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WHAT ABOUT YOU? #10 / 熊谷聖司

Edit by YOSHITAKA KURODA(ON READING)

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東山公園のbookshop&gallery ON READINGでは、定期的に様々なアーティスト、クリエイターが展示を開催しています。 このコーナーでは、そんな彼らをインタビュー。搬入中のざっくばらんな会話をお楽しみください。

今回は、 特別編として、2016年1月16日に行われた、熊谷聖司さんと江本典隆さんによるクロストークの内容をお届けします。第三回写真新世紀でグランプリを受賞後、留まることなく次々と作品を発表し続ける写真家、熊谷さんの写真作品に対する想いを、同じく写真家の江本さんが訊ねました。


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江本典隆(以下:江本):まず、熊谷さんのこれまでをお伺いしたいと思います。写真と出会ったのはいつ頃ですか?

熊谷聖司(以下:熊谷):もともとは映画をやりたくて、18歳で東京に出てきて入った映画の専門学校で写真の授業があって、写真って面白いなと思うようになりました。当時出版されていたWilliam kleinの写真集、森山大道の「光と影」、荒木 経惟さん達が作っていた月刊誌「写真時代」の影響が大きいですね。写真の力っていうのかな、この人たちの写真はどういうふうに作品として成立しているのかっていうのがあまりにも魅力的過ぎて。映画は自分ひとりでは作れないけど、写真だったらカメラが1台あれば、何を撮っても自由で、自分で暗室でプリントできる。それがものすごい面白かったんです。

江本:映画が先にあったんですね。

熊谷:その頃は学校行って、映画見て、暗室入って、ライブハウス行っての繰り返しでしたね…。つまんない映画もいっぱい観たけど、でも今考えるとすごい役にたってるなって思う。ふとした時にタイトルも思い出せない映画のシーンが突然頭のなかに出て来て、それが作品を作る時にヒントになったりするんですよ。あと、空間に写真を置くときや、写真集のページネイションするときは、映像として考えるんですよ。それが体に染みついている。映画って、たまにこのカットいるのかなというのがぽんと入ってたりするじゃないですか。でもそれが効いてくるというか。そういう感覚は、写真集や展示でも活きていて、映画から多くのことを学びましたね。

江本:十代の頃、あびるように映画を見た蓄積があるっていうことですね。

熊谷:江本さんも、東京に住んでいた時は写真展をものすごい量見てましたよね。

江本:東京には、写真のギャラリーがたくさんあって、常時写真の展示が100件くらいやってるんですね。僕は、多い時は年間で450件の展示を観て、全て感想を書くということを決めてやっていました。僕は30歳で写真を始めたので、圧倒的におくれを取っていると思って、とにかくよくわかんないからたくさん観よう、と思って。言葉にするのって、意味を固定するっていうことだと思うんです。自分が感じたことはいくつもあって、こんがらがってるんです。その中で、いちばん強く感じたことだけを言葉にして、意味を固定する。何かを捨てているなっていうのは意識してやっていますね。

熊谷:どんなイメージを見ても、江本さんの場合は言語化するってことを鍛錬したわけですね。それはまた映像とは違うんだけど、それはまた面白いなとおもって。江本さんの場合も、自分の中でつかんだ、なにかっていうことだろうね。

江本:何かにどっぷりつかる時期があって、そこから熊谷さんの写真も生まれてきたってことでしょうね。学校を卒業した後はどうしたんですか?

熊谷:その当時は、「写真家」ていう言葉も一般的ではなくて、写真を使うのは商業的な広告や雑誌を撮る「カメラマン」だったので、そのためにはテクニックが必要だなと思って、卒業後は、物撮りをする師匠について、商品撮影を徹底的にやりました。撮影のセオリーを体で覚えましたね。それは作品作りにおいてもかなり役立っていると思います。

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江本:写真家としてデビューしたのはいつ頃ですか?

