Interview by KYOKO KURODA(ON READING)
東山公園のbookshop&gallery ON READINGでは、定期的に様々なアーティスト、クリエイターが展示を開催しています。
このコーナーでは、そんな彼らをインタビュー。今回は、最新作品集『THE COLLECTIONS』(ELVIS PRESS)の刊行に合わせた展覧会を開催中のイラストレーター、勝山八千代さんにインタビューしました。
―イラストレーターや絵描きになろうと思ったきっかけは何かあったんでしょうか?
絵は子どもの頃から好きだったんですけど、絵を職業にしようと思ったことはありませんでした。絵の学校も行ってなくて、高校も卒業した後すぐ就職しました。絵は趣味で描いていました。
―地元は静岡でしたよね。最初の頃はどうやって活動をしていたんですか。
静岡市です。20代前半の頃、地元の飲食店をやっている人やお店をしている人たちが、絵を描いてるって言ったら面白がって仲間にいれてくれたんです。当時は作風もブレブレで、今思うと恥ずかしいくらいなんですが、自分よりいくつか上の先輩たちが見てくれて、いろいろ教えてくれたり、声をかけてくれてイベントに出たり、展示をしたり。そうやって育ててもらいました。
―ON READINGにも、初期の頃から展示のDM送ってくれていたのを覚えてます。
そうですね。たしかanalogさんでの展覧会の。2014年くらいだったと思います。IFNi Coffeeさんの絵を描かせてもらったのが2012年、2013年くらいで。その頃からカフェのスペースを借りて展示をしたり。analogさんやCO.NNECT.さん、いろんな場所で展示をさせていただいたり、デザイナーさんやお店の人を紹介してくれたり。それが今に繋がっています。
―いいお店ばっかりですもんね~。ローカルカルチャーが今の八千代さんを作ってくれたんですね。まずは、そういう場にいた、っていうことですよね。なおかつ、八千代さんがそういう人たちが面白がってくれるような人だったと。
本当に運がよかったと思います。それにみんな本当に優しかったですね。ちゃんとして生きようって思いますね。当時の私は、今振り返るとひっぱたきたいくらいバカだったと思うんですけど。あたたかかったです…。
―当時は絵を仕事にするつもりは無かったとのことですが、どういうモチベーションで描いていたんですか?描く行為自体が楽しかったとか。
そうですね、インターネットやSNSも身近になっていろんな人の絵を見れるようになったのが刺激になったり。あとは映画の「BEAUTIFUL LOSERS」ですかね、やっぱり。それまで、学校に行ったりしなきゃ絵で食べていけないと思ってたんで。学校出てようやくプロになるっていうか。あの映画には、もっと絵は自由に描いていいみたいなメッセージがあって、それを見て、「私も描けるんじゃないか」って思えたんですよね。
あとは同年代の人たち…そのころ、STOMACHACHE.さんもすごく大好きで、いいな~!と思ってみてたし、展示とかしてみたいって思ったり。当時、定職についていない期間が長くて、自分は何者でもないって思ってたんです。でも絵を描いてると、自己紹介するときに「絵を描いている」って言える。肩書みたいのがあるとコミュニケーションがぐっと取りやすくなるんですよね。
―興味を持ってもらえるもんね。
そうなんです。人の輪に入るのが楽になりました。今でも、絵がなくなったら私、自己紹介できないとか思っちゃう。そうやってつながって、いろんなお店でちょこちょこ展示させてもらったりイベントに誘ってもらったり。見てもらえる機会がもらえて嬉しかったです。周りに絵を描いてる友達もいなかったですし、なんのつながりもなかったので。
―そっか、ほんとの独学なんですね。
あ、一瞬…ちゃんと描けるようになんなきゃまずいかもと思って、デッサン教室に通おうと思ったのですが、石膏像一体も描き切れず辞めてしまいました。目と耳のパーツのところまで。それをカウントしなくていいなら、絵やイラストの描き方とかは習ったことはないと思います。
―(笑)まあ、結局大学とか行っても、具体的な描き方とか教えてもらうわけじゃないもんね。結局は、これが自分の絵だ、って思える絵は誰も教えてくれないっていう。上京したのはいつでしたっけ。
2018年の7月です。仕事を辞めてフリーランスになった年で。31歳でした。いろんな人に、上京してみるのもいいと思うって言われたのもあったり。あとコケるなら、このタイミングで盛大にコケて帰ってきたらいいかなっていうのもあって。ちょっとでも手ごたえなかったらすぐ帰ろうと思ってたんですが、なんやかんやで4年になります。東京は展示が多いので、気軽に観に行けて、いろんなものを直接体験できるのはとても勉強になります。
―今の作風になってきたのはいつくらいですか?
