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WHAT ABOUT YOU? #32 / 秋山花

Interview by KYOKO KURODA(ON READING)

 

東山公園のbookshop&gallery ON READINGでは、定期的に様々なアーティスト、クリエイターが展示を開催しています。

このコーナーでは、そんな彼らをインタビュー。 今回は、雑誌『暮しの手帖』をはじめ、書籍装画や、無印良品やIDEEの広告など幅広いジャンルで活躍中のイラストレーター、秋山花さんにお話を伺いました。

 


 

 

―まずは、子どもの頃のお話を聞かせてください。

うちは、両親ともイラストレーターの家庭なんです。特に欧米のイラストレーションが好きで、家じゅうアートブックやポスターに囲まれていました。
ほとんど毎週、美術館にも一緒に行っていましたね。割と、子どもにあわせる親じゃなかったので、絵本も怖い絵本とか、大人向けのものが多かったですし当時はよくわからなかったんですが、でも、おかげで古典から現代のものまで幅広く、つねに美術に触れている環境だったと思います。

 

―なかなかない環境ですよね…。ごく自然に絵に興味を持つようになっていったのでしょうか。

そうですね。小さいときは、毎週美術館に連れていかれるのも嫌でしたし、たとえばルーブル美術館で宗教画を見ても、ただただ怖くて何がいいんだろう?という感じだったんですが、小学生の頃、ブリューゲルを見て面白い!と思えた時があって。自分なりに観方がわかった感覚がありました。あと、ポストカード集めにはまって、美術館に行ったらポストカードを買い集めていました。

絵に興味を持つきっかけは、欧米にあるかもしれません。父は、日本国内よりも先に欧米で評価されたり、ポスタービエンナーレにずっと関わっていることもあって、家族で海外に行く機会が多くありました。小さいころから欧米の文化に触れる機会が多かったので、10代の頃はすっかり欧米かぶれになってしまって(笑)。留学したかったんですが両親の反対もあり、せめて夏休みだけ!と、中学3年生の時にイギリスのサマースクールに参加しました。世界中から英語を勉強したい子どもを集めて、古城のようなところで約一か月、共同生活をしながら勉強をするというもので、日本人は私ひとりでした。もちろんヨーロッパの子もいましたが、アラブ、ベネズエラ、コロンビアなどさまざまな国から来ていて、肌や目の色、宗教観や文化の違いを肌で感じることができました。

今でも海外のニュースを見ると、あ、○○がいるところだ、と思ったりします。世界を身近に感じることができたなと思います。そんななかで私は、クラスで意見を求められても発言できずにいて、「シャイガール・ハナ!どうしたの?」とか言われていたんですけど(笑)、スケッチの時間で、森に行って木を描くという授業があって、その時に先生もみんなも、凄く褒めてくれたんです。その時、「あ、私、絵上手いのかな?」と思ったんです。シャイガールから一歩抜け出して、クラスでも以前よりは積極的になれたりしました。

 

 

―絵が助けてくれたんですね。

そうなんです。他にも、家族でフランスからオーストリアに行く小さな飛行機の中で、金髪で目が青い、同い年の女の子と隣の席になった時があって。父が「スケッチブックで絵、描いたら?」って言ったんだったかな?隣の子にも紙を渡して、お互いに絵を見せあっこしたんですね。「こういう洋服どうかな」「それかわいいね」とか、言葉はわからないんですけど、絵でコミュニケーションができたんです。この体験は、快感として今でもよく覚えています。そういう欧米での体験が、絵の道に進みたい、という気持ちを強くしてくれたんだと思います。

 

―なるほど、「コミュニケーション」が起点になっているんですね。それこそが、絵の力ですよね。

言語を超えちゃってますよね。絵があってよかった。絵だからできることってあるんだな、と、絵が実際にコミュニケーションツールとして心強く思えた体験でした。父もそんなに英語を喋れるわけではなかったけど、コミュニケーション能力がとても高くて。それを見ていて、絵があれば、言葉が出来なくても友達ができるんだな、とも思いました。フィンランドのアーティストHANNA KONOLA と一緒に日本とヘルシンキで展示をしたりというのもその延長にあるんだと思います。お互いに絵を見せ合って交換して、そこで生まれるコミュニケーションが楽しいんです。