熊谷:25歳の頃、第1回目のひとつぼ展(現在の1WALL)で、写真の展示を初めてして。その後、写真新世紀に出しはじめて(当時年4回)佳作、佳作、優秀賞で、94年「もりとでじゃねいろ」でグランプリを獲ることができて。当時は、作家としての方向性なんて全然決まってないから、この作品でこのテイストで佳作か、じゃあ次はこうしようか、っていう感じでやってましたね。

江本:それでは、今回の展示と、新しく出た写真集「BRIGHT MOMENTS」について伺いたいと思います。今回の展示のタイトルは「青について」ということですが、青というとつまり、色というわけですけど。

熊谷:青という色について考え出したのは、2013年に「MY HOUSE」という本を作った時に、青という色は何なんだろう?と思い始めたんですよね。”青”といえば、空や水の色、というイメージですが、それ自体には色はないですよね。透明で。食べものとか身体の中にも青いものってないんですよね。でも、写真や絵画として表現するときに、皆いろんな青を使う。で、自分は、どの青を置いていくのか、使っていくのかというのを考え出したんですね。

それで、2014年に「we came dancing across the water」というシリーズをつくって。これは、山中湖にあるギャラリーに行った時に、湖にいた白鳥を一日で撮ったものをまとめたもので。さらにその後、2014年の夏に、岩、水、空、肌という4つの要素で撮影し始めたのが「BRIGHT MOMENTS」です。冬には一回まとまってたんですけど、いろいろあって出版が遅れたのですが、そのおかげで、もう一度夏に撮影できる、ということになって。去年の時点でよしとしていたものを、もう一度練り直すということができた。そうすると作品の強度が高まっていくというか、自分のやりたかったことがより明確になって。青について、より考える時間、感じる時間が増えた。

今回作品の制作過程で、いろんなことに気づいたんですけど、女性のイメージというのはとても絵画的要素が強いんですよね。撮影の時には全く意識してなかったんですけど。オフィーリアとか、クリムトとか、磯江毅さんの絵にそっくりな写真も撮っていて。絵画の方が圧倒的に歴史が古いので、ポーズとか形はいっぱいあるんですよね。あと画家や映画監督や音楽家は青をどうとらえてきたのか、っていうことを考えました。音楽を聴いた時にも青を感じることがあるんですよね。俺の中では、ルー・リードであったり、ザ・ドゥルッティ・コラムであったり。絵だと、ゴッホ、セザンヌ、映画でいうとデレク・ジャーマンの”blue”とか。

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江本今、ちょうどピカソの青の時代の展覧会もやっていますね。青ってなんとなく、爽やかであったり、冷たかったり…

熊谷:そうだね、遠い…遠いけど、青がないと成立しないっていうかな。青の中に我々は生きているわけだから、それを写真でどう表現するかっていうことを考えたときに、女性の体っていうのが、自分の中でいちばん青との対比としてわかりやすいと思った。あと、岩っていうのはマグマを想起させて、元々赤くてドロドロしていてっていうものだから。そういう単純な要素を、時代的な匿名性というか、いつ撮影されたの?っていう感じにもしたかった。それは今生きてるっていうことの中において、自分にとってすごい大事なことだったんですよね。今の世の中の動きを見ていて、ずっとこの流れに乗ってしまうとどうかな、っていうのがあって。一度、この流れをものすごく戻すという行為を写真の中で表現してみたかった。この作品自体が例えば30年後に見られても、きちんと成立するように。

江本:時間軸がなくなるという事は、何千年前でもそうだし、ここにいる人が全員死んでしまった後でも、おそらく何かしら感じることができるっていうことですよね。写真自体は変わらないけれど、観る自分がどういう状況かっていうことで数年後、数十年後に見たら全然印象が変わってくるんじゃないか、観る側にゆだねられた写真なのかなと思います。熊谷さんはたくさんの写真集を作られたり、写真展で作品を発表されていますが、制作はどのようにされているのでしょうか。

熊谷:今回の「BRIGHT MOMENTS」はこういう本を作りたいというのが先にあって、撮影を重ねていったんですけど、「MY HOUSE」「EACH LITTLE THING」シリーズの場合は、何にも考えずにとにかくいっぱい撮って、普段から、何のためということではなく、自分が何かを観たとき、それに興味がある、という感じで集めていくわけですよ。それであとから仕分けしていく。例えば「犬」「猫」「人物」とか、「ホース」っていうのもあるんですが(笑)。これはあのシリーズに入れようとか。シャッターを押したっていうことは、いいと思って押しているわけだから、その瞬間は自分を信じるのが確かなことであって、その後の作業はまた別。あとから見たときに写真としてみて、あ、全然つまんねえなっていうのはどんどん捨てていく。撮った時のことを信じ続けると、大体ロクなことがないっていうか。想いばっかり入っていくから。これはすごく皆に見せたい、とかそういう想いはどうでもいいことなわけじゃないですか。そこにある写真というものだけで判断していかないと。もちろん想いを全面に出して、作品を発表をしている人もいっぱいいるけど、自分はそういうやり方が一番あっていると思う。

