアでは少しいいホテルを予約していた。
部屋の天井は高く、ベッドも広い。
段々空が暗くなってきたので、夕飯を求めて外に出る。
付近を歩いてみると、ここは結構郊外に位置する場所のようだった。繁華街まで車で10分くらいかかる。街灯があまりない。暗くなる前にATMでカンボジアの通貨を下ろして、どこかでご飯を食べようと急いだ。Googleマップで出てきた一番近いATMまで行こうとしたら、ヴィラのような雰囲気の建物に着いた。周りにはたくさん人がいて屋台も出ている。特に何も考えず内部に入ろうとしたら入り口にいた守衛に止められた。ATMに行きたい、と伝えるとダメだというようなことを現地の言葉で言っている。なぜだろう。守衛は近くにいた青年に声を掛け、青年は私に英語で説明した。
なんとここは病院らしい。googleマップを引きで見ると確かに病院と書いてあり、私は院内のATMに行こうとしていたようだった。かなり綺麗な雰囲気だったので病院だとは全くわからなかったが、よく見ると奥の方に点滴をぶら下げて歩いている人がいる。出入りしている人たちはおそらく患者の家族で、周りにある屋台ではお見舞いの品や子供向けのおもちゃを売っているようだった。かなり辺鄙な場所にあるホテルを選んでしまったようで、怪我でも病気でもないのにいきなり病院に来ることになってしまい面食らった。周りには私のような旅行者は見当たらない。
街灯の少なさ、現地の人しかいない状況、病院、迫る夕闇に焦り、急いで別のATMを探して現地の通貨を引き出し、病院沿いの屋台でお粥的なものをテイクアウトした。ついでにホテルの近くの商店でクラッカーを買って早歩きで帰る。
ビニール袋に包まれた汁物が東南アジアっぽい。お米以外に何が入っているのかよくわからなかったけど、クセもなく素朴で優しい味だった。
テレビをつけるとNetflixに千と千尋の神隠しがあったので見ることに。海外のネトフリって本当にジブリが入っているんだなと思いながら見たことのある日本のアニメにほっとした。今まで海外に来てこんな郊外に滞在したことがない。街灯の少ない、あまり舗装されていない暗い夜道を歩くのは心細かった。
明日は早朝にドライバーが迎えに来るので、早めに寝ることに。
2024年2月22日(木)
早朝、ホテルの前で例のドライバーを待った。本当に来るのか疑わしかったが予定時刻を10分過ぎた頃陽気に登場、車に乗ってチケット売り場へ。
アンコールワットのチケットは結構高い。日本円で6000円弱の料金を払って、また車に乗ってアンコールワットの入り口で下ろしてもらった。
数時間後にここに迎えに来ると言ってドライバーは去って行った。多分私以外の観光客の運転も担当しているんだろうが、連絡先も交換せず口約束でよく配車管理ができるなと感心した。
この付近には本当に街灯がなく、入り口から遺跡のある場所まで、みんなスマホのライトの明かりを頼りに歩いている。
アンコールワットは遺跡の後ろから昇る朝日が有名だった。ルアンパバーンに続いてここでも太陽を拝む。その後遺跡の中を見学したりして敷地の中を散策した。
アンコールワットの日の出を見て、集合時間にドライバーと約束した場所に戻った。
しかし、10分経ってもなかなかやってこない。本格的に日が照り出してジリジリと暑くなってきた。周りにいる他のドライバーたちから客引きの声がかかったけれど、タクシーは予約済だから必要ないと答えた。近くにいたアンコールワットの係員は私が1人でずっと待っているのを心配してくれたようで、大丈夫?と声をかけてくれた。
20分くらい待ってようやく彼がやってきた。ソーリーと笑顔で平謝りをしながら車から降りてくる。客引きしていたドライバーたちがお前かよ、といったノリで彼を囲んでどつき始めたので、胡散臭くて怪しいけれど、この人は現地では顔が広いドライバーなのかもしれなかった。
ホテルまで送ってもらうと、今度は午後からバイヨン遺跡というアンコールワットの近くにある有名な遺跡と、ラピュタのモデルと言われているベンメリア遺跡へ行かないかと言われた。アンコールワットでそれなりに満足していたので、正直そこまで他の遺跡に関心がなかったけれど、なかなかカンボジアに来る機会もないし他に予定も決めてなかったので、また言われるがまま行くことにした。料金を聞いたがやはりはっきりとは答えない。さっきの現地ドライバーたちとの関係性を見るに悪い人ではなさそうだし、これでカンボジアの経済が回るなら多少ぼったくられてもまあいいか…。と暑さと疲れで若干朦朧としながらまた安請け合いしてしまった。つくづく私は日本人だなと思う。
部屋で朝昼兼の食事として昨日買ったクラッカーを食べる。パッケージをよく見たら賞味期限が切れていたけれどそのまま食べ続けた。このホテル自体は素晴らしいが、周りが閑散としているので食べ物の調達が大変だ。今思えば東南アジアの配車アプリGrabを入れていたのでフードデリバリーをすればよかったのに、ケチなので普段日本でもUberを使う習慣がなく、その考えに至らなかった。
