インタビューシリーズ『カイツブリがつなぐもの』
vol.3「表の顔は違っても、奥は一本の川でつながっている」
生駒祐子(mama!milk)
interview & text: 熊谷充紘(『カイツブリの塔』企画者、ignition gallery)
こんにちは。『カイツブリの塔』を企画している熊谷充紘です。
このインタビューシリーズ『カイツブリがつなぐもの』は、『カイツブリの塔』にご出演頂く方々のバックボーン、ふるさとへの想いを、読者の方々にバトンのようにつなげて、私たちが住む土地とあらためて出会うヒントになればと始めました。
vol.3のゲストはmama!milkのアコーディオン奏者・生駒祐子さんです。僕はこれまで東京、名古屋、京都で1回ずつ、mama!milkの演奏会を企画させて頂きました。ひとたびアコーディオンとコントラバスが鳴らされるとそこはもういつもの場所から非日常の世界へ変わる。3回の演奏会で同じ曲も演奏されているのですが、聴いている時はそれに気づかない、いつも新鮮な響き方をする。生の演奏会の醍醐味を存分に堪能できるmama!milkの音楽の秘密に迫れたらと、京都にある創業100年以上の洋館のカフェで、アコーディオン奏者・生駒祐子さんにお話をうかがいました。
プロフィール:生駒祐子
清水恒輔(コントラバス)とのデュオ「mama!milk」のアコーディオン奏者。
1997年より世界各地の劇場、客船、廃墟、広場等で演奏を重ねながら、数々のアルバム作品や、舞台、映画、美術作品のサウンドトラックを発表。その異国情緒溢れる音楽は「旅へいざなう音楽」あるいは「Japanese New Exotica」とも評されている。
近年はW.シェイクスピア作、白井晃演出「テンペスト」の舞台音楽をGutevolk、トウヤマタケオを迎えて手がける他、アルバム「Duologue(デュオローグ)」を発表。mama!milkの代表曲より珠玉の21曲を新たに演奏、録音された本作が、彼らの新境地を見せている。
2015年は、フリッツ・ラング監督「メトロポリス」伴奏付上映会の音楽を阿部海太郎とともに手がける他、初の7インチ、アナログシングル「Vanilla(ヴァニラ)」を発表、各地での演奏会が予定されている。
http://www.mamamilk.net
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—3月21日の演奏会「水の環」、あらためてよろしくお願いします。21日は書家・華雪さんのワークショップも開催するのですが、先日、華雪さんに「カイツブリがつなぐもの」のインタビューさせて頂いた時に、生駒さんとは昔からのお知り合いだとうかがいました。
生駒:そうなんです。華雪さんが東京に引っ越される前に出会っているので、長いおつきあいになりますね。一緒に修学院離宮を見にいったことも楽しい思い出です。今回、同じ日に名古屋テレビ塔という同じ場所で時を過ごせることを、とても楽しみにしています。華雪さんのワークショップ「ことばをはこぶ<鳥>」はとても興味深い内容なので参加したいところです。いま、みなさんが鳥という字を書かれているのだなぁと思いを馳せながら、演奏にむけて心を整えようと思っています。
—心を整える時間というのは、どの演奏会の前にもそういう時間があるのでしょか。具体的にはどういう作業になりますか?
生駒:演奏させていただく場を見つめる時間と言い換えられるかもしれません。たとえばこのカフェでいえば、あの大きくて美しいカーテンは職人さんが丹誠を込めて織ったのだろうなぁとか、このテーブルが使いこまれて輝いているのは、カフェの方がずっと磨き続けてこられたからだろうなぁとか、床は絨毯だから音は吸い込まれるだろうけど、建物がしっかりしているから音もやわらかく響くだろうなぁとか。そうやって会場を見つめて見えてきたことを思いながら音を鳴らしてみて、この会場にふさわしい響きかたを弾きながら探していくんです。場所と仲良くなる時間ですね。
—見つめるって、いわばしっかりと見るということですね。目が見える人にとっては見えることが当たり前なので、実は見えているだけでそれぞれをしっかり見ることはおろそかにしてしまっていることが多い。一つ一つを見つめていくと、それぞれにこめられた時間などが見えてくる。
生駒:そうなんです。見つめることって好きなんです。だから日本で一番歴史がある名古屋テレビ塔と仲良くなる時間はとても大切だし、楽しみな時間です。
