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WHAT ABOUT YOU? #13 / 江本典隆

Interview by YOSHITAKA KURODA(ON READING)

howaboutyou13

東山公園のbookshop&gallery ON READINGでは、定期的に様々なアーティスト、クリエイターが展示を開催しています。 このコーナーでは、そんな彼らをインタビュー。

今回は、 列車の車窓の移ろいゆく風景を雨粒とともに記録した写真集『ロマンスカー』が各所で話題の写真家、江本典隆さん。名古屋の平和公園を舞台に撮影したという今回の展示はどのような想いで撮られているのでしょうか。


Long-long-sleep

―まず、今回の展示についてお聞かせください。

ここ(ON READING)から歩いて5分くらいのところにある平和公園を撮りました。平和公園というのは、147haもの広大な区画の半分が墓地、半分が緑地と森になっています。戦災で焼け野原になった名古屋を復興しようと、市内に散らばっていたお墓を強制的に集めた場所なんです。いわば名古屋中の死が一か所に集められて眠っているんですね。その横でみんな何も知らないでピクニックとかしているっていう。

最初はこのお墓たちのことが気になって、さらにこんなに大量のお墓の横にある公園ていうのは全国的にもほとんどないだろうと。そうすると森の中を歩いていても、なんとなく頭の中に死んだ人やお墓がすぐそばにあるっていうことが頭の中に浮かぶわけです。そういう興味深い成り立ちの特殊な土地っていうのを撮って作品にできないかなと思って撮り始めました。

ここに鳥が一羽、土の上に立って首をあげている写真があるんですけど。ある日撮影をしていたら、衰弱した老いたヨタカに出会ったんですね。ぼくの祖父もそうだったんですけど、老衰で亡くなる瞬間って呼吸が荒くなったりするんですね。このヨタカが荒い呼吸をしながら、静かに弱っていくのをずっと見ていました。それを見て、人も生き物も、みんな必ず、等しく死を迎えるんだな、と思いました。

この森の中を歩いていると、いろんな虫が飛んでいたり鳥が鳴いていたり、無数の生き物が暮らしている空間なんですね。生きていることと死んでいるということが連なっているというか、人間も含めたたくさんの生き物が死んでいて、その脇で無数の生き物が生まれている。それが公園全体のおだやかな空気を作っているんだなと感じて、「Long long sleeps」というタイトルに行きつきました。

emoto2

―お墓というのは死を慰める場所だと思うんですが、同時に生を祝福する場所でもある。写真からも生を祝福している印象を強くうけます。死生観って国や文化によってもだいぶ違ってて、日本ではどちらかというと憐れむものというイメージがあると思うんですが、たとえばメキシコでは「死者の日」っていうお祭りがあって、死そのものを祝福する文化もあったり。何かが死ぬことで、次の何かが生まれてくるというサイクルなんですよね。植物でもなんでも。そう考えると死を祝福するということもそんなに不思議なことではないかもしれない、と思えてきますね。

最初は、お墓=死という、怖いようなイメージがあったんですが、たまたまお彼岸の日にお墓の区域を撮っていたら、お墓詣りの人がたくさんいたんです。よく晴れた暖かい日で、家族連れで来ていたり、道端では臨時でお供えのお花屋さんが出ていたり、どうにものんびりしていて。平和公園のお墓は移転前のお寺さんごとに区画が分けられた団地みたいになっているんだけど、その区画ごとにお寺のお坊さんが立っていて、檀家さんが来たら「お疲れ様です~」とか言ってお経をあげているわけなんですよ。僕が思っていたイメージとは大分かけ離れたお墓の光景が広がっていたんですね。それを見て、こんな穏やかな死のあり方ってなかなかいいんじゃないかと思ってきたんです。本当に日常の続きというか。

あと、今回の展示で言うと、撮影した場所と展示をしている場所がとても近いというのはとても大きなことだと思っています。これが遠い外国の森の写真です、というのとすぐそこの公園です、というのでは見え方や感じ方というのは全然違ってくると思います。これは今展示しているこの場所でしか感じ得ないことですから。作品を見る上で写真と写された場所の物理的な近さは、心理的にも様々な作用を及ぼすのではないかと思います。写真でも絵でも“見る”という行為はとても受け身なインプットではあるんだけど、自分の人生や経験によって見え方がどんどん深くなっていく。同じものが写っているプリントから受け取れる情報がどんどん変わってくると思うんですよね。

