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WHAT ABOUT YOU? #39 / 湯浅景子

Interview by KYOKO KURODA(ON READING)

 

東山公園のbookshop&gallery ON READINGでは、定期的に様々なアーティスト、クリエイターが展示を開催しています。

このコーナーでは、そんな彼らをインタビュー。今回は、ON READINGの出版レーベル『ELVIS PRESS』より作品集をリリースした、画家の湯浅景子さん。ここ数年でメキメキと頭角を現し、各所で注目が高まっている彼女にお話を伺いました。

 


 

湯浅景子 個展『オマモリ』2022年 at ON READING

 

——絵は子どものころから描かれていたんですか?

実は、絵には全く興味なかったし、描くのも得意ではありませんでした。私は小学生の頃、勉強もできないし、給食も食べれないし、落ちこぼれだったんです。やりたくないことは絶対にやらないっていう頑固さがあって、給食も食べたくないものをランドセルに全部入れてたり、算数とかもテストはいつも0点だったし。ほぼ毎日のようにお母さんが呼び出されてましたね。小学校3年生の時、父親の転勤で浜松に引っ越しをして、のどかな環境があってたのか、人が変わったかのように、苦手だったプールも自ら飛び込んだり、給食も残さず食べれるようになったし、勉強もそこそこできるようになりました。中学校で名古屋に戻ってきてからは部活に明け暮れる人生で、高校もスポーツ推薦で入学したり。でも、茶道部入ったんですけどね(笑)

 

—— (笑) 今のところ、確かに絵とは無縁ですね。美術とはどうやって出会ったんですか?

高校で出会った友達がサブカル好きで、ファッション、音楽、演劇、美術館に行ったり、カルチャーの一環として美術に興味を持つようになりました。短大の頃、中古レコード屋でアルバイトをしていて、友達がお芝居をやりたいというので劇団に連れていかれたんです。私が人前に出るのは苦手だと言ったら、公演のチラシを描くことに。描けるわけないんだけど、描いたらすごくほめられて。それでちょっと調子に乗ってもっと描いてみたい、と思いました。とはいえ何にもわからないので、とりあえず画材屋さんでバイトをすることにして、油絵具、岩絵具、アクリルなど画材の種類と使い方を学んで、ひとしきり試してみました。その中で一番好きだなと思ったのが、今も使っているカランダッシュのオイルクレヨンです。そこからずっと使っています。その頃、中日文化センターのデッサン教室にも行きました。先生が「下手だけど、あなたの絵が一番いい」と言ってくれたことで、あ、絵向いてるかもって、思うことができました。短大卒業後は、一年間だけ三越百貨店の美術画廊で働きました。美術画廊では、週替わりで展覧会があって様々な絵や器に触れることができました。その中でもすごい!と思ったのは有元利夫さんの絵で、私が唯一販売した絵でした。一年間で一枚だけしか売れなかったんだから、ダメ店員でしょ。でも、その絵だけは自信を持ってお客さんにも勧められた。買ってくれたのは学生さんでしたね。退職後は、バイトをしながら絵を描いて、あとはひたすら美術館や映画館に通っていました。公募展に出したりはしていたものの、その頃は絵でどうこうしていこうとかは思っていなかったですね。27歳で一度、絵はやめました。ほとんど手元に残ってないけど、そのころの絵がたまに出てくると、下手だけど勢いはあるなあと思います。

 

湯浅景子作品集『OMAMORI』より

 

——一度、完全に絵をやめているんですよね。

その頃、外国へ行って現地の本屋でアートブックを買い集めていました。そのうちに、きっとこういう本が好きな人もいるんじゃないかな、と27歳の時に洋書のアートブックを扱う本屋「コロンブックス」をオープンしました。本屋をはじめてから、10年間は全く絵を描きませんでした。不器用だから、二つのことをやれないんです。その分「観る」ことをすごくしていました。イギリスや、アメリカに行ってアートブックをたくさん見たり、古今東西の様々なアーティストの作品に、本を通して出会っていって、この10年間でものすごくインプットすることができました。この間、絵を描くということからみればブランクがあるけど、今思うと、何もしない時期とか遠回りしている方が近道だったりすることもあると思います。もしずっと途切れなく描いていたら今のようにはなっていなかったかもしれないですね。

 

——再び絵を描き始めたきっかけはあったんですか?