—mama!milkはどの演奏会も素敵な場所でおこなわれていると思いますが、場所というのはやはりこだわられているのでしょうか。
生駒:多くの方に素敵な場所でしか演奏されないですよねとよく言って頂くのですけど、私たちはそこまでこだわっているつもりはないんです。もちろん、その場所が好きでそこの響きが好きでここで演奏させてくださいということもあるんですけど、声を掛けて頂いた場所に出かけていき演奏することがほとんどです。その場所がいい所か悪い所かというのは人それぞれだと思うんですね。たとえば廃墟で演奏するという時。ある人にとって廃墟は今まであったものがすべてなくなってあとは取り壊されるのを待つ寂しい場所になる。でもある人にとっては、これまでここが過ごしてきた時間、記憶を大切に胸にしまい込んだ上で、取り壊して新たなスタートを切るきっかけの場所になる。だとしたら、その廃墟がいい場所になるように、そこにふさわしい演奏をする。それを繰り返してきたんです。
—演奏する場所にこだわるのではなく、その場所にあった演奏をすることを大切にされているんですね。
生駒:そうですね。同じメロディーでも、会場がホールなのか、野外なのか、カフェなのかで、音の鳴らし方、響き方を変えていく。その場所で川が流れるように音が自然と流れていくように弾くことを大切にしています。
—なるほど、そこに“想い”はあまり関係ないんですね。
生駒:演奏会を依頼してくださった方の“想い”は受けとめて弾かせて頂きますが、私たち自身の“想い”というのはどんどんなくなってきていますね。活動を始めた当初は、たとえば作曲した時にとても悲しい気持ちだったら、演奏する時にも悲しい気持ちで演奏してしまうということもあったのですけれど、今は透明な心持ちで演奏するようにしています。同じ演奏会場にいてもお客さんそれぞれ気持ちのありようは違うので、ある人にとっては極上のラブソングに聴こえたり、ある人にとっては悲しみに寄り添うエレジーに聴こえたり。そういう演奏でありたいと思っています。
—演奏会場ごとにその場にふさわしい弾き方をすると、その音楽は透明な水のようになって、聴く人それぞれの想いに浸透し、彩られる。僕がこれまでmama!milkの演奏を生で聴くたびに毎回新鮮な気持ちで心が満たされる感覚があったのは、そういうことだったのですね。透明な水の流れのようなmama!milkの音楽にとって、その源泉となるような場所、本拠地は、現在お住まいの京都になるでしょうか。
生駒:そうですね。やはり京都は長年暮らしていますので、他の土地とは感覚が異なると思います。もちろん、各地方にお世話になっている方々がいますので、京都で過ごしていると、東北や九州や東京や四国とかが恋しくなってふるさとのように思えてくることもあるし、どこかへ演奏旅行に出ていると、京都が懐かしくなってくることもあります。旅先ではどうしてもストレンジャーな部分がありますが、京都は演奏の時間と暮らしの時間が地続きにあるので、やはり私には特別な街ですね。暮らしているからこそ見えることもあるし、普段のリハーサルも京都でしているし。馴染みの場所も人も多いから居心地がいいけれど、まだまだ全然知らないことだらけだなと思うことも多くて。知れば知るほど未知の部分が増えていく、とても懐が深い場所ですね。そう、わたし、京都で暮らしはじめた当初は、あまり馴染めなかったんです。なんだか壁のようなものを感じて。それでも3年、5年と過ごしていくうちに、実はとてもあたたかく迎え入れられていることに気づいて。
京都の人はあけっぴろげでない分、時間をかけて丁寧に人との関係を深めてゆく、そんな奥行きのあるところが、今では京都のとても好きな部分ですね。
—生活と演奏が地続きにある京都がmama!milkの本拠地。それでは生駒さんご自身のふるさとはどこですか?
生駒:岐阜県の多治見市です。私にとって心のなかでとても大切にしてきた風景があって、ずっと心の拠り所になっています。私にとっても、私の音楽にとっても、ふるさとと言える場所です。約2年前、熊谷さんが名古屋で演奏会を企画してくださった次の日に、高校を卒業して以来初めて、その風景を観にいったんです。そこには心のなかの景色がそのまま残っていて、本当に感動しました。
—変わらずそこで待ってくれていたような、時間を超えて受けとめてくれるような感覚ですね。高校生の頃もいまも、つながっている。差し支えなければ、どのような景色か教えて頂けますか?