 

―大学は、多摩美術大学のグラフィックデザイン学科に行っていたんですよね。

高校一年生の頃は、美術館で働く女性に憧れて、美術史の勉強をしたいと考えていました。ただ途中で、やっぱり表現することに興味がわいてきてイラストレーターになりたい、と思うようになり、イラストレーションが学べる多摩美のグラフィックデザイン学科に入りました。

 

―進学前に、そこまで定まっている人って結構珍しいですね。

そうなんです。私の場合は逆に、それしか知らなかったので(笑)
大学の同級生たちは、皆いろんなことをよく知っていて、課題で作ってくるものも凄くて。必死でしたね。3年生頃からは、皆、就活が始まって。同級生たちは、自分でいろいろ調べてファイルを作ったり、外の世界へ出ていく準備を進めていたのですが、私は大学院志望だったので、その代わりに、いろんなコンペにひたすら出していました。そこから、後々お仕事につながったりもしました。

 

―なぜ大学院に進まれたんですが?

そこも、欧米かぶれなので(笑)海外のアーティストやイラストレーターの学歴を見ると、みんなMA、BA、マスターコースまでいってるんですよ。なので、私も「MAほしい!かっこいい!」と思ったんです。動機が不純なんですよね(笑)

 

―見ているレベルがそもそも高かったんですね。

ある意味オタクだったんでしょうね…大学院では、他学科の先生も含める全員の前でプレゼンをする機会があって、ファインアートや写真や美術史の先生などにも作品をみていただいていました。本当に環境に恵まれていたと思います。

 

 

―大学院では何を勉強されていたんですか?

大学院では、イギリスのヴィクトリア王朝時代に活躍した、ノンセンス絵本作家のエドワード・リアを中心に研究していました。彼は鳥類や風景を描く写実的な画家として活動をしながら、リメリック詩(韻を踏んだ五行詩)にユーモラスな絵を描いた絵本を発表しました。その後シュルレアリズムやダダイズム、カリカチュアなどに様々な影響を与えました。多くの矛盾を抱える当時のイギリスの社会のなかで、この本が大ヒットしたというのは、毒でも薬でもない、意味から超越したところに存在するリアの作品が、人々の心を救う力を持っていたんだと思います。研究、というにはあまりに短すぎますが、研究に没頭できた大学院での2年間は今でも宝だなと思っています。

 

―私たちの前店舗で、写真家の岩里美里さんとの二人展「”IHATOV” FARMERS’ SONG / あじさいとこころ展」をやっていただいたのが2009年でしたね。デザイン事務所SOUP DESIGN(現・BOOTLEG)が立ち上げた出版・プロダクトレーベルPLANCTONの第一弾が、宮沢賢治の「ポラーノの広場」を起点にして秋山さんが描いた絵と夏目漱石の「こころ」からインスピレーションを受けて、写真家の岩崎美里さんが撮影した写真を収録した作品集でした。テキスト全文に作品が数点掲載された文庫版と、テキストの抜粋が掲載された作品集が同時にリリースされ、元々ある文学作品に、新しい命を吹き込むような素晴らしい企画だったと思います。私たちにとっても、展覧会が開催できたことも含め、とても思い出深いです。

元々は、雑誌の「広告」のお仕事を、当時SOUP DESIGNにいらっしゃった漆原さんとご一緒したのがきっかけでした。その後、SOUP DESIGNが、ZINE’S MATEに合わせて出版レーベルを立ち上げるということになって、代表の尾原史和さんに声をかけていただきました。私は、宮沢賢治の作った曲を聴きながら、わたしなりの解釈で作品制作をしました。書籍の判型やデザインは、描きあがった絵を見て決めてくださったそうです。あの本をきっかけに、名古屋で展覧会をすることができたり、未だに、あの本が大好きで、とお仕事をいただくこともあるんです。本ってすごいですよね。

 

 