IFNiさんのお仕事をいただいた時に、焙煎機を描くことになったんですが、どうやって描いたらいいかわからなくて。それで、黒で塗りつぶして、周りの線を白で描くと、迫力もでるし色も塗らなくていいかも、と思って。そこからこの描き方が始まりました。その頃、HIMAAさんとか、モノクロのイラストレーションをよく見ていて、その影響もあったと思います。
―苦肉の策だったんですね。
そうなんです。技術がないなりに、なんとか頑張って絞りだす、っていうのも喜んでやってました。プレッシャーがなかったんでしょうね。
―こうやったら描けるかなとか、描けないっていう苦しみよりも試してみる楽しさの方が勝っていたんですね。
今もそうですけど、絵を描くのが楽しかったですね。今は前よりも、絵がちょっとうまくなって、もっといろいろ描けるようになった気がします。当社比ですけど(笑)。
―当社比(笑)。絵もちょっとずつ変わってきてるもんね。「BEAUTIFUL LOSERS」やそこに登場するアーティストのことは、昔から好きだったんですか?
それも、静岡の先輩から教えてもらったんですよ。
―おお!めちゃ英才教育ですね!(笑)
教えてもらわなかったら一生知らなかったな、と思うことをたくさん教えてもらいました。クリス・ヨハンソンとかマーガレット・キルガレンとか、何度も画集を見せてもらいました。だから私、持ってないんですよ。買っておけばよかったと後悔してます。あとは、フィリップ・ワイズベッカーとか。
―10代の頃とかはどういうものが好きだったんですか?
高校生の頃は写真部だったこともあって、10代のころは写真家の方が好きで。植田正治が好きでしたね。写真ってもうちょっとドラマチックというか、そういうイメージだったんですけど、それとはまた違う独特の”つくられた世界”という感じがかっこよかったですね。あとは、100%ORANGEさん。高校生の頃のものすごく狭い世界の中で見つけたのがこの二つだったんですよね。この前、展示の時にお客さんに「100%ORANGEさんお好きなんですか?」と聞かれてびっくりしました。自分では、そんなに共通点を感じていない事でも絵から伝わる事もあるんだなと思いました。
―今は、ものを描いたりしていると思うんですけどいつ頃から?
それは、フィリップ・ワイズベッカーの影響が大きいですね。あとは、芹沢銈介。
―静岡ですもんね!地元の先輩だ!
地元の大先輩です!絵を真剣に描き始めて改めて、芹沢銈介の凄さに気づいたり。民藝好きの友人と記念館に何度か行きました。いいな~と思って、そこからものへの興味がぐっと湧いたというのもあります。
―同じモチーフ、たとえばハサミやブラシ、トンカチなどを繰り返し描いていますよね。モチーフにしている”もの”自体が好きなんでしょうか。それとも”ものを描く”のが好き?