生駒:私が高校生の頃によく遊びにいっていた大好きな修道院があるんです。赤い屋根の白い建物で、十字架をいだく尖塔がそびえていて、。ゆるやかな坂道をのぼって正門をくぐって、建物の後ろに広がるブドウ畑を通り抜けて奥にいくと、静かな墓地があるんです。さらにその奥に進むと、川に出て、その川原に小さなベンチが一つあって、そこで過ごす時間が大好きだったんです。
それと、もう一つ大好きだった場所が永保寺というお寺です。修道院の近くにあるんですけど。そのお寺も奥のほうに歩いてゆくと川に出るんです。そして気づいたんです。この川は、修道院の奥に流れている川と同じだって。修道院と禅寺。表の顔はまったく違っても、奥では一本の川でつながっている。そのことに深く感動したことが、私の原風景になっています。それはmama!milkにとって区切りのような時が来るたびに、拠り所にしている景色でもあります。上流から下流へ、淀まないように流れていくこと。一つの川でも幅や傾斜はところどころさまざまで岩がいろんな場所にあって、流れるスピードはところどころで変わりながらも、海へと流れていく。私たちも、日々いろんなことがあって、いろんな場所へいって、いろんな人がいるなかで、透明な水が流れるようにその時々で自然に演奏していこう。そういう想いを、ふるさとの景色はいつも思い出させてくれます。
—表の顔はちがっても奥ではみんな繋がっている。それは人類全体にも言えますよね。そして音楽は言葉がないぶん、特にそれを感じられるかもしれません。mama!milkの音楽は歌詞がないから、いっそう場所も聴く人も選ばないし、聴く人はぞれぞれの物語を思い描くことができる。
生駒:そういう音楽でありたいですね。
—川が流れるように自然に。今回、『カイツブリの塔』ではmama!milkに「水の環」というタイトルの演奏会を依頼しました。『カイツブリの塔』が、住む土地を深く掘り下げて、そこで掴んだものを地上で積み重ねていって柔らかくて高い塔のような視点を獲得できたらというコンセプトなのですが、それをイメージしていた時に、これは水の循環にも似ているなと思ったんです。大地を流れる水が蒸発して雲をつくり雨となって降りそそぎ、また大地を流れる。そういう大地と空の水の循環が、僕らの生活に欠かすことができない水を生んでいる。水の環を思うことは、人が生きるということを見つめることにつながると思います。当たり前な、自然のことなんだけどしっかりと見つめ直したい。生駒さんのお話を聞いていて、mama!milkがやられてきたことと繋がるなと思いました。
生駒:今回、熊谷さんから「水の環」というタイトルを頂いて、コントラバスの清水と「水の環」ってどういうことだろうと話し合ってきました。その答えの一つが、今回のために清水が制作した装置になると思います。「水の環」という名前にしたそうです(笑)。
—写真で拝見させて頂きましたけど、まさに水の環が視覚化されている!と思いました。そして音として聴くこともできる。これはすごいことになりそうだぞと今からワクワクしています。水の環に思いを馳せるというのは忙しない日々ではなかなかできないと思うので、ぜひ演奏会で体感して頂きたいですね。
生駒:住んでいる土地を見つめ直すというのは、当たり前すぎて知っているつもりということもあるし、日々の雑多なこともありますから、なかなか難しいことだと思うんです。だから焦らなくてもいいと思います。私は京都に馴れるのにも時間がかかったし、アコーディオンを本当に好きになるのにも時間がかかりました。途中でわからないことがあったらその都度それをただきちんと見つめておくだけでいいと思います。流れるように過ごしていくうちに、ある時それがぱっと解決したりすることもありますから。
—水の循環、雨が降ることって人間がどうこうできることじゃなくて。まずは受け入れるところから始めると。前回の華雪さんのインタビューにも通じるなと思いました。受けとめてから、その先にどうするか考える。
生駒:そうですね。その演奏させていただく場を見つめ、音楽のある時間をご一緒する方々の想いをうけとめて、そこで自然に演奏をすること。それがmama!milkがこれまでもこれからも大切にしていきたいことです。
—カイツブリの塔って、みんなの心のふるさとに立つ大きな一本の木のようなものかもしれないと思い始めています。いろんな人が渡り鳥のようにこの木に羽根を休めにきて、種を落として、また飛び去っていって。落としていった種が芽を出して、少しずつ大きくなっていて、また皆が集まってきて。ふるさとのような原風景がない人やそれがなくなってしまった人にも、羽根を休めにこられるような、そんな場所にしていきたい。だからじっくり時間をかけていこうと思っています。
生駒:名古屋テレビ塔のあたりは、多治見に暮らしていた高校生の頃の私にとって、ちょっとドキドキしながら遊びにいくスポットでした。あの時と変わらずそこに立っているテレビ塔でmama!milkとして演奏できること、本当に楽しみです。
—僕も本当に楽しみです。お忙しいところありがとうございました!
日程:2015年3月21日(土)
カイツブリの塔
演奏会『水の環』
開場19時 開演19時30分 終演20時30分
会場:名古屋テレビ塔2F特設会場
出演:mama!milk(生駒祐子:アコーディオン、清水恒輔:コントラバス)
入場料:3000円(展望台割引券付き)
詳細:http://towerofgrebe.tumblr.com/post/110690977274/mama-milk
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