―今回の、展覧会についてお話を聞かせてください。3歳の男の子の母親でもある秋山さんが、お子さんの目を通して出会い直した世界がテーマになっていると感じました。出産と子育てというのは、秋山さんにとってどのような体験だったのでしょうか。どういうきっかけで、今回のテーマにたどり着いたんでしょうか。

2015年に出産をしました。私はもともと虚弱体質だったこともあり、妊娠期から体調を崩してしまって、外出もできず絵も描けず、という状況になってしまって。それまでのようには活動できなくなり、やむなくリセットせざるを得なかったんです。妊娠前、連日深夜まで仕事をしていたり、かなり体を酷使していたせいもあったかもしれません。両親や義理の両親、旦那さんの協力もあって、ようやく制作のペースを取り戻してきたところです。

ガーディアン・ガーデンでの展示のお話をいただいたころ、ちょうど子供がすこしずつ言葉を覚えてきて、面白いことを言うようになりました。脳と言葉がアンバランスだったんでしょうね。それを育児日記に書き留めていたんですが、それを見ていたら、あれ、これ、私が大学院のときに研究していたテーマと繋がってる…!と気づいて。
AでもBでもないもの。けれども真を突いているもの。2歳児の発言が、私にはそう思えて、私が表現したいものとリンクしているな、と思ったんです。

ただ、出産後に「MOTHERFOOD」をテーマにした展示をしたとき、自分がいかに育児で頭がいっぱいだったかということに気づいたんです。もっと、広くコミュニケーションしたいのにって。それで最初は、テーマを育児や子どもということから離れたいと思っていたんです。でもなかなか、母である自分というものは切り離せなくて。そんなときに、市川崑監督の「私は2歳」という映画を見たんです。これは、松田道雄さんの育児書が元になっていて、子どもの成長に一喜一憂したり嫁姑問題が起こったりという、大人たちの日常を子どもの目線で捉えた映画でした。それを見て、そうか、誰しもが昔は2歳だったんだよな、とこれが普遍的なテーマだということに気づいたんです。誰もが経験してきた時間、だけど、きっと時がたてば忘れてしまう。これは今しかできないことだなと思ったんです。それで、その映画に背中を押された形で、一気に描きたいものがどんどん湧いてきて、今回の展示の作品が生まれました。

 

―今後、やってみたいことはありますか?

そうですね、もっとコミュニケーションをしたいです!広く広く。
あとはまだまだイラストレーションの勉強をしたいです。研究は全然終わってないので。(笑)

 

―ほんとにイラストレーションが大好きなんですね(笑)これからも作品を楽しみにしています。

イベント情報

2019年2月1日(金)~2月17日(日)
秋山花 個展 『THE WISDOM OF YOU』
会場:ON READING  名古屋市千種区東山通5-19 カメダビル2A
営業時間:12:00~20:00
定休日:火曜日
問:052-789-0855
http://onreading.jp/

SPECIAL EVENT :
Kids向けワークショップ「ぼく わたし の 虫メガネ」
by Mayuko Tsunoda(minna) × Hana Akiyama
工作&お絵かきをしてMY虫メガネを作ろう!

日程:2019年2月10日(日)
時間:11:00 / 12:00 / 14:00 / 15:00
定員:1回6組限定(要予約)
料金:2000円(お子様一人につき)
対象年齢:保護者の方同伴でお絵描きが出来る子(当日は汚れてもOKな服装でいらして下さい)
予約:http://onreading.jp/exhibition/hana_akiyama/

秋山 花 Hana Akiyama(イラストレーター)
1984年生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。
多摩美術大学大学院博士課程前期グラフィックデザイン研究領域修了。
書籍、広告、雑誌、Web、パッケージ、CD、新聞等でイラストレーションを手がけ、国内、海外での展示で作品を発表。
2014年ニューヨークADC賞銀賞など、国内外で多数受賞。
作品集『”IHATOV” FARMERS’ SONG』(2009年PLANCTON)、絵本『ソックモンキーのおくりもの』(2010年講談社)(造本装丁コンクール審査員奨励賞)を出版、等。雑誌『暮しの手帖』、『tocotoco』、『母の友』、他、各方面で挿絵連載中。
http://www.hanaakiyama.com/

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