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WHAT ABOUT YOU? #35 / 西淑

2020.03.04.Wed - 03.23.Mon | Interview by KYOKO KURODA(ON READING)

 

東山公園のbookshop&gallery ON READINGでは、定期的に様々なアーティスト、クリエイターが展示を開催しています。

このコーナーでは、そんな彼らをインタビュー。今回は、書籍の装丁や広告、雑誌などで幅広く活躍しており、 昨冬におよそ10年間の画業をまとめた作品集を出版した西淑さん。福岡、京都、東京、鳥取と、制作の拠点を移しながら考えていること、これまでのこと、これからのことを伺いました。

 


 

 

 

―子どもの頃から絵を描くのが好きだったんですか?

そうですね、小さい頃から好きで、チラシの裏紙に何時間も絵を描いたりしていました。親が絵本が好きで集めていたり美術館にもよく連れて行ってくれたり、割と、絵や本に囲まれた環境だったと思います。テレビを見せてもらえなかったこともあって本は好きでしたね。『ナルニア国物語』や、ファンタジーをよく読んでいました。

中学生になったころ、部活とか他のことも忙しくなったり、自分よりうまい子もいっぱいいるしなんとなく恥ずかしくなってしまって、一時期描かなくなってしまったんです。でも、大学の進路を決めるときに、やっぱりせっかくだったら好きなことを勉強したい、と思って、鳥取大学教育学部の芸術表現コースに進学しました。大学では幅広く、さまざまな技法や素材を体験させてもらいました。私は彫刻専攻で、石膏を使った抽象的な作品を作っていました。

 

―じゃあ、大学進学時には、将来絵を描くことを仕事にしたい、というような気持ちはなかったんですね。いつ頃から絵を仕事にしたい、と思うようになったんですか?

大学に入るときも在学時も、職業のことやこれから先どうしていこうとか、何にも考えてなかったです。

卒業後は一年間、福岡で事務の仕事をしていたんですが、私、全然仕事ができなくて。ホチキスで紙をとめたりとか、そういう単純なことが本当にできなかったんです。なんでこれをやってるんだろうっていうのが納得できなくて、心身ともに調子が悪くなってしまって。それから、最初から最後まで自分でやったって思える仕事がしたいと思い、もともと絵を描くことが好きだし、イラストレーターになりたいと思うようになったんです。

 

 

―イラストレーターという職業に興味を持つきっかけがなにかあったのでしょうか?

大学のとき、芸術表現コースみんなで使うノートがあって、それにいつも落書きをしていたんですね。それを、同じ科の男子に「西はイラストレーターになったらいいんじゃない」といわれたのは覚えています。その時は、そんなの絶対なれないよって思ってたんですけど。

本が好きなので、本の挿絵とか装画とか、そういう仕事ができたらいいなって思っていました。

 

―どうやって、イラストレーターの道に進んでいかれたのでしょうか。

京都のイラストレーションのスクールに通いました。イラストレーターの先生が週替わりで講師を務めて、課題に対して絵を描いていくというスタイルで、授業が週に一度だけだったので、ダブルスクールとか習い事として通っている方が多くて、このために京都に出てくる人は他にいなくて、びっくりされました(笑)。でも私としては覚悟を決めて出てきていたので、ここでなんとかしなければと思っていました。学校の卒業制作展でポストカードを販売し、その売上の上位三位に入ったことで個展の権利をもらえて、初個展をさせてもらいました。その時に、フリーの編集者の方が来てくれて、雑誌のMOEのお仕事をいただけました。それが初めてのイラストレーションの仕事ですね。

その後約3年くらい京都で展示を中心に活動していたのですが、なんか急に、全部がうまくいかなくなっちゃったときがあって。バイト先で1万円くらいするミキサーを割ってしまったり…。ちょうどその時、安曇野にある成瀬政博さんの私設美術館・バナナムーンから個展のお話をいただいていたので、それまではそのために生きよう、と思って。それで一旦、実家の福岡に帰って、半年くらい絵を描く以外何にもしない生活をしていました。今も描いている切り絵の手法はこのころに始めました。

 

 

 

―切り絵の手法はどういうところから生まれたのでしょうか。

実家にいた半年間は、食べて描いて、寝袋で寝て、起きたらまた描いて、という暮らしをしていて。それまでずっと、働いて自分の生活を成り立たせた上で描いていて、それもすごいしんどかったんですけど、描くことだけをするというのも、それはそれでしんどいというか、考えすぎて描けなくなってしまいました。白い紙にスタートさせるのが怖くなっちゃったんです。間違えたらだめになってしまう、と。それであるとき、描いたのを切って、紙の上に置いてみたんです。これなら後からでも動かせるなと。そしたらちょっと立体にも見えて面白い、と思ったんです。今回の作品集に収録した作品は、この頃に描いたものから始まっています。

 

―これだ、という瞬間ですね。その後、一度東京で暮らして、京都にまた戻られました。東京にはどれくらい暮らしていたのでしょうか?

