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WHAT ABOUT YOU? #36 / 土屋未久

Interview by YOSHITAKA KURODA(ON READING)

 

東山公園のbookshop&gallery ON READINGでは、定期的に様々なアーティスト、クリエイターが展示を開催しています。

このコーナーでは、そんな彼らをインタビュー。今回は、名古屋を拠点に、全国で精力的に個展を開催し、じわじわとファンを増やしている注目の作家、土屋未久さん。イラストレーターとしても活動中の彼女に、これまでのこと、これからのことをインタビューしました。

 


 

 

 

―土屋さんはどのように美術の道に進んだのでしょうか。

小さいころから絵はずっと好きでした。集団行動がとにかく苦手で、ドッジボールとか鬼ごっことかほんとに好きじゃなかったです。ひとりで絵を描いていました。中学高校は、ハンドボールを6年間やってました。中学は全国大会にも出場するくらいの強豪校で、お正月しか休みがなかったですが、勝つという一点のみに向かって練習してましたね。その頃は部活に夢中で、絵も描いてませんでした。高校に進学するときも、美術の学校に行くか迷ったんですが、当時の私はハンドボールのことしか考えてなかったので、ハンドボールができる高校に行って。でも高校も楽しくなくてやっぱり美術の高校に行ってればよかったな、と思ってたんですよね。なので、大学では美術を学ぼうと思っていました。ただ、なんとなく自分は画家にはなれないんじゃないかな、手に職をつけなきゃと思っていました。その頃、有松絞にすごく惹かれて、テキスタイルデザインを勉強したくて、京都精華大学芸術学部テキスタイル専攻に入学しました。

大学では伝統工芸がメインで、技術をしっかり学ぶ感じで楽しいんですけど、絵はほとんど描かないんです。職人になる人向けというか。染めや織りは、沢山の工程を踏んで作品を作っていくので、その工程を踏んでいる間に、次のことをやりたくなってしまって。これは向いてないなと結構早い段階で気づいたので、大学では伝統工芸の勉強しながら、家ではずっと絵を描いているような日々でした。
もっと絵を描ける場所に行きたいと思って、3年生の4月から版画専攻に転向しました。でも、そもそも大学があんまり好きじゃなくて(笑)ここから抜け出したい!と、3年生の夏から半年間オランダに留学しました。実際、版画も1年半ほどしか行ってないので、テキスタイルも版画もやんわりとしか勉強してないという、やんわりとした4年間でした。(笑)

 

―留学先では何を勉強していたんですか?

留学先はユトレヒト芸術大学のファインアートコースで、授業というより、先生と1対1で話をしながらそれぞれ自分で制作を進めていくというスタイルでした。みんな自分のアトリエがあって、制作の合間に共同のキッチンに集まって話したりとか。日本の大学では、教室で集まって授業を受けて、授業が終わったらばーっと帰っちゃう人が多かったけど、ユトレヒトではみんなずっと制作をしていて、本気で絵を描いたり、ものを作っているひとたちにやっと出会えた!というのが嬉しかったです。中には子どもがいる人や、退職してから入学した人とか、いろんな年代の人がいましたね。現代アートをしている人が多かったのも刺激を受けました。私の作品集『Doei』『gezellig』を一緒につくったリソスタジオのTOSAMともそこで出会いました。

 

 

―卒業した後は?

真っ当な人生を送らなければ!という謎の脅迫観念があったんですよね。それで、とにかくどこか就職しなきゃ、と思って。会社では、靴下の絵柄の図面をかく仕事をしていました。でもなんだか休日の土日のために働いているみたいになってしまって。このままじゃだめだと思って、退職して実家のある名古屋に戻ってきました。ずっと、絵を描くのは天才の人しかできないし、自分は違うんだろうなと思っていたので、ちゃんと絵と向き合うことから逃げていたんです。でもいよいよ向き合わなきゃ、と思ったんです。まだ3年くらい前の話です。

 

―土屋さんに最初に絵を見せてもらったのもそれぐらいだったかな?当時から、すでに鬼気迫るものがあったのを覚えています。

そうですね、名古屋に戻ってきて割とすぐでしたね。できることが絵を描くことしかない。でもどうしていいのかわからなくて。ひたすら描いて、いろんな人に見てもらっての繰り返しです。お陰様で声をかけていただけることも多くなって、さまざまな場所で展示をさせていただいています。

 

―ここ2年くらいはすごい数の展示をやってますね。しかも、毎回新しい作品を描いている。それでは今回の展示『relationship』について聞かせてください。今回の作品は、複数のひとが手をつないだり、触れ合ったりしていますね。

普段、展示の時は先にテーマやキーワードを決めてから描いていることが多いんですけど、今回はコロナの自粛期間中、展示の予定も延期になったり、仕事もなくなったり、ぽかっと時間ができて、ただ好きな絵を好きなように描いていたんです。そうやって描き始めて溜まってきたものを、これって何を描いてるんだろう?と考えたのが「relationship」というタイトルになっています。やっぱり、人に会うことが難しい時期なので、会いたい、触れたいという気持ちがあります。描いていて、私は人間を描くのが好きかもしれないと思いました。現実世界では人間はそんなに好きじゃないから(笑)、絵の中ではいい関係でいたいというか。理想郷、というか、もっと人と人とがいい関係でいられたらいいのにな、という願いもこめています。ゆらゆら揺れながら、触れ合って、つながって、溶け合っていられたらいいのにな、と。そういう、言葉にできない感情だったり、人と人とのつながりを絵にしたいです。

 

 

―土屋さんも、今年はコロナ禍で春の展示が延期したり大変でしたね。どんな日々でしたか?

