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WHAT ABOUT YOU? #16 / 鬼頭 祈

Interview by YOSHITAKA KURODA(ON READING)

whataboutyou16

東山公園のbookshop&gallery ON READINGでは、定期的に様々なアーティスト、クリエイターが展示を開催しています。 このコーナーでは、そんな彼らをインタビュー。

今回は、日本画とイラストレーションのあわいで、これからの日本画に挑戦し続ける鬼頭祈さん。若くして、多くの広告や雑誌挿画などを手掛けるなど、注目が高まるアーティストのひとりです。


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―子どものころはどんな子でしたか?絵を描くことを意識し始めたきっかけはありますか?

かなり小さいころからはっきりと絵の道に進みたい、と思っていました。両親が音楽の仕事をしていたこともあって、身の回りに音楽やアートなどカルチャー的なものは絶えずありました。彼らは若い頃バンドマンで、母はキーボード、父はギターをやっていて、「おかあさんといっしょ」のかわりに、ユーリ・ノルシュテインや手塚治虫のアニメーションを見たり、絵本もキャラクターものはなくて、スズキコージさんとか、福音館書店の作家性の高いものだったり、どうやら周りの子とは環境が違うな~、と薄々感じていました。ポケモンも買ってもらわなかったです。(笑)私のいちばん遠い記憶が、ダリの画集を眺めているというシーンなんですが、母は、私が三歳くらいの時に描いた絵を見て、この子は絵の道に進むんだろうな、と思ったそうです。小学校に入学する時には、自分でも「画家になりたい」と思っていました。その後、清水南高等学校・同中等部という静岡県立の中高一貫の学校を受験して美術科に入って、実家のある藤枝から清水まで六年間ずっと、二時間かけて通っていました。

―ご両親の影響を受けて、音楽の方向に…とはならなかったんですね。

母がピアノを教えてくれたので、小さいころからピアノも弾いていたんですが、小学校高学年まででやめました。でも高校からはバンドを組んで、今もずっとギターはやっていますね。高校の時はコピーしたりオリジナルもやったり、大学の時は筋肉少女帯のコピーとか、ノイズみたいなのとかしていました。またそろそろバンド活動をちゃんと始めたいなと思っています。高校の時は絶対同世代が聴かないものを聴こう!と、昔のプログレとか、ピンクフロイド、四人囃子、ヒカシュー、ペンギンカフェオーケストラなどを聞いてました。

―筋肉少女帯!バリテクですね…!意外な一面(笑)大学は京都造形大学の日本画学科ですね。なぜ日本画を選ばれたんでしょう?

当時、イラストにもデザインにも絵画にも興味があったんですが、日本画は「対象を見て描く」というすべての絵の基本を大切にしているし、構成も勉強になる。一生絵を描いていくとなると、学べるうちにきっちり勉強しておきたくて、ちゃんと描く力を鍛えて、日本のルーツを学んでおけば、デザインにもなんにでも応用できると思ったんです。で、日本画を勉強するならやっぱり京都かなと。

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―すごくしっかり考えてますよね~。日本画を学んでいくうえで、影響を受けた作家や作品はありますか?

江戸時代以前の日本画が好きですね。円山応挙や、伊藤若冲、狩野派や琳派など、素晴らしい作品がたくさんあって、すごく影響を受けています。高校の頃、若冲の作品を見て、かっこいい!と、ときめいたんです。私、「時の洗練」というのがとても好きなんです。時代の変遷を経て、残っているものは間違いないだろうと。象形文字も、クラッシック音楽も、今使っているフォークも、洗練されたかたちだから、長い年月残っているんだろうな、と思うんです。 日本画は、描く対象物が動物や自然とか、圧倒的なものを描いていることが多いんです。自分も自然の中で育ったので、自然にはかなわない、と思っていて。自分の中にあるものを絞り出してもたかがしれているので、圧倒的なものに触れて、自分のフィルターを通して漉して、畏敬の念を示すように描く方がいいものができるんじゃないかと思っています。

―よく、日本は線でとらえて西洋は面でとらえる、という比較がありますよね。鬼頭さんは日本画の特徴をどのように考えていらっしゃいますか?

最近では、画材は日本画のものを使うけど、描き方は洋画の技法っていう人も増えているのですが、本来、日本画というのは「余白」を大事にしていて、何も色がついていない紙に墨でぱっと描くというのなんですけど、最近の日本画はまず背景をつぶして、それから絵具をのせていくという方法で、それには少し違和感があるんです。私はどちらかというと昔の日本画の描き方に近いと思います。 受験のデッサンは、輪郭ではなくて陰影で捉えなくちゃダメなんですけど、どうもうまくいかなくて。立体で捉えるのが苦手だったんだと思うんです。線で捉えるのはとても自然にできるんですけど。美術教育の分野では、明治の頃までは、面で西洋的にとらえる方法と、線で日本画的にとらえる方法の二通りを教えていたそうなんですが、いつの間にか、西洋的な教育だけが残ってしまったんです。それはすごくもったいないなと思っています。

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―それでは、今の鬼頭さんの作風はいつ頃から固まってきたのでしょう。

