Youtube
instagram
twitter
facebook
『ナゴヤを面白がる人と、 いつものお店で。』
vol.1 | 丹羽洋己(KAKUOZAN LARDER)

place_larder

「ナゴヤを面白がる人を増やす」をテーマに街中で企画やイベントを展開する大ナゴヤ大学 学長の加藤幹泰(みっきー)が、名古屋を中心に東海圏で面白い取組みをしている人を紹介するコラム連載。面白い人には素敵な行きつけのお店があるに違いないと、 その人の「いつものお店」でお話を伺います。

TEXT BY MIKIYASU KATO


バンズにカルチャーをはさんで、めしあがれ。
『KAKUOZAN LARDER』丹羽さんの挑戦。

1

街には数えきれないほどのお店が存在しますが、稀に「ここ何屋さんだろ?」と、いい違和感をおぼえる(妙に気になる?)お店に出会うことってありませんか?

例えば、床屋なのに壁に埋め尽くされるほどのマンガがあるお店や、そば屋なのに大きなスピーカーとレコードでジャズを聞かせるお店、などなど…。そんなお店には大抵、こだわりが強いというか、頑固というか、それはもう面白い“オヤジ”がいるものです。

名古屋市千種区覚王山にある、日本で唯一どの宗派にも属さない全仏教徒のための寺院『日泰寺』。「お釈迦様のご真骨」があるというその寺院の参道から一本道を外れたところに、まさにその、いい違和感を感じさせてくれるお店KAKUOZAN LARDER(カクオウザン・ラーダー)(名古屋市千種区覚王山通9-18)があります。「ハンバーガーが美味い」と連日多くの人が押し掛ける、人気のアメリカンダイナーですが、店主の丹羽さんは「うちはハンバーガー屋じゃないです!」と頑に言い張ります。柔らかい表情の中に、「これだけは譲りませんから!」と言わんばかりのオヤジの頑固さが見え隠れ。 “オヤジ”という表現は丹羽さんに似合ってはいませんが、面白いことは間違いなさそうです。

今回はそんな丹羽さんが、「毎年夏になるとかき氷を楽しみに通っている」という、中区栄にある老舗和菓子店『雀おどり總本店』さんで、『KAKUOZAN LARDER』というお店の話を伺いました。

2

『KAKUOZAN LARDER』とは?

『KAKUOZAN LARDER』が誕生したのは2012年1月1日。みんながお雑煮を食べていた日、「新年早々新しい気持ちでスタートするんだ!」とアメリカンカフェダイナーをオープン。当初ハンバーガーは限定10食のみ。妻の玲子さんが作るパスタや、どこもやっていなかった「チキンオーバーライス」を出すお店としてスタートしました。

3

もともと音楽が好きで、レコード販売店のHMVで13年間働き、自身も10年間『オールオブザワールド』というバンドでギターを弾いてきたという丹羽さん。「サカナクションが、自分たちのバンドのことを『影響を受けたバンド』だと言ってくれたんです」と嬉しそうに話してくれました。本当のようです。バンドを始めるきっかけになったのは20歳の時、語学留学で訪れたニューヨーク。RamonesやThe StrokesといったNY出身のバンドに憧れて、若き丹羽さんはギターを弾き始めました。「音楽の話は終わらなくなる…」と話をラーダーに戻してくれましたが、お店を始めた経緯にはNYで体験した街の風景、そしてバンドの原体験がしっかりと活きているようです。

「バンドやアートをやっている人って才能があって表現ができても、場をつくることが苦手なんです。そんな彼らのようなシャイな表現者たちが、気軽に発信ができるような場所をつくりたかった」と、ラーダーの立ち上げ話をゆっくりしてくれました。「音楽やアートを作るアーティストはたくさんいるけれど、『発信する場』としてライブハウスやギャラリーを使うことに対して、少しハードルが高いと感じていたりもする。そのうえキラリと光る才能をもった人達は、結構な確率で控えめな性格(笑)」と丹羽さん。「であれば、そうした人たちが使いやすいと思ってもらえる場所をつくって、自分自身が『なんじゃこりゃ!』という衝撃を受けたり『かっこいい』と納得した人達のパフォーマンスを、多くの人に見てもらえるきかっけをつくりたかった。と、言いながらも、実は自分が一番知りたいからやってるっていうのが本音です」とニコニコしながら語ってくれました。