午後、集合時間にホテル前に行くと若い青年がいた。彼はあの陽気なドライバーの部下だと自己紹介した。あの人は自身が運転するだけでなく部下の配車もやっているのだろうか。
車に乗ってまずはバイヨン遺跡へ。
暑い。昼下がりの最も太陽が高い時間のシェムリアップは本当に灼熱だった。体感40度近くある気がする。
その後車で1時間かけてベンメリア遺跡へ。
カンボジアは公共交通機関があまり発達していない上に遺跡が広い範囲で点在しているので車で移動するしかなく、ひたすら平原を走ってベンメリア遺跡に着いた。
青年ドライバーは向かう途中暑くないか、水を途中で買ったりしなくていいか、と気遣ってくれた。
アンコールワットは色んな国の観光客で賑わっていたけれど、ベンメリア遺跡にいるのは何故かほぼ日本人と韓国人だけだった。ラピュタ効果だろうか。
ベンメリア遺跡を一通り見て、また車で1時間かけて夕方ホテルに戻った。
今日こそはまともな食事をしようと思い、暗くなる前に周りを散策することに。
このホテルの横には昨日のヴィラのような病院とは別に小児病棟があった。元気な子供の声がするけれど、点滴の袋が部屋の中にいくつもぶら下がっているのが見える。気になったのでネットで調べると、寄付によって建てられた病院で、医療費は無料らしい。
病院と反対方向に歩くと市場があった。地元民が買い物をしている。食堂もいくつか見かけたけれど看板やメニューにはカンボジアの言語・クメール語の表記しかなく、店内は地元の人がまばらにいる感じで入る勇気がなかったので諦めた。
結局屋台で売っていたフライドチキンを一つ買って、商店でまたクラッカーを買い、ホテルのレセプションでカップ麺を買って部屋に戻った。結局この日も非常食のような食事になってしまい、その後は疲れて寝てしまった。
2024年2月23日(金)
今日でカンボジア最終日。
昨日かなり動いたので今日はゆっくりしようと午前中部屋で寝ていたら外からノックが。ホテルのスタッフだったので開けると、例のドライバーが来ているという。
夕方に空港までの送迎をお願いしていたが、それにしてはだいぶ時間が早い。階段を降りてレセプションに行くと彼は笑顔で待ち構えており、夕方まで時間があるから他にどこか行かないか、と提案してきた。本当に商魂逞しすぎる。疲れているので特に必要ないと言うと、それなら空港に行くついでにトンレサップ湖という湖に寄ろうと誘われた。まあ、空港と方面が同じなら…と半分諦めモードで最後のセールスに乗ったのだった。
昼はトゥクトゥクに乗りシェムリアップの市街地に出て、久しぶりにスタバやケンタッキーなどのチェーン店を見て感動した。観光客もいる。食堂でカレー的なものを食べ、カンボジア最終日でようやくまともな食事をとることができたのだった。
約束の時間になったのでホテルをチェックアウトし、ドライバーと空港方面に向かった。
カンボジアにはトンレサップ湖という東南アジア最大の湖がある。ここでは水上生活を送る人々の様子をクルーズで見ることができるというアクティビティを売りにしており、受付で料金を払ってボートに乗り、水上家屋を眺めたりした。
このあたりからコンデジではなくスマホカメラで撮影をしており、やる気の無さが滲み出ている。水上家屋を間近で見るという体験は貴重なものだとは思うが、あからさまに観光地化されている感じに興醒めして、正直に言うとあまり楽しめなかった。あとは普通に暑すぎて体力を消耗していたせいもある。
一通り回ってボートから降りた後、今度こそ空港に向かった。
空港に到着し、いよいよ支払いの時がやってきた。
値段を確認せずにここまで来てしまったがいくらなのだろうか。
ドライバーは半笑いを浮かべながら、おずおずと日本語で金額を言ってきた。
「200ドル…貰ってもいいですか?」
200ドル。日本円で3万円くらいだ。思ったより高い。
しかし灼熱すぎる気候と体力の消耗により、ドライバーに強気で値下げ交渉する気にはなれず、言い合いになって後味が悪くなるのも嫌だったので、そこから10ドル値引きして貰って支払いに応じた。これが現地の人々の生活の足しになるのなら、たとえぼったくられていたとしてもその金額を受け入れよう…と自分に言い聞かせて出発ロビー側にあったATMから現金を下ろして手渡しした。そして、次からはどの国に行っても必ず金額を確認してからタクシーに乗ろうと誓った。いつかインドに行く日が来たらきっとぼったくりの嵐なので、これは今後の旅に向けた勉強代ということにする。
ドライバーはかつてない笑顔で私を見送ってくれた。ありがとう、3日間お世話になりました。できれば渡したお金は全てあなたの懐に入れるのではなく、部下たちに行き渡らせてくださいね。
次は最後の都市、ベトナム・ホーチミンへ。
鳥居 絢香 / Ayaka Torii
1992年生まれ。名古屋在住の会社員。LIVERARYスタッフ。
海外旅行と名古屋のカルチャー、飲食店が好き。
沢木耕太郎と誕生日が同じ。
Instagram: ayaka_10r
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10