私にとっては、いっぱい絵が描けてよい時間を過ごせたなと思います。これまで、ずっと振り返ることもなく進んできたので、一回立ち止まることができて。私は今、何を描いてるんだろう?と、もう一回自分の絵と向き合うことができました。やっぱり無意識のうちに、自分の型ができてしまって、こなせるようになってしまうとつまらない絵になってしまうんです。来年はもっと、ゆっくり絵を描きたいと思っています。

 

―今回の特徴的なモチーフである、色の線の束はどのように生まれたのでしょうか。

もともと植物を模様のように描いたりしていて、そこから派生していきました。
それまでも、絵の中でコラージュ的な表現は描いていたんですが、実際に切って貼ってを制作の中で取り入れるようになって、やっぱり自分で描くのとは違う偶然性があって、絵にも変化がありました。陶や木を使ったり、コラージュだったり、ひたすら手を動かしてみて、そこから考えることが絵にも影響を与えてくれています。

 

 

―前回(2018)の展示からも、様々な変化が見受けられます。例えば、モチーフの抽象度が増したと思いますし、土屋さんの特徴でもある彩度の低い色あいも、より定まってきたように感じます。

そうですね、数年前は、絵を仕事にしなきゃ!と思っていいたので、人に伝わりやすい絵を描かなければと思っていたんです。でも段々とその気持ちが薄れていって、できることがあったらしよう、と思えるようになってきました。今は、本当に描きたいものだけしか描いていません。色については、もともと蛍光灯のあかりが苦手で、家の中だと電気をつけないので、彩度の低い色を見ていると自分が落ち着きます。あと、錆びているものや色褪せたものとかが好きで、そういうものをずっと観察している結果、自然とこういう色合いになりました。淡くてやさしい絵ですね、って言っていただくことも多いんですけど、そういう世界が描きたいわけでもなくて。もっと人の内面、感性を写し出したような、ずしっと重みのあるものを、自分の色と画面で表現したいと思っています。

 

―今、聞いていて思ったんですが、この彩度の低い色調は、時間を内包しているかもしれないと思いました。錆びたり、朽ちたり、色あせたりというのも、時間の経過に伴って現れる色あいで、そういう時間が絵の中に感じられるのかもしれません。

なんか私、しゃべり方が遅くて、友達と話してたりしてても時間軸がずれてるって言われたりします。自分ではすごくスピーディーに話しているつもりなのに。

 

 

―(笑)ここ最近の巷の人気のイラストレーションなどを観ていると、言ってみれば、すごく“速い”絵だと思うんです。インターネットのスピーディーさとか、ぱっと目に飛び込んでくるインパクトとか、どんどんシンプルで強いものになっていっている印象です。一方で土屋さんの絵は、ゆっくり迫って来る感じというか。一瞬でわかるというわけじゃないから、見るのに時間がかかる。その“遅さ”が土屋さんの作品なのかもって思いました。あと時間の話でいくと、土屋さんの作品は時代や国がわからない。特に今回は、ひとの動きも固いし表情も乏しくて、古代の壁画のようなプリミティヴさを感じます。

ああ、私、原始人に憧れがあって。つらくなったら原始人の生活を想像して、自分が全裸で走ってるの想像すると安心するんです。

 

―いつかそうなればいいみたいな?

そう、そこに還ればいいと思ってます。私は、絵の中から時代も性別もなくしたいと思っています。年齢も国籍もなにもかもなくしたい。いつも粘土みたいなイメージで、自分でこねてつくった人たちを絵の中に配置している感じです。

 

―この先やってみたいことはありますか?

もっと、いい絵を描きたいです。そのために、今はもう一回じっくり絵を描く時間が欲しいな、と思っています。オランダは学校を卒業しても、したい人はずっと勉強していけるような環境で、滞在制作のプログラムもいろいろあるので、できたらまたオランダに行きたいです。行けるかな。。。
このあいだ、Jockum Nordström (ヨックム・ノードストリューム)とMamma Andersson(マンマ・アンダーソン)が対談をしていて、絵を描く若者たちへのメッセージとして、「みんな周りの目を気にしたり、活躍しなきゃとか、そういうことを考えるけど、描くことはそもそも闘いじゃないんだから、自分の絵を描けばいいんだ。」って言っていて、それにすごい胸が熱くなりました。その通りだ!と。どんどん描いているとそういうことを忘れちゃうんですよね。完全に人の評価から逃れることは難しいとは思いますが、この言葉を忘れないようにしたいと思っています。

 

イベント情報

2020年10月4日(日)~ 10月19日(月)
土屋未久 個展 『relationship』
会場:ON READING 名古屋市千種区東山通5-19 カメダビル2B
営業時間:12:00〜20:00
定休日:火曜日
問:052-789-0855
http://onreading.jp

土屋未久| Miku Tsuchiya
1991年愛知県名古屋市生まれ。
2013年ユトレヒト 芸術大学fineartコース交換留学
2015年京都精華大学芸術学部版画コース卒業
2016年イラストレーション第194回いとう瞳審査入賞
作品集に『gezellig』(TOSAM, Netherlands/2019)、『Doei』(TOSAM, Netherlands/2018)、『SSE 78th, the edge of humor』(SSE-PROJECT, Korea/2017)。書籍装画や挿絵提供など、イラストレーターとしても活躍中。
https://www.instagram.com/mi9neru/

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