Interview by KYOKO KURODA(ON READING)
東山公園のbookshop&gallery ON READINGでは、定期的に様々なアーティスト、クリエイターが展示を開催しています。
このコーナーでは、そんな彼らをインタビュー。 今回は、素朴でプリミティブな木彫作品、木版画が人気の作家、菅祐子さんにお話を伺いました。
―子どもの頃はどんな子どもだったんですか?
私は京都生まれで、三姉妹の末っ子でした。集団行動が苦手で、どこかいつも俯瞰で見てた気がします。何考えてるかよくわからない子って感じだった かもしれません。教育熱心な親で、小学校から受験勉強をしていたりプレッシャーがあったんですが、中学校受験に失敗して、それからは楽になりました (笑)。絵を描くのは小さいころから好きで、姉と一緒によく漫画を描いていました。
実家の近所に、京都の恵文社一乗寺店があって、中学生のときに初めて入ってみたんです。映画のポスターが素敵でこの映画を見てみようとかそうやって興味が色々とわいてきて、中高生の頃はよく通っていましたね。映画や音楽、すべてのカルチャーの入り口のような存在でした。
―大学は多摩美術大学に行かれていますね。どのように進路を決めたんですか?
高校生の頃は、CDジャケットとか挿絵を描くイラストレーターになりたいと思っていました。グラフィックデザイン学科を志望していたんですが落ちて、滑り止めで受験した版画科に入学しました。
今思うと落ちてよかったのかなと思いますね。そこから版画にのめり込んで。大学ではずっとリトグラフを勉強していましたが、大学4年生の頃、木版に手を出して、木目とか、彫り跡につまるインクとか、そういう意図しないもの が表現に現れてくるのが面白いと感じて夢中になりました。そのまま大学院に進んで、卒業時に版画協会の奨励賞もいただいて、卒業後3~4年は働きながら、 版画協会に在籍して制作を続けていたんですが、モチベーションを保つことが出来なくなって。しばらく制作から離れていた時期もありました。
―ずっと版画をやってこられたんですね。私たちが菅さんを知ったのも今回、木版画と共に展示していただいている木製のオブジェ作品だったのですが、どういったきっかけで木彫を始めたのでしょう?
モチベーションもあがらずバイトしながら日々を消費していたときに、ふと東京のプレイマウンテンでやっていた「STONE」というタイトルの展示を見に行ったんです。石が好きだったしこの展示なんだろう?って気になって。そのお店で扱っていたものたちに小さな衝撃を覚えました。インテリアショップのオブジェだけど魅力があって欲しくなる、この感覚に興味を覚えてそこから色々とものを見始めました。そうしているうちに私は自分の作品を部屋にほしいかな?と思い始めたんです。部屋にどういうものを置くかとか、そういう“もの”をみる目が、作品にも影響を与えていきました。
ちょうどそんな頃メキシコの古い人形や民芸品に出会ったんです。最初に“Tree of life(生命の樹)”を見たときの衝撃は強かったですね。色や形、その生命力にものすごく心引かれてしまってアートだとか民芸品だとかそんな考えをこえてしまったんです。アートはこういうものだという考えを捨てて私も“もの”を作ってみようかなと。
2016年に、ずっとお世話になって いたかわかみ画廊でのグループ展で、普段と違うこともやってみたら、と言ってもらえて。そこで初めて木版画と一緒に、木彫作品を発表しました。それが、 SNSを通じて、多くの方に作品を知っていただけるきっかけになりました。
―木彫作品を作り出したことが、菅さんにとっても大きな転機になったんですね。
そうですね。それまでの活動の外の世界に触れたことが大きかったです。
私は派遣で働きながら、CEMENTというセレクトショップでもアルバイトをしていたんですが、そこでの経験もとても面白いものでした。扱っていたデザイナーさんが世の中に認められていったり、こういうことがあり得るんだな、人生なんでもありだなと思えて。まわりに好きなことでご飯を食べている人たちが多かったのは有り難かったです。自分のことを決めつけたり、こんなんで食べていけるわけがないっていう感覚は、捨てることができました。最終的には会社に通う生活を2016年にやめました。ちょうど木彫始めたタイミングと同じくらいかな、見切り発車でしたが不思議とそこからいろんなことが回りだしました。
会社をやめた後、北欧のアンティーク屋さん主催のマーケットイベントに参加したんですが、思っていた以上に反響があって。その場で欲しい!と 言われて作品を販売する、ということが、今までなかった体験で、こんな世界があるんだ!ということにおどろきました。いい・悪いの判断基準は欲しいかどうか、というシンプルな感覚で、コンセプトとか手法とか素材とか…そういうものを必要としない、“もの”の強さを感じました。
―どこか自分で、生き方や表現の幅を決めてしまっている部分があったのかもしれないですね。自分は木版画家だから、木版でそれを表現しなきゃとか。ナンセンスな質問になってしまいますが、菅さんの中では、木版がやっぱりメインという感覚があるんですか?