4

実際に、留学で訪れたNYでは街中のピザ屋でライブをやっていたりと、どんな場所でも音楽やアートが身近にあったそう。また、ラーダーをはじめる前にバイトをしていたカフェでも店内でライブをやっており、飲食店の中でライブや展示をすることは、丹羽さんにとっては当たり前の環境だったようです。「ライブができて展示もできるお店を開きたい!そしてそのお店が飲食店である限りは、美味しい食事があることは大前提!」と、強いこだわりはとどまることを知らず、ハンバーガーに使うパンや肉も丹羽さん自身がしっかり吟味し、納得のいくものだけしか出していません。

5

そんな『KAKUOZAN LARDER』も今年で3年目。まだ3年目?と疑ってしまうくらい、店内に充実した濃い時間が流れているのは、そこにさまざまな人たちが集まり、会話し、多くの人がその場所で自身を表現してきたからではないでしょうか。これからもラーダーが発信する「なんじゃこりゃ!」に期待大です。

共感の輪を広げるKIOSKというチャレンジ

『KAKUOZAN LARDER』というカルチャーの発信拠点を覚王山で始めて3年目に入った今、「自分が発信していきたいものに共感する人が増えたり、仲間ができたりしていくことに少しだけ自信が持てた」そう。そうなると次のステップとして丹羽さんは、お店を大きくするということよりも、「自分のセレクトによる共感の輪を大きくしたい」という気持ちにかられていきました。そんな時に思い出したのが、NYで見かけた『KIOSK(キオスク)』でした。

6

NYには、人々が行きかう交差点や公園の一角に、街の風景と人々の生活に溶け込むようにKIOSKがあり、そこではお客さんとの何気ない会話や挨拶といった日常が見られます。「そんな場所を自分でもつくりたい」。そうイメージを膨らませるようになった丹羽さんに、KIOSKをやってみるという、ある機会が舞い込みました。

僕も関わる『ソーシャルタワープロジェクト』に、「名古屋パルコの中道をつかってお客さんや街の人がリラックスできる憩いの空間をつくれないか」という相談が名古屋パルコからきたのです。丹羽さんからKIOSKの話を聞いていた僕たちは、早速一緒にチャレンジをしないかと話を持ちかけました。

当初僕たちは、テレビ塔のある久屋大通公園の中でKIOSKを展開して、公園をもっと楽しんでもらえる人を増やしたいという話を丹羽さんとしていました。でも実際に最初に形になりそうなのは、商業施設の敷地内。丹羽さんの中に、少なからず抵抗の気持ちが生まれていたのも僕たちは感じていました。丹羽さんのその気持ちの大きな理由としては、「自分がセレクトするものを、パルコに集まるお客さんが共感して楽しんでくれるのだろうか?」という不安から。しかし「やってみなければわからない」。ラーダーで初めてライブをするバンドにも、展示をするアーティストにも丹羽さんが彼らの背中を押す時に伝えている言葉です。そしていつも丹羽さんが大事にしている気持ち。「自分のこだわりを徹底して発信すれば伝わる」と信じ、出店を決意してくれました。

2015年4月29日、名古屋パルコの中道にある搬入口スペースに突如あらわれたキオスク。その名も『CITY(S)&PARK(S) KIOSK BY KAKUOUZAN LARDER』。イナバ物置をDIYで改造、青くカラーリングしたラーダーオリジナルのキオスクが光ります。そして駐車場スペースには、公園をイメージできるよう一面に芝もひきました。芝の上にはお客さん同士がくつろいでもらえるようにベンチやテーブルを置き、日替わりで丹羽さんの想いに共感する仲間たちがアンティーク雑貨や植物、古着などのガレージセールを展開しました。丹羽さんのお気に入りのバンドによるライブで、心地のよい音楽も流しました。

7

もちろん商品も丹羽さんのセレクトがキラリ。海外のクラフトビールやスナックをはじめ、ポップなアーティストグッズ、地元名古屋でも有名なパン屋さんやジェラード屋さん、今回の取材場所でもある雀踊り總本店さんから集まった商品がところせましとならんでいます。

8

「自分が発信するものには決して手を抜きたくない。手を抜かずにディテールにこだわれば必ず届く」。そんな丹羽さんのこだわりはKIOSK開店初日から多くのお客さんを呼び寄せました。「KIOSKはポップアップショップではなく、ラーダーの2店舗目」だと気持ちをこめて話す丹羽さんは、「チャレンジはまだ始まったばかり。不安なことも多いけど、自分の感性を信じて走り続けたい」と話をしてくれました。