両方ですかね。ホームセンターとか行って、なんでもないものを見るのが好きで。量産品とかコピーとか、工業製品とか、そういう一見味気ないものが好きなんですよね。ハサミもいっぱいあるけど、微妙に違うじゃないですか。ハサミだけでこんなに種類あるんかいっていう。そういう微妙な違いを描いてるのが楽しいんです。これ、なんなんでしょうね。同じようなものを描くの、好きなんですよね。一回描いちゃうと描けるし。シンプルなものだとすごく描きやすいし、主張の強いものはパワーがあって描くと疲れます。あとは、物欲を発散している部分もあるんですよ。絵に描くと、所有したような気になれるんです。かわいいな、ほしいなと思って、でも手に入らないから、絵にかくとちょっと落ち着くんです。
―なるほど。八千代さんの絵の特徴として、それそのものを、本物そっくりに描こうという描き方はしていないですよね。”もの”に宿っている魅力を描こうとしている。
そのものの、一番かわいいところを描こうと思ってますね。いいと思うところはちゃんと描くけど、そうでもないところは描かないとか。例えば、ものの背景みたいなものにはあんまり興味がなくて。そういうの疲れちゃうんでね。もうちょっと、あんまりみんなが気にしないようなもの。そういう、ものの控え目な態度が好きだったりはしますね。
―今回、ELVIS PRESSから出版した作品集『THE COLLECTIONS』では、勝山さんがこれまで描きためてきた作品を、架空の16人のコレクション紹介というコンセプトで再編集しています。作品集を作っているときに、わたしたちはそれぞれのコレクターの人となりをもう少し入れたいと提案しました。その時、八千代さんは「いらない」と。なるべく匿名性を大事にしたいとおっしゃったのが印象的でした。
そうですね、生命力の強いものが好きじゃないんですよね。人間もあまり表情を豊かにしたり笑わせたりはあまり好きじゃなくて。静かで、元気のなさそうなものを選んで描いているような気がします。人でもものでも、ストーリーがあると邪魔っていうか。距離が近すぎると恥ずかしくなってきちゃうんですよね。なんて言えばいいのかな。難しいな。
―いや、でも納得です。これまで八千代さんの作品を見てきて受けていた印象から、筋が通っているなと感じました。一般的には現代は、”もの”に込められたストーリーや、”もの”に宿る生命力を重視する時代だと思うので。でも一方で、八千代さんが描いた作品には、実物よりも何かしらの力が宿っているような気がしちゃう。アノニマスなものをアノニマスに描いているかというとそうではなくて、なんかどっか「かわいいな」と思って描いているその感じが出ているっていう。それそのものは、何の変哲もない大量生産の百均のはさみだったんだけど、八千代さんが描くことで”あるひとつのハサミ”になっちゃう。
なんか、かわいいって思って描いてることは間違いないんですよね、大量生産されているもののなかで一個だけ、かわいいものを見つけるっていう。かわいいハンマーとか。
―道具だけど、もう用途からは離れていて愛でているっていう。八千代さんは絵に描くことで蒐集をしているんですね。八千代さん自身は、なにかコレクションしているものはあるんですか?
印刷物ですね。DMやチラシ、洋服のタグ、海外旅行に行った時のレシートとかチケット、航空会社のナプキンとか、もらった袋とか色々とってありますね。今ファイル6つ分くらい貯めてますね。これはいつかお見せしたいですね。ほぼほぼゴミなんですけど。写真より大事な思い出です。
―わ~、別で温めている企画があるので、是非見たいです~!
2022年11月3日(木)~ 11月23日(水)
YACHIYO KATSUYAMA EXHIBITION “THE COLLECTIONS”
会場:ON READING 名古屋市千種区東山通5-19 カメダビル2B
営業時間:12:00〜20:00 ※11月20日(日)のみ18時までの営業となります。
定休日:火曜日
問:052-789-0855
http://onreading.jp
YACHIYO KATSUYAMA 勝山八千代
イラストレーター
白や黒、茶色等のシンプルな色のパターンで、物や人をモチーフに描く。雑誌、書籍の挿絵の他、広告やアパレル、プロダクト製作へのイラストの提供や、各地で個展・グループ展を行っている。
http://yachiyokatsuyama.com/
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