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カメラボーイ・ハマダの教えて先輩!
vol.4 稲川有紀(写真家)

INTERVIEW & PHOTO by KOSUKE HAMADA

 

こんにちは。三重県在住の濱田紘輔です。僕は今、仕事をしながら旅をして写真を撮っているのですが、ゆくゆくは写真家、カメラマンとして生きていきたいと思っています。そのためのヒントを見つけるために、名古屋周辺の写真にまつわる仕事をしている人々を訪ね、写真を撮らせてもらいながら、話を伺うことにしました。先輩たちの背中を追っかけて、一人前の写真家になるために―。

今回は2016年に写真コンペティション「1_WALL」のファイナリストになり、今夏、写真集「STAND HERE」を出版し、7月4日からON READINGにて個展を開催する、稲川有紀さんに作品を作る姿勢や写真家として生きていくヒントを聞いてみました。

 


 

 

-はじめに稲川さんが写真を始めたきっかけを教えてください。

もともと映画に興味があって、映像を学べる大学に進学しました。大学一年生の時に写真の授業があって、一人一台フィルムカメラが配られて、毎回テーマが出されて次回までに各々が写真を撮ってくるという内容で、そこではじめて写真に触れました。 ーその時に写真がおもしろいと思ったんですね。どんな内容の授業でしたか? まずは、撮ってきた写真を机に全て並べて全員で見て回る。次に自分でセレクトして、台紙にレイアウトして貼り付けて、また全員で見て回るという内容でした。同じテーマ、同じカメラで撮っているけど、撮るものはもちろん全員違うし、一つの作品に対する捉え方も人それぞれで。撮ることも見ることもいつも発見がありました。 ー写真の授業を受けていくうちに、映像から写真の方に惹かれたんですね。 映像を作る授業もあったけど、シナリオ通りに進めていくことやグループでの制作で作り込んでいくのがどこか合わなくて。写真は、なんとなく撮ったものが、現像してプリントしてみたら「なんで、こんな風に撮れているんだろう」っていう新鮮な驚きが常にあって、そこがおもしろくてどんどんはまっていきました。

 

写真を撮り続けていく中で影響を受けた写真家さんはいますか?

日常の中で写真を撮っている作品をよく見ていて、特に牛腸茂雄さんや植田正治さん、清野賀子さんの写真集をよく見ていました。身近な人や特別でない風景に対して距離感を保ちながら丁寧なまなざしを向けているところ、写真家自身と写真が深く結びついていて、そういうところも惹かれたんだと思います。それから、トーマス・シュトルートやベルンハルト・フックスなど、主観性を排して淡々と風景を記録していくベッヒャー派の作品もよく見ていました。

 

 

-今回、出版された写真集「STAND HERE」についてお話を聞かせてもらえますか?

今回の写真集は2016年の1_WALLでファイナリストになった時の作品が元になっています。この作品は何年も先にも残したい、と思って写真集を制作することにしました。デザインは、コロンブックスの湯浅さんにお願いしました。学生の頃に見て素敵だなと思って保存していた展示のフライヤーを手掛けたのが湯浅さんで、何年たってみてても美しいなと思えるデザインだったんです。今回はさらに、美術家の伊藤正人さんにテキストを書いていただいていて、私の写真集ではあるけど、他の人の手も入った、自分一人では成しえなかった作品集ができたと思います。

 

―「STAND HERE」という作品が出来上がっていった経緯を教えてください。

当時は2つのアプローチで同時に作品を作っていました。1つは「one plant」という鉢植えの植物を撮っているシリーズで、撮影する場所や時間、被写体を決めるなどのルールに沿って撮影していました。この作品を作るきっかけになったのが、向かいの家に置いてある鉢植えの植物を見た時に、そこに人がいるように見えて。それが自分に重なるように見えたことがあったんですね。たぶん、誰もそこに鉢植えがあるなんて注意深く見ることはないと思うのですが確かにあって。目にしているけど見てはいないというか。自分は何かそこに引っかかって、鉢植えの植物だけを土地ごとに分けて採取するような形で撮影していきました。そこから、「存在」ということに対して何か引っかかるようになったんだと思います。それと同時に、ルールを決めずに直観的に撮っていく作品を作っていたのですが、アプローチが違っても、気になるのは「存在」と「不在」の間にある部分、空気や雰囲気でした。たとえば日常の中で、自分自身の存在が薄れてその場の風景に溶け込んでいくように感じることがありました。でも、鉢植えの植物のように、風景の一部になっても、存在自体から発せられた気配や空気のようなものは消えずに確かにその場に漂い続けているような気がして。日常の中で体感したこれらの「存在すること」「存在しないこと」の間で漂うものを写真で掬い上げたいと思い、「STAND HERE」を制作しました。