最後にKIOSKで僕が見たワンシーンをお伝えしました。それはある朝、一人の男性が出勤前に自転車でKIOSKに寄り、パンとアイスコーヒーを手にベンチに腰掛けながら束の間のリラックスした時間をすごし、また自転車にまたがり、「行ってきます!」とお店の人に一声かけて出かけいく姿があったと。話を嬉しそうに聞く丹羽さんの目から涙がこぼれました。「すごく嬉しいです。その人、朝ごはんはコンビニでもよかったはずなのに、わざわざKIOSKを選んでくれたわけですよね。その人の日常に溶け込めたのなら本当に嬉しいです」。

僕はそのワンシーンから丹羽さんの思い描く共感の輪を感じ取ることができました。強いこだわりを持ちながらも、決して前に出ようとせず、共感の輪を生む場づくりに徹する。丹羽さんの思いに共感した仲間が自然と集まり、そしてまた元気になって自分の生活にもどっていく。そんなみんなの日常の中に溶け込みながら、そっと刺激を与えてくれる丹羽さんの行動に「ハンバーガー屋ではない」という言葉の意味を理解した気がします。


≪丹羽洋己さんおススメのお店≫
雀おどり總本店 名古屋市中区栄3-27-15
営業時間:10:30~19:00
電話:052-241-1192
http://www.suzumeodori.com/

suzume

『雀おどり總本店』は創業160年をむかえる江戸時代末期からつづく和菓子屋さん。名物のういろや四季折々の和菓子をもとめるたくさんのお客さんに愛されているお店です。丹羽さんはHMVで働いていた10年前ごろから夏になると必ずかき氷を食べにきています。オススメは沖縄の黒糖をつかった「大島氷」にわらび餅とアイスをトッピングしたもの。ここにも好きなものには徹底するこだわりが。美味しい和菓子ももちろんだが、雀おどりのマークにもなっている踊りのイラストがいつも陽気な気分にさせてくれるとお気に入り。そして店内には鯉のいる池があったり、老若男女のお客さんがゆったり時間をすごされていたりと、都会の喧騒を忘れさせてくれる雰囲気が好き。こんな素敵な場所を160年続けてこられたお店に、尊敬の念を持ちながら、自分のお店もずっと愛される場所になってほしいと、これからの『KAKUOZAN LARDER』を想い描いていました。

イベント情報

5月21日(木)~28日(木)
CITY(S)&PARK(S) KIOSK BY KAKUOZAN LARDER 2nd Season(s)
https://www.facebook.com/KakuozanLarder?fref=photo
場所:名古屋PARCO東館西口 名古屋市中区栄3-29-1
時間:11:00-20:00

EVENT SCHEDULE

22日(金) KIOSK NIGHT MARKET 17:00~
✴︎台湾移動販売 タイワンシャオツー(Taiwanese foods)
♫ライブ 小池喬  18:30~

23日(土)GARAGE SALE
•KOCHAB (botanical &garden)
•fro•nowhere with IG (clothe & goods etc.)

24日(日)GARAGE SALE
•ATELIER MITIKUSA (flower&green)
•ON READING (books &goods etc.)

25日(月)
???

26日(火)Tacos night! 17:00~
✴︎Los novios
•DAISY MESSENGER(bike repair etc.)

27日(水)KIOSK NIGHT MARKET 17:00~
✴︎台湾移動販売 タイワンシャオツー(Taiwanese foods)
•IZAURA (vintage &antique etc.)
•MINI unlike.(clothe&SAKE)

28日(木)
???

mikky

加藤幹泰(みっきー)
1984年名古屋市生まれ。アメリカ留学とサラリーマン時代の経験から「ヒトの繋がりから生まれる可能性」を肌で感じコミュニティデザインを学ぶ。名古屋のまちづくりを行うNPO法人大ナゴヤ大学の学長を務め、「ナゴヤを面白がる人を増やす」をコンセプトに名古屋を中心とする街の魅力を発掘発信し場づくりと多様なコミュニティづくりを行う。
大ナゴヤ大学 http://dai-nagoya.univnet.jp/
ソーシャルタワープロジェクト http://socialtower.jp/

RELATED
あなたにオススメする関連記事


PICK UP
特集・ピックアップ記事

LATEST
特集・ニュースの最新記事

RANKING
今読まれている記事

COLUMN
最新の連載コラム記事