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江本:写真集と写真展の違いはどのように考えられているのでしょうか。

熊谷:写真集は、基本的にCMYKの4色のインクで印刷するっていう方式で、展示するカラープリントはRGBの3色の光を印画紙に露光させて色が出て来るっていうことに違いがあって。「青」をとってみても、それぞれで表現できることが違うんですね。写真集は本としての流れがあって、それに沿って考えなければならないので、一枚だけ強いとか、そいうのはどんどん排除していくんです。その排除された写真が逆にいうと、一枚で成立するものとして残っていくんですね。今回の展示では、そういう作品を集めてみました。今回はサイズも、それぞれの写真ごとに実験的にサイズを変えたりしています。

江本:熊谷さんはとにかく多作でいろんな作品を発表してますよね。ぱっと見るだけだと、全然違うテイストの作品も多いのですが、それぞれの作品に対して共通していることというか考えってあるのでしょうか?

熊谷:一言でいうと、世界をフラットに観たいっていうことかな。写真を見るっていうのは、いちばん理想的なのは、何かすごい感動を得られるとかじゃなく、対峙した時に、そこに写っているイメージとは違うことを想起させてくれる、なにか自分の中にある引出しを開いてくれるっていうか。説明しづらいんだけど…。作品からエネルギーが転化してくるっていうか作品から受ける作用がある、そういう作品を作りたいと思っています。

江本:それは僕もすごく共感できる部分ですね。写真って何が面白いって、音もないし動かないし、固定されたイメージをただ見るっていう、それでなにか起きるかっていうと、写真に映っているものじゃないイメージが浮かんでくるんです。頭の中でいろんなものが浮かんでくるっていう写真とのやりとりが面白いと思うんですね。見ている側本位で、何を思ってもいいっていう自由さが僕は写真が好きなところなんですね。良い写真、強度がある写真を観ると、いろんな想いが頭の中を巡るんですよね。

熊谷:そうだね、それが写真のいちばんの魅力だね。絵や音楽に対抗するためには写真が自由であるっていうことを自覚するということ。写真自体、どう見てもいいというものなので、もちろん作っている方としては意図とか意識とかあるんですけど、観る人は意識とかを見ているわけではないので、そのイメージから想起される何かっていうのは、その人にとって必要なものだと思うんです。それは写真に限らずアートは皆そうだと思うんですけど、純粋にそういう作品でありたいなと思ってます。

江本:僕は熊谷さんのプリントを数枚持っているんです。手元に好きな作家のプリントを置きたかったっていうのがあって。自分じゃない誰かが撮った写真を家に置いて毎日見るともなく見ている、っていうのは、生活が豊かになりますね。自分の状況や、晴れた日、曇った日、夜、全然見え方も違うし、自分の体調や心の状態によっても違う。

熊谷:見るたびに印象が変わるんだよね。不意に、なにかのヒントになったりすることもあるしね。

江本:展示だとまぁ、大抵観ても会期中に一回や二回じゃですか?でも、長く付き合っていくことで気付くこと、わかることってあるんですよね。

 

イベント情報

2016年1月13日(水)~1月25日(月)
熊谷聖司 写真展 『青について』
会場:ON READING 名古屋市千種区東山通5-19 カメダビル2A
営業時間:12:00~20:00
定休日:火曜日
問:052-789-0855
www.onreading.jp

熊谷聖司 Seiji Kumagai
写真家 東京都在住
1966 年 北海道函館市生まれ
1987 年 日本工学院専門学校卒業
1994 年 第十回写真新世紀公募 優秀賞(南條史生選)
「第三回写真新世紀展」年間グランプリ受賞
個展に「もりとでじゃねいろ」「EACH LITTLE THING」
写真集に「THE TITLE PAGE」「MY HOUSE」他多数
最新作に「BRIGHT MOMENTS」。
Website: kumagaiseiji.com

江本典隆 Noritaka Emoto
1978年静岡生まれ。出版社で働きつつ、写真家・元田敬三氏に学び、写真活動を始める。 2014年、写真集「ロマンスカー」(書肆サイコロ刊)発売。 森岡書店・書肆サイコロ・ON READING・circle gallery他で個展開催。

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