どちらがメインとかはまったく思ってないです。木版は、ただただ楽しい。毎回が実験で、何ができるのかがめくるまで全くわからない。エディション も入れていますが、感覚としてはモノタイプに近いです。いつも、あまり出来上がりを想像せずに作っていて、刷ってめくる瞬間が一番ワクワクします。一般的に版画は、技法に助けられる部分が多く、どの技法を選ぶかということが、自分の作品の特徴になりやすい。でも私は、毎回好きなことをやりたいし、興味を 持ったらやってみたい。バレンも最近使い始めて、面白い!と思って。今回展示しているのは、ほとんどバレンで刷ったものです。ワクワクしたくて、新しい世 界を自分の中に常にさがしている感じです。自分から何が出てくるか、自分でもわからないから、それを見てみたいんです。常に驚いていたい、というのがあります。
―そういえば、作品もみんな驚いたような顔をしていますよね(笑)
あれは驚いてるつもりはなくて(笑)。強いて言えば「無」かな。怒りとか喜びといった、わかりやすい感情を描きたくなくて、観る人によってどうとでもとれるように描いています。
―先ほどもお話に上がっていましたが、菅さんの作品からは、世界各国の土着的で素朴な芸術や民芸品からの影響を色濃く感じます。
フォークアートに触れるうちに“もの”を見る目が変わったのが大きいですね。それまでも、博物館や美術館やお店でたくさんものは見ていたはずなんだけど、新しい世界の扉が開いた感覚でした。理由はわからないけど心惹かれる、そういう物差しが自分の中でも作られていきました。木彫を作りはじめた 頃、「もし骨董市でこれを見かけたら、絶対手に取るわ~」と言われたことがあって。その感覚いいなと思ったんです。誰がどういう意図で作ったとか、いつ頃 のどこの国のものかとか、そういうことから全部自由になったところで、いいと思えるもの。自分自身が欲しいと思えるもの。そういうものを作りたいと思ってます。
―昨年はメキシコにも行ってましたよね。
メキシコに行ったのは2回目だったのですが、フォークアートを知る以前の旅と今回は見るものが全く違いました。メキシコはスペインからはいってきたキリスト教や西洋のものと土着的な文化が混ざり合っていたり、死と生が隣り合わせで、死 者の日など、なんでもお祭りにしちゃう感覚がいいなあと思います。オアハカにいたときもちょうど結婚式のパレードに遭遇したんです。楽隊が演奏して大きな張子の人形に子どもたちが入ってくるくる回って、生きていることを最大限に楽しむ感覚があのフォークアートを生み出したんだなぁと思いましたね。
―ほかに、好きな画家とか、影響を受けた人などはいますか?
具体的に影響を受けたアーティストは、ムンクとか、KIKI SMITH、 NANCY SPERO、ピナ・バウシュなどかな。こうやって言っていくと女性アーティストが多いですね。彼女たちの作品は、社会問題や戦争、ジェンダー、個人的な痛みなどをテーマにしていなが ら、アウトプットが軽やかで、甘くないのにロマンチックで、ユーモアがあって笑えるんです。最初、笑えるっていうのがいいですね。作品には、重さやネガ ティヴな背景があったとしても、というか、あるからこそ、笑いという反応が起きるのって救いになると思います。
―笑うっていう反応は不思議ですよね。無防備になってしまうというか。菅さんの作品もくすって笑えますもんね。
そういってもらえるとうれしいです。木彫作品を作りだす前に2年間くらい好きな人がいまして、その恋愛がとてもつらいものだったんですね。ぽっかり自分の中に大きな傷が出来て、その時に自分には何にもないと、自己否定に陥ってしまったんです。さっきの動機の話に戻るんですが人形を彫り始めたのはそこから抜け出すためでもありました。アーティストとして作品をつくることに意識が向かっていったんですよね。ただひたすら人形を彫って、気が付いたら膨大な量になっていました。木を彫るという行為を無心でやっていると、私自身が抱えているネガティヴな感情を浄化してくれる気がしました。作品を彫るという行為が、祈りの手段にもなったというか。
私はひとの形をした作品を作ることが多いのですが、信仰の対象である神様が人の形をしている理由は、自分が安心したいからだ、という話を聞いたこと があって。私も、自分の分身というか、ともだちのような存在が作りたかったのかもしれない。人はひとの形に親近感を覚えるんだな、と思ったんです。自分の分身のような作品を観てくれた方々が、笑ったり癒されると言ってくださったりするのは本当にうれしいことです。
―今回の展示について教えてください。
タイトルの「Forbidden Fruit」は、“禁断の果実”という意味です。創世記のアダムとイヴから連想されるようなモチーフもありますが、それに限らず、人でもモノでも、理由が わからないけど、どうしようもなく心惹かれることってあると思います。それが毒を持っていたり、行ってはいけない場所だったりしても。そういう引力の強い 存在、それを知る前と後では、まったく世界が変わってしまうようなものを、自分自身でも探したいし、そういう作品を作れたらと思っています。
―今後やってみたいことはありますか?
たくさんあります。アニメーションや人形劇、書籍の装画などもやってみたいです。どんどん興味のあることに挑戦して、変わり続けていきたいと思っています。すこし前から土も作品に取り入れているのですが、陶芸の作品も発表したくて、少しずつ挑戦しています。
2019年3月21日(木祝)~4月7日(日)
Yuko Kan Exhibition “Forbidden Fruit”
会場:ON READING 名古屋市千種区東山通5-19 カメダビル2A
営業時間:12:00~20:00
定休日:火曜日
問:052-789-0855
http://onreading.jp/
菅祐子 Yuko Kan
1981京都生まれ。多摩美術大学大学院美術研究科版画専攻修了。木版画の様々な技法を用いて独自の世界を表現する。現在個展、グループ展などを中心に活動中。2017年より木彫刻の制作を始め、表現の幅を広げている。
http://yukokan.wixsite.com/yukokan
1
2
3
4
5
6
7
8
9