コロンブックスを2010年にやめた後、区民美術展の公募のチラシを見て、ふと描いてみようと思いました。10年ぶりに画材屋さんに行って全部買いなおして。ああ、こんな感じだったって思い出しながら海の絵を描いて、その公募で中日新聞社賞をいただきました。その後、自分の今の実力やどこに向かってやっていけばいいのかを知りたいと思って、あらゆるジャンルの審査員にみてもらえるように様々な公募展に出しました。転機になったのは、2019年の宮本三郎記念デッサン大賞展でした。優秀賞を受賞した作品が美術館に所蔵されることになって、その頃から絵を描くことに対する姿勢が変わりました。私はこれを「覚醒」と呼んでます(笑)

それまでずっと抽象画を描いていた私がモノの絵を描き始めたのは、sahanで買った箒がきっかけでした。その頃、針で引っ搔いてできる線が気に入って、線がいっぱいあるモチーフに惹かれ、箒とか髪の毛の三つ編み、それからしめ縄など、線のあるモノを描くようになりました。そのうち線がなくても、かたちとして描けるようになってきました。モノの絵だけで挑んだHBギャラリーのファイルコンペは3年連続で出して、初回は一次審査通過、二回目は最終選考まで残って、来年死ぬ気でとる!って思って、2020年に三回目で大賞をいただきました。それ以降、各地で展覧会をさせていただいたり、とても濃密な時間を過ごさせていただいています。

 

湯浅景子作品集『OMAMORI』より

 

——2020年には甲斐みのりさんの書籍の装画を描かれたり、この数年のご活躍がすばらしいです。やっぱりコロンブックスでの10年がベースにあるんですよね。特に影響を受けた作家はいますか?

20歳の頃に一番最初に衝撃を受けた本は、大竹伸朗さんの作品集『倫敦 香港1980』(用美社)。20歳くらいの時に、ヴィレッジ・ヴァンガードで買いました。大竹伸朗さんの場合は、この人の絵が好きとか嫌いとかっていうよりも、存在がもうかっこいい。もう1冊、20代の頃に出会ったのが、みずのき寮の「ART INCOGNITO」(藍風館)という作品集です。みずのき寮は障がいのある方の施設で、日本画家の西垣籌一さんが絵画教室を始められました。今では京都府亀岡市に美術館もできましたね。新聞で作品集の存在を知って、すぐに取り寄せて。この本は都築響一さんが編集を手掛けています。すごい、この絵はなんだろうと。こんなすごい人たちがいるなら、もう私が絵を描く必要はないって思ったくらいです。コロンブックスをはじめてからは、外国のアウトサイダー・アートとか、アール・ブリュットを知って、中でもビル・トレイラーが一番好きで。私自身、技術的なことを誰かに学んだりしていないから、こういう絵に惹かれるんだと思います。他にも、アント二・タピエスとエドゥアルド・チリダ、それからサイ・トゥオンブリー、ジュリアス・ビシエ。日本人だと熊谷守一。抽象画家が好きだったので、絵というのは自分自身の心のなかから湧き出てくるもの、抽象的なものだと思っていたんですよね。他にも民芸品が好きだから、アメリカンフォークアート、イヌイットの造形物など…数え上げればキリはないですが、描きたいけど描けない、強くてピュアな作品に憧れを感じます。

 

大竹伸朗『倫敦 香港1980』(用美社)

「ART INCOGNITO」(藍風館)より

 

——景子さんは絵の描き方にも特徴がありますよね。

絵の描き方自体は20代の頃からずっと変わっていないんです。オイルクレヨンを塗って、その上にアクリル絵の具を乗せて、削って線を出したり、雁皮を貼ったり。なんとなく、色を塗って描いていくよりも、削って下の色を出すというこの方法が、発掘しているようで好きなんですよね。当初はマイナスドライバーとか割りばしで引っ掻いていたのが、段々と細い線がほしくなって、今は針と爪にたどり着きました。針は折れるし、指も傷だらけになりますが、今はこの線がいい。制作の工程でも、全面をクレヨンで塗ることも、切ったり貼ったりするところも、言わなければわからないし誰も見てないけど、無駄なことに時間と手間をかけたいって思います。