東京は1年半です。そうとは思えないほどの、濃密な時間でした。いろんな出会いもあり、お仕事も少しずついただけるようになっていきました。その頃、初めて装画のお仕事もいただきました。千早茜さんの『からまる』(角川書店)です。千早さんとはその後も何度かお仕事をさせていただき、今ではプライヴェートでも仲良くさせていただいています。今回、作品集に文章を寄せてくださいました。

 

―西さんは、初期の頃から展示ごとに作品をまとめて本を作っていましたよね。本を作るっていうことと、絵を描くということとは全然別のことだと思うんですが、ことばをつけて絵本のように作るということが好きだったんですか?

バナナムーンでの展示の時に、私が会場にいなくてもどういう想いでつくっているのかということを感じてもらえるきっかけになったらと思い、会場に置くためだけに本を作りました。その後も、しばらくの間は展示ごとに本を作っていましたね。ただ、私にとっては、描いた絵を編集して本にまとめる、というよりも、展示に向けて絵を描くとき、いつもその手前にストーリーやことばがあって、それを絵に表しているという感覚でした。

 

―切り絵の手法で数々のお仕事をされている西さんですが、個展では紙版画や立体、水彩や油絵などさまざまな新しい手法や表現に挑戦されていますね。作品集では、そうした様々な作品を見ることができます。

その時に考えていることを元にして、それを表現したり形にできるのが展示だと思っているので、いろいろな手法に挑戦したり、自分の好きなことをやっています。以前には、自然の中から生まれたもので土に還るものを使って立体の作品を作ったり、岩絵具を使ったドローイングを制作したりしました。

 

 

―近年では、油絵にも取り組んでいらっしゃいますね。

私は4年前から鳥取で暮らしているのですが、油絵を描き始めたのはその頃からです。ここでは都会と比べて外部からの刺激は少ない分、自然と、自分の中を掘り下げていったり、絵と向き合うことにじっくり時間をかけられるようになりました。

油絵は、時間がかかります。特に私は薄く絵具を重ねるのが好きで、乾かないと次のひと塗ができないので、1枚仕上げるのに何日もかかったり、ずっと仕上がらないで1枚の絵を描き続けたりすることもあります。

大学の頃取り組んでいた彫刻も、完成までの道のりがすごく長くて、修行みたいだなと感じることもありました。一方イラストレーションは、頭と手が直結する感じで、そのスピード感が楽しかったんですけど、段々そこに疑問が生まれてきて。考えずに描いているといろんなものを置き去りにしてしまうんじゃないか、という感覚がずっとあったんです。

油絵は、物理的にすぐに描けなかったり、手が思考に追いつかないのですが、今はその不便さが面白いと思っています。長い時間をかけて絵を描くということと、油絵という時間のかかる技法が、相性がいいのかな。考えながら描くことになって、思考を深めて描くことができるんですね。なんか、行ったり来たりしていますね。

 

 

―絵に、思考の時間が含まれているということですよね。もしかしたら描いているうちに、考えは変わっていくかもしれないけど、その過程も全部絵に含まれているという。そうすると、絵を描く前に、出来上がりはあまり考えていないのですか?

もちろん、大体こういうものを描こうっていうのはあるんですけど…。ちょっと変かもしれないんですけど、油絵をずっと描き続けていると、自分がふわって真っ白になる瞬間があって。気づいたら、あ、こういう顔になっていた…みたいな。そういう、自分が、自分を超えて描いてるみたいな瞬間があるんですよね。

 

 

 

―無意識が入る感覚ですかね。確かに西さんの近年の油絵には、絵のうえに描かれているもの以外のもの、時間や空気なども描かれている気がします。詩情性がより強く感じられるようになったと思います。これまでに、夢中になった人とか影響をうけた作家はいますか?