 

 

―写真で何を表現したいですか?

写真って、自分の目の前にあることしかシャッターを切れないので、絵と違って目の前にある対象物、もの、風景、人っていうのを受け入れることしかできないメディアだと思うんですよね。なので、写真を使って何かを表現したいというよりは、自分自身も、目の前の存在に対して対等に向かい合っていたいのかなと思います。 ー今後、どんな写真を撮っていきたいですか? 惹きつけられる写真に出会うと、自分を通り越してずっと見続けていられると思うことがあって、そういう時に写真の強さ、エネルギーのようなものを感じます。見ることの先に、いろんなことが想起されて、作品が無数に広がっていく。そういった強度のある作品を作っていたいなと思います。

 

―例えば、展示とか写真集を他の人に見てもらって、期待していることはありますか?このまえ、自分が展示をして、いろんな人に自分の写真を見てもらう機会がありました。自分の中で写真をやる理由や目的というのがまだモヤっとしていて、他の作家さんはどう考えているのか気になりました。

私の場合は誰かに見てもらいたいというのは、共感してもらいたいということではなくて、誰かの心の中に残り続けてほしいというのはあるかもしれないですね。写真1枚のイメージの力ってすごく大きいなと思っています。見る人の環境や感情で見え方は作家が思うところ以外のところに自由に広がっていく、それが写真の魅力だと思います。

 

 

―最後に聞かせてほしいのですが、稲川さんは流行りや周りに流されないで、自分のスタイルがブレずに作品を作り続けているように思います。その意思は何でしょうか?僕にはまだこのテーマでずっと撮り続ける!みたいなものがまだ見つかっていないと思います、、、

 

私もいろんなことを考えて行ったり来たりしていると思います。スナップやセルフポートレートを撮っていた時期もあります。周りに流されないって強く意識しているわけじゃなくて、自分はこういうふうなのかなって徐々に受け入れるようになったんだと思います。やってみたいことがある時はまずやってみることが大事だと思います。作ってみて気付くことがたくさんあるはずなので、そこから自分がやろうとしていること、見ていることを少しずつ整理していけばいいじゃないかなと思います。その繰り返しなんだと思います。もちろん答えはないですが、自分自身が感じたことに対して、素直でありたいです。

 

―まずは取り組んでみて、自分にとって大切なことを見つけていきたいと思います。何が見えてくるのかまだわからないですが、少しずつでも形になってきたらいいなと思います。貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました!

 

 

イベント情報

2018年7月4日(水)~16 日(月)
稲川有紀 写真展『STAND HERE』
会場:ON READING 名古屋市千種区東山通5ー19 カメダビル2A
営業時間:12:00~20:00
定休日:火曜日
問:052-789-0855
http://onreading.jp/

アーティストトーク《 稲川有紀× 村上将城(写真家)》
7月8日(日) 19:00~ 入場無料

稲川有紀 YUKI INAGAWA
1991年生まれ。神奈川県出身 岐阜県在住
名古屋学芸大学メディア造形学部映像メディア学科卒業。名古屋学芸大学大学院メディア造形研究科修了。2016年第14回写真コンペティション「1_WALL」ファイナリスト。最近では写真集「STAND HERE」を出版(私家版)。7月4日~16日の間「ON READING GALLERY」にて展示を開催。
http://yukiinagawa.com

濱田紘輔 KOSUKE HAMADA
1990年生まれ。三重県出身
カメラマンを目指し、日々奮闘中。最近はアメリカを題材とした作品を制作している。
https://www.kosukehamada.com

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