―写真って見る人の記憶や状況にゆだねられる部分が大きいと思います。それがとても自由で、写真を見る楽しさですよね。江本さんは今まで、ご実家から東京へと帰る車窓の風景を捉えた「ロマンスカー」、奥様の故郷である岩手県宮古市を撮影した「りくのなか」などを発表されています。そして今回も、現在住んでいらっしゃる場所ですよね。まさにご自身と縁つづきの場所で撮影された作品ですが、どれもそういった個人的な繋がりのようなものは強くは感じられません。

僕は、自分の写真に個人的な生活や心境のようなものを入れたいとあまり思っていないんです。先ほどの話にもつながるんですが、完全に見る人にゆだねたいと思っているんですね。これまでも僕の作品を観て、ご自分の記憶を思い出したり、全くこちらの予期しないようなことを感じてくださる方が多かったのですけど、見る人ご自身のそれまでの記憶とか経験によって、同じ写真の見え方がそれぞれ全然変わってくる。それって写真のとても面白い部分だなと思うんです。僕は抽象的なイメージを撮ることが多くて、もちろんそういうイメージが好きだからではあるんだけど、写真の中に自分の痕跡を残したくないというか、見る人に自分の気配を感じさせたくないというのがあります。でも、当然自分の考えや欲が写真を撮る原動力であることには変わりありません。写真の見えない内側では、自分と作品は太く繋がっていると思います。

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―江本さんの写真には、人物が映り込んでいることがほとんどないのですが、「りくのなか」も今回の「Long long sleeps」も人の気配は感じる気がします。そういった部分も、観る人に、何かしらの自分との関わりを感じさせる要因になっているんでしょうね。

そうですね、人をあまり撮らないのは、知らない誰かが写真に出てくると、見る側からすれば距離が一気に広がるような気がするからです。でも人の気配ならすっと写真に入っていける。僕は“大自然”とか“グレートネイチャー”みたいなところより、人の痕跡や気配があるようなところに惹かれます。自分が生きている日常との繋がりを確認できると思うから。もう一つ、2011年に東京都写真美術館で畠山直哉さんの「Natural Stories」展を観たときに強く感じたことなんですが、都市開発や農工業などで“人間が自然を壊す”と言われるけど、地球という惑星規模で考えると、人間も自然物なんですよね。震災によって被災したり、鉱山開発で山の形が変わったり、人が自然を壊して都市を作ったりするのも含めて、巨視的に見たらぜんぶ自然現象の一部なんじゃないかという感覚に陥りました。大きくて抗えないものに身をゆだねて生きていかざるを得ないなかで、だからこそ人の痕跡とか気配というものに愛しさを感じます。

イベント情報
 2016年3月16日(水)~3月28日(月)
江本典隆 写真展 『 Long long sleeps 』
会場:ON READING 名古屋市千種区東山通5-19 カメダビル2A
営業時間:12:00~20:00
定休日:火曜日
問:052-789-0855
www.onreading.jp

ギャラリートーク
3月19日(土)19:00~  入場無料

江本典隆 / Noritaka EMOTO
1978年  静岡生まれ
2003年  早稲田大学教育学部卒業
2010年  写真家・元田敬三氏のもとで写真を学び、写真活動を始める

個展
2015年 「ロマンスカー」carlova360 NAGOYA(名古屋・巡回)
2014年 「りくのなか」circle gallery(東京・国立)
2014年 「写真集『ロマンスカー』のきっぷ」solid & liquid(東京・町田・巡回)
2014年 「写真集『ロマンスカー』のきっぷ」SUNNY BOY BOOKS(東京・学芸大学)
2014年 「ロマンスカー」ON READING(名古屋・巡回)
2012年 「ロマンスカー」書肆サイコロ(東京・高円寺)
2012年 「ロマンスカー」森岡書店
2010年 「“r”」 森岡書店(東京・茅場町)

写真集
2014年 「ロマンスカー」書肆サイコロ刊

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