沢山の作品や作家に影響を受けています。特に、彫刻家のマリノ・マリーニや、中学生の時に見たベン・シャーンの油絵とか。あと、東京の美術館で有元利夫の作品をはじめて間近に見たときには、大きな衝撃を受けたのをおぼえています。私は、実家がお寺ということもあり、物心ついたころから、手を合わせたり祈ったりということが日常の中にありました。有元さんの作品は、その原体験を思い起こさせてくれるんですよね。そこに強く惹かれるのかなと思っています。

そうそう、今思えば…ということがあって、先日、大学時代の恩師である彫刻家の石谷孝二さんの展覧会に行ったんですけど、割と今、私が描いている絵との共通点を感じて、自分では全く意識していなかったのですが潜在的に先生の影響を受けていたのかな、と思って驚きました。

他にも、「ムーミン谷」シリーズで知られるトーヴェ・ヤンソンや、『ちいさいおうち』などの絵本作家、バージニア・リー・バートンは、作品はもちろんのこと、女性の作家としての生き方の面でも影響を受けています。例えばバートンは、戦争をくぐりぬけ、二人の子どもを育てて、自然豊かな地で、暮らすことと制作のどちらにも力を注ぎました。母親であり女性であり作家である、すべてを貫いた生き方に惹かれます。

 

―生活と制作が地続きであるということにおいては、西さんの今の制作の環境とも近いところがありますね。

そうですね。私が鳥取に引っ越そうと思ったきっかけがあって、伊豆在住の陶芸家、渡辺隆之さんのアトリエに遊びに行ったとき、暮らしと作ることが自然に結びついている姿を見て、すごくいいなって思ったんです。私も実践をしてみたいと思いました。

京都にいた頃は、夜は呑みに行って、ごはん食べて帰ってきて、ちょっと寝て、深夜にまた起きて朝まで仕事して、ていうぐちゃぐちゃの生活をしていたんですよ。そのなかで、暮らしをテーマにした絵を描いているのが、嘘をついているように感じていて…それもあって、絵を描くということと、暮らすということに向き合いたいと思いました。

 

 

―西さんは、自分に正直に生きているなと感じました。そのためには、環境を変えることも厭わない。その正直さが絵にも表れていると思います。

いえ、葛藤だらけです…。自分の中にある違和感は、見てみぬふりもしようと思えばできるんですけど、それをやってると絵が嘘になってしまうというか。

例えば、切り絵の手法で絵を描いていると、たくさんのゴミが出るんですよね。アクリル絵具を塗ったあとの紙片は、紙だけど燃やせなくなってしまう。絵は出来ているけど、同時にたくさんのゴミをつくってしまっていて、描くたびに罪悪感を感じて、それが嫌だなあと思たり。もちろん、油絵は油絵で有害性があるものもあるしどうなのかな、とも思います。答えはでないのですが、なるべく、自分の納得のいく方法を探したいと試行錯誤しています。

こうやって話してると、全部、失敗から始まってるんだなと思います。どこかで立ち止まって、あ、これ以上進めなくなった、ってなって方向転換をしてきたんだな、と。これまで夢中でやってきたんですが、昨年は、ずっと毎年やってきた個展をしなかったり、今すこしずつスピードを緩めるようにしています。自分にしかできないこと、自分が死ぬまでにこれができたって思えるようなものを残りの人生でじっくり取り組んでいきたいなと思っています。

 

―3月のバブーシュカとON READINGでの展覧会に向けて、今思っていることなどありましたらお聞かせ下さい。

先にも触れたように、実家がお寺で本堂に仏像があって、毎日それを眺めて手を合わせて祈るという暮らしを幼いころからしてきました。今、こうして絵を描いていることも、突き詰めていくと、祈りにつながる気がしています。それは、宗教というよりも、ごく普通の生活の中で、今日も一日楽しく過ごせますようにとか、ささやかなお願いみたいなもので、そうした小さな祈りを絵にこめて描いていきたいと思っています。

< 西淑 作品集 | Shuku Nishi WORKS (ELVIS PRESS刊) >
イベント情報

2020年3月4日(水)~ 3月23日(月)
西淑 個展『ほしの軌跡』
at babooshka CURRY & CAFE | ON READING
会場:ON READING名古屋市千種区東山通5ー19 カメダビル2A)
営業時間: 12 : 00 ~ 20 : 00
定休日: 火曜日
問:052-789-0855
http://onreading.jp/

会場:babooshka CURRY & CAFE(名古屋市千種区鹿子町2丁目3−3)
営業時間:11 : 30 ~ 19 : 00 (L.O. 18 : 00)
定休日:火・水曜日(但し個展初日は営業)
問:052-782-1185
instagram: babooshka329
※要1オーダー

西 淑(にししゅく)
福岡県生まれ。雑誌、広告、パッケージ、CDジャケット、書籍の装丁などのイラストレーションを手がける。京都、鳥取を拠点に活動。
https://nishishuku.net/ 

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