制作しているときは、昭和の映画を流しています。音楽とか聞きながらだと、音楽に意識がいっちゃって、絵に全然集中できなくなるんです。それって、集中しなくても描ける絵ってことになっちゃうから。でも無音よりはやっぱり何かあったほうがよくて、かといって落語だとそっちに気がいっちゃうから、いろいろ試した結果、森繁久彌の「社長シリーズ」を流しながらが一番集中できます。何回ながしても、まったく飽きもこないし、ちょうどいいですね。

湯浅景子作品集『OMAMORI』より

 

——近年はモノの絵を多く描かれてきましたが、最近はより抽象的な表現に取り組んでいらっしゃいますね。

最近はまた、抽象画が楽しくなってきました。モノの絵の場合は失敗したら捨てるしかないけど、抽象画は最初からどうなるかわからないし、描き始めてまったく絵にならなくても、塗りつぶしたり手を動かしていると、一回ダメになってからの方が、意外な思いもよらなかったようなものが出てくる。面白くて、その分、時間がかかります。今思えば、よく最初に抽象画を描いていたなと思いますね。だって抽象画ってめちゃくちゃ難しいから。それに気づくのも遅かった。人よりいろいろがすごく遅いんです。だって45歳とかで覚醒しているから。

 

——今回の作品集『OMAMORI』では、背守りや折り鶴、しめ縄など、古来から人々が安らぎや平和を願いつくってきたものに加え、湯浅さん自身が「オマモリ」として普段身に着けているアクセサリや、持ち歩いている手紙、薬瓶、香水などが描かれています。

あると落ち着くもの、力をもらえるものは、私にとって「オマモリ」です。かたちや線をとらえるだけではなく、モノが含んでいる祈りや思いに想いを馳せながら描いているこのシリーズは、モノと抽象のあいだに位置していると感じています。

ちなみに、今回のHBギャラリーでの展示のDMは、銀杏の実を描いています。これは、ヒンメリ作家の仲宗根知子さんにもらいました。銀杏の実には雄と雌があって、三面体になっている雌の実はとても珍しいんだそうです。それを聞いて私の「オマモリ」になりました。

「オマモリ」を描く行為自体が、わたしにとってオマモリになっているんだと感じています。このシリーズは、ずっとこれからも描き続けていきたいと思っています。

 

湯浅景子展〈オマモリ〉 2023年2月3日(金)~ 2月8日(水) at HB Gallery

 

——今後については、どう考えていらっしゃいますか?

去年一年間で、221枚描きました。今年は250枚くらい描くと思います。もちろん時々スランプはあるけど、日々、これをやらずにはいられないのです。年に一回くらい、スキップしたくなるくらいの絵を描ける時があるんです。描いている間もだし、描き終わった後にもとにかく気持ちがいいんです。自分が描いた絵なのに、これはすごいと思えるんです。

今は描くことが一番。絵のことしか考えてないです。でも絵はすごい難しい。やればやるほど、わからなくなる。絵はずっと一生片思いの相手みたいな感じだと思います。だからこそ、ずっと飽きずにやっていけるんだと思います。ま、でも、残りの人生のすべては全部絵に賭けてますっていう気持ちだけで描いているから。10年空白があっての今なので、今は、死ぬまで描けるって思ってるし、最後の死ぬ間際の一枚が、一番いいのが描けるって信じています。怖いけど、楽しみですね。

 

湯浅景子作品集『OMAMORI』(ELVIS PRESS)

 

湯浅景子作品集『OMAMORI』
published by ELVIS PRESS
195mm × 135mm × 15mm 128 pages, hardcover, offset print
1st Edition of 1000
Publication date: February 2023
book design : YOSHITAKA KURODA(ELVIS PRESS)
4500yen + tax
http://elvispress.jp/omamori-keiko-yuasa/

イベント情報

今後の展覧会:
湯浅景子展〈オマモリ〉
2023年2月3日(金)~ 2月8日(水)(最終日は17時まで、会期中休みなし)
会場:HB Gallery 東京都渋谷区神宮前4-5-4 原宿エノモトビル1F
問: 03-5474-2325
在廊予定:2月 3・4・5日
http://www.hbgallery.com/

湯浅景子 keiko yuasa
1973年生まれ、名古屋市在住。
2020年HB GALLERY ファイルコンペvol.30 <藤枝リュウジ賞>大賞
他受賞多数。
2023年 作品集『OMAMORI』(ELVIS PRESS)
www.keikoyuasa.com

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