大学二年生の頃から、イベントのフライヤーなどでイラストを描いたりしていたんですが、その頃は学校で日本画を描いているのと、外でイラストを描いているのを分けて考えていました。あるとき、混ぜたらどうなるかな?と思って、日本画でイチゴを描いているときに、ふと小人を登場させたのが始まりです。ちょうど、進路で悩んでいた時期で、やりたいこといっぱいあるけど結局は企業に入るのかなとか、すごくいい絵を描いていた同級生たちが急にリクルートスーツを着て就活し始めて、みんなそれでいいのかなとか漠然と思っていて。そういう時期だったので、小人を描いたことで自分自身がすごく癒されたんです。それで、私は自分の絵で頑張ってみよう、と決意しました。

―在学中からいろんな媒体でお見かけしていましたもんね。とんとん拍子!というイメージがありますが、実際はどうだったのでしょう。

今、卒業して三年目なんですが、最初はやっぱり仕事もなくて、焦っていました。 大学3年生のとき、学校の近くにあったギャラリーのBlack bird white birdで個展をして、東京のギャラリーやコンペのこと、出版社への持ち込みの仕方など、オーナーの大久保さんにそれまで全く知らなかったイラストレーションの世界のことを教えてもらいました。その個展をきっかけに、イベントのフライヤーとか、エルマガジンなど京都市内でのお仕事をちょこちょこいただけるようになって、それをポートフォリオにまとめて営業に回りました。昨年くらいからようやく安定して仕事をいただけるようになってきました。イラストの仕事って、瞬発力が必要な案件も多くて、依頼が来て二日後に返す、みたいな仕事もあるので、そうするとほかの仕事をしながらだとなかなか対応ができないんです。その点、不器用なだけかもしれませんが、腹くくって我慢してきてよかったな、と思っています。

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―鬼頭さん自身、新しい表現より、長い時を超えて残っている作品に心惹かれるということですが、そういう鬼頭さんが今、軽やかさや時代に沿った表現を求められるイラストレーションの世界で描いているというのが興味深いですね。

イラストレーションと絵画の間のような自分の作品は、どういう作品なんだろう、どこに受け皿があるんだろう、とずっと思っていたんですが、でも、今残っている名画とよばれる絵も、当時の役割としては挿絵や何かを説明する絵だったりするものもたくさんあるなと思って。浮世絵も当時の風俗を描いたものだったし、キリスト教の絵画ももともとは文字の読めない人のために教義を伝えるものだったりとか。むしろ、現代の、絵を細分化しようとしている状況の方が異常で、もっと広い視野で絵というものを考えてもいいのかなと思っています。 私がよく描いているモチーフに、イチゴがあるんですが、イチゴは日本に入ってきたのが江戸時代末期頃なんです。なので、江戸時代以前の日本画にはイチゴは登場していない。つまり、何百年、何千年後に見たら、「いま」を表すモチーフになり得ているんです。そう考えると、私が今、自然にイチゴを描いているのも結構意味があることで、歴史にひとつの点を打てているのかもと感じます。

―鬼頭さんの作品に登場する小人はどういった存在なのでしょう。

「あちら」と「こちら」をつないでくれる、自然物と人間のあわいにある存在です。元々、河童とか、精霊、妖怪というような存在に興味があって。今回の展示では、古今東西の小人が出てくる物語をモチーフにした絵を描きました。「ガリバー旅行記」「おやゆび姫」「一寸ぼうし」など昔から小人は物語によく登場しています。それだけ、人間にとって世界にとってきっと必要な存在なんだと思います。

 また、世の中の絵の中に登場するキャラクターの多くは、カメラを意識してポーズをとっている、または人に見られている事に気付いている様子のものがほとんどだと思います。でも、この小人たちは人に見られている事に気付いていません。洛中洛外図に描かれている人々が思い思いに町の中で暮らしているように、この小人たちも絵の向こう側の空間を住処にして暮らしています。そして、昆虫や鳥などと同じくらいの意識の自我を持った子たちなので、目の前のイチゴだったり、今現在の目の前の事しか考えていないのです。日々慌ただしくても、私の小人の絵を眺めているときは、小人達のように今現在を味わっているような、立ち止まってほっとする気持ちになってもらえたら良いなと思っています。

 そして、この小人たちは絵画の中だけでなく、雑誌や広告などのお仕事でも登場させる事が多いです。同じ背格好の小人たちが、絵の中はもちろん、印刷物で何千人、何万人も増殖していっている事になります。ポップアートの基本は「同一パターンの反復」だと思うので、金太郎飴のように、原画、印刷物、グッズ問わず、どの媒体にいる小人も同じアートピースとして楽しんでもらいたいなと思っています。

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―今後やっていきたいことはありますか?

今、絵本の制作をしています。発表できるのはまだまだ先になると思いますが、とても楽しみです。あとは絵で仕事をしている限りは、ジャンルを問わず興味のある様々な媒体や場所で発表できるようになりたいですし、どこに持っていっても、一枚の絵として力のある作品を作りたいと思っています。

イベント情報
 2016年6月29日(水)〜 7月11日(月)
鬼頭祈 個展 『little story』
会場:ON READING 名古屋市千種区東山通5-19 カメダビル2A
営業時間:12:00-20:00
定休日:火曜
http://www.onreading.jp

鬼頭祈 Inori Kito
1991 年静岡生まれ。京都造形芸術大学 日本画コース卒業。日本画の画法を生かし、広告、ファッション誌など多方面で活動中。主な個展に、「little people」pixivZingaro(中野)等。第190 回ザ・チョイス入選(江口寿史氏審査)。
http://inorikito.